2019年3月7日木曜日

1071

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・われわれはこの地上にしばらくの間しかいないのに、数多くのよからぬことをし、よからぬ言葉を口にします。ですから、みなが一堂に会したこの絶好の機会を捉えて、よい言葉をお互いに語ろうではありませんか。わたしとて同じです。この席にいる間、わたしは与えられた機会を利用します。この演壇が至高の意志によって与えられたのは、それなりの理由があるからで、この演壇から発せられるわれわれの言葉は全ロシアがきいているのであります。わたしはここにおられる父親たちのためだけに言うのではなく、世のすべての父親に向って、『父親たる者よ、なんじの子供らを悲しませるな!』と叫けぶものです。そう、われわれがまずみずからキリストの遺訓を実行し、そのうえではじめて子供たちにも求めることができるのです。それでなければ、われわれは父親ではなく、子供たちの敵であり、彼らもわれわれの子供ではなく、敵にほかなりません。そして彼らを敵にしてしまったのは、われわれ自身なのです! 『あなたがたの量るそのはかりで、自分も量られるだろう』(訳注 マタイによる福音書第七章)これはもはやわたしが言うのではなく、福音書の教えであり、自分が量られた同じそのはかりで量れという意味であります。子供たちがわれわれと同じはかりで量ったからといって、どうしてこれを非難できるでしょうか? 最近フィンランドで、一人の若い女中がひそかに子供を生んだという嫌疑をかけられました。彼女を見張っていたところ、屋根裏部屋の片隅で煉瓦のうしろから、それまでだれも知らなかった彼女のトランクが発見されたのです。開けてみると、トランクの中から、生れたばかりで彼女に殺された赤ん坊の死体が出てきました。さらに同じトランクのそのトランクの中から、以前に彼女が生んで、生れたとたんに殺した二人の赤ん坊の白骨死体が発見されたのです。彼女はそれを自白したのです。陪審員のみなさん、これが子供たちの母親と言えるでしょうか? そう、彼女はたしかに子供たちを生みました、だが、はたして母親と言えるでしょうか? だが、はたして母親と言えるでしょうか? われわれのうちに、彼女を母親という神聖な名でよぶ勇気のある者が、はたしているでしょうか? 陪審員のみなさん、われわれは大胆になりましょう、むしろ不敵にさえなろうではありませんか、今この瞬間われわれはそのような人間になる義務があるのです。《金属(メタル)》とか《硫黄(ジューベル)》とかいう新語を恐れたモスクワの商家のおかみさんのように(訳注 オストロフスキーの戯曲『重苦しい人々』の中のナスターシャ。この場合の「硫黄」は旧約聖書「創世記」でソドムとゴモラの町を焼いた硫黄のこと)、ある種の言葉や観念を恐れてはなりません。いえ、むしろ反対にわれわれは、最近の進歩がわれわれの発達にもかかわったことを証明し、子供を作っただけではまだ父親でないことや、父親とは子供をもうけて、父たるにふさわしいことをした者であることを、率直に言おうではありませんか。そう、もちろん、父親という言葉には別の意味も、別の解釈も存在しており、それが、たとえ子供らにとっては人でなしであり悪党であっても、やはり子供を作ったというだけの理由で、あくまでも父親でありつづけることを要求するのです。しかし、この解釈はもはや、いわば神秘的であり、信仰によって受け入れることはできても、理性では理解できぬものです。より正確に言うなら、理解できなくとも、宗教が信ずるように命ずる、他いろいろのことと同様、文句なし(四字の上に傍点)に信ずるほかないのです。だが、それなら、そんなものは現実生活の領域外においておけばよろしい。現実生活は自己の権利を有しているだけではなく、それ自体が大きな義務を課すものでありますから、その領域内においては、われわれはもし人道的になりたいなら、そして結局はキリスト教徒でありたいならば、思慮と経験によって正当化され、分析の試練をへた信念だけを実行する義務と責任があるのです。一口に言えば、人間に害を及ぼさぬためには、人間を苦しめ破滅させぬためには、夢やうわごとの中にように無分別に行動するのではなく、理性的に行動しなければならないのです。そのときこそ、真のキリスト教徒的な行為になり、単に神秘的なばかりではない、理性的な、もはや本当に人類愛的な行為となるでしょう・・・・」

「フェチュコーウィチ」は今度は「マタイによる福音書」を引用しています、「マタイによる福音書」も何度も何度もこの小説の中に登場してきました、ここで日本聖書協会の新共同訳を以下にコピペします。

01:01アブラハムの子ダビデの子、イエス・キリストの系図。 01:02アブラハムはイサクをもうけ、イサクはヤコブを、ヤコブはユダとその兄弟たちを、 01:03ユダはタマルによってペレツとゼラを、ペレツはヘツロンを、ヘツロンはアラムを、 01:04アラムはアミナダブを、アミナダブはナフションを、ナフションはサルモンを、 01:05サルモンはラハブによってボアズを、ボアズはルツによってオベドを、オベドはエッサイを、 01:06エッサイはダビデ王をもうけた。ダビデはウリヤの妻によってソロモンをもうけ、 01:07ソロモンはレハブアムを、レハブアムはアビヤを、アビヤはアサを、 01:08アサはヨシャファトを、ヨシャファトはヨラムを、ヨラムはウジヤを、 01:09ウジヤはヨタムを、ヨタムはアハズを、アハズはヒゼキヤを、 01:10ヒゼキヤはマナセを、マナセはアモスを、アモスはヨシヤを、 01:11ヨシヤは、バビロンへ移住させられたころ、エコンヤとその兄弟たちをもうけた。 01:12バビロンへ移住させられた後、エコンヤはシャルティエルをもうけ、シャルティエルはゼルバベルを、 01:13ゼルバベルはアビウドを、アビウドはエリアキムを、エリアキムはアゾルを、 01:14アゾルはサドクを、サドクはアキムを、アキムはエリウドを、 01:15エリウドはエレアザルを、エレアザルはマタンを、マタンはヤコブを、 01:16ヤコブはマリアの夫ヨセフをもうけた。このマリアからメシアと呼ばれるイエスがお生まれになった。 01:17こうして、全部合わせると、アブラハムからダビデまで十四代、ダビデからバビロンへの移住まで十四代、バビロンへ移されてからキリストまでが十四代である。 01:18イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。 01:19夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。 01:20このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。 01:21マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」 01:22このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。 01:23「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。 01:24ヨセフは眠りから覚めると、主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、 01:25男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名付けた。 02:01イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、 02:02言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」 02:03これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。 02:04王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。 02:05彼らは言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。 02:06『ユダの地、ベツレヘムよ、
お前はユダの指導者たちの中で
決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、
わたしの民イスラエルの牧者となるからである。』」 02:07そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。 02:08そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムへ送り出した。 02:09彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。 02:10学者たちはその星を見て喜びにあふれた。 02:11家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。 02:12ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。 02:13占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」 02:14ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、 02:15ヘロデが死ぬまでそこにいた。それは、「わたしは、エジプトからわたしの子を呼び出した」と、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。 02:16さて、ヘロデは占星術の学者たちにだまされたと知って、大いに怒った。そして、人を送り、学者たちに確かめておいた時期に基づいて、ベツレヘムとその周辺一帯にいた二歳以下の男の子を、一人残らず殺させた。 02:17こうして、預言者エレミヤを通して言われていたことが実現した。 02:18「ラマで声が聞こえた。激しく嘆き悲しむ声だ。ラケルは子供たちのことで泣き、
慰めてもらおうともしない、
子供たちがもういないから。」 02:19ヘロデが死ぬと、主の天使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて、 02:20言った。「起きて、子供とその母親を連れ、イスラエルの地に行きなさい。この子の命をねらっていた者どもは、死んでしまった。」 02:21そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。 02:22しかし、アルケラオが父ヘロデの跡を継いでユダヤを支配していると聞き、そこに行くことを恐れた。ところが、夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、 02:23ナザレという町に行って住んだ。「彼はナザレの人と呼ばれる」と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。 03:01そのころ、洗礼者ヨハネが現れて、ユダヤの荒れ野で宣べ伝え、 03:02「悔い改めよ。天の国は近づいた」と言った。 03:03これは預言者イザヤによってこう言われている人である。「荒れ野で叫ぶ者の声がする。『主の道を整え、
その道筋をまっすぐにせよ。』」 03:04ヨハネは、らくだの毛衣を着、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べ物としていた。 03:05そこで、エルサレムとユダヤ全土から、また、ヨルダン川沿いの地方一帯から、人々がヨハネのもとに来て、 03:06罪を告白し、ヨルダン川で彼から洗礼を受けた。 03:07ヨハネは、ファリサイ派やサドカイ派の人々が大勢、洗礼を受けに来たのを見て、こう言った。「蝮の子らよ、差し迫った神の怒りを免れると、だれが教えたのか。 03:08悔い改めにふさわしい実を結べ。 03:09『我々の父はアブラハムだ』などと思ってもみるな。言っておくが、神はこんな石からでも、アブラハムの子たちを造り出すことがおできになる。 03:10斧は既に木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。 03:11わたしは、悔い改めに導くために、あなたたちに水で洗礼を授けているが、わたしの後から来る方は、わたしよりも優れておられる。わたしは、その履物をお脱がせする値打ちもない。その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる。 03:12そして、手に箕を持って、脱穀場を隅々まできれいにし、麦を集めて倉に入れ、殻を消えることのない火で焼き払われる。」 03:13そのとき、イエスが、ガリラヤからヨルダン川のヨハネのところへ来られた。彼から洗礼を受けるためである。 03:14ところが、ヨハネは、それを思いとどまらせようとして言った。「わたしこそ、あなたから洗礼を受けるべきなのに、あなたが、わたしのところへ来られたのですか。」 03:15しかし、イエスはお答えになった。「今は、止めないでほしい。正しいことをすべて行うのは、我々にふさわしいことです。」そこで、ヨハネはイエスの言われるとおりにした。 03:16イエスは洗礼を受けると、すぐ水の中から上がられた。そのとき、天がイエスに向かって開いた。イエスは、神の霊が鳩のように御自分の上に降って来るのを御覧になった。 03:17そのとき、「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」と言う声が、天から聞こえた。 04:01さて、イエスは悪魔から誘惑を受けるため、“霊”に導かれて荒れ野に行かれた。 04:02そして四十日間、昼も夜も断食した後、空腹を覚えられた。 04:03すると、誘惑する者が来て、イエスに言った。「神の子なら、これらの石がパンになるように命じたらどうだ。」 04:04イエスはお答えになった。「『人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる』
と書いてある。」 04:05次に、悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて、 04:06言った。「神の子なら、飛び降りたらどうだ。『神があなたのために天使たちに命じると、
あなたの足が石に打ち当たることのないように、
天使たちは手であなたを支える』
と書いてある。」 04:07イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』とも書いてある」と言われた。 04:08更に、悪魔はイエスを非常に高い山に連れて行き、世のすべての国々とその繁栄ぶりを見せて、 04:09「もし、ひれ伏してわたしを拝むなら、これをみんな与えよう」と言った。 04:10すると、イエスは言われた。「退け、サタン。『あなたの神である主を拝み、
ただ主に仕えよ』
と書いてある。」 04:11そこで、悪魔は離れ去った。すると、天使たちが来てイエスに仕えた。 04:12イエスは、ヨハネが捕らえられたと聞き、ガリラヤに退かれた。 04:13そして、ナザレを離れ、ゼブルンとナフタリの地方にある湖畔の町カファルナウムに来て住まわれた。 04:14それは、預言者イザヤを通して言われていたことが実現するためであった。 04:15「ゼブルンの地とナフタリの地、
湖沿いの道、ヨルダン川のかなたの地、
異邦人のガリラヤ、 04:16暗闇に住む民は大きな光を見、
死の陰の地に住む者に光が射し込んだ。」 04:17そのときから、イエスは、「悔い改めよ。天の国は近づいた」と言って、宣べ伝え始められた。 04:18イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、二人の兄弟、ペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレが、湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師だった。 04:19イエスは、「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。 04:20二人はすぐに網を捨てて従った。 04:21そこから進んで、別の二人の兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、父親のゼベダイと一緒に、舟の中で網の手入れをしているのを御覧になると、彼らをお呼びになった。 04:22この二人もすぐに、舟と父親とを残してイエスに従った。 04:23イエスはガリラヤ中を回って、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、また、民衆のありとあらゆる病気や患いをいやされた。 04:24そこで、イエスの評判がシリア中に広まった。人々がイエスのところへ、いろいろな病気や苦しみに悩む者、悪霊に取りつかれた者、てんかんの者、中風の者など、あらゆる病人を連れて来たので、これらの人々をいやされた。 04:25こうして、ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ、ヨルダン川の向こう側から、大勢の群衆が来てイエスに従った。 05:01イエスはこの群衆を見て、山に登られた。腰を下ろされると、弟子たちが近くに寄って来た。 05:02そこで、イエスは口を開き、教えられた。 05:03「心の貧しい人々は、幸いである、
天の国はその人たちのものである。 05:04悲しむ人々は、幸いである、
その人たちは慰められる。 05:05柔和な人々は、幸いである、
その人たちは地を受け継ぐ。 05:06義に飢え渇く人々は、幸いである、
その人たちは満たされる。 05:07憐れみ深い人々は、幸いである、
その人たちは憐れみを受ける。 05:08心の清い人々は、幸いである、
その人たちは神を見る。 05:09平和を実現する人々は、幸いである、
その人たちは神の子と呼ばれる。 05:10義のために迫害される人々は、幸いである、
天の国はその人たちのものである。 05:11わたしのためにののしられ、迫害され、身に覚えのないことであらゆる悪口を浴びせられるとき、あなたがたは幸いである。 05:12喜びなさい。大いに喜びなさい。天には大きな報いがある。あなたがたより前の預言者たちも、同じように迫害されたのである。」 05:13「あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。もはや、何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである。 05:14あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。 05:15また、ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。 05:16そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである。」 05:17「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである。 05:18はっきり言っておく。すべてのことが実現し、天地が消えうせるまで、律法の文字から一点一画も消え去ることはない。 05:19だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするようにと人に教える者は、天の国で最も小さい者と呼ばれる。しかし、それを守り、そうするように教える者は、天の国で大いなる者と呼ばれる。 05:20言っておくが、あなたがたの義が律法学者やファリサイ派の人々の義にまさっていなければ、あなたがたは決して天の国に入ることができない。」 05:21「あなたがたも聞いているとおり、昔の人は『殺すな。人を殺した者は裁きを受ける』と命じられている。 05:22しかし、わたしは言っておく。兄弟に腹を立てる者はだれでも裁きを受ける。兄弟に『ばか』と言う者は、最高法院に引き渡され、『愚か者』と言う者は、火の地獄に投げ込まれる。 05:23だから、あなたが祭壇に供え物を献げようとし、兄弟が自分に反感を持っているのをそこで思い出したなら、 05:24その供え物を祭壇の前に置き、まず行って兄弟と仲直りをし、それから帰って来て、供え物を献げなさい。 05:25あなたを訴える人と一緒に道を行く場合、途中で早く和解しなさい。さもないと、その人はあなたを裁判官に引き渡し、裁判官は下役に引き渡し、あなたは牢に投げ込まれるにちがいない。 05:26はっきり言っておく。最後の一クァドランスを返すまで、決してそこから出ることはできない。」 05:27「あなたがたも聞いているとおり、『姦淫するな』と命じられている。 05:28しかし、わたしは言っておく。みだらな思いで他人の妻を見る者はだれでも、既に心の中でその女を犯したのである。 05:29もし、右の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して捨ててしまいなさい。体の一部がなくなっても、全身が地獄に投げ込まれない方がましである。 05:30もし、右の手があなたをつまずかせるなら、切り取って捨ててしまいなさい。体の一部がなくなっても、全身が地獄に落ちない方がましである。」 05:31「『妻を離縁する者は、離縁状を渡せ』と命じられている。 05:32しかし、わたしは言っておく。不法な結婚でもないのに妻を離縁する者はだれでも、その女に姦通の罪を犯させることになる。離縁された女を妻にする者も、姦通の罪を犯すことになる。」 05:33「また、あなたがたも聞いているとおり、昔の人は、『偽りの誓いを立てるな。主に対して誓ったことは、必ず果たせ』と命じられている。 05:34しかし、わたしは言っておく。一切誓いを立ててはならない。天にかけて誓ってはならない。そこは神の玉座である。 05:35地にかけて誓ってはならない。そこは神の足台である。エルサレムにかけて誓ってはならない。そこは大王の都である。 05:36また、あなたの頭にかけて誓ってはならない。髪の毛一本すら、あなたは白くも黒くもできないからである。 05:37あなたがたは、『然り、然り』『否、否』と言いなさい。それ以上のことは、悪い者から出るのである。」 05:38「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。 05:39しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。 05:40あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。 05:41だれかが、一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい。 05:42求める者には与えなさい。あなたから借りようとする者に、背を向けてはならない。」 05:43「あなたがたも聞いているとおり、『隣人を愛し、敵を憎め』と命じられている。 05:44しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。 05:45あなたがたの天の父の子となるためである。父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださるからである。 05:46自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな報いがあろうか。徴税人でも、同じことをしているではないか。 05:47自分の兄弟にだけ挨拶したところで、どんな優れたことをしたことになろうか。異邦人でさえ、同じことをしているではないか。 05:48だから、あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となりなさい。」 06:01「見てもらおうとして、人の前で善行をしないように注意しなさい。さもないと、あなたがたの天の父のもとで報いをいただけないことになる。 06:02だから、あなたは施しをするときには、偽善者たちが人からほめられようと会堂や街角でするように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはならない。はっきりあなたがたに言っておく。彼らは既に報いを受けている。 06:03施しをするときは、右の手のすることを左の手に知らせてはならない。 06:04あなたの施しを人目につかせないためである。そうすれば、隠れたことを見ておられる父が、あなたに報いてくださる。」 06:05「祈るときにも、あなたがたは偽善者のようであってはならない。偽善者たちは、人に見てもらおうと、会堂や大通りの角に立って祈りたがる。はっきり言っておく。彼らは既に報いを受けている。 06:06だから、あなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる。 06:07また、あなたがたが祈るときは、異邦人のようにくどくどと述べてはならない。異邦人は、言葉数が多ければ、聞き入れられると思い込んでいる。 06:08彼らのまねをしてはならない。あなたがたの父は、願う前から、あなたがたに必要なものをご存じなのだ。 06:09だから、こう祈りなさい。『天におられるわたしたちの父よ、
御名が崇められますように。 06:10御国が来ますように。御心が行われますように、
天におけるように地の上にも。 06:11わたしたちに必要な糧を今日与えてください。 06:12わたしたちの負い目を赦してください、
わたしたちも自分に負い目のある人を
赦しましたように。 06:13わたしたちを誘惑に遭わせず、
悪い者から救ってください。』 06:14もし人の過ちを赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたの過ちをお赦しになる。 06:15しかし、もし人を赦さないなら、あなたがたの父もあなたがたの過ちをお赦しにならない。」 06:16「断食するときには、あなたがたは偽善者のように沈んだ顔つきをしてはならない。偽善者は、断食しているのを人に見てもらおうと、顔を見苦しくする。はっきり言っておく。彼らは既に報いを受けている。 06:17あなたは、断食するとき、頭に油をつけ、顔を洗いなさい。 06:18それは、あなたの断食が人に気づかれず、隠れたところにおられるあなたの父に見ていただくためである。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる。」 06:19「あなたがたは地上に富を積んではならない。そこでは、虫が食ったり、さび付いたりするし、また、盗人が忍び込んで盗み出したりする。 06:20富は、天に積みなさい。そこでは、虫が食うことも、さび付くこともなく、また、盗人が忍び込むことも盗み出すこともない。 06:21あなたの富のあるところに、あなたの心もあるのだ。」 06:22「体のともし火は目である。目が澄んでいれば、あなたの全身が明るいが、 06:23濁っていれば、全身が暗い。だから、あなたの中にある光が消えれば、その暗さはどれほどであろう。」 06:24「だれも、二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。あなたがたは、神と富とに仕えることはできない。」 06:25「だから、言っておく。自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと、また自分の体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服よりも大切ではないか。 06:26空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない。だが、あなたがたの天の父は鳥を養ってくださる。あなたがたは、鳥よりも価値あるものではないか。 06:27あなたがたのうちだれが、思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。 06:28なぜ、衣服のことで思い悩むのか。野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。 06:29しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。 06:30今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか、信仰の薄い者たちよ。 06:31だから、『何を食べようか』『何を飲もうか』『何を着ようか』と言って、思い悩むな。 06:32それはみな、異邦人が切に求めているものだ。あなたがたの天の父は、これらのものがみなあなたがたに必要なことをご存じである。 06:33何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。 06:34だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である。」 07:01「人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである。 07:02あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、自分の量る秤で量り与えられる。 07:03あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。 07:04兄弟に向かって、『あなたの目からおが屑を取らせてください』と、どうして言えようか。自分の目に丸太があるではないか。 07:05偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。 07:06神聖なものを犬に与えてはならず、また、真珠を豚に投げてはならない。それを足で踏みにじり、向き直ってあなたがたにかみついてくるだろう。」 07:07「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。 07:08だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。 07:09あなたがたのだれが、パンを欲しがる自分の子供に、石を与えるだろうか。 07:10魚を欲しがるのに、蛇を与えるだろうか。 07:11このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして、あなたがたの天の父は、求める者に良い物をくださるにちがいない。 07:12だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」 07:13「狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入る者が多い。 07:14しかし、命に通じる門はなんと狭く、その道も細いことか。それを見いだす者は少ない。」 07:15「偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である。 07:16あなたがたは、その実で彼らを見分ける。茨からぶどうが、あざみからいちじくが採れるだろうか。 07:17すべて良い木は良い実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。 07:18良い木が悪い実を結ぶことはなく、また、悪い木が良い実を結ぶこともできない。 07:19良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。 07:20このように、あなたがたはその実で彼らを見分ける。」 07:21「わたしに向かって、『主よ、主よ』と言う者が皆、天の国に入るわけではない。わたしの天の父の御心を行う者だけが入るのである。 07:22かの日には、大勢の者がわたしに、『主よ、主よ、わたしたちは御名によって預言し、御名によって悪霊を追い出し、御名によって奇跡をいろいろ行ったではありませんか』と言うであろう。 07:23そのとき、わたしはきっぱりとこう言おう。『あなたたちのことは全然知らない。不法を働く者ども、わたしから離れ去れ。』」 07:24「そこで、わたしのこれらの言葉を聞いて行う者は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。 07:25雨が降り、川があふれ、風が吹いてその家を襲っても、倒れなかった。岩を土台としていたからである。 07:26わたしのこれらの言葉を聞くだけで行わない者は皆、砂の上に家を建てた愚かな人に似ている。 07:27雨が降り、川があふれ、風が吹いてその家に襲いかかると、倒れて、その倒れ方がひどかった。」 07:28イエスがこれらの言葉を語り終えられると、群衆はその教えに非常に驚いた。 07:29彼らの律法学者のようにではなく、権威ある者としてお教えになったからである。 08:01イエスが山を下りられると、大勢の群衆が従った。 08:02すると、一人の重い皮膚病を患っている人がイエスに近寄り、ひれ伏して、「主よ、御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」と言った。 08:03イエスが手を差し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、たちまち、重い皮膚病は清くなった。 08:04イエスはその人に言われた。「だれにも話さないように気をつけなさい。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めた供え物を献げて、人々に証明しなさい。」 08:05さて、イエスがカファルナウムに入られると、一人の百人隊長が近づいて来て懇願し、 08:06「主よ、わたしの僕が中風で家に寝込んで、ひどく苦しんでいます」と言った。 08:07そこでイエスは、「わたしが行って、いやしてあげよう」と言われた。 08:08すると、百人隊長は答えた。「主よ、わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるような者ではありません。ただ、ひと言おっしゃってください。そうすれば、わたしの僕はいやされます。 08:09わたしも権威の下にある者ですが、わたしの下には兵隊がおり、一人に『行け』と言えば行きますし、他の一人に『来い』と言えば来ます。また、部下に『これをしろ』と言えば、そのとおりにします。」 08:10イエスはこれを聞いて感心し、従っていた人々に言われた。「はっきり言っておく。イスラエルの中でさえ、わたしはこれほどの信仰を見たことがない。 08:11言っておくが、いつか、東や西から大勢の人が来て、天の国でアブラハム、イサク、ヤコブと共に宴会の席に着く。 08:12だが、御国の子らは、外の暗闇に追い出される。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。」 08:13そして、百人隊長に言われた。「帰りなさい。あなたが信じたとおりになるように。」ちょうどそのとき、僕の病気はいやされた。 08:14イエスはペトロの家に行き、そのしゅうとめが熱を出して寝込んでいるのを御覧になった。 08:15イエスがその手に触れられると、熱は去り、しゅうとめは起き上がってイエスをもてなした。 08:16夕方になると、人々は悪霊に取りつかれた者を大勢連れて来た。イエスは言葉で悪霊を追い出し、病人を皆いやされた。 08:17それは、預言者イザヤを通して言われていたことが実現するためであった。「彼はわたしたちの患いを負い、
わたしたちの病を担った。」 08:18イエスは、自分を取り囲んでいる群衆を見て、弟子たちに向こう岸に行くように命じられた。 08:19そのとき、ある律法学者が近づいて、「先生、あなたがおいでになる所なら、どこへでも従って参ります」と言った。 08:20イエスは言われた。「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。だが、人の子には枕する所もない。」 08:21ほかに、弟子の一人がイエスに、「主よ、まず、父を葬りに行かせてください」と言った。 08:22イエスは言われた。「わたしに従いなさい。死んでいる者たちに、自分たちの死者を葬らせなさい。」 08:23イエスが舟に乗り込まれると、弟子たちも従った。 08:24そのとき、湖に激しい嵐が起こり、舟は波にのまれそうになった。イエスは眠っておられた。 08:25弟子たちは近寄って起こし、「主よ、助けてください。おぼれそうです」と言った。 08:26イエスは言われた。「なぜ怖がるのか。信仰の薄い者たちよ。」そして、起き上がって風と湖とをお叱りになると、すっかり凪になった。 08:27人々は驚いて、「いったい、この方はどういう方なのだろう。風や湖さえも従うではないか」と言った。 08:28イエスが向こう岸のガダラ人の地方に着かれると、悪霊に取りつかれた者が二人、墓場から出てイエスのところにやって来た。二人は非常に狂暴で、だれもその辺りの道を通れないほどであった。 08:29突然、彼らは叫んだ。「神の子、かまわないでくれ。まだ、その時ではないのにここに来て、我々を苦しめるのか。」 08:30はるかかなたで多くの豚の群れがえさをあさっていた。 08:31そこで、悪霊どもはイエスに、「我々を追い出すのなら、あの豚の中にやってくれ」と願った。 08:32イエスが、「行け」と言われると、悪霊どもは二人から出て、豚の中に入った。すると、豚の群れはみな崖を下って湖になだれ込み、水の中で死んだ。 08:33豚飼いたちは逃げ出し、町に行って、悪霊に取りつかれた者のことなど一切を知らせた。 08:34すると、町中の者がイエスに会おうとしてやって来た。そして、イエスを見ると、その地方から出て行ってもらいたいと言った。 09:01イエスは舟に乗って湖を渡り、自分の町に帰って来られた。 09:02すると、人々が中風の人を床に寝かせたまま、イエスのところへ連れて来た。イエスはその人たちの信仰を見て、中風の人に、「子よ、元気を出しなさい。あなたの罪は赦される」と言われた。 09:03ところが、律法学者の中に、「この男は神を冒涜している」と思う者がいた。 09:04イエスは、彼らの考えを見抜いて言われた。「なぜ、心の中で悪いことを考えているのか。 09:05『あなたの罪は赦される』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、どちらが易しいか。 09:06人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に、「起き上がって床を担ぎ、家に帰りなさい」と言われた。 09:07その人は起き上がり、家に帰って行った。 09:08群衆はこれを見て恐ろしくなり、人間にこれほどの権威をゆだねられた神を賛美した。 09:09イエスはそこをたち、通りがかりに、マタイという人が収税所に座っているのを見かけて、「わたしに従いなさい」と言われた。彼は立ち上がってイエスに従った。 09:10イエスがその家で食事をしておられたときのことである。徴税人や罪人も大勢やって来て、イエスや弟子たちと同席していた。 09:11ファリサイ派の人々はこれを見て、弟子たちに、「なぜ、あなたたちの先生は徴税人や罪人と一緒に食事をするのか」と言った。 09:12イエスはこれを聞いて言われた。「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。 09:13『わたしが求めるのは憐れみであって、いけにえではない』とはどういう意味か、行って学びなさい。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである。」 09:14そのころ、ヨハネの弟子たちがイエスのところに来て、「わたしたちとファリサイ派の人々はよく断食しているのに、なぜ、あなたの弟子たちは断食しないのですか」と言った。 09:15イエスは言われた。「花婿が一緒にいる間、婚礼の客は悲しむことができるだろうか。しかし、花婿が奪い取られる時が来る。そのとき、彼らは断食することになる。 09:16だれも、織りたての布から布切れを取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。新しい布切れが服を引き裂き、破れはいっそうひどくなるからだ。 09:17新しいぶどう酒を古い革袋に入れる者はいない。そんなことをすれば、革袋は破れ、ぶどう酒は流れ出て、革袋もだめになる。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。そうすれば、両方とも長もちする。」 09:18イエスがこのようなことを話しておられると、ある指導者がそばに来て、ひれ伏して言った。「わたしの娘がたったいま死にました。でも、おいでになって手を置いてやってください。そうすれば、生き返るでしょう。」 09:19そこで、イエスは立ち上がり、彼について行かれた。弟子たちも一緒だった。 09:20すると、そこへ十二年間も患って出血が続いている女が近寄って来て、後ろからイエスの服の房に触れた。 09:21「この方の服に触れさえすれば治してもらえる」と思ったからである。 09:22イエスは振り向いて、彼女を見ながら言われた。「娘よ、元気になりなさい。あなたの信仰があなたを救った。」そのとき、彼女は治った。 09:23イエスは指導者の家に行き、笛を吹く者たちや騒いでいる群衆を御覧になって、 09:24言われた。「あちらへ行きなさい。少女は死んだのではない。眠っているのだ。」人々はイエスをあざ笑った。 09:25群衆を外に出すと、イエスは家の中に入り、少女の手をお取りになった。すると、少女は起き上がった。 09:26このうわさはその地方一帯に広まった。 09:27イエスがそこからお出かけになると、二人の盲人が叫んで、「ダビデの子よ、わたしたちを憐れんでください」と言いながらついて来た。 09:28イエスが家に入ると、盲人たちがそばに寄って来たので、「わたしにできると信じるのか」と言われた。二人は、「はい、主よ」と言った。 09:29そこで、イエスが二人の目に触り、「あなたがたの信じているとおりになるように」と言われると、 09:30二人は目が見えるようになった。イエスは、「このことは、だれにも知らせてはいけない」と彼らに厳しくお命じになった。 09:31しかし、二人は外へ出ると、その地方一帯にイエスのことを言い広めた。 09:32二人が出て行くと、悪霊に取りつかれて口の利けない人が、イエスのところに連れられて来た。 09:33悪霊が追い出されると、口の利けない人がものを言い始めたので、群衆は驚嘆し、「こんなことは、今までイスラエルで起こったためしがない」と言った。 09:34しかし、ファリサイ派の人々は、「あの男は悪霊の頭の力で悪霊を追い出している」と言った。 09:35イエスは町や村を残らず回って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、ありとあらゆる病気や患いをいやされた。 09:36また、群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれた。 09:37そこで、弟子たちに言われた。「収穫は多いが、働き手が少ない。 09:38だから、収穫のために働き手を送ってくださるように、収穫の主に願いなさい。」 10:01イエスは十二人の弟子を呼び寄せ、汚れた霊に対する権能をお授けになった。汚れた霊を追い出し、あらゆる病気や患いをいやすためであった。 10:02十二使徒の名は次のとおりである。まずペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、 10:03フィリポとバルトロマイ、トマスと徴税人のマタイ、アルファイの子ヤコブとタダイ、 10:04熱心党のシモン、それにイエスを裏切ったイスカリオテのユダである。 10:05イエスはこの十二人を派遣するにあたり、次のように命じられた。「異邦人の道に行ってはならない。また、サマリア人の町に入ってはならない。 10:06むしろ、イスラエルの家の失われた羊のところへ行きなさい。 10:07行って、『天の国は近づいた』と宣べ伝えなさい。 10:08病人をいやし、死者を生き返らせ、重い皮膚病を患っている人を清くし、悪霊を追い払いなさい。ただで受けたのだから、ただで与えなさい。 10:09帯の中に金貨も銀貨も銅貨も入れて行ってはならない。 10:10旅には袋も二枚の下着も、履物も杖も持って行ってはならない。働く者が食べ物を受けるのは当然である。 10:11町や村に入ったら、そこで、ふさわしい人はだれかをよく調べ、旅立つときまで、その人のもとにとどまりなさい。 10:12その家に入ったら、『平和があるように』と挨拶しなさい。 10:13家の人々がそれを受けるにふさわしければ、あなたがたの願う平和は彼らに与えられる。もし、ふさわしくなければ、その平和はあなたがたに返ってくる。 10:14あなたがたを迎え入れもせず、あなたがたの言葉に耳を傾けようともしない者がいたら、その家や町を出て行くとき、足の埃を払い落としなさい。 10:15はっきり言っておく。裁きの日には、この町よりもソドムやゴモラの地の方が軽い罰で済む。」 10:16「わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに羊を送り込むようなものだ。だから、蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい。 10:17人々を警戒しなさい。あなたがたは地方法院に引き渡され、会堂で鞭打たれるからである。 10:18また、わたしのために総督や王の前に引き出されて、彼らや異邦人に証しをすることになる。 10:19引き渡されたときは、何をどう言おうかと心配してはならない。そのときには、言うべきことは教えられる。 10:20実は、話すのはあなたがたではなく、あなたがたの中で語ってくださる、父の霊である。 10:21兄弟は兄弟を、父は子を死に追いやり、子は親に反抗して殺すだろう。 10:22また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。 10:23一つの町で迫害されたときは、他の町へ逃げて行きなさい。はっきり言っておく。あなたがたがイスラエルの町を回り終わらないうちに、人の子は来る。 10:24弟子は師にまさるものではなく、僕は主人にまさるものではない。 10:25弟子は師のように、僕は主人のようになれば、それで十分である。家の主人がベルゼブルと言われるのなら、その家族の者はもっとひどく言われることだろう。」 10:26「人々を恐れてはならない。覆われているもので現されないものはなく、隠されているもので知られずに済むものはないからである。 10:27わたしが暗闇であなたがたに言うことを、明るみで言いなさい。耳打ちされたことを、屋根の上で言い広めなさい。 10:28体は殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。むしろ、魂も体も地獄で滅ぼすことのできる方を恐れなさい。 10:29二羽の雀が一アサリオンで売られているではないか。だが、その一羽さえ、あなたがたの父のお許しがなければ、地に落ちることはない。 10:30あなたがたの髪の毛までも一本残らず数えられている。 10:31だから、恐れるな。あなたがたは、たくさんの雀よりもはるかにまさっている。」 10:32「だから、だれでも人々の前で自分をわたしの仲間であると言い表す者は、わたしも天の父の前で、その人をわたしの仲間であると言い表す。 10:33しかし、人々の前でわたしを知らないと言う者は、わたしも天の父の前で、その人を知らないと言う。」 10:34「わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだ、と思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ。 10:35わたしは敵対させるために来たからである。人をその父に、
娘を母に、
嫁をしゅうとめに。 10:36こうして、自分の家族の者が敵となる。 10:37わたしよりも父や母を愛する者は、わたしにふさわしくない。わたしよりも息子や娘を愛する者も、わたしにふさわしくない。 10:38また、自分の十字架を担ってわたしに従わない者は、わたしにふさわしくない。 10:39自分の命を得ようとする者は、それを失い、わたしのために命を失う者は、かえってそれを得るのである。」 10:40「あなたがたを受け入れる人は、わたしを受け入れ、わたしを受け入れる人は、わたしを遣わされた方を受け入れるのである。 10:41預言者を預言者として受け入れる人は、預言者と同じ報いを受け、正しい者を正しい者として受け入れる人は、正しい者と同じ報いを受ける。 10:42はっきり言っておく。わたしの弟子だという理由で、この小さな者の一人に、冷たい水一杯でも飲ませてくれる人は、必ずその報いを受ける。」 11:01イエスは十二人の弟子に指図を与え終わると、そこを去り、方々の町で教え、宣教された。 11:02ヨハネは牢の中で、キリストのなさったことを聞いた。そこで、自分の弟子たちを送って、 11:03尋ねさせた。「来るべき方は、あなたでしょうか。それとも、ほかの方を待たなければなりませんか。」 11:04イエスはお答えになった。「行って、見聞きしていることをヨハネに伝えなさい。 11:05目の見えない人は見え、足の不自由な人は歩き、重い皮膚病を患っている人は清くなり、耳の聞こえない人は聞こえ、死者は生き返り、貧しい人は福音を告げ知らされている。 11:06わたしにつまずかない人は幸いである。」 11:07ヨハネの弟子たちが帰ると、イエスは群衆にヨハネについて話し始められた。「あなたがたは、何を見に荒れ野へ行ったのか。風にそよぐ葦か。 11:08では、何を見に行ったのか。しなやかな服を着た人か。しなやかな服を着た人なら王宮にいる。 11:09では、何を見に行ったのか。預言者か。そうだ。言っておく。預言者以上の者である。 11:10『見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、
あなたの前に道を準備させよう』
と書いてあるのは、この人のことだ。 11:11はっきり言っておく。およそ女から生まれた者のうち、洗礼者ヨハネより偉大な者は現れなかった。しかし、天の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である。 11:12彼が活動し始めたときから今に至るまで、天の国は力ずくで襲われており、激しく襲う者がそれを奪い取ろうとしている。 11:13すべての預言者と律法が預言したのは、ヨハネの時までである。 11:14あなたがたが認めようとすれば分かることだが、実は、彼は現れるはずのエリヤである。 11:15耳のある者は聞きなさい。 11:16今の時代を何にたとえたらよいか。広場に座って、ほかの者にこう呼びかけている子供たちに似ている。 11:17『笛を吹いたのに、
踊ってくれなかった。葬式の歌をうたったのに、
悲しんでくれなかった。』 11:18ヨハネが来て、食べも飲みもしないでいると、『あれは悪霊に取りつかれている』と言い、 11:19人の子が来て、飲み食いすると、『見ろ、大食漢で大酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ』と言う。しかし、知恵の正しさは、その働きによって証明される。」 11:20それからイエスは、数多くの奇跡の行われた町々が悔い改めなかったので、叱り始められた。 11:21「コラジン、お前は不幸だ。ベトサイダ、お前は不幸だ。お前たちのところで行われた奇跡が、ティルスやシドンで行われていれば、これらの町はとうの昔に粗布をまとい、灰をかぶって悔い改めたにちがいない。 11:22しかし、言っておく。裁きの日にはティルスやシドンの方が、お前たちよりまだ軽い罰で済む。 11:23また、カファルナウム、お前は、
天にまで上げられるとでも思っているのか。陰府にまで落とされるのだ。お前のところでなされた奇跡が、ソドムで行われていれば、あの町は今日まで無事だったにちがいない。 11:24しかし、言っておく。裁きの日にはソドムの地の方が、お前よりまだ軽い罰で済むのである。」 11:25そのとき、イエスはこう言われた。「天地の主である父よ、あなたをほめたたえます。これらのことを知恵ある者や賢い者には隠して、幼子のような者にお示しになりました。 11:26そうです、父よ、これは御心に適うことでした。 11:27すべてのことは、父からわたしに任せられています。父のほかに子を知る者はなく、子と、子が示そうと思う者のほかには、父を知る者はいません。 11:28疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。 11:29わたしは柔和で謙遜な者だから、わたしの軛を負い、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたは安らぎを得られる。 11:30わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである。」 12:01そのころ、ある安息日にイエスは麦畑を通られた。弟子たちは空腹になったので、麦の穂を摘んで食べ始めた。 12:02ファリサイ派の人々がこれを見て、イエスに、「御覧なさい。あなたの弟子たちは、安息日にしてはならないことをしている」と言った。 12:03そこで、イエスは言われた。「ダビデが自分も供の者たちも空腹だったときに何をしたか、読んだことがないのか。 12:04神の家に入り、ただ祭司のほかには、自分も供の者たちも食べてはならない供えのパンを食べたではないか。 12:05安息日に神殿にいる祭司は、安息日の掟を破っても罪にならない、と律法にあるのを読んだことがないのか。 12:06言っておくが、神殿よりも偉大なものがここにある。 12:07もし、『わたしが求めるのは憐れみであって、いけにえではない』という言葉の意味を知っていれば、あなたたちは罪もない人たちをとがめなかったであろう。 12:08人の子は安息日の主なのである。」 12:09イエスはそこを去って、会堂にお入りになった。 12:10すると、片手の萎えた人がいた。人々はイエスを訴えようと思って、「安息日に病気を治すのは、律法で許されていますか」と尋ねた。 12:11そこで、イエスは言われた。「あなたたちのうち、だれか羊を一匹持っていて、それが安息日に穴に落ちた場合、手で引き上げてやらない者がいるだろうか。 12:12人間は羊よりもはるかに大切なものだ。だから、安息日に善いことをするのは許されている。」 12:13そしてその人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。伸ばすと、もう一方の手のように元どおり良くなった。 12:14ファリサイ派の人々は出て行き、どのようにしてイエスを殺そうかと相談した。 12:15イエスはそれを知って、そこを立ち去られた。大勢の群衆が従った。イエスは皆の病気をいやして、 12:16御自分のことを言いふらさないようにと戒められた。 12:17それは、預言者イザヤを通して言われていたことが実現するためであった。 12:18「見よ、わたしの選んだ僕。わたしの心に適った愛する者。この僕にわたしの霊を授ける。彼は異邦人に正義を知らせる。 12:19彼は争わず、叫ばず、
その声を聞く者は大通りにはいない。 12:20正義を勝利に導くまで、
彼は傷ついた葦を折らず、
くすぶる灯心を消さない。 12:21異邦人は彼の名に望みをかける。」 12:22そのとき、悪霊に取りつかれて目が見えず口の利けない人が、イエスのところに連れられて来て、イエスがいやされると、ものが言え、目が見えるようになった。 12:23群衆は皆驚いて、「この人はダビデの子ではないだろうか」と言った。 12:24しかし、ファリサイ派の人々はこれを聞き、「悪霊の頭ベルゼブルの力によらなければ、この者は悪霊を追い出せはしない」と言った。 12:25イエスは、彼らの考えを見抜いて言われた。「どんな国でも内輪で争えば、荒れ果ててしまい、どんな町でも家でも、内輪で争えば成り立って行かない。 12:26サタンがサタンを追い出せば、それは内輪もめだ。そんなふうでは、どうしてその国が成り立って行くだろうか。 12:27わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出すのなら、あなたたちの仲間は何の力で追い出すのか。だから、彼ら自身があなたたちを裁く者となる。 12:28しかし、わたしが神の霊で悪霊を追い出しているのであれば、神の国はあなたたちのところに来ているのだ。 12:29また、まず強い人を縛り上げなければ、どうしてその家に押し入って、家財道具を奪い取ることができるだろうか。まず縛ってから、その家を略奪するものだ。 12:30わたしに味方しない者はわたしに敵対し、わたしと一緒に集めない者は散らしている。 12:31だから、言っておく。人が犯す罪や冒涜は、どんなものでも赦されるが、“霊”に対する冒涜は赦されない。 12:32人の子に言い逆らう者は赦される。しかし、聖霊に言い逆らう者は、この世でも後の世でも赦されることがない。」 12:33「木が良ければその実も良いとし、木が悪ければその実も悪いとしなさい。木の良し悪しは、その結ぶ実で分かる。 12:34蝮の子らよ、あなたたちは悪い人間であるのに、どうして良いことが言えようか。人の口からは、心にあふれていることが出て来るのである。 12:35善い人は、良いものを入れた倉から良いものを取り出し、悪い人は、悪いものを入れた倉から悪いものを取り出してくる。 12:36言っておくが、人は自分の話したつまらない言葉についてもすべて、裁きの日には責任を問われる。 12:37あなたは、自分の言葉によって義とされ、また、自分の言葉によって罪ある者とされる。」 12:38すると、何人かの律法学者とファリサイ派の人々がイエスに、「先生、しるしを見せてください」と言った。 12:39イエスはお答えになった。「よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、預言者ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。 12:40つまり、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、大地の中にいることになる。 12:41ニネベの人たちは裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。ニネベの人々は、ヨナの説教を聞いて悔い改めたからである。ここに、ヨナにまさるものがある。 12:42また、南の国の女王は裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。この女王はソロモンの知恵を聞くために、地の果てから来たからである。ここに、ソロモンにまさるものがある。」 12:43「汚れた霊は、人から出て行くと、砂漠をうろつき、休む場所を探すが、見つからない。 12:44それで、『出て来たわが家に戻ろう』と言う。戻ってみると、空き家になっており、掃除をして、整えられていた。 12:45そこで、出かけて行き、自分よりも悪いほかの七つの霊を一緒に連れて来て、中に入り込んで、住み着く。そうなると、その人の後の状態は前よりも悪くなる。この悪い時代の者たちもそのようになろう。」 12:46イエスがなお群衆に話しておられるとき、その母と兄弟たちが、話したいことがあって外に立っていた。 12:47そこで、ある人がイエスに、「御覧なさい。母上と御兄弟たちが、お話ししたいと外に立っておられます」と言った。 12:48しかし、イエスはその人にお答えになった。「わたしの母とはだれか。わたしの兄弟とはだれか。」 12:49そして、弟子たちの方を指して言われた。「見なさい。ここにわたしの母、わたしの兄弟がいる。 12:50だれでも、わたしの天の父の御心を行う人が、わたしの兄弟、姉妹、また母である。」 13:01その日、イエスは家を出て、湖のほとりに座っておられた。 13:02すると、大勢の群衆がそばに集まって来たので、イエスは舟に乗って腰を下ろされた。群衆は皆岸辺に立っていた。 13:03イエスはたとえを用いて彼らに多くのことを語られた。「種を蒔く人が種蒔きに出て行った。 13:04蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。 13:05ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。 13:06しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 13:07ほかの種は茨の間に落ち、茨が伸びてそれをふさいでしまった。 13:08ところが、ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 13:09耳のある者は聞きなさい。」 13:10弟子たちはイエスに近寄って、「なぜ、あの人たちにはたとえを用いてお話しになるのですか」と言った。 13:11イエスはお答えになった。「あなたがたには天の国の秘密を悟ることが許されているが、あの人たちには許されていないからである。 13:12持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。 13:13だから、彼らにはたとえを用いて話すのだ。見ても見ず、聞いても聞かず、理解できないからである。 13:14イザヤの預言は、彼らによって実現した。『あなたたちは聞くには聞くが、決して理解せず、
見るには見るが、決して認めない。 13:15この民の心は鈍り、
耳は遠くなり、
目は閉じてしまった。こうして、彼らは目で見ることなく、
耳で聞くことなく、
心で理解せず、悔い改めない。わたしは彼らをいやさない。』 13:16しかし、あなたがたの目は見ているから幸いだ。あなたがたの耳は聞いているから幸いだ。 13:17はっきり言っておく。多くの預言者や正しい人たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」 13:18「だから、種を蒔く人のたとえを聞きなさい。 13:19だれでも御国の言葉を聞いて悟らなければ、悪い者が来て、心の中に蒔かれたものを奪い取る。道端に蒔かれたものとは、こういう人である。 13:20石だらけの所に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて、すぐ喜んで受け入れるが、 13:21自分には根がないので、しばらくは続いても、御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう人である。 13:22茨の中に蒔かれたものとは、御言葉を聞くが、世の思い煩いや富の誘惑が御言葉を覆いふさいで、実らない人である。 13:23良い土地に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて悟る人であり、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍の実を結ぶのである。」 13:24イエスは、別のたとえを持ち出して言われた。「天の国は次のようにたとえられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。 13:25人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。 13:26芽が出て、実ってみると、毒麦も現れた。 13:27僕たちが主人のところに来て言った。『だんなさま、畑には良い種をお蒔きになったではありませんか。どこから毒麦が入ったのでしょう。』 13:28主人は、『敵の仕業だ』と言った。そこで、僕たちが、『では、行って抜き集めておきましょうか』と言うと、 13:29主人は言った。『いや、毒麦を集めるとき、麦まで一緒に抜くかもしれない。 13:30刈り入れまで、両方とも育つままにしておきなさい。刈り入れの時、「まず毒麦を集め、焼くために束にし、麦の方は集めて倉に入れなさい」と、刈り取る者に言いつけよう。』」 13:31イエスは、別のたとえを持ち出して、彼らに言われた。「天の国はからし種に似ている。人がこれを取って畑に蒔けば、 13:32どんな種よりも小さいのに、成長するとどの野菜よりも大きくなり、空の鳥が来て枝に巣を作るほどの木になる。」 13:33また、別のたとえをお話しになった。「天の国はパン種に似ている。女がこれを取って三サトンの粉に混ぜると、やがて全体が膨れる。」 13:34イエスはこれらのことをみな、たとえを用いて群衆に語られ、たとえを用いないでは何も語られなかった。 13:35それは、預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「わたしは口を開いてたとえを用い、
天地創造の時から隠されていたことを告げる。」 13:36それから、イエスは群衆を後に残して家にお入りになった。すると、弟子たちがそばに寄って来て、「畑の毒麦のたとえを説明してください」と言った。 13:37イエスはお答えになった。「良い種を蒔く者は人の子、 13:38畑は世界、良い種は御国の子ら、毒麦は悪い者の子らである。 13:39毒麦を蒔いた敵は悪魔、刈り入れは世の終わりのことで、刈り入れる者は天使たちである。 13:40だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終わりにもそうなるのだ。 13:41人の子は天使たちを遣わし、つまずきとなるものすべてと不法を行う者どもを自分の国から集めさせ、 13:42燃え盛る炉の中に投げ込ませるのである。彼らは、そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。 13:43そのとき、正しい人々はその父の国で太陽のように輝く。耳のある者は聞きなさい。」 13:44「天の国は次のようにたとえられる。畑に宝が隠されている。見つけた人は、そのまま隠しておき、喜びながら帰り、持ち物をすっかり売り払って、その畑を買う。 13:45また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。 13:46高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。 13:47また、天の国は次のようにたとえられる。網が湖に投げ降ろされ、いろいろな魚を集める。 13:48網がいっぱいになると、人々は岸に引き上げ、座って、良いものは器に入れ、悪いものは投げ捨てる。 13:49世の終わりにもそうなる。天使たちが来て、正しい人々の中にいる悪い者どもをより分け、 13:50燃え盛る炉の中に投げ込むのである。悪い者どもは、そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。」 13:51「あなたがたは、これらのことがみな分かったか。」弟子たちは、「分かりました」と言った。 13:52そこで、イエスは言われた。「だから、天の国のことを学んだ学者は皆、自分の倉から新しいものと古いものを取り出す一家の主人に似ている。」 13:53イエスはこれらのたとえを語り終えると、そこを去り、 13:54故郷にお帰りになった。会堂で教えておられると、人々は驚いて言った。「この人は、このような知恵と奇跡を行う力をどこから得たのだろう。 13:55この人は大工の息子ではないか。母親はマリアといい、兄弟はヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。 13:56姉妹たちは皆、我々と一緒に住んでいるではないか。この人はこんなことをすべて、いったいどこから得たのだろう。」 13:57このように、人々はイエスにつまずいた。イエスは、「預言者が敬われないのは、その故郷、家族の間だけである」と言い、 13:58人々が不信仰だったので、そこではあまり奇跡をなさらなかった。 14:01そのころ、領主ヘロデはイエスの評判を聞き、 14:02家来たちにこう言った。「あれは洗礼者ヨハネだ。死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡を行う力が彼に働いている。」 14:03実はヘロデは、自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアのことでヨハネを捕らえて縛り、牢に入れていた。 14:04ヨハネが、「あの女と結婚することは律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。 14:05ヘロデはヨハネを殺そうと思っていたが、民衆を恐れた。人々がヨハネを預言者と思っていたからである。 14:06ところが、ヘロデの誕生日にヘロディアの娘が、皆の前で踊りをおどり、ヘロデを喜ばせた。 14:07それで彼は娘に、「願うものは何でもやろう」と誓って約束した。 14:08すると、娘は母親に唆されて、「洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、この場でください」と言った。 14:09王は心を痛めたが、誓ったことではあるし、また客の手前、それを与えるように命じ、 14:10人を遣わして、牢の中でヨハネの首をはねさせた。 14:11その首は盆に載せて運ばれ、少女に渡り、少女はそれを母親に持って行った。 14:12それから、ヨハネの弟子たちが来て、遺体を引き取って葬り、イエスのところに行って報告した。 14:13イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。 14:14イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て深く憐れみ、その中の病人をいやされた。 14:15夕暮れになったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう。」 14:16イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」 14:17弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」 14:18イエスは、「それをここに持って来なさい」と言い、 14:19群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた。 14:20すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。 14:21食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった。 14:22それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。 14:23群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 14:24ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。 14:25夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。 14:26弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。 14:27イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」 14:28すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」 14:29イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。 14:30しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。 14:31イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。 14:32そして、二人が舟に乗り込むと、風は静まった。 14:33舟の中にいた人たちは、「本当に、あなたは神の子です」と言ってイエスを拝んだ。 14:34こうして、一行は湖を渡り、ゲネサレトという土地に着いた。 14:35土地の人々は、イエスだと知って、付近にくまなく触れ回った。それで、人々は病人を皆イエスのところに連れて来て、 14:36その服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆いやされた。 15:01そのころ、ファリサイ派の人々と律法学者たちが、エルサレムからイエスのもとへ来て言った。 15:02「なぜ、あなたの弟子たちは、昔の人の言い伝えを破るのですか。彼らは食事の前に手を洗いません。」 15:03そこで、イエスはお答えになった。「なぜ、あなたたちも自分の言い伝えのために、神の掟を破っているのか。 15:04神は、『父と母を敬え』と言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っておられる。 15:05それなのに、あなたたちは言っている。『父または母に向かって、「あなたに差し上げるべきものは、神への供え物にする」と言う者は、 15:06父を敬わなくてもよい』と。こうして、あなたたちは、自分の言い伝えのために神の言葉を無にしている。 15:07偽善者たちよ、イザヤは、あなたたちのことを見事に預言したものだ。 15:08『この民は口先ではわたしを敬うが、
その心はわたしから遠く離れている。 15:09人間の戒めを教えとして教え、
むなしくわたしをあがめている。』」 15:10それから、イエスは群衆を呼び寄せて言われた。「聞いて悟りなさい。 15:11口に入るものは人を汚さず、口から出て来るものが人を汚すのである。」 15:12そのとき、弟子たちが近寄って来て、「ファリサイ派の人々がお言葉を聞いて、つまずいたのをご存じですか」と言った。 15:13イエスはお答えになった。「わたしの天の父がお植えにならなかった木は、すべて抜き取られてしまう。 15:14そのままにしておきなさい。彼らは盲人の道案内をする盲人だ。盲人が盲人の道案内をすれば、二人とも穴に落ちてしまう。」 15:15するとペトロが、「そのたとえを説明してください」と言った。 15:16イエスは言われた。「あなたがたも、まだ悟らないのか。 15:17すべて口に入るものは、腹を通って外に出されることが分からないのか。 15:18しかし、口から出て来るものは、心から出て来るので、これこそ人を汚す。 15:19悪意、殺意、姦淫、みだらな行い、盗み、偽証、悪口などは、心から出て来るからである。 15:20これが人を汚す。しかし、手を洗わずに食事をしても、そのことは人を汚すものではない。」 15:21イエスはそこをたち、ティルスとシドンの地方に行かれた。 15:22すると、この地に生まれたカナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫んだ。 15:23しかし、イエスは何もお答えにならなかった。そこで、弟子たちが近寄って来て願った。「この女を追い払ってください。叫びながらついて来ますので。」 15:24イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」とお答えになった。 15:25しかし、女は来て、イエスの前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と言った。 15:26イエスが、「子供たちのパンを取って小犬にやってはいけない」とお答えになると、 15:27女は言った。「主よ、ごもっともです。しかし、小犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただくのです。」 15:28そこで、イエスはお答えになった。「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように。」そのとき、娘の病気はいやされた。 15:29イエスはそこを去って、ガリラヤ湖のほとりに行かれた。そして、山に登って座っておられた。 15:30大勢の群衆が、足の不自由な人、目の見えない人、体の不自由な人、口の利けない人、その他多くの病人を連れて来て、イエスの足もとに横たえたので、イエスはこれらの人々をいやされた。 15:31群衆は、口の利けない人が話すようになり、体の不自由な人が治り、足の不自由な人が歩き、目の見えない人が見えるようになったのを見て驚き、イスラエルの神を賛美した。 15:32イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた。「群衆がかわいそうだ。もう三日もわたしと一緒にいるのに、食べ物がない。空腹のままで解散させたくはない。途中で疲れきってしまうかもしれない。」 15:33弟子たちは言った。「この人里離れた所で、これほど大勢の人に十分食べさせるほどのパンが、どこから手に入るでしょうか。」 15:34イエスが「パンは幾つあるか」と言われると、弟子たちは、「七つあります。それに、小さい魚が少しばかり」と答えた。 15:35そこで、イエスは地面に座るように群衆に命じ、 15:36七つのパンと魚を取り、感謝の祈りを唱えてこれを裂き、弟子たちにお渡しになった。弟子たちは群衆に配った。 15:37人々は皆、食べて満腹した。残ったパンの屑を集めると、七つの籠いっぱいになった。 15:38食べた人は、女と子供を別にして、男が四千人であった。 15:39イエスは群衆を解散させ、舟に乗ってマガダン地方に行かれた。 16:01ファリサイ派とサドカイ派の人々が来て、イエスを試そうとして、天からのしるしを見せてほしいと願った。 16:02イエスはお答えになった。「あなたたちは、夕方には『夕焼けだから、晴れだ』と言い、 16:03朝には『朝焼けで雲が低いから、今日は嵐だ』と言う。このように空模様を見分けることは知っているのに、時代のしるしは見ることができないのか。 16:04よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。」そして、イエスは彼らを後に残して立ち去られた。 16:05弟子たちは向こう岸に行ったが、パンを持って来るのを忘れていた。 16:06イエスは彼らに、「ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種によく注意しなさい」と言われた。 16:07弟子たちは、「これは、パンを持って来なかったからだ」と論じ合っていた。 16:08イエスはそれに気づいて言われた。「信仰の薄い者たちよ、なぜ、パンを持っていないことで論じ合っているのか。 16:09まだ、分からないのか。覚えていないのか。パン五つを五千人に分けたとき、残りを幾籠に集めたか。 16:10また、パン七つを四千人に分けたときは、残りを幾籠に集めたか。 16:11パンについて言ったのではないことが、どうして分からないのか。ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種に注意しなさい。」 16:12そのときようやく、弟子たちは、イエスが注意を促されたのは、パン種のことではなく、ファリサイ派とサドカイ派の人々の教えのことだと悟った。 16:13イエスは、フィリポ・カイサリア地方に行ったとき、弟子たちに、「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。 16:14弟子たちは言った。「『洗礼者ヨハネだ』と言う人も、『エリヤだ』と言う人もいます。ほかに、『エレミヤだ』とか、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」 16:15イエスが言われた。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」 16:16シモン・ペトロが、「あなたはメシア、生ける神の子です」と答えた。 16:17すると、イエスはお答えになった。「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。 16:18わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。 16:19わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」 16:20それから、イエスは、御自分がメシアであることをだれにも話さないように、と弟子たちに命じられた。 16:21このときから、イエスは、御自分が必ずエルサレムに行って、長老、祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受けて殺され、三日目に復活することになっている、と弟子たちに打ち明け始められた。 16:22すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。「主よ、とんでもないことです。そんなことがあってはなりません。」 16:23イエスは振り向いてペトロに言われた。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者。神のことを思わず、人間のことを思っている。」 16:24それから、弟子たちに言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。 16:25自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのために命を失う者は、それを得る。 16:26人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。自分の命を買い戻すのに、どんな代価を支払えようか。 16:27人の子は、父の栄光に輝いて天使たちと共に来るが、そのとき、それぞれの行いに応じて報いるのである。 16:28はっきり言っておく。ここに一緒にいる人々の中には、人の子がその国と共に来るのを見るまでは、決して死なない者がいる。」 17:01六日の後、イエスは、ペトロ、それにヤコブとその兄弟ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。 17:02イエスの姿が彼らの目の前で変わり、顔は太陽のように輝き、服は光のように白くなった。 17:03見ると、モーセとエリヤが現れ、イエスと語り合っていた。 17:04ペトロが口をはさんでイエスに言った。「主よ、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。お望みでしたら、わたしがここに仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」 17:05ペトロがこう話しているうちに、光り輝く雲が彼らを覆った。すると、「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者。これに聞け」という声が雲の中から聞こえた。 17:06弟子たちはこれを聞いてひれ伏し、非常に恐れた。 17:07イエスは近づき、彼らに手を触れて言われた。「起きなさい。恐れることはない。」 17:08彼らが顔を上げて見ると、イエスのほかにはだれもいなかった。 17:09一同が山を下りるとき、イエスは、「人の子が死者の中から復活するまで、今見たことをだれにも話してはならない」と弟子たちに命じられた。 17:10彼らはイエスに、「なぜ、律法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。 17:11イエスはお答えになった。「確かにエリヤが来て、すべてを元どおりにする。 17:12言っておくが、エリヤは既に来たのだ。人々は彼を認めず、好きなようにあしらったのである。人の子も、そのように人々から苦しめられることになる。」 17:13そのとき、弟子たちは、イエスが洗礼者ヨハネのことを言われたのだと悟った。 17:14一同が群衆のところへ行くと、ある人がイエスに近寄り、ひざまずいて、 17:15言った。「主よ、息子を憐れんでください。てんかんでひどく苦しんでいます。度々火の中や水の中に倒れるのです。 17:16お弟子たちのところに連れて来ましたが、治すことができませんでした。」 17:17イエスはお答えになった。「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢しなければならないのか。その子をここに、わたしのところに連れて来なさい。」 17:18そして、イエスがお叱りになると、悪霊は出て行き、そのとき子供はいやされた。 17:19弟子たちはひそかにイエスのところに来て、「なぜ、わたしたちは悪霊を追い出せなかったのでしょうか」と言った。 17:20イエスは言われた。「信仰が薄いからだ。はっきり言っておく。もし、からし種一粒ほどの信仰があれば、この山に向かって、『ここから、あそこに移れ』と命じても、そのとおりになる。あなたがたにできないことは何もない。」 17:21*しかし、この種のものは、祈りと断食によらなければ出て行かない。 17:22一行がガリラヤに集まったとき、イエスは言われた。「人の子は人々の手に引き渡されようとしている。 17:23そして殺されるが、三日目に復活する。」弟子たちは非常に悲しんだ。 17:24一行がカファルナウムに来たとき、神殿税を集める者たちがペトロのところに来て、「あなたたちの先生は神殿税を納めないのか」と言った。 17:25ペトロは、「納めます」と言った。そして家に入ると、イエスの方から言いだされた。「シモン、あなたはどう思うか。地上の王は、税や貢ぎ物をだれから取り立てるのか。自分の子供たちからか、それともほかの人々からか。」 17:26ペトロが「ほかの人々からです」と答えると、イエスは言われた。「では、子供たちは納めなくてよいわけだ。 17:27しかし、彼らをつまずかせないようにしよう。湖に行って釣りをしなさい。最初に釣れた魚を取って口を開けると、銀貨が一枚見つかるはずだ。それを取って、わたしとあなたの分として納めなさい。」 18:01そのとき、弟子たちがイエスのところに来て、「いったいだれが、天の国でいちばん偉いのでしょうか」と言った。 18:02そこで、イエスは一人の子供を呼び寄せ、彼らの中に立たせて、 18:03言われた。「はっきり言っておく。心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。 18:04自分を低くして、この子供のようになる人が、天の国でいちばん偉いのだ。 18:05わたしの名のためにこのような一人の子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。」 18:06「しかし、わたしを信じるこれらの小さな者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、深い海に沈められる方がましである。 18:07世は人をつまずかせるから不幸だ。つまずきは避けられない。だが、つまずきをもたらす者は不幸である。 18:08もし片方の手か足があなたをつまずかせるなら、それを切って捨ててしまいなさい。両手両足がそろったまま永遠の火に投げ込まれるよりは、片手片足になっても命にあずかる方がよい。 18:09もし片方の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して捨ててしまいなさい。両方の目がそろったまま火の地獄に投げ込まれるよりは、一つの目になっても命にあずかる方がよい。」 18:10「これらの小さな者を一人でも軽んじないように気をつけなさい。言っておくが、彼らの天使たちは天でいつもわたしの天の父の御顔を仰いでいるのである。 18:11*人の子は、失われたものを救うために来た。 18:12あなたがたはどう思うか。ある人が羊を百匹持っていて、その一匹が迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、迷い出た一匹を捜しに行かないだろうか。 18:13はっきり言っておくが、もし、それを見つけたら、迷わずにいた九十九匹より、その一匹のことを喜ぶだろう。 18:14そのように、これらの小さな者が一人でも滅びることは、あなたがたの天の父の御心ではない。」 18:15「兄弟があなたに対して罪を犯したなら、行って二人だけのところで忠告しなさい。言うことを聞き入れたら、兄弟を得たことになる。 18:16聞き入れなければ、ほかに一人か二人、一緒に連れて行きなさい。すべてのことが、二人または三人の証人の口によって確定されるようになるためである。 18:17それでも聞き入れなければ、教会に申し出なさい。教会の言うことも聞き入れないなら、その人を異邦人か徴税人と同様に見なしなさい。 18:18はっきり言っておく。あなたがたが地上でつなぐことは、天上でもつながれ、あなたがたが地上で解くことは、天上でも解かれる。 18:19また、はっきり言っておくが、どんな願い事であれ、あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。 18:20二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもその中にいるのである。」 18:21そのとき、ペトロがイエスのところに来て言った。「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回赦すべきでしょうか。七回までですか。」 18:22イエスは言われた。「あなたに言っておく。七回どころか七の七十倍までも赦しなさい。 18:23そこで、天の国は次のようにたとえられる。ある王が、家来たちに貸した金の決済をしようとした。 18:24決済し始めたところ、一万タラントン借金している家来が、王の前に連れて来られた。 18:25しかし、返済できなかったので、主君はこの家来に、自分も妻も子も、また持ち物も全部売って返済するように命じた。 18:26家来はひれ伏し、『どうか待ってください。きっと全部お返しします』としきりに願った。 18:27その家来の主君は憐れに思って、彼を赦し、その借金を帳消しにしてやった。 18:28ところが、この家来は外に出て、自分に百デナリオンの借金をしている仲間に出会うと、捕まえて首を絞め、『借金を返せ』と言った。 18:29仲間はひれ伏して、『どうか待ってくれ。返すから』としきりに頼んだ。 18:30しかし、承知せず、その仲間を引っぱって行き、借金を返すまでと牢に入れた。 18:31仲間たちは、事の次第を見て非常に心を痛め、主君の前に出て事件を残らず告げた。 18:32そこで、主君はその家来を呼びつけて言った。『不届きな家来だ。お前が頼んだから、借金を全部帳消しにしてやったのだ。 18:33わたしがお前を憐れんでやったように、お前も自分の仲間を憐れんでやるべきではなかったか。』 18:34そして、主君は怒って、借金をすっかり返済するまでと、家来を牢役人に引き渡した。 18:35あなたがたの一人一人が、心から兄弟を赦さないなら、わたしの天の父もあなたがたに同じようになさるであろう。」 19:01イエスはこれらの言葉を語り終えると、ガリラヤを去り、ヨルダン川の向こう側のユダヤ地方に行かれた。 19:02大勢の群衆が従った。イエスはそこで人々の病気をいやされた。 19:03ファリサイ派の人々が近寄り、イエスを試そうとして、「何か理由があれば、夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と言った。 19:04イエスはお答えになった。「あなたたちは読んだことがないのか。創造主は初めから人を男と女とにお造りになった。」 19:05そして、こうも言われた。「それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、二人は一体となる。 19:06だから、二人はもはや別々ではなく、一体である。従って、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない。」 19:07すると、彼らはイエスに言った。「では、なぜモーセは、離縁状を渡して離縁するように命じたのですか。」 19:08イエスは言われた。「あなたたちの心が頑固なので、モーセは妻を離縁することを許したのであって、初めからそうだったわけではない。 19:09言っておくが、不法な結婚でもないのに妻を離縁して、他の女を妻にする者は、姦通の罪を犯すことになる。」 19:10弟子たちは、「夫婦の間柄がそんなものなら、妻を迎えない方がましです」と言った。 19:11イエスは言われた。「だれもがこの言葉を受け入れるのではなく、恵まれた者だけである。 19:12結婚できないように生まれついた者、人から結婚できないようにされた者もいるが、天の国のために結婚しない者もいる。これを受け入れることのできる人は受け入れなさい。」 19:13そのとき、イエスに手を置いて祈っていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。 19:14しかし、イエスは言われた。「子供たちを来させなさい。わたしのところに来るのを妨げてはならない。天の国はこのような者たちのものである。」 19:15そして、子供たちに手を置いてから、そこを立ち去られた。 19:16さて、一人の男がイエスに近寄って来て言った。「先生、永遠の命を得るには、どんな善いことをすればよいのでしょうか。」 19:17イエスは言われた。「なぜ、善いことについて、わたしに尋ねるのか。善い方はおひとりである。もし命を得たいのなら、掟を守りなさい。」 19:18男が「どの掟ですか」と尋ねると、イエスは言われた。「『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、 19:19父母を敬え、また、隣人を自分のように愛しなさい。』」 19:20そこで、この青年は言った。「そういうことはみな守ってきました。まだ何か欠けているでしょうか。」 19:21イエスは言われた。「もし完全になりたいのなら、行って持ち物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」 19:22青年はこの言葉を聞き、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。 19:23イエスは弟子たちに言われた。「はっきり言っておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。 19:24重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」 19:25弟子たちはこれを聞いて非常に驚き、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言った。 19:26イエスは彼らを見つめて、「それは人間にできることではないが、神は何でもできる」と言われた。 19:27すると、ペトロがイエスに言った。「このとおり、わたしたちは何もかも捨ててあなたに従って参りました。では、わたしたちは何をいただけるのでしょうか。」 19:28イエスは一同に言われた。「はっきり言っておく。新しい世界になり、人の子が栄光の座に座るとき、あなたがたも、わたしに従って来たのだから、十二の座に座ってイスラエルの十二部族を治めることになる。 19:29わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子供、畑を捨てた者は皆、その百倍もの報いを受け、永遠の命を受け継ぐ。 19:30しかし、先にいる多くの者が後になり、後にいる多くの者が先になる。」 20:01「天の国は次のようにたとえられる。ある家の主人が、ぶどう園で働く労働者を雇うために、夜明けに出かけて行った。 20:02主人は、一日につき一デナリオンの約束で、労働者をぶどう園に送った。 20:03また、九時ごろ行ってみると、何もしないで広場に立っている人々がいたので、 20:04『あなたたちもぶどう園に行きなさい。ふさわしい賃金を払ってやろう』と言った。 20:05それで、その人たちは出かけて行った。主人は、十二時ごろと三時ごろにまた出て行き、同じようにした。 20:06五時ごろにも行ってみると、ほかの人々が立っていたので、『なぜ、何もしないで一日中ここに立っているのか』と尋ねると、 20:07彼らは、『だれも雇ってくれないのです』と言った。主人は彼らに、『あなたたちもぶどう園に行きなさい』と言った。 20:08夕方になって、ぶどう園の主人は監督に、『労働者たちを呼んで、最後に来た者から始めて、最初に来た者まで順に賃金を払ってやりなさい』と言った。 20:09そこで、五時ごろに雇われた人たちが来て、一デナリオンずつ受け取った。 20:10最初に雇われた人たちが来て、もっと多くもらえるだろうと思っていた。しかし、彼らも一デナリオンずつであった。 20:11それで、受け取ると、主人に不平を言った。 20:12『最後に来たこの連中は、一時間しか働きませんでした。まる一日、暑い中を辛抱して働いたわたしたちと、この連中とを同じ扱いにするとは。』 20:13主人はその一人に答えた。『友よ、あなたに不当なことはしていない。あなたはわたしと一デナリオンの約束をしたではないか。 20:14自分の分を受け取って帰りなさい。わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。 20:15自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか。』 20:16このように、後にいる者が先になり、先にいる者が後になる。」 20:17イエスはエルサレムへ上って行く途中、十二人の弟子だけを呼び寄せて言われた。 20:18「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子は、祭司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して、 20:19異邦人に引き渡す。人の子を侮辱し、鞭打ち、十字架につけるためである。そして、人の子は三日目に復活する。」 20:20そのとき、ゼベダイの息子たちの母が、その二人の息子と一緒にイエスのところに来て、ひれ伏し、何かを願おうとした。 20:21イエスが、「何が望みか」と言われると、彼女は言った。「王座にお着きになるとき、この二人の息子が、一人はあなたの右に、もう一人は左に座れるとおっしゃってください。」 20:22イエスはお答えになった。「あなたがたは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲もうとしている杯を飲むことができるか。」二人が、「できます」と言うと、 20:23イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしの杯を飲むことになる。しかし、わたしの右と左にだれが座るかは、わたしの決めることではない。それは、わたしの父によって定められた人々に許されるのだ。」 20:24ほかの十人の者はこれを聞いて、この二人の兄弟のことで腹を立てた。 20:25そこで、イエスは一同を呼び寄せて言われた。「あなたがたも知っているように、異邦人の間では支配者たちが民を支配し、偉い人たちが権力を振るっている。 20:26しかし、あなたがたの間では、そうであってはならない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、 20:27いちばん上になりたい者は、皆の僕になりなさい。 20:28人の子が、仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのと同じように。」 20:29一行がエリコの町を出ると、大勢の群衆がイエスに従った。 20:30そのとき、二人の盲人が道端に座っていたが、イエスがお通りと聞いて、「主よ、ダビデの子よ、わたしたちを憐れんでください」と叫んだ。 20:31群衆は叱りつけて黙らせようとしたが、二人はますます、「主よ、ダビデの子よ、わたしたちを憐れんでください」と叫んだ。 20:32イエスは立ち止まり、二人を呼んで、「何をしてほしいのか」と言われた。 20:33二人は、「主よ、目を開けていただきたいのです」と言った。 20:34イエスが深く憐れんで、その目に触れられると、盲人たちはすぐ見えるようになり、イエスに従った。 21:01一行がエルサレムに近づいて、オリーブ山沿いのベトファゲに来たとき、イエスは二人の弟子を使いに出そうとして、 21:02言われた。「向こうの村へ行きなさい。するとすぐ、ろばがつないであり、一緒に子ろばのいるのが見つかる。それをほどいて、わたしのところに引いて来なさい。 21:03もし、だれかが何か言ったら、『主がお入り用なのです』と言いなさい。すぐ渡してくれる。」 21:04それは、預言者を通して言われていたことが実現するためであった。 21:05「シオンの娘に告げよ。『見よ、お前の王がお前のところにおいでになる、
柔和な方で、ろばに乗り、
荷を負うろばの子、子ろばに乗って。』」 21:06弟子たちは行って、イエスが命じられたとおりにし、 21:07ろばと子ろばを引いて来て、その上に服をかけると、イエスはそれにお乗りになった。 21:08大勢の群衆が自分の服を道に敷き、また、ほかの人々は木の枝を切って道に敷いた。 21:09そして群衆は、イエスの前を行く者も後に従う者も叫んだ。「ダビデの子にホサナ。主の名によって来られる方に、祝福があるように。いと高きところにホサナ。」 21:10イエスがエルサレムに入られると、都中の者が、「いったい、これはどういう人だ」と言って騒いだ。 21:11そこで群衆は、「この方は、ガリラヤのナザレから出た預言者イエスだ」と言った。 21:12それから、イエスは神殿の境内に入り、そこで売り買いをしていた人々を皆追い出し、両替人の台や鳩を売る者の腰掛けを倒された。 21:13そして言われた。「こう書いてある。『わたしの家は、祈りの家と呼ばれるべきである。』
ところが、あなたたちは
それを強盗の巣にしている。」 21:14境内では目の見えない人や足の不自由な人たちがそばに寄って来たので、イエスはこれらの人々をいやされた。 21:15他方、祭司長たちや、律法学者たちは、イエスがなさった不思議な業を見、境内で子供たちまで叫んで、「ダビデの子にホサナ」と言うのを聞いて腹を立て、 21:16イエスに言った。「子供たちが何と言っているか、聞こえるか。」イエスは言われた。「聞こえる。あなたたちこそ、『幼子や乳飲み子の口に、あなたは賛美を歌わせた』という言葉をまだ読んだことがないのか。」 21:17それから、イエスは彼らと別れ、都を出てベタニアに行き、そこにお泊まりになった。 21:18朝早く、都に帰る途中、イエスは空腹を覚えられた。 21:19道端にいちじくの木があるのを見て、近寄られたが、葉のほかは何もなかった。そこで、「今から後いつまでも、お前には実がならないように」と言われると、いちじくの木はたちまち枯れてしまった。 21:20弟子たちはこれを見て驚き、「なぜ、たちまち枯れてしまったのですか」と言った。 21:21イエスはお答えになった。「はっきり言っておく。あなたがたも信仰を持ち、疑わないならば、いちじくの木に起こったようなことができるばかりでなく、この山に向かい、『立ち上がって、海に飛び込め』と言っても、そのとおりになる。 21:22信じて祈るならば、求めるものは何でも得られる。」 21:23イエスが神殿の境内に入って教えておられると、祭司長や民の長老たちが近寄って来て言った。「何の権威でこのようなことをしているのか。だれがその権威を与えたのか。」 21:24イエスはお答えになった。「では、わたしも一つ尋ねる。それに答えるなら、わたしも、何の権威でこのようなことをするのか、あなたたちに言おう。 21:25ヨハネの洗礼はどこからのものだったか。天からのものか、それとも、人からのものか。」彼らは論じ合った。「『天からのものだ』と言えば、『では、なぜヨハネを信じなかったのか』と我々に言うだろう。 21:26『人からのものだ』と言えば、群衆が怖い。皆がヨハネを預言者と思っているから。」 21:27そこで、彼らはイエスに、「分からない」と答えた。すると、イエスも言われた。「それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わたしも言うまい。」 21:28「ところで、あなたたちはどう思うか。ある人に息子が二人いたが、彼は兄のところへ行き、『子よ、今日、ぶどう園へ行って働きなさい』と言った。 21:29兄は『いやです』と答えたが、後で考え直して出かけた。 21:30弟のところへも行って、同じことを言うと、弟は『お父さん、承知しました』と答えたが、出かけなかった。 21:31この二人のうち、どちらが父親の望みどおりにしたか。」彼らが「兄の方です」と言うと、イエスは言われた。「はっきり言っておく。徴税人や娼婦たちの方が、あなたたちより先に神の国に入るだろう。 21:32なぜなら、ヨハネが来て義の道を示したのに、あなたたちは彼を信ぜず、徴税人や娼婦たちは信じたからだ。あなたたちはそれを見ても、後で考え直して彼を信じようとしなかった。」 21:33「もう一つのたとえを聞きなさい。ある家の主人がぶどう園を作り、垣を巡らし、その中に搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たちに貸して旅に出た。 21:34さて、収穫の時が近づいたとき、収穫を受け取るために、僕たちを農夫たちのところへ送った。 21:35だが、農夫たちはこの僕たちを捕まえ、一人を袋だたきにし、一人を殺し、一人を石で打ち殺した。 21:36また、他の僕たちを前よりも多く送ったが、農夫たちは同じ目に遭わせた。 21:37そこで最後に、『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、主人は自分の息子を送った。 21:38農夫たちは、その息子を見て話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺して、彼の相続財産を我々のものにしよう。』 21:39そして、息子を捕まえ、ぶどう園の外にほうり出して殺してしまった。 21:40さて、ぶどう園の主人が帰って来たら、この農夫たちをどうするだろうか。」 21:41彼らは言った。「その悪人どもをひどい目に遭わせて殺し、ぶどう園は、季節ごとに収穫を納めるほかの農夫たちに貸すにちがいない。」 21:42イエスは言われた。「聖書にこう書いてあるのを、まだ読んだことがないのか。『家を建てる者の捨てた石、
これが隅の親石となった。これは、主がなさったことで、
わたしたちの目には不思議に見える。』 21:43だから、言っておくが、神の国はあなたたちから取り上げられ、それにふさわしい実を結ぶ民族に与えられる。 21:44この石の上に落ちる者は打ち砕かれ、この石がだれかの上に落ちれば、その人は押しつぶされてしまう。」 21:45祭司長たちやファリサイ派の人々はこのたとえを聞いて、イエスが自分たちのことを言っておられると気づき、 21:46イエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。群衆はイエスを預言者だと思っていたからである。 22:01イエスは、また、たとえを用いて語られた。 22:02「天の国は、ある王が王子のために婚宴を催したのに似ている。 22:03王は家来たちを送り、婚宴に招いておいた人々を呼ばせたが、来ようとしなかった。 22:04そこでまた、次のように言って、別の家来たちを使いに出した。『招いておいた人々にこう言いなさい。「食事の用意が整いました。牛や肥えた家畜を屠って、すっかり用意ができています。さあ、婚宴においでください。」』 22:05しかし、人々はそれを無視し、一人は畑に、一人は商売に出かけ、 22:06また、他の人々は王の家来たちを捕まえて乱暴し、殺してしまった。 22:07そこで、王は怒り、軍隊を送って、この人殺しどもを滅ぼし、その町を焼き払った。 22:08そして、家来たちに言った。『婚宴の用意はできているが、招いておいた人々は、ふさわしくなかった。 22:09だから、町の大通りに出て、見かけた者はだれでも婚宴に連れて来なさい。』 22:10そこで、家来たちは通りに出て行き、見かけた人は善人も悪人も皆集めて来たので、婚宴は客でいっぱいになった。 22:11王が客を見ようと入って来ると、婚礼の礼服を着ていない者が一人いた。 22:12王は、『友よ、どうして礼服を着ないでここに入って来たのか』と言った。この者が黙っていると、 22:13王は側近の者たちに言った。『この男の手足を縛って、外の暗闇にほうり出せ。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。』 22:14招かれる人は多いが、選ばれる人は少ない。」 22:15それから、ファリサイ派の人々は出て行って、どのようにしてイエスの言葉じりをとらえて、罠にかけようかと相談した。 22:16そして、その弟子たちをヘロデ派の人々と一緒にイエスのところに遣わして尋ねさせた。「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、真理に基づいて神の道を教え、だれをもはばからない方であることを知っています。人々を分け隔てなさらないからです。 22:17ところで、どうお思いでしょうか、お教えください。皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。」 22:18イエスは彼らの悪意に気づいて言われた。「偽善者たち、なぜ、わたしを試そうとするのか。 22:19税金に納めるお金を見せなさい。」彼らがデナリオン銀貨を持って来ると、 22:20イエスは、「これは、だれの肖像と銘か」と言われた。 22:21彼らは、「皇帝のものです」と言った。すると、イエスは言われた。「では、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」 22:22彼らはこれを聞いて驚き、イエスをその場に残して立ち去った。 22:23その同じ日、復活はないと言っているサドカイ派の人々が、イエスに近寄って来て尋ねた。 22:24「先生、モーセは言っています。『ある人が子がなくて死んだ場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡継ぎをもうけねばならない』と。 22:25さて、わたしたちのところに、七人の兄弟がいました。長男は妻を迎えましたが死に、跡継ぎがなかったので、その妻を弟に残しました。 22:26次男も三男も、ついに七人とも同じようになりました。 22:27最後にその女も死にました。 22:28すると復活の時、その女は七人のうちのだれの妻になるのでしょうか。皆その女を妻にしたのです。」 22:29イエスはお答えになった。「あなたたちは聖書も神の力も知らないから、思い違いをしている。 22:30復活の時には、めとることも嫁ぐこともなく、天使のようになるのだ。 22:31死者の復活については、神があなたたちに言われた言葉を読んだことがないのか。 22:32『わたしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である』とあるではないか。神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。」 22:33群衆はこれを聞いて、イエスの教えに驚いた。 22:34ファリサイ派の人々は、イエスがサドカイ派の人々を言い込められたと聞いて、一緒に集まった。 22:35そのうちの一人、律法の専門家が、イエスを試そうとして尋ねた。 22:36「先生、律法の中で、どの掟が最も重要でしょうか。」 22:37イエスは言われた。「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』 22:38これが最も重要な第一の掟である。 22:39第二も、これと同じように重要である。『隣人を自分のように愛しなさい。』 22:40律法全体と預言者は、この二つの掟に基づいている。」 22:41ファリサイ派の人々が集まっていたとき、イエスはお尋ねになった。 22:42「あなたたちはメシアのことをどう思うか。だれの子だろうか。」彼らが、「ダビデの子です」と言うと、 22:43イエスは言われた。「では、どうしてダビデは、霊を受けて、メシアを主と呼んでいるのだろうか。 22:44『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着きなさい、
わたしがあなたの敵を
あなたの足もとに屈服させるときまで」と。』 22:45このようにダビデがメシアを主と呼んでいるのであれば、どうしてメシアがダビデの子なのか。」 22:46これにはだれ一人、ひと言も言い返すことができず、その日からは、もはやあえて質問する者はなかった。 23:01それから、イエスは群衆と弟子たちにお話しになった。 23:02「律法学者たちやファリサイ派の人々は、モーセの座に着いている。 23:03だから、彼らが言うことは、すべて行い、また守りなさい。しかし、彼らの行いは、見倣ってはならない。言うだけで、実行しないからである。 23:04彼らは背負いきれない重荷をまとめ、人の肩に載せるが、自分ではそれを動かすために、指一本貸そうともしない。 23:05そのすることは、すべて人に見せるためである。聖句の入った小箱を大きくしたり、衣服の房を長くしたりする。 23:06宴会では上座、会堂では上席に座ることを好み、 23:07また、広場で挨拶されたり、『先生』と呼ばれたりすることを好む。 23:08だが、あなたがたは『先生』と呼ばれてはならない。あなたがたの師は一人だけで、あとは皆兄弟なのだ。 23:09また、地上の者を『父』と呼んではならない。あなたがたの父は天の父おひとりだけだ。 23:10『教師』と呼ばれてもいけない。あなたがたの教師はキリスト一人だけである。 23:11あなたがたのうちでいちばん偉い人は、仕える者になりなさい。 23:12だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。 23:13律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。人々の前で天の国を閉ざすからだ。自分が入らないばかりか、入ろうとする人をも入らせない。 23:14*学者とファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。やもめの家を食い物にし、見せかけの長い祈りをする。だからあなたたちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。 23:15律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。改宗者を一人つくろうとして、海と陸を巡り歩くが、改宗者ができると、自分より倍も悪い地獄の子にしてしまうからだ。 23:16ものの見えない案内人、あなたたちは不幸だ。あなたたちは、『神殿にかけて誓えば、その誓いは無効である。だが、神殿の黄金にかけて誓えば、それは果たさねばならない』と言う。 23:17愚かで、ものの見えない者たち、黄金と、黄金を清める神殿と、どちらが尊いか。 23:18また、『祭壇にかけて誓えば、その誓いは無効である。その上の供え物にかけて誓えば、それは果たさねばならない』と言う。 23:19ものの見えない者たち、供え物と、供え物を清くする祭壇と、どちらが尊いか。 23:20祭壇にかけて誓う者は、祭壇とその上のすべてのものにかけて誓うのだ。 23:21神殿にかけて誓う者は、神殿とその中に住んでおられる方にかけて誓うのだ。 23:22天にかけて誓う者は、神の玉座とそれに座っておられる方にかけて誓うのだ。 23:23律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。薄荷、いのんど、茴香の十分の一は献げるが、律法の中で最も重要な正義、慈悲、誠実はないがしろにしているからだ。これこそ行うべきことである。もとより、十分の一の献げ物もないがしろにしてはならないが。 23:24ものの見えない案内人、あなたたちはぶよ一匹さえも漉して除くが、らくだは飲み込んでいる。 23:25律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。杯や皿の外側はきれいにするが、内側は強欲と放縦で満ちているからだ。 23:26ものの見えないファリサイ派の人々、まず、杯の内側をきれいにせよ。そうすれば、外側もきれいになる。 23:27律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。白く塗った墓に似ているからだ。外側は美しく見えるが、内側は死者の骨やあらゆる汚れで満ちている。 23:28このようにあなたたちも、外側は人に正しいように見えながら、内側は偽善と不法で満ちている。 23:29律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。預言者の墓を建てたり、正しい人の記念碑を飾ったりしているからだ。 23:30そして、『もし先祖の時代に生きていても、預言者の血を流す側にはつかなかったであろう』などと言う。 23:31こうして、自分が預言者を殺した者たちの子孫であることを、自ら証明している。 23:32先祖が始めた悪事の仕上げをしたらどうだ。 23:33蛇よ、蝮の子らよ、どうしてあなたたちは地獄の罰を免れることができようか。 23:34だから、わたしは預言者、知者、学者をあなたたちに遣わすが、あなたたちはその中のある者を殺し、十字架につけ、ある者を会堂で鞭打ち、町から町へと追い回して迫害する。 23:35こうして、正しい人アベルの血から、あなたたちが聖所と祭壇の間で殺したバラキアの子ゼカルヤの血に至るまで、地上に流された正しい人の血はすべて、あなたたちにふりかかってくる。 23:36はっきり言っておく。これらのことの結果はすべて、今の時代の者たちにふりかかってくる。」 23:37「エルサレム、エルサレム、預言者たちを殺し、自分に遣わされた人々を石で打ち殺す者よ、めん鳥が雛を羽の下に集めるように、わたしはお前の子らを何度集めようとしたことか。だが、お前たちは応じようとしなかった。 23:38見よ、お前たちの家は見捨てられて荒れ果てる。 23:39言っておくが、お前たちは、『主の名によって来られる方に、祝福があるように』と言うときまで、今から後、決してわたしを見ることがない。」 24:01イエスが神殿の境内を出て行かれると、弟子たちが近寄って来て、イエスに神殿の建物を指さした。 24:02そこで、イエスは言われた。「これらすべての物を見ないのか。はっきり言っておく。一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない。」 24:03イエスがオリーブ山で座っておられると、弟子たちがやって来て、ひそかに言った。「おっしゃってください。そのことはいつ起こるのですか。また、あなたが来られて世の終わるときには、どんな徴があるのですか。」 24:04イエスはお答えになった。「人に惑わされないように気をつけなさい。 24:05わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがメシアだ』と言って、多くの人を惑わすだろう。 24:06戦争の騒ぎや戦争のうわさを聞くだろうが、慌てないように気をつけなさい。そういうことは起こるに決まっているが、まだ世の終わりではない。 24:07民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる。 24:08しかし、これらはすべて産みの苦しみの始まりである。 24:09そのとき、あなたがたは苦しみを受け、殺される。また、わたしの名のために、あなたがたはあらゆる民に憎まれる。 24:10そのとき、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる。 24:11偽預言者も大勢現れ、多くの人を惑わす。 24:12不法がはびこるので、多くの人の愛が冷える。 24:13しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。 24:14そして、御国のこの福音はあらゆる民への証しとして、全世界に宣べ伝えられる。それから、終わりが来る。」 24:15「預言者ダニエルの言った憎むべき破壊者が、聖なる場所に立つのを見たら――読者は悟れ――、 24:16そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。 24:17屋上にいる者は、家にある物を取り出そうとして下に降りてはならない。 24:18畑にいる者は、上着を取りに帰ってはならない。 24:19それらの日には、身重の女と乳飲み子を持つ女は不幸だ。 24:20逃げるのが冬や安息日にならないように、祈りなさい。 24:21そのときには、世界の初めから今までなく、今後も決してないほどの大きな苦難が来るからである。 24:22神がその期間を縮めてくださらなければ、だれ一人救われない。しかし、神は選ばれた人たちのために、その期間を縮めてくださるであろう。 24:23そのとき、『見よ、ここにメシアがいる』『いや、ここだ』と言う者がいても、信じてはならない。 24:24偽メシアや偽預言者が現れて、大きなしるしや不思議な業を行い、できれば、選ばれた人たちをも惑わそうとするからである。 24:25あなたがたには前もって言っておく。 24:26だから、人が『見よ、メシアは荒れ野にいる』と言っても、行ってはならない。また、『見よ、奥の部屋にいる』と言っても、信じてはならない。 24:27稲妻が東から西へひらめき渡るように、人の子も来るからである。 24:28死体のある所には、はげ鷹が集まるものだ。」 24:29「その苦難の日々の後、たちまち
太陽は暗くなり、
月は光を放たず、
星は空から落ち、
天体は揺り動かされる。 24:30そのとき、人の子の徴が天に現れる。そして、そのとき、地上のすべての民族は悲しみ、人の子が大いなる力と栄光を帯びて天の雲に乗って来るのを見る。 24:31人の子は、大きなラッパの音を合図にその天使たちを遣わす。天使たちは、天の果てから果てまで、彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める。」 24:32「いちじくの木から教えを学びなさい。枝が柔らかくなり、葉が伸びると、夏の近づいたことが分かる。 24:33それと同じように、あなたがたは、これらすべてのことを見たなら、人の子が戸口に近づいていると悟りなさい。 24:34はっきり言っておく。これらのことがみな起こるまでは、この時代は決して滅びない。 24:35天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」 24:36「その日、その時は、だれも知らない。天使たちも子も知らない。ただ、父だけがご存じである。 24:37人の子が来るのは、ノアの時と同じだからである。 24:38洪水になる前は、ノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていた。 24:39そして、洪水が襲って来て一人残らずさらうまで、何も気がつかなかった。人の子が来る場合も、このようである。 24:40そのとき、畑に二人の男がいれば、一人は連れて行かれ、もう一人は残される。 24:41二人の女が臼をひいていれば、一人は連れて行かれ、もう一人は残される。 24:42だから、目を覚ましていなさい。いつの日、自分の主が帰って来られるのか、あなたがたには分からないからである。 24:43このことをわきまえていなさい。家の主人は、泥棒が夜のいつごろやって来るかを知っていたら、目を覚ましていて、みすみす自分の家に押し入らせはしないだろう。 24:44だから、あなたがたも用意していなさい。人の子は思いがけない時に来るからである。」 24:45「主人がその家の使用人たちの上に立てて、時間どおり彼らに食事を与えさせることにした忠実で賢い僕は、いったいだれであろうか。 24:46主人が帰って来たとき、言われたとおりにしているのを見られる僕は幸いである。 24:47はっきり言っておくが、主人は彼に全財産を管理させるにちがいない。 24:48しかし、それが悪い僕で、主人は遅いと思い、 24:49仲間を殴り始め、酒飲みどもと一緒に食べたり飲んだりしているとする。 24:50もしそうなら、その僕の主人は予想しない日、思いがけない時に帰って来て、 24:51彼を厳しく罰し、偽善者たちと同じ目に遭わせる。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。」 25:01「そこで、天の国は次のようにたとえられる。十人のおとめがそれぞれともし火を持って、花婿を迎えに出て行く。 25:02そのうちの五人は愚かで、五人は賢かった。 25:03愚かなおとめたちは、ともし火は持っていたが、油の用意をしていなかった。 25:04賢いおとめたちは、それぞれのともし火と一緒に、壺に油を入れて持っていた。 25:05ところが、花婿の来るのが遅れたので、皆眠気がさして眠り込んでしまった。 25:06真夜中に『花婿だ。迎えに出なさい』と叫ぶ声がした。 25:07そこで、おとめたちは皆起きて、それぞれのともし火を整えた。 25:08愚かなおとめたちは、賢いおとめたちに言った。『油を分けてください。わたしたちのともし火は消えそうです。』 25:09賢いおとめたちは答えた。『分けてあげるほどはありません。それより、店に行って、自分の分を買って来なさい。』 25:10愚かなおとめたちが買いに行っている間に、花婿が到着して、用意のできている五人は、花婿と一緒に婚宴の席に入り、戸が閉められた。 25:11その後で、ほかのおとめたちも来て、『御主人様、御主人様、開けてください』と言った。 25:12しかし主人は、『はっきり言っておく。わたしはお前たちを知らない』と答えた。 25:13だから、目を覚ましていなさい。あなたがたは、その日、その時を知らないのだから。」 25:14「天の国はまた次のようにたとえられる。ある人が旅行に出かけるとき、僕たちを呼んで、自分の財産を預けた。 25:15それぞれの力に応じて、一人には五タラントン、一人には二タラントン、もう一人には一タラントンを預けて旅に出かけた。早速、 25:16五タラントン預かった者は出て行き、それで商売をして、ほかに五タラントンをもうけた。 25:17同じように、二タラントン預かった者も、ほかに二タラントンをもうけた。 25:18しかし、一タラントン預かった者は、出て行って穴を掘り、主人の金を隠しておいた。 25:19さて、かなり日がたってから、僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた。 25:20まず、五タラントン預かった者が進み出て、ほかの五タラントンを差し出して言った。『御主人様、五タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに五タラントンもうけました。』 25:21主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』 25:22次に、二タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、二タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに二タラントンもうけました。』 25:23主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』 25:24ところで、一タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、あなたは蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集められる厳しい方だと知っていましたので、 25:25恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのタラントンを地の中に隠して
おきました。御覧ください。これがあなたのお金です。』 25:26主人は答えた。『怠け者の悪い僕だ。わたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集めることを知っていたのか。 25:27それなら、わたしの金を銀行に入れておくべきであった。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きで返してもらえたのに。 25:28さあ、そのタラントンをこの男から取り上げて、十タラントン持っている者に与えよ。 25:29だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。 25:30この役に立たない僕を外の暗闇に追い出せ。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。』」 25:31「人の子は、栄光に輝いて天使たちを皆従えて来るとき、その栄光の座に着く。 25:32そして、すべての国の民がその前に集められると、羊飼いが羊と山羊を分けるように、彼らをより分け、 25:33羊を右に、山羊を左に置く。 25:34そこで、王は右側にいる人たちに言う。『さあ、わたしの父に祝福された人たち、天地創造の時からお前たちのために用意されている国を受け継ぎなさい。 25:35お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていたときに宿を貸し、 25:36裸のときに着せ、病気のときに見舞い、牢にいたときに訪ねてくれたからだ。』 25:37すると、正しい人たちが王に答える。『主よ、いつわたしたちは、飢えておられるのを見て食べ物を差し上げ、のどが渇いておられるのを見て飲み物を差し上げたでしょうか。 25:38いつ、旅をしておられるのを見てお宿を貸し、裸でおられるのを見てお着せしたでしょうか。 25:39いつ、病気をなさったり、牢におられたりするのを見て、お訪ねしたでしょうか。』 25:40そこで、王は答える。『はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。』 25:41それから、王は左側にいる人たちにも言う。『呪われた者ども、わたしから離れ去り、悪魔とその手下のために用意してある永遠の火に入れ。 25:42お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせず、のどが渇いたときに飲ませず、 25:43旅をしていたときに宿を貸さず、裸のときに着せず、病気のとき、牢にいたときに、訪ねてくれなかったからだ。』 25:44すると、彼らも答える。『主よ、いつわたしたちは、あなたが飢えたり、渇いたり、旅をしたり、裸であったり、病気であったり、牢におられたりするのを見て、お世話をしなかったでしょうか。』 25:45そこで、王は答える。『はっきり言っておく。この最も小さい者の一人にしなかったのは、わたしにしてくれなかったことなのである。』 25:46こうして、この者どもは永遠の罰を受け、正しい人たちは永遠の命にあずかるのである。」 26:01イエスはこれらの言葉をすべて語り終えると、弟子たちに言われた。 26:02「あなたがたも知っているとおり、二日後は過越祭である。人の子は、十字架につけられるために引き渡される。」 26:03そのころ、祭司長たちや民の長老たちは、カイアファという大祭司の屋敷に集まり、 26:04計略を用いてイエスを捕らえ、殺そうと相談した。 26:05しかし彼らは、「民衆の中に騒ぎが起こるといけないから、祭りの間はやめておこう」と言っていた。 26:06さて、イエスがベタニアで重い皮膚病の人シモンの家におられたとき、 26:07一人の女が、極めて高価な香油の入った石膏の壺を持って近寄り、食事の席に着いておられるイエスの頭に香油を注ぎかけた。 26:08弟子たちはこれを見て、憤慨して言った。「なぜ、こんな無駄使いをするのか。 26:09高く売って、貧しい人々に施すことができたのに。」 26:10イエスはこれを知って言われた。「なぜ、この人を困らせるのか。わたしに良いことをしてくれたのだ。 26:11貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。 26:12この人はわたしの体に香油を注いで、わたしを葬る準備をしてくれた。 26:13はっきり言っておく。世界中どこでも、この福音が宣べ伝えられる所では、この人のしたことも記念として語り伝えられるだろう。」 26:14そのとき、十二人の一人で、イスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところへ行き、 26:15「あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか」と言った。そこで、彼らは銀貨三十枚を支払うことにした。 26:16そのときから、ユダはイエスを引き渡そうと、良い機会をねらっていた。 26:17除酵祭の第一日に、弟子たちがイエスのところに来て、「どこに、過越の食事をなさる用意をいたしましょうか」と言った。 26:18イエスは言われた。「都のあの人のところに行ってこう言いなさい。『先生が、「わたしの時が近づいた。お宅で弟子たちと一緒に過越の食事をする」と言っています。』」 26:19弟子たちは、イエスに命じられたとおりにして、過越の食事を準備した。 26:20夕方になると、イエスは十二人と一緒に食事の席に着かれた。 26:21一同が食事をしているとき、イエスは言われた。「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている。」 26:22弟子たちは非常に心を痛めて、「主よ、まさかわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。 26:23イエスはお答えになった。「わたしと一緒に手で鉢に食べ物を浸した者が、わたしを裏切る。 26:24人の子は、聖書に書いてあるとおりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかった。」 26:25イエスを裏切ろうとしていたユダが口をはさんで、「先生、まさかわたしのことでは」と言うと、イエスは言われた。「それはあなたの言ったことだ。」 26:26一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えながら言われた。「取って食べなさい。これはわたしの体である。」 26:27また、杯を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言われた。「皆、この杯から飲みなさい。 26:28これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。 26:29言っておくが、わたしの父の国であなたがたと共に新たに飲むその日まで、今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい。」 26:30一同は賛美の歌をうたってから、オリーブ山へ出かけた。 26:31そのとき、イエスは弟子たちに言われた。「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散ってしまう』
と書いてあるからだ。 26:32しかし、わたしは復活した後、あなたがたより先にガリラヤへ行く。」 26:33するとペトロが、「たとえ、みんながあなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」と言った。 26:34イエスは言われた。「はっきり言っておく。あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう。」 26:35ペトロは、「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」と言った。弟子たちも皆、同じように言った。 26:36それから、イエスは弟子たちと一緒にゲツセマネという所に来て、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。 26:37ペトロおよびゼベダイの子二人を伴われたが、そのとき、悲しみもだえ始められた。 26:38そして、彼らに言われた。「わたしは死ぬばかりに悲しい。ここを離れず、わたしと共に目を覚ましていなさい。」 26:39少し進んで行って、うつ伏せになり、祈って言われた。「父よ、できることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願いどおりではなく、御心のままに。」 26:40それから、弟子たちのところへ戻って御覧になると、彼らは眠っていたので、ペトロに言われた。「あなたがたはこのように、わずか一時もわたしと共に目を覚ましていられなかったのか。 26:41誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」 26:42更に、二度目に向こうへ行って祈られた。「父よ、わたしが飲まないかぎりこの杯が過ぎ去らないのでしたら、あなたの御心が行われますように。」 26:43再び戻って御覧になると、弟子たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。 26:44そこで、彼らを離れ、また向こうへ行って、三度目も同じ言葉で祈られた。 26:45それから、弟子たちのところに戻って来て言われた。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた。人の子は罪人たちの手に引き渡される。 26:46立て、行こう。見よ、わたしを裏切る者が来た。」 26:47イエスがまだ話しておられると、十二人の一人であるユダがやって来た。祭司長たちや民の長老たちの遣わした大勢の群衆も、剣や棒を持って一緒に来た。 26:48イエスを裏切ろうとしていたユダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。 26:49ユダはすぐイエスに近寄り、「先生、こんばんは」と言って接吻した。 26:50イエスは、「友よ、しようとしていることをするがよい」と言われた。すると人々は進み寄り、イエスに手をかけて捕らえた。 26:51そのとき、イエスと一緒にいた者の一人が、手を伸ばして剣を抜き、大祭司の手下に打ちかかって、片方の耳を切り落とした。 26:52そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。 26:53わたしが父にお願いできないとでも思うのか。お願いすれば、父は十二軍団以上の天使を今すぐ送ってくださるであろう。 26:54しかしそれでは、必ずこうなると書かれている聖書の言葉がどうして実現されよう。」 26:55またそのとき、群衆に言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って捕らえに来たのか。わたしは毎日、神殿の境内に座って教えていたのに、あなたたちはわたしを捕らえなかった。 26:56このすべてのことが起こったのは、預言者たちの書いたことが実現するためである。」このとき、弟子たちは皆、イエスを見捨てて逃げてしまった。 26:57人々はイエスを捕らえると、大祭司カイアファのところへ連れて行った。そこには、律法学者たちや長老たちが集まっていた。 26:58ペトロは遠く離れてイエスに従い、大祭司の屋敷の中庭まで行き、事の成り行きを見ようと、中に入って、下役たちと一緒に座っていた。 26:59さて、祭司長たちと最高法院の全員は、死刑にしようとしてイエスにとって不利な偽証を求めた。 26:60偽証人は何人も現れたが、証拠は得られなかった。最後に二人の者が来て、 26:61「この男は、『神の神殿を打ち倒し、三日あれば建てることができる』と言いました」と告げた。 26:62そこで、大祭司は立ち上がり、イエスに言った。「何も答えないのか、この者たちがお前に不利な証言をしているが、どうなのか。」 26:63イエスは黙り続けておられた。大祭司は言った。「生ける神に誓って我々に答えよ。お前は神の子、メシアなのか。」 26:64イエスは言われた。「それは、あなたが言ったことです。しかし、わたしは言っておく。あなたたちはやがて、
人の子が全能の神の右に座り、
天の雲に乗って来るのを見る。」 26:65そこで、大祭司は服を引き裂きながら言った。「神を冒涜した。これでもまだ証人が必要だろうか。諸君は今、冒涜の言葉を聞いた。 26:66どう思うか。」人々は、「死刑にすべきだ」と答えた。 26:67そして、イエスの顔に唾を吐きかけ、こぶしで殴り、ある者は平手で打ちながら、 26:68「メシア、お前を殴ったのはだれか。言い当ててみろ」と言った。 26:69ペトロは外にいて中庭に座っていた。そこへ一人の女中が近寄って来て、「あなたもガリラヤのイエスと一緒にいた」と言った。 26:70ペトロは皆の前でそれを打ち消して、「何のことを言っているのか、わたしには分からない」と言った。 26:71ペトロが門の方に行くと、ほかの女中が彼に目を留め、居合わせた人々に、「この人はナザレのイエスと一緒にいました」と言った。 26:72そこで、ペトロは再び、「そんな人は知らない」と誓って打ち消した。 26:73しばらくして、そこにいた人々が近寄って来てペトロに言った。「確かに、お前もあの連中の仲間だ。言葉遣いでそれが分かる。」 26:74そのとき、ペトロは呪いの言葉さえ口にしながら、「そんな人は知らない」と誓い始めた。するとすぐ、鶏が鳴いた。 26:75ペトロは、「鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」と言われたイエスの言葉を思い出した。そして外に出て、激しく泣いた。 27:01夜が明けると、祭司長たちと民の長老たち一同は、イエスを殺そうと相談した。 27:02そして、イエスを縛って引いて行き、総督ピラトに渡した。 27:03そのころ、イエスを裏切ったユダは、イエスに有罪の判決が下ったのを知って後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちや長老たちに返そうとして、 27:04「わたしは罪のない人の血を売り渡し、罪を犯しました」と言った。しかし彼らは、「我々の知ったことではない。お前の問題だ」と言った。 27:05そこで、ユダは銀貨を神殿に投げ込んで立ち去り、首をつって死んだ。 27:06祭司長たちは銀貨を拾い上げて、「これは血の代金だから、神殿の収入にするわけにはいかない」と言い、 27:07相談のうえ、その金で「陶器職人の畑」を買い、外国人の墓地にすることにした。 27:08このため、この畑は今日まで「血の畑」と言われている。 27:09こうして、預言者エレミヤを通して言われていたことが実現した。「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、値踏みされた者、すなわち、イスラエルの子らが値踏みした者の価である。 27:10主がわたしにお命じになったように、彼らはこの金で陶器職人の畑を買い取った。」 27:11さて、イエスは総督の前に立たれた。総督がイエスに、「お前がユダヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」と言われた。 27:12祭司長たちや長老たちから訴えられている間、これには何もお答えにならなかった。 27:13するとピラトは、「あのようにお前に不利な証言をしているのに、聞こえないのか」と言った。 27:14それでも、どんな訴えにもお答えにならなかったので、総督は非常に不思議に思った。 27:15ところで、祭りの度ごとに、総督は民衆の希望する囚人を一人釈放することにしていた。 27:16そのころ、バラバ・イエスという評判の囚人がいた。 27:17ピラトは、人々が集まって来たときに言った。「どちらを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか。それともメシアといわれるイエスか。」 27:18人々がイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていたからである。 27:19一方、ピラトが裁判の席に着いているときに、妻から伝言があった。「あの正しい人に関係しないでください。その人のことで、わたしは昨夜、夢で随分苦しめられました。」 27:20しかし、祭司長たちや長老たちは、バラバを釈放して、イエスを死刑に処してもらうようにと群衆を説得した。 27:21そこで、総督が、「二人のうち、どちらを釈放してほしいのか」と言うと、人々は、「バラバを」と言った。 27:22ピラトが、「では、メシアといわれているイエスの方は、どうしたらよいか」と言うと、皆は、「十字架につけろ」と言った。 27:23ピラトは、「いったいどんな悪事を働いたというのか」と言ったが、群衆はますます激しく、「十字架につけろ」と叫び続けた。 27:24ピラトは、それ以上言っても無駄なばかりか、かえって騒動が起こりそうなのを見て、水を持って来させ、群衆の前で手を洗って言った。「この人の血について、わたしには責任がない。お前たちの問題だ。」 27:25民はこぞって答えた。「その血の責任は、我々と子孫にある。」 27:26そこで、ピラトはバラバを釈放し、イエスを鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。 27:27それから、総督の兵士たちは、イエスを総督官邸に連れて行き、部隊の全員をイエスの周りに集めた。 27:28そして、イエスの着ている物をはぎ取り、赤い外套を着せ、 27:29茨で冠を編んで頭に載せ、また、右手に葦の棒を持たせて、その前にひざまずき、「ユダヤ人の王、万歳」と言って、侮辱した。 27:30また、唾を吐きかけ、葦の棒を取り上げて頭をたたき続けた。 27:31このようにイエスを侮辱したあげく、外套を脱がせて元の服を着せ、十字架につけるために引いて行った。 27:32兵士たちは出て行くと、シモンという名前のキレネ人に出会ったので、イエスの十字架を無理に担がせた。 27:33そして、ゴルゴタという所、すなわち「されこうべの場所」に着くと、 27:34苦いものを混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはなめただけで、飲もうとされなかった。 27:35彼らはイエスを十字架につけると、くじを引いてその服を分け合い、 27:36そこに座って見張りをしていた。 27:37イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王イエスである」と書いた罪状書きを掲げた。 27:38折から、イエスと一緒に二人の強盗が、一人は右にもう一人は左に、十字架につけられていた。 27:39そこを通りかかった人々は、頭を振りながらイエスをののしって、 27:40言った。「神殿を打ち倒し、三日で建てる者、神の子なら、自分を救ってみろ。そして十字架から降りて来い。」 27:41同じように、祭司長たちも律法学者たちや長老たちと一緒に、イエスを侮辱して言った。 27:42「他人は救ったのに、自分は救えない。イスラエルの王だ。今すぐ十字架から降りるがいい。そうすれば、信じてやろう。 27:43神に頼っているが、神の御心ならば、今すぐ救ってもらえ。『わたしは神の子だ』と言っていたのだから。」 27:44一緒に十字架につけられた強盗たちも、同じようにイエスをののしった。 27:45さて、昼の十二時に、全地は暗くなり、それが三時まで続いた。 27:46三時ごろ、イエスは大声で叫ばれた。「エリ、エリ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。 27:47そこに居合わせた人々のうちには、これを聞いて、「この人はエリヤを呼んでいる」と言う者もいた。 27:48そのうちの一人が、すぐに走り寄り、海綿を取って酸いぶどう酒を含ませ、葦の棒に付けて、イエスに飲ませようとした。 27:49ほかの人々は、「待て、エリヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう」と言った。 27:50しかし、イエスは再び大声で叫び、息を引き取られた。 27:51そのとき、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂け、地震が起こり、岩が裂け、 27:52墓が開いて、眠りについていた多くの聖なる者たちの体が生き返った。 27:53そして、イエスの復活の後、墓から
出て来て、聖なる都に入り、多くの人々に現れた。 27:54百人隊長や一緒にイエスの見張りをしていた人たちは、地震やいろいろの出来事を見て、非常に恐れ、「本当に、この人は神の子だった」と言った。 27:55またそこでは、大勢の婦人たちが遠くから見守っていた。この婦人たちは、ガリラヤからイエスに従って来て世話をしていた人々である。 27:56その中には、マグダラのマリア、ヤコブとヨセフの母マリア、ゼベダイの子らの母がいた。 27:57夕方になると、アリマタヤ出身の金持ちでヨセフという人が来た。この人もイエスの弟子であった。 27:58この人がピラトのところに行って、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出た。そこでピラトは、渡すようにと命じた。 27:59ヨセフはイエスの遺体を受け取ると、きれいな亜麻布に包み、 27:60岩に掘った自分の新しい墓の中に納め、墓の入り口には大きな石を転がしておいて立ち去った。 27:61マグダラのマリアともう一人のマリアとはそこに残り、墓の方を向いて座っていた。 27:62明くる日、すなわち、準備の日の翌日、祭司長たちとファリサイ派の人々は、ピラトのところに集まって、 27:63こう言った。「閣下、人を惑わすあの者がまだ生きていたとき、『自分は三日後に復活する』と言っていたのを、わたしたちは思い出しました。 27:64ですから、三日目まで墓を見張るように命令してください。そうでないと、弟子たちが来て死体を盗み出し、『イエスは死者の中から復活した』などと民衆に言いふらすかもしれません。そうなると、人々は前よりもひどく惑わされることになります。」 27:65ピラトは言った。「あなたたちには、番兵がいるはずだ。行って、しっかりと見張らせるがよい。」 27:66そこで、彼らは行って墓の石に封印をし、番兵をおいた。 28:01さて、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが、墓を見に行った。 28:02すると、大きな地震が起こった。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのである。 28:03その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった。 28:04番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになった。 28:05天使は婦人たちに言った。「恐れることはない。十字架につけられたイエスを捜しているのだろうが、 28:06あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ。さあ、遺体の置いてあった場所を見なさい。 28:07それから、急いで行って弟子たちにこう告げなさい。『あの方は死者の中から復活された。そして、あなたがたより先にガリラヤに行かれる。そこでお目にかかれる。』確かに、あなたがたに伝えました。」 28:08婦人たちは、恐れながらも大いに喜び、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走って行った。 28:09すると、イエスが行く手に立っていて、「おはよう」と言われたので、婦人たちは近寄り、イエスの足を抱き、その前にひれ伏した。 28:10イエスは言われた。「恐れることはない。行って、わたしの兄弟たちにガリラヤへ行くように言いなさい。そこでわたしに会うことになる。」 28:11婦人たちが行き着かないうちに、数人の番兵は都に帰り、この出来事をすべて祭司長たちに報告した。 28:12そこで、祭司長たちは長老たちと集まって相談し、兵士たちに多額の金を与えて、 28:13言った。「『弟子たちが夜中にやって来て、我々の寝ている間に死体を盗んで行った』と言いなさい。 28:14もしこのことが総督の耳に入っても、うまく総督を説得して、あなたがたには心配をかけないようにしよう。」 28:15兵士たちは金を受け取って、教えられたとおりにした。この話は、今日に至るまでユダヤ人の間に広まっている。 28:16さて、十一人の弟子たちはガリラヤに行き、イエスが指示しておかれた山に登った。 28:17そして、イエスに会い、ひれ伏した。しかし、疑う者もいた。 28:18イエスは、近寄って来て言われた。「わたしは天と地の一切の権能を授かっている。 28:19だから、あなたがたは行って、すべての民をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、 28:20あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えなさい。わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと共にいる。」

 以上です。

「オストロフスキー」は「アレクサンドル・ニコラーエヴィチ・オストロフスキー(1823年4月12日 - 1886年6月14日)は、ロシアの劇作家。」で「モスクワで生まれた。4子の1人。父親は法律家で、長年の功績によって1839年に貴族の称号を獲得している。母親はまもなく死去した。高校卒業後、1840年から1843年にかけてモスクワ大学法学部で法を学ぶ[1]。父親の達ての願いもあって裁判所に勤務、並行して1846年ころから戯曲を書き始める。1851年、演劇に専念することを決断した。1859年に戯曲『雷雨』や1873年の戯曲『雪娘』を書下ろし、モスクワにあるマールイ劇場で上演された。長年にわたってマールイ劇場と関わり、改革、発展に尽力した。」とのこと、戯曲『重苦しい人々』のことはわかりませんでした、さらに訳注で「・・・・この場合の「硫黄」は旧約聖書「創世記」でソドムとゴモラの町を焼いた硫黄のこと)」とありますが、(755)のモークロエの修羅場でも出てきましたが他にも何個所が出てきましたね。


2019年3月6日水曜日

1070

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・ことによると、彼は永年にわたる別離のあと、父に会うことを切に望んでいたかもしれません、ことによるとその前にいくたびとなく自分の幼年時代を夢の中の出来事のように思いだし、幼年時代の夢に見たいまわしい幻を払いのけて、心の底から父を正当化し、抱擁したいと望んでいたかもしれないのです! それなのに、どうでしょう? 彼を迎えたものは、恥知らずな嘲笑と、猜疑と、金銭上の争いをめぐる卑劣な小細工だけでした。耳にするのは、毎日《酒の肴》として語られる、胸くそのわるくなるような会話や処世訓ばかりで、ついには、息子の金で息子の恋人を奪おうとする父の姿を見たのです。ああ、陪審員のみなさん、実にいまわしい残酷な話ではありませんか! しかも、この老人は息子の無礼と冷酷さをみなにこぼしてまわり、世間での息子の評判を汚し、損をかけ、中傷し、息子を牢にぶちこむために借用症を買い集めまでしたのです! 陪審員のみなさん、わたしの依頼人のような、一見薄情で、粗暴で、抑制のきかぬ人間は、往々にして心根のやさしいことが多く、ただそれを表に出さないだけであります。笑わないでください、わたしの考えを笑ってはいけません! 才能豊かな検事は先ほど、わたしの依頼人がシラーの愛読者であり、《美しく高尚なもの》を愛していることをさらしものにして、無慈悲にも嘲笑いたしました。わたしが彼の立場だったら、検事の立場だったら、それを嘲笑したりしないでしょう! そうです、こういう心は-ああ、ごくまれにしか正しく理解されぬこういう心をわたしの弁護させてください-こういう心はきわめて多くの場合、やさしい、美しい、正しいものを渇望するのです。まさに自分自身と、自分の粗暴さや残酷さと対照的に、無意識に渇望するのです。そう、まさしく渇望するのであります。うわべこそ情熱的で残酷であっても、こういう心はたとえば女性を愛する場合も、苦しみにひとしいほど愛することができるし、それも必ず高尚な精神的な愛情なのです。わたしをまた笑ったりしないでください。これはこういう気性の人間にもっとも多く見られることなのです! 彼らはただ、ときとして粗野な自分の情熱を隠しておくことができないだけで、それがみなをおどろかせるのです。人はそれに気をとられて、人間の内面を見ようとしないのであります。ところが反対に、こうした情熱が充たされるのは早いのですが、高尚な美しい存在のそばでは、一見粗暴で残酷なこの人間が脱皮を求め、更生してまともな人間に、高潔で誠実な人間になる可能性を求める-たとえこの言葉がどんなに嘲笑されようと、やはり《高尚な、美しい》人間になる可能性を求めるのです! 先ほどわたしは、依頼人とカテリーナ・ヴェルホフツェワ嬢とのロマンスに触れるのは遠慮すると申しました。しかし、半言くらいなら差支えありますまい。われわれが先ほど耳にしたのは、証言ではなく、復讐の念に燃え、半狂乱になった女性の叫びであります。彼女には、そう彼女には心変りを責める資格はありません、なぜなら彼女自身、心変りしたからです! 熟慮する余裕が多少なりとあったならば、彼女とてあのような証言はしなかったでしょう! そう、彼女の言葉を信じないでください、違います、わたしの依頼人は彼女の言ったような《無頼漢》ではありません! はりつけにされた博愛の人は、十字架にかけられることを覚悟のうえで、『わたしはよい羊飼いである。よい羊飼いは、羊のために命を捨てる。されば羊一匹、滅びることはない・・・・』(訳注 ヨハネによる福音書第十章)と言われたのです。われわれも人間の魂を滅ぼさぬようにしようではありませんか! わたしは今、父親とはそも何であるかとたずね、それは偉大な言葉であり、尊い名称であると叫びました。しかし、陪審員のみなさん、言葉は正しく使わねばなりません。ですからわたしは、自分なりの言葉で、自分なりの名称で、あえて対象をよぶつもりです。殺されたカラマーゾフ老人のような父親は、父親とよぶわけにいかないし、またその資格もありません。父と認められぬ父親に対する愛情など無意味であり、不可能であります。無から愛を生みだすことはできません。無から創造できるのは、ひとり神だけであります。『父たる者よ、なんじの子供らを悲しませるな』ある使徒は愛に燃える心の底から、こう書いています。今わたしがこの神聖な言葉を引用したのは、依頼人のためではなく、すべての父親のために思い起したのです。父親たちに説教する権限を、だれがわたしに与えてくれたのでしょう? だれでもありません。しかしわたしは人間として、一市民として、Vivos voco(生者に訴える)と叫ぶのです!

ここで切ります。 

「フェチュコーウィチ」は「・・・・才能豊かな検事は先ほど、わたしの依頼人がシラーの愛読者であり、《美しく高尚なもの》を愛していることをさらしものにして、無慈悲にも嘲笑いたしました・・・・」と言っています、(1034)で「イッポリート」は「・・・・文明とシラーの愛好者でありながら、同時に居酒屋で飲んだくれ・・・・」と言っている部分ですが、以下に続いて述べられていることを参考にしても、嘲笑というのではないと思います、また彼は先ほどの「カテリーナ」の二度めの証言のことについての言及しました、つまり「彼女には心変りを責める資格はありません、なぜなら彼女自身、心変りしたからです!」と言うことです、ここの「心変り」は何を指しているのでしょうか、それは触れられていません、「復讐の念に燃え、半狂乱になった女性の叫び」とまで言っていますので、驚くべきことにある意味で人格の完全否定ですね。

「フェチュコーウィチ」はまた、『わたしはよい羊飼いである。よい羊飼いは、羊のために命を捨てる。されば羊一匹、滅びることはない・・・・』(訳注 ヨハネによる福音書第十章)と聖書の言葉を引用し、「われわれも人間の魂を滅ぼさぬようにしようではありませんか!」と言います、「ヨハネによる福音書」は冒頭の「よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。(ヨハネによる福音書。第12章24節)」から、何度も何度もこの小説の中に登場してきました、ここで日本聖書協会の新共同訳を以下にコピペします。

01:01初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。 01:02この言は、初めに神と共にあった。 01:03万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった。 01:04言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。 01:05光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。 01:06神から遣わされた一人の人がいた。その名はヨハネである。 01:07彼は証しをするために来た。光について証しをするため、また、すべての人が彼によって信じるようになるためである。 01:08彼は光ではなく、光について証しをするために来た。 01:09その光は、まことの光で、世に来てすべての人を照らすのである。 01:10言は世にあった。世は言によって成ったが、世は言を認めなかった。 01:11言は、自分の民のところへ来たが、民は受け入れなかった。 01:12しかし、言は、自分を受け入れた人、その名を信じる人々には神の子となる資格を与えた。 01:13この人々は、血によってではなく、肉の欲によってではなく、人の欲によってでもなく、神によって生まれたのである。 01:14言は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって、恵みと真理とに満ちていた。 01:15ヨハネは、この方について証しをし、声を張り上げて言った。「『わたしの後から来られる方は、わたしより優れている。わたしよりも先におられたからである』とわたしが言ったのは、この方のことである。」 01:16わたしたちは皆、この方の満ちあふれる豊かさの中から、恵みの上に、更に恵みを受けた。 01:17律法はモーセを通して与えられたが、恵みと真理はイエス・キリストを通して現れたからである。 01:18いまだかつて、神を見た者はいない。父のふところにいる独り子である神、この方が神を示されたのである。 01:19さて、ヨハネの証しはこうである。エルサレムのユダヤ人たちが、祭司やレビ人たちをヨハネのもとへ遣わして、「あなたは、どなたですか」と質問させたとき、 01:20彼は公言して隠さず、「わたしはメシアではない」と言い表した。 01:21彼らがまた、「では何ですか。あなたはエリヤですか」と尋ねると、ヨハネは、「違う」と言った。更に、「あなたは、あの預言者なのですか」と尋ねると、「そうではない」と答えた。 01:22そこで、彼らは言った。「それではいったい、だれなのです。わたしたちを遣わした人々に返事をしなければなりません。あなたは自分を何だと言うのですか。」 01:23ヨハネは、預言者イザヤの言葉を用いて言った。「わたしは荒れ野で叫ぶ声である。『主の道をまっすぐにせよ』と。」 01:24遣わされた人たちはファリサイ派に属していた。 01:25彼らがヨハネに尋ねて、「あなたはメシアでも、エリヤでも、またあの預言者でもないのに、なぜ、洗礼を授けるのですか」と言うと、 01:26ヨハネは答えた。「わたしは水で洗礼を授けるが、あなたがたの中には、あなたがたの知らない方がおられる。 01:27その人はわたしの後から来られる方で、わたしはその履物のひもを解く資格もない。」 01:28これは、ヨハネが洗礼を授けていたヨルダン川の向こう側、ベタニアでの出来事であった。 01:29その翌日、ヨハネは、自分の方へイエスが来られるのを見て言った。「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ。 01:30『わたしの後から一人の人が来られる。その方はわたしにまさる。わたしよりも先におられたからである』とわたしが言ったのは、この方のことである。 01:31わたしはこの方を知らなかった。しかし、この方がイスラエルに現れるために、わたしは、水で洗礼を授けに来た。」 01:32そしてヨハネは証しした。「わたしは、“霊”が鳩のように天から降って、この方の上にとどまるのを見た。 01:33わたしはこの方を知らなかった。しかし、水で洗礼を授けるためにわたしをお遣わしになった方が、『“霊”が降って、ある人にとどまるのを見たら、その人が、聖霊によって洗礼を授ける人である』とわたしに言われた。 01:34わたしはそれを見た。だから、この方こそ神の子であると証ししたのである。」 01:35その翌日、また、ヨハネは二人の弟子と一緒にいた。 01:36そして、歩いておられるイエスを見つめて、「見よ、神の小羊だ」と言った。 01:37二人の弟子はそれを聞いて、イエスに従った。 01:38イエスは振り返り、彼らが従って来るのを見て、「何を求めているのか」と言われた。彼らが、「ラビ――『先生』という意味――どこに泊まっておられるのですか」と言うと、 01:39イエスは、「来なさい。そうすれば分かる」と言われた。そこで、彼らはついて行って、どこにイエスが泊まっておられるかを見た。そしてその日は、イエスのもとに泊まった。午後四時ごろのことである。 01:40ヨハネの言葉を聞いて、イエスに従った二人のうちの一人は、シモン・ペトロの兄弟アンデレであった。 01:41彼は、まず自分の兄弟シモンに会って、「わたしたちはメシア――『油を注がれた者』という意味――に出会った」と言った。 01:42そして、シモンをイエスのところに連れて行った。イエスは彼を見つめて、「あなたはヨハネの子シモンであるが、ケファ――『岩』という意味――と呼ぶことにする」と言われた。 01:43その翌日、イエスは、ガリラヤへ行こうとしたときに、フィリポに出会って、「わたしに従いなさい」と言われた。 01:44フィリポは、アンデレとペトロの町、ベトサイダの出身であった。 01:45フィリポはナタナエルに出会って言った。「わたしたちは、モーセが律法に記し、預言者たちも書いている方に出会った。それはナザレの人で、ヨセフの子イエスだ。」 01:46するとナタナエルが、「ナザレから何か良いものが出るだろうか」と言ったので、フィリポは、「来て、見なさい」と言った。 01:47イエスは、ナタナエルが御自分の方へ来るのを見て、彼のことをこう言われた。「見なさい。まことのイスラエル人だ。この人には偽りがない。」 01:48ナタナエルが、「どうしてわたしを知っておられるのですか」と言うと、イエスは答えて、「わたしは、あなたがフィリポから話しかけられる前に、いちじくの木の下にいるのを見た」と言われた。 01:49ナタナエルは答えた。「ラビ、あなたは神の子です。あなたはイスラエルの王です。」 01:50イエスは答えて言われた。「いちじくの木の下にあなたがいるのを見たと言ったので、信じるのか。もっと偉大なことをあなたは見ることになる。」 01:51更に言われた。「はっきり言っておく。天が開け、神の天使たちが人の子の上に昇り降りするのを、あなたがたは見ることになる。」 02:01三日目に、ガリラヤのカナで婚礼があって、イエスの母がそこにいた。 02:02イエスも、その弟子たちも婚礼に招かれた。 02:03ぶどう酒が足りなくなったので、母がイエスに、「ぶどう酒がなくなりました」と言った。 02:04イエスは母に言われた。「婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」 02:05しかし、母は召し使いたちに、「この人が何か言いつけたら、そのとおりにしてください」と言った。 02:06そこには、ユダヤ人が清めに用いる石の水がめが六つ置いてあった。いずれも二ないし三メトレテス入りのものである。 02:07イエスが、「水がめに水をいっぱい入れなさい」と言われると、召し使いたちは、かめの縁まで水を満たした。 02:08イエスは、「さあ、それをくんで宴会の世話役のところへ持って行きなさい」と言われた。召し使いたちは運んで行った。 02:09世話役はぶどう酒に変わった水の味見をした。このぶどう酒がどこから来たのか、水をくんだ召し使いたちは知っていたが、世話役は知らなかったので、花婿を呼んで、 02:10言った。「だれでも初めに良いぶどう酒を出し、酔いがまわったころに劣ったものを出すものですが、あなたは良いぶどう酒を今まで取って置かれました。」 02:11イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された。それで、弟子たちはイエスを信じた。 02:12この後、イエスは母、兄弟、弟子たちとカファルナウムに下って行き、そこに幾日か滞在された。 02:13ユダヤ人の過越祭が近づいたので、イエスはエルサレムへ上って行かれた。 02:14そして、神殿の境内で牛や羊や鳩を売っている者たちと、座って両替をしている者たちを御覧になった。 02:15イエスは縄で鞭を作り、羊や牛をすべて境内から追い出し、両替人の金をまき散らし、その台を倒し、 02:16鳩を売る者たちに言われた。「このような物はここから運び出せ。わたしの父の家を商売の家としてはならない。」 02:17弟子たちは、「あなたの家を思う熱意がわたしを食い尽くす」と書いてあるのを思い出した。 02:18ユダヤ人たちはイエスに、「あなたは、こんなことをするからには、どんなしるしをわたしたちに見せるつもりか」と言った。 02:19イエスは答えて言われた。「この神殿を壊してみよ。三日で建て直してみせる。」 02:20それでユダヤ人たちは、「この神殿は建てるのに四十六年もかかったのに、あなたは三日で建て直すのか」と言った。 02:21イエスの言われる神殿とは、御自分の体のことだったのである。 02:22イエスが死者の中から復活されたとき、弟子たちは、イエスがこう言われたのを思い出し、聖書とイエスの語られた言葉とを信じた。 02:23イエスは過越祭の間エルサレムにおられたが、そのなさったしるしを見て、多くの人がイエスの名を信じた。 02:24しかし、イエス御自身は彼らを信用されなかった。それは、すべての人のことを知っておられ、 02:25人間についてだれからも証ししてもらう必要がなかったからである。イエスは、何が人間の心の中にあるかをよく知っておられたのである。 03:01さて、ファリサイ派に属する、ニコデモという人がいた。ユダヤ人たちの議員であった。 03:02ある夜、イエスのもとに来て言った。「ラビ、わたしどもは、あなたが神のもとから来られた教師であることを知っています。神が共におられるのでなければ、あなたのなさるようなしるしを、だれも行うことはできないからです。」 03:03イエスは答えて言われた。「はっきり言っておく。人は、新たに生まれなければ、神の国を見ることはできない。」 03:04ニコデモは言った。「年をとった者が、どうして生まれることができましょう。もう一度母親の胎内に入って生まれることができるでしょうか。」 03:05イエスはお答えになった。「はっきり言っておく。だれでも水と霊とによって生まれなければ、神の国に入ることはできない。 03:06肉から生まれたものは肉である。霊から生まれたものは霊である。 03:07『あなたがたは新たに生まれねばならない』とあなたに言ったことに、驚いてはならない。 03:08風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞いても、それがどこから来て、どこへ行くかを知らない。霊から生まれた者も皆そのとおりである。」 03:09するとニコデモは、「どうして、そんなことがありえましょうか」と言った。 03:10イエスは答えて言われた。「あなたはイスラエルの教師でありながら、こんなことが分からないのか。 03:11はっきり言っておく。わたしたちは知っていることを語り、見たことを証ししているのに、あなたがたはわたしたちの証しを受け入れない。 03:12わたしが地上のことを話しても信じないとすれば、天上のことを話したところで、どうして信じるだろう。 03:13天から降って来た者、すなわち人の子のほかには、天に上った者はだれもいない。 03:14そして、モーセが荒れ野で蛇を上げたように、人の子も上げられねばならない。 03:15それは、信じる者が皆、人の子によって永遠の命を得るためである。 03:16神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。 03:17神が御子を世に遣わされたのは、世を裁くためではなく、御子によって世が救われるためである。 03:18御子を信じる者は裁かれない。信じない者は既に裁かれている。神の独り子の名を信じていないからである。 03:19光が世に来たのに、人々はその行いが悪いので、光よりも闇の方を好んだ。それが、もう裁きになっている。 03:20悪を行う者は皆、光を憎み、その行いが明るみに出されるのを恐れて、光の方に来ないからである。 03:21しかし、真理を行う者は光の方に来る。その行いが神に導かれてなされたということが、明らかになるために。」 03:22その後、イエスは弟子たちとユダヤ地方に行って、そこに一緒に滞在し、洗礼を授けておられた。 03:23他方、ヨハネは、サリムの近くのアイノンで洗礼を授けていた。そこは水が豊かであったからである。人々は来て、洗礼を受けていた。 03:24ヨハネはまだ投獄されていなかったのである。 03:25ところがヨハネの弟子たちと、あるユダヤ人との間で、清めのことで論争が起こった。 03:26彼らはヨハネのもとに来て言った。「ラビ、ヨルダン川の向こう側であなたと一緒にいた人、あなたが証しされたあの人が、洗礼を授けています。みんながあの人の方へ行っています。」 03:27ヨハネは答えて言った。「天から与えられなければ、人は何も受けることができない。 03:28わたしは、『自分はメシアではない』と言い、『自分はあの方の前に遣わされた者だ』と言ったが、そのことについては、あなたたち自身が証ししてくれる。 03:29花嫁を迎えるのは花婿だ。花婿の介添え人はそばに立って耳を傾け、花婿の声が聞こえると大いに喜ぶ。だから、わたしは喜びで満たされている。 03:30あの方は栄え、わたしは衰えねばならない。」 03:31「上から来られる方は、すべてのものの上におられる。地から出る者は地に属し、地に属する者として語る。天から来られる方は、すべてのものの上におられる。 03:32この方は、見たこと、聞いたことを証しされるが、だれもその証しを受け入れない。 03:33その証しを受け入れる者は、神が真実であることを確認したことになる。 03:34神がお遣わしになった方は、神の言葉を話される。神が“霊”を限りなくお与えになるからである。 03:35御父は御子を愛して、その手にすべてをゆだねられた。 03:36御子を信じる人は永遠の命を得ているが、御子に従わない者は、命にあずかることがないばかりか、神の怒りがその上にとどまる。」 04:01さて、イエスがヨハネよりも多くの弟子をつくり、洗礼を授けておられるということが、ファリサイ派の人々の耳に入った。イエスはそれを知ると、 04:02――洗礼を授けていたのは、イエス御自身ではなく、弟子たちである―― 04:03ユダヤを去り、再びガリラヤへ行かれた。 04:04しかし、サマリアを通らねばならなかった。 04:05それで、ヤコブがその子ヨセフに与えた土地の近くにある、シカルというサマリアの町に来られた。 04:06そこにはヤコブの井戸があった。イエスは旅に疲れて、そのまま井戸のそばに座っておられた。正午ごろのことである。 04:07サマリアの女が水をくみに来た。イエスは、「水を飲ませてください」と言われた。 04:08弟子たちは食べ物を買うために町に行っていた。 04:09すると、サマリアの女は、「ユダヤ人のあなたがサマリアの女のわたしに、どうして水を飲ませてほしいと頼むのですか」と言った。ユダヤ人はサマリア人とは交際しないからである。 04:10イエスは答えて言われた。「もしあなたが、神の賜物を知っており、また、『水を飲ませてください』と言ったのがだれであるか知っていたならば、あなたの方からその人に頼み、その人はあなたに生きた水を与えたことであろう。」 04:11女は言った。「主よ、あなたはくむ物をお持ちでないし、井戸は深いのです。どこからその生きた水を手にお入れになるのですか。 04:12あなたは、わたしたちの父ヤコブよりも偉いのですか。ヤコブがこの井戸をわたしたちに与え、彼自身も、その子供や家畜も、この井戸から水を飲んだのです。」 04:13イエスは答えて言われた。「この水を飲む者はだれでもまた渇く。 04:14しかし、わたしが与える水を飲む者は決して渇かない。わたしが与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る。」 04:15女は言った。「主よ、渇くことがないように、また、ここにくみに来なくてもいいように、その水をください。」 04:16イエスが、「行って、あなたの夫をここに呼んで来なさい」と言われると、 04:17女は答えて、「わたしには夫はいません」と言った。イエスは言われた。「『夫はいません』とは、まさにそのとおりだ。 04:18あなたには五人の夫がいたが、今連れ添っているのは夫ではない。あなたは、ありのままを言ったわけだ。」 04:19女は言った。「主よ、あなたは預言者だとお見受けします。 04:20わたしどもの先祖はこの山で礼拝しましたが、あなたがたは、礼拝すべき場所はエルサレムにあると言っています。」 04:21イエスは言われた。「婦人よ、わたしを信じなさい。あなたがたが、この山でもエルサレムでもない所で、父を礼拝する時が来る。 04:22あなたがたは知らないものを礼拝しているが、わたしたちは知っているものを礼拝している。救いはユダヤ人から来るからだ。 04:23しかし、まことの礼拝をする者たちが、霊と真理をもって父を礼拝する時が来る。今がその時である。なぜなら、父はこのように礼拝する者を求めておられるからだ。 04:24神は霊である。だから、神を礼拝する者は、霊と真理をもって礼拝しなければならない。」 04:25女が言った。「わたしは、キリストと呼ばれるメシアが来られることは知っています。その方が来られるとき、わたしたちに一切のことを知らせてくださいます。」 04:26イエスは言われた。「それは、あなたと話をしているこのわたしである。」 04:27ちょうどそのとき、弟子たちが帰って来て、イエスが女の人と話をしておられるのに驚いた。しかし、「何か御用ですか」とか、「何をこの人と話しておられるのですか」と言う者はいなかった。 04:28女は、水がめをそこに置いたまま町に行き、人々に言った。 04:29「さあ、見に来てください。わたしが行ったことをすべて、言い当てた人がいます。もしかしたら、この方がメシアかもしれません。」 04:30人々は町を出て、イエスのもとへやって来た。 04:31その間に、弟子たちが「ラビ、食事をどうぞ」と勧めると、 04:32イエスは、「わたしにはあなたがたの知らない食べ物がある」と言われた。 04:33弟子たちは、「だれかが食べ物を持って来たのだろうか」と互いに言った。 04:34イエスは言われた。「わたしの食べ物とは、わたしをお遣わしになった方の御心を行い、その業を成し遂げることである。 04:35あなたがたは、『刈り入れまでまだ四か月もある』と言っているではないか。わたしは言っておく。目を上げて畑を見るがよい。色づいて刈り入れを待っている。既に、 04:36刈り入れる人は報酬を受け、永遠の命に至る実を集めている。こうして、種を蒔く人も刈る人も、共に喜ぶのである。 04:37そこで、『一人が種を蒔き、別の人が刈り入れる』ということわざのとおりになる。 04:38あなたがたが自分では労苦しなかったものを刈り入れるために、わたしはあなたがたを遣わした。他の人々が労苦し、あなたがたはその労苦の実りにあずかっている。」 04:39さて、その町の多くのサマリア人は、「この方が、わたしの行ったことをすべて言い当てました」と証言した女の言葉によって、イエスを信じた。 04:40そこで、このサマリア人たちはイエスのもとにやって来て、自分たちのところにとどまるようにと頼んだ。イエスは、二日間そこに滞在された。 04:41そして、更に多くの人々が、イエスの言葉を聞いて信じた。 04:42彼らは女に言った。「わたしたちが信じるのは、もうあなたが話してくれたからではない。わたしたちは自分で聞いて、この方が本当に世の救い主であると分かったからです。」 04:43二日後、イエスはそこを出発して、ガリラヤへ行かれた。 04:44イエスは自ら、「預言者は自分の故郷では敬われないものだ」とはっきり言われたことがある。 04:45ガリラヤにお着きになると、ガリラヤの人たちはイエスを歓迎した。彼らも祭りに行ったので、そのときエルサレムでイエスがなさったことをすべて、見ていたからである。 04:46イエスは、再びガリラヤのカナに行かれた。そこは、前にイエスが水をぶどう酒に変えられた所である。さて、カファルナウムに王の役人がいて、その息子が病気であった。 04:47この人は、イエスがユダヤからガリラヤに来られたと聞き、イエスのもとに行き、カファルナウムまで下って来て息子をいやしてくださるように頼んだ。息子が死にかかっていたからである。 04:48イエスは役人に、「あなたがたは、しるしや不思議な業を見なければ、決して信じない」と言われた。 04:49役人は、「主よ、子供が死なないうちに、おいでください」と言った。 04:50イエスは言われた。「帰りなさい。あなたの息子は生きる。」その人は、イエスの言われた言葉を信じて帰って行った。 04:51ところが、下って行く途中、僕たちが迎えに来て、その子が生きていることを告げた。 04:52そこで、息子の病気が良くなった時刻を尋ねると、僕たちは、「きのうの午後一時に熱が下がりました」と言った。 04:53それは、イエスが「あなたの息子は生きる」と言われたのと同じ時刻であることを、この父親は知った。そして、彼もその家族もこぞって信じた。 04:54これは、イエスがユダヤからガリラヤに来てなされた、二回目のしるしである。 05:01その後、ユダヤ人の祭りがあったので、イエスはエルサレムに上られた。 05:02エルサレムには羊の門の傍らに、ヘブライ語で「ベトザタ」と呼ばれる池があり、そこには五つの回廊があった。 05:03この回廊には、病気の人、目の見えない人、足の不自由な人、体の麻痺した人などが、大勢横たわっていた。 05:04*彼らは、水が動くのを待っていた。それは、主の使いがときどき池に降りて来て、水が動くことがあり、水が動いたとき、真っ先に水に入る者は、どんな病気にかかっていても、いやされたからである。 05:05さて、そこに三十八年も病気で苦しんでいる人がいた。 05:06イエスは、その人が横たわっているのを見、また、もう長い間病気であるのを知って、「良くなりたいか」と言われた。 05:07病人は答えた。「主よ、水が動くとき、わたしを池の中に入れてくれる人がいないのです。わたしが行くうちに、ほかの人が先に降りて行くのです。」 05:08イエスは言われた。「起き上がりなさい。床を担いで歩きなさい。」 05:09すると、その人はすぐに良くなって、床を担いで歩きだした。その日は安息日であった。 05:10そこで、ユダヤ人たちは病気をいやしていただいた人に言った。「今日は安息日だ。だから床を担ぐことは、律法で許されていない。」 05:11しかし、その人は、「わたしをいやしてくださった方が、『床を担いで歩きなさい』と言われたのです」と答えた。 05:12彼らは、「お前に『床を担いで歩きなさい』と言ったのはだれだ」と尋ねた。 05:13しかし、病気をいやしていただいた人は、それがだれであるか知らなかった。イエスは、群衆がそこにいる間に、立ち去られたからである。 05:14その後、イエスは、神殿の境内でこの人に出会って言われた。「あなたは良くなったのだ。もう、罪を犯してはいけない。さもないと、もっと悪いことが起こるかもしれない。」 05:15この人は立ち去って、自分をいやしたのはイエスだと、ユダヤ人たちに知らせた。 05:16そのために、ユダヤ人たちはイエスを迫害し始めた。イエスが、安息日にこのようなことをしておられたからである。 05:17イエスはお答えになった。「わたしの父は今もなお働いておられる。だから、わたしも働くのだ。」 05:18このために、ユダヤ人たちは、ますますイエスを殺そうとねらうようになった。イエスが安息日を破るだけでなく、神を御自分の父と呼んで、御自身を神と等しい者とされたからである。 05:19そこで、イエスは彼らに言われた。「はっきり言っておく。子は、父のなさることを見なければ、自分からは何事もできない。父がなさることはなんでも、子もそのとおりにする。 05:20父は子を愛して、御自分のなさることをすべて子に示されるからである。また、これらのことよりも大きな業を子にお示しになって、あなたたちが驚くことになる。 05:21すなわち、父が死者を復活させて命をお与えになるように、子も、与えたいと思う者に命を与える。 05:22また、父はだれをも裁かず、裁きは一切子に任せておられる。 05:23すべての人が、父を敬うように、子をも敬うようになるためである。子を敬わない者は、子をお遣わしになった父をも敬わない。 05:24はっきり言っておく。わたしの言葉を聞いて、わたしをお遣わしになった方を信じる者は、永遠の命を得、また、裁かれることなく、死から命へと移っている。 05:25はっきり言っておく。死んだ者が神の子の声を聞く時が来る。今やその時である。その声を聞いた者は生きる。 05:26父は、御自身の内に命を持っておられるように、子にも自分の内に命を持つようにしてくださったからである。 05:27また、裁きを行う権能を子にお与えになった。子は人の子だからである。 05:28驚いてはならない。時が来ると、墓の中にいる者は皆、人の子の声を聞き、 05:29善を行った者は復活して命を受けるために、悪を行った者は復活して裁きを受けるために出て来るのだ。 05:30わたしは自分では何もできない。ただ、父から聞くままに裁く。わたしの裁きは正しい。わたしは自分の意志ではなく、わたしをお遣わしになった方の御心を行おうとするからである。」 05:31「もし、わたしが自分自身について証しをするなら、その証しは真実ではない。 05:32わたしについて証しをなさる方は別におられる。そして、その方がわたしについてなさる証しは真実であることを、わたしは知っている。 05:33あなたたちはヨハネのもとへ人を送ったが、彼は真理について証しをした。 05:34わたしは、人間による証しは受けない。しかし、あなたたちが救われるために、これらのことを言っておく。 05:35ヨハネは、燃えて輝くともし火であった。あなたたちは、しばらくの間その光のもとで喜び楽しもうとした。 05:36しかし、わたしにはヨハネの証しにまさる証しがある。父がわたしに成し遂げるようにお与えになった業、つまり、わたしが行っている業そのものが、父がわたしをお遣わしになったことを証ししている。 05:37また、わたしをお遣わしになった父が、わたしについて証しをしてくださる。あなたたちは、まだ父のお声を聞いたこともなければ、お姿を見たこともない。 05:38また、あなたたちは、自分の内に父のお言葉をとどめていない。父がお遣わしになった者を、あなたたちは信じないからである。 05:39あなたたちは聖書の中に永遠の命があると考えて、聖書を研究している。ところが、聖書はわたしについて証しをするものだ。 05:40それなのに、あなたたちは、命を得るためにわたしのところへ来ようとしない。 05:41わたしは、人からの誉れは受けない。 05:42しかし、あなたたちの内には神への愛がないことを、わたしは知っている。 05:43わたしは父の名によって来たのに、あなたたちはわたしを受け入れない。もし、ほかの人が自分の名によって来れば、あなたたちは受け入れる。 05:44互いに相手からの誉れは受けるのに、唯一の神からの誉れは求めようとしないあなたたちには、どうして信じることができようか。 05:45わたしが父にあなたたちを訴えるなどと、考えてはならない。あなたたちを訴えるのは、あなたたちが頼りにしているモーセなのだ。 05:46あなたたちは、モーセを信じたのであれば、わたしをも信じたはずだ。モーセは、わたしについて書いているからである。 05:47しかし、モーセの書いたことを信じないのであれば、どうしてわたしが語ることを信じることができようか。」 06:01その後、イエスはガリラヤ湖、すなわちティベリアス湖の向こう岸に渡られた。 06:02大勢の群衆が後を追った。イエスが病人たちになさったしるしを見たからである。 06:03イエスは山に登り、弟子たちと一緒にそこにお座りになった。 06:04ユダヤ人の祭りである過越祭が近づいていた。 06:05イエスは目を上げ、大勢の群衆が御自分の方へ来るのを見て、フィリポに、「この人たちに食べさせるには、どこでパンを買えばよいだろうか」と言われたが、 06:06こう言ったのはフィリポを試みるためであって、御自分では何をしようとしているか知っておられたのである。 06:07フィリポは、「めいめいが少しずつ食べるためにも、二百デナリオン分のパンでは足りないでしょう」と答えた。 06:08弟子の一人で、シモン・ペトロの兄弟アンデレが、イエスに言った。 06:09「ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。」 06:10イエスは、「人々を座らせなさい」と言われた。そこには草がたくさん生えていた。男たちはそこに座ったが、その数はおよそ五千人であった。 06:11さて、イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えてから、座っている人々に分け与えられた。また、魚も同じようにして、欲しいだけ分け与えられた。 06:12人々が満腹したとき、イエスは弟子たちに、「少しも無駄にならないように、残ったパンの屑を集めなさい」と言われた。 06:13集めると、人々が五つの大麦パンを食べて、なお残ったパンの屑で、十二の籠がいっぱいになった。 06:14そこで、人々はイエスのなさったしるしを見て、「まさにこの人こそ、世に来られる預言者である」と言った。 06:15イエスは、人々が来て、自分を王にするために連れて行こうとしているのを知り、ひとりでまた山に退かれた。 06:16夕方になったので、弟子たちは湖畔へ下りて行った。 06:17そして、舟に乗り、湖の向こう岸のカファルナウムに行こうとした。既に暗くなっていたが、イエスはまだ彼らのところには来ておられなかった。 06:18強い風が吹いて、湖は荒れ始めた。 06:19二十五ないし三十スタディオンばかり漕ぎ出したころ、イエスが湖の上を歩いて舟に近づいて来られるのを見て、彼らは恐れた。 06:20イエスは言われた。「わたしだ。恐れることはない。」 06:21そこで、彼らはイエスを舟に迎え入れようとした。すると間もなく、舟は目指す地に着いた。 06:22その翌日、湖の向こう岸に残っていた群衆は、そこには小舟が一そうしかなかったこと、また、イエスは弟子たちと一緒に舟に乗り込まれず、弟子たちだけが出かけたことに気づいた。 06:23ところが、ほかの小舟が数そうティベリアスから、主が感謝の祈りを唱えられた後に人々がパンを食べた場所へ近づいて来た。 06:24群衆は、イエスも弟子たちもそこにいないと知ると、自分たちもそれらの小舟に乗り、イエスを捜し求めてカファルナウムに来た。 06:25そして、湖の向こう岸でイエスを見つけると、「ラビ、いつ、ここにおいでになったのですか」と言った。 06:26イエスは答えて言われた。「はっきり言っておく。あなたがたがわたしを捜しているのは、しるしを見たからではなく、パンを食べて満腹したからだ。 06:27朽ちる食べ物のためではなく、いつまでもなくならないで、永遠の命に至る食べ物のために働きなさい。これこそ、人の子があなたがたに与える食べ物である。父である神が、人の子を認証されたからである。」 06:28そこで彼らが、「神の業を行うためには、何をしたらよいでしょうか」と言うと、 06:29イエスは答えて言われた。「神がお遣わしになった者を信じること、それが神の業である。」 06:30そこで、彼らは言った。「それでは、わたしたちが見てあなたを信じることができるように、どんなしるしを行ってくださいますか。どのようなことをしてくださいますか。 06:31わたしたちの先祖は、荒れ野でマンナを食べました。『天からのパンを彼らに与えて食べさせた』と書いてあるとおりです。」 06:32すると、イエスは言われた。「はっきり言っておく。モーセが天からのパンをあなたがたに与えたのではなく、わたしの父が天からのまことのパンをお与えになる。 06:33神のパンは、天から降って来て、世に命を与えるものである。」 06:34そこで、彼らが、「主よ、そのパンをいつもわたしたちにください」と言うと、 06:35イエスは言われた。「わたしが命のパンである。わたしのもとに来る者は決して飢えることがなく、わたしを信じる者は決して渇くことがない。 06:36しかし、前にも言ったように、あなたがたはわたしを見ているのに、信じない。 06:37父がわたしにお与えになる人は皆、わたしのところに来る。わたしのもとに来る人を、わたしは決して追い出さない。 06:38わたしが天から降って来たのは、自分の意志を行うためではなく、わたしをお遣わしになった方の御心を行うためである。 06:39わたしをお遣わしになった方の御心とは、わたしに与えてくださった人を一人も失わないで、終わりの日に復活させることである。 06:40わたしの父の御心は、子を見て信じる者が皆永遠の命を得ることであり、わたしがその人を終わりの日に復活させることだからである。」 06:41ユダヤ人たちは、イエスが「わたしは天から降って来たパンである」と言われたので、イエスのことでつぶやき始め、 06:42こう言った。「これはヨセフの息子のイエスではないか。我々はその父も母も知っている。どうして今、『わたしは天から降って来た』などと言うのか。」 06:43イエスは答えて言われた。「つぶやき合うのはやめなさい。 06:44わたしをお遣わしになった父が引き寄せてくださらなければ、だれもわたしのもとへ来ることはできない。わたしはその人を終わりの日に復活させる。 06:45預言者の書に、『彼らは皆、神によって教えられる』と書いてある。父から聞いて学んだ者は皆、わたしのもとに来る。 06:46父を見た者は一人もいない。神のもとから来た者だけが父を見たのである。 06:47はっきり言っておく。信じる者は永遠の命を得ている。 06:48わたしは命のパンである。 06:49あなたたちの先祖は荒れ野でマンナを食べたが、死んでしまった。 06:50しかし、これは、天から降って来たパンであり、これを食べる者は死なない。 06:51わたしは、天から降って来た生きたパンである。このパンを食べるならば、その人は永遠に生きる。わたしが与えるパンとは、世を生かすためのわたしの肉のことである。」 06:52それで、ユダヤ人たちは、「どうしてこの人は自分の肉を我々に食べさせることができるのか」と、互いに激しく議論し始めた。 06:53イエスは言われた。「はっきり言っておく。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたたちの内に命はない。 06:54わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、永遠の命を得、わたしはその人を終わりの日に復活させる。 06:55わたしの肉はまことの食べ物、わたしの血はまことの飲み物だからである。 06:56わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、いつもわたしの内におり、わたしもまたいつもその人の内にいる。 06:57生きておられる父がわたしをお遣わしになり、またわたしが父によって生きるように、わたしを食べる者もわたしによって生きる。 06:58これは天から降って来たパンである。先祖が食べたのに死んでしまったようなものとは違う。このパンを食べる者は永遠に生きる。」 06:59これらは、イエスがカファルナウムの会堂で教えていたときに話されたことである。 06:60ところで、弟子たちの多くの者はこれを聞いて言った。「実にひどい話だ。だれが、こんな話を聞いていられようか。」 06:61イエスは、弟子たちがこのことについてつぶやいているのに気づいて言われた。「あなたがたはこのことにつまずくのか。 06:62それでは、人の子がもといた所に上るのを見るならば……。 06:63命を与えるのは“霊”である。肉は何の役にも立たない。わたしがあなたがたに話した言葉は霊であり、命である。 06:64しかし、あなたがたのうちには信じない者たちもいる。」イエスは最初から、信じない者たちがだれであるか、また、御自分を裏切る者がだれであるかを知っておられたのである。 06:65そして、言われた。「こういうわけで、わたしはあなたがたに、『父からお許しがなければ、だれもわたしのもとに来ることはできない』と言ったのだ。」 06:66このために、弟子たちの多くが離れ去り、もはやイエスと共に歩まなくなった。 06:67そこで、イエスは十二人に、「あなたがたも離れて行きたいか」と言われた。 06:68シモン・ペトロが答えた。「主よ、わたしたちはだれのところへ行きましょうか。あなたは永遠の命の言葉を持っておられます。 06:69あなたこそ神の聖者であると、わたしたちは信じ、また知っています。」 06:70すると、イエスは言われた。「あなたがた十二人は、わたしが選んだのではないか。ところが、その中の一人は悪魔だ。」 06:71イスカリオテのシモンの子ユダのことを言われたのである。このユダは、十二人の一人でありながら、イエスを裏切ろうとしていた。 07:01その後、イエスはガリラヤを巡っておられた。ユダヤ人が殺そうとねらっていたので、ユダヤを巡ろうとは思われなかった。 07:02ときに、ユダヤ人の仮庵祭が近づいていた。 07:03イエスの兄弟たちが言った。「ここを去ってユダヤに行き、あなたのしている業を弟子たちにも見せてやりなさい。 07:04公に知られようとしながら、ひそかに行動するような人はいない。こういうことをしているからには、自分を世にはっきり示しなさい。」 07:05兄弟たちも、イエスを信じていなかったのである。 07:06そこで、イエスは言われた。「わたしの時はまだ来ていない。しかし、あなたがたの時はいつも備えられている。 07:07世はあなたがたを憎むことができないが、わたしを憎んでいる。わたしが、世の行っている業は悪いと証ししているからだ。 07:08あなたがたは祭りに上って行くがよい。わたしはこの祭りには上って行かない。まだ、わたしの時が来ていないからである。」 07:09こう言って、イエスはガリラヤにとどまられた。 07:10しかし、兄弟たちが祭りに上って行ったとき、イエス御自身も、人目を避け、隠れるようにして上って行かれた。 07:11祭りのときユダヤ人たちはイエスを捜し、「あの男はどこにいるのか」と言っていた。 07:12群衆の間では、イエスのことがいろいろとささやかれていた。「良い人だ」と言う者もいれば、「いや、群衆を惑わしている」と言う者もいた。 07:13しかし、ユダヤ人たちを恐れて、イエスについて公然と語る者はいなかった。 07:14祭りも既に半ばになったころ、イエスは神殿の境内に上って行って、教え始められた。 07:15ユダヤ人たちが驚いて、「この人は、学問をしたわけでもないのに、どうして聖書をこんなによく知っているのだろう」と言うと、 07:16イエスは答えて言われた。「わたしの教えは、自分の教えではなく、わたしをお遣わしになった方の教えである。 07:17この方の御心を行おうとする者は、わたしの教えが神から出たものか、わたしが勝手に話しているのか、分かるはずである。 07:18自分勝手に話す者は、自分の栄光を求める。しかし、自分をお遣わしになった方の栄光を求める者は真実な人であり、その人には不義がない。 07:19モーセはあなたたちに律法を与えたではないか。ところが、あなたたちはだれもその律法を守らない。なぜ、わたしを殺そうとするのか。」 07:20群衆が答えた。「あなたは悪霊に取りつかれている。だれがあなたを殺そうというのか。」 07:21イエスは答えて言われた。「わたしが一つの業を行ったというので、あなたたちは皆驚いている。 07:22しかし、モーセはあなたたちに割礼を命じた。――もっとも、これはモーセからではなく、族長たちから始まったのだが――だから、あなたたちは安息日にも割礼を施している。 07:23モーセの律法を破らないようにと、人は安息日であっても割礼を受けるのに、わたしが安息日に全身をいやしたからといって腹を立てるのか。 07:24うわべだけで裁くのをやめ、正しい裁きをしなさい。」 07:25さて、エルサレムの人々の中には次のように言う者たちがいた。「これは、人々が殺そうとねらっている者ではないか。 07:26あんなに公然と話しているのに、何も言われない。議員たちは、この人がメシアだということを、本当に認めたのではなかろうか。 07:27しかし、わたしたちは、この人がどこの出身かを知っている。メシアが来られるときは、どこから来られるのか、だれも知らないはずだ。」 07:28すると、神殿の境内で教えていたイエスは、大声で言われた。「あなたたちはわたしのことを知っており、また、どこの出身かも知っている。わたしは自分勝手に来たのではない。わたしをお遣わしになった方は真実であるが、あなたたちはその方を知らない。 07:29わたしはその方を知っている。わたしはその方のもとから来た者であり、その方がわたしをお遣わしになったのである。」 07:30人々はイエスを捕らえようとしたが、手をかける者はいなかった。イエスの時はまだ来ていなかったからである。 07:31しかし、群衆の中にはイエスを信じる者が大勢いて、「メシアが来られても、この人よりも多くのしるしをなさるだろうか」と言った。 07:32ファリサイ派の人々は、群衆がイエスについてこのようにささやいているのを耳にした。祭司長たちとファリサイ派の人々は、イエスを捕らえるために下役たちを遣わした。 07:33そこで、イエスは言われた。「今しばらく、わたしはあなたたちと共にいる。それから、自分をお遣わしになった方のもとへ帰る。 07:34あなたたちは、わたしを捜しても、見つけることがない。わたしのいる所に、あなたたちは来ることができない。」 07:35すると、ユダヤ人たちが互いに言った。「わたしたちが見つけることはないとは、いったい、どこへ行くつもりだろう。ギリシア人の間に離散しているユダヤ人のところへ行って、ギリシア人に教えるとでもいうのか。 07:36『あなたたちは、わたしを捜しても、見つけることがない。わたしのいる所に、あなたたちは来ることができない』と彼は言ったが、その言葉はどういう意味なのか。」 07:37祭りが最も盛大に祝われる終わりの日に、イエスは立ち上がって大声で言われた。「渇いている人はだれでも、わたしのところに来て飲みなさい。 07:38わたしを信じる者は、聖書に書いてあるとおり、その人の内から生きた水が川となって流れ出るようになる。」 07:39イエスは、御自分を信じる人々が受けようとしている“霊”について言われたのである。イエスはまだ栄光を受けておられなかったので、“霊”がまだ降っていなかったからである。 07:40この言葉を聞いて、群衆の中には、「この人は、本当にあの預言者だ」と言う者や、 07:41「この人はメシアだ」と言う者がいたが、このように言う者もいた。「メシアはガリラヤから出るだろうか。 07:42メシアはダビデの子孫で、ダビデのいた村ベツレヘムから出ると、聖書に書いてあるではないか。」 07:43こうして、イエスのことで群衆の間に対立が生じた。 07:44その中にはイエスを捕らえようと思う者もいたが、手をかける者はなかった。 07:45さて、祭司長たちやファリサイ派の人々は、下役たちが戻って来たとき、「どうして、あの男を連れて来なかったのか」と言った。 07:46下役たちは、「今まで、あの人のように話した人はいません」と答えた。 07:47すると、ファリサイ派の人々は言った。「お前たちまでも惑わされたのか。 07:48議員やファリサイ派の人々の中に、あの男を信じた者がいるだろうか。 07:49だが、律法を知らないこの群衆は、呪われている。」 07:50彼らの中の一人で、以前イエスを訪ねたことのあるニコデモが言った。 07:51「我々の律法によれば、まず本人から事情を聞き、何をしたかを確かめたうえでなければ、判決を下してはならないことになっているではないか。」 07:52彼らは答えて言った。「あなたもガリラヤ出身なのか。よく調べてみなさい。ガリラヤからは預言者の出ないことが分かる。」 07:53〔人々はおのおの家へ帰って行った。 08:01イエスはオリーブ山へ行かれた。 08:02朝早く、再び神殿の境内に入られると、民衆が皆、御自分のところにやって来たので、座って教え始められた。 08:03そこへ、律法学者たちやファリサイ派の人々が、姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、真ん中に立たせ、 08:04イエスに言った。「先生、この女は姦通をしているときに捕まりました。 08:05こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか。」 08:06イエスを試して、訴える口実を得るために、こう言ったのである。イエスはかがみ込み、指で地面に何か書き始められた。 08:07しかし、彼らがしつこく問い続けるので、イエスは身を起こして言われた。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」 08:08そしてまた、身をかがめて地面に書き続けられた。 08:09これを聞いた者は、年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい、イエスひとりと、真ん中にいた女が残った。 08:10イエスは、身を起こして言われた。「婦人よ、あの人たちはどこにいるのか。だれもあなたを罪に定めなかったのか。」 08:11女が、「主よ、だれも」と言うと、イエスは言われた。「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない。」〕 08:12イエスは再び言われた。「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ。」 08:13それで、ファリサイ派の人々が言った。「あなたは自分について証しをしている。その証しは真実ではない。」 08:14イエスは答えて言われた。「たとえわたしが自分について証しをするとしても、その証しは真実である。自分がどこから来たのか、そしてどこへ行くのか、わたしは知っているからだ。しかし、あなたたちは、わたしがどこから来てどこへ行くのか、知らない。 08:15あなたたちは肉に従って裁くが、わたしはだれをも裁かない。 08:16しかし、もしわたしが裁くとすれば、わたしの裁きは真実である。なぜならわたしはひとりではなく、わたしをお遣わしになった父と共にいるからである。 08:17あなたたちの律法には、二人が行う証しは真実であると書いてある。 08:18わたしは自分について証しをしており、わたしをお遣わしになった父もわたしについて証しをしてくださる。」 08:19彼らが「あなたの父はどこにいるのか」と言うと、イエスはお答えになった。「あなたたちは、わたしもわたしの父も知らない。もし、わたしを知っていたら、わたしの父をも知るはずだ。」 08:20イエスは神殿の境内で教えておられたとき、宝物殿の近くでこれらのことを話された。しかし、だれもイエスを捕らえなかった。イエスの時がまだ来ていなかったからである。 08:21そこで、イエスはまた言われた。「わたしは去って行く。あなたたちはわたしを捜すだろう。だが、あなたたちは自分の罪のうちに死ぬことになる。わたしの行く所に、あなたたちは来ることができない。」 08:22ユダヤ人たちが、「『わたしの行く所に、あなたたちは来ることができない』と言っているが、自殺でもするつもりなのだろうか」と話していると、 08:23イエスは彼らに言われた。「あなたたちは下のものに属しているが、わたしは上のものに属している。あなたたちはこの世に属しているが、わたしはこの世に属していない。 08:24だから、あなたたちは自分の罪のうちに死ぬことになると、わたしは言ったのである。『わたしはある』ということを信じないならば、あなたたちは自分の罪のうちに死ぬことになる。」 08:25彼らが、「あなたは、いったい、どなたですか」と言うと、イエスは言われた。「それは初めから話しているではないか。 08:26あなたたちについては、言うべきこと、裁くべきことがたくさんある。しかし、わたしをお遣わしになった方は真実であり、わたしはその方から聞いたことを、世に向かって話している。」 08:27彼らは、イエスが御父について話しておられることを悟らなかった。 08:28そこで、イエスは言われた。「あなたたちは、人の子を上げたときに初めて、『わたしはある』ということ、また、わたしが、自分勝手には何もせず、ただ、父に教えられたとおりに話していることが分かるだろう。 08:29わたしをお遣わしになった方は、わたしと共にいてくださる。わたしをひとりにしてはおかれない。わたしは、いつもこの方の御心に適うことを行うからである。」 08:30これらのことを語られたとき、多くの人々がイエスを信じた。 08:31イエスは、御自分を信じたユダヤ人たちに言われた。「わたしの言葉にとどまるならば、あなたたちは本当にわたしの弟子である。 08:32あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする。」 08:33すると、彼らは言った。「わたしたちはアブラハムの子孫です。今までだれかの奴隷になったことはありません。『あなたたちは自由になる』とどうして言われるのですか。」 08:34イエスはお答えになった。「はっきり言っておく。罪を犯す者はだれでも罪の奴隷である。 08:35奴隷は家にいつまでもいるわけにはいかないが、子はいつまでもいる。 08:36だから、もし子があなたたちを自由にすれば、あなたたちは本当に自由になる。 08:37あなたたちがアブラハムの子孫だということは、分かっている。だが、あなたたちはわたしを殺そうとしている。わたしの言葉を受け入れないからである。 08:38わたしは父のもとで見たことを話している。ところが、あなたたちは父から聞いたことを行っている。」 08:39彼らが答えて、「わたしたちの父はアブラハムです」と言うと、イエスは言われた。「アブラハムの子なら、アブラハムと同じ業をするはずだ。 08:40ところが、今、あなたたちは、神から聞いた真理をあなたたちに語っているこのわたしを、殺そうとしている。アブラハムはそんなことはしなかった。 08:41あなたたちは、自分の父と同じ業をしている。」そこで彼らが、「わたしたちは姦淫によって生まれたのではありません。わたしたちにはただひとりの父がいます。それは神です」と言うと、 08:42イエスは言われた。「神があなたたちの父であれば、あなたたちはわたしを愛するはずである。なぜなら、わたしは神のもとから来て、ここにいるからだ。わたしは自分勝手に来たのではなく、神がわたしをお遣わしになったのである。 08:43わたしの言っていることが、なぜ分からないのか。それは、わたしの言葉を聞くことができないからだ。 08:44あなたたちは、悪魔である父から出た者であって、その父の欲望を満たしたいと思っている。悪魔は最初から人殺しであって、真理をよりどころとしていない。彼の内には真理がないからだ。悪魔が偽りを言うときは、その本性から言っている。自分が偽り者であり、その父だからである。 08:45しかし、わたしが真理を語るから、あなたたちはわたしを信じない。 08:46あなたたちのうち、いったいだれが、わたしに罪があると責めることができるのか。わたしは真理を語っているのに、なぜわたしを信じないのか。 08:47神に属する者は神の言葉を聞く。あなたたちが聞かないのは神に属していないからである。」 08:48ユダヤ人たちが、「あなたはサマリア人で悪霊に取りつかれていると、我々が言うのも当然ではないか」と言い返すと、 08:49イエスはお答えになった。「わたしは悪霊に取りつかれてはいない。わたしは父を重んじているのに、あなたたちはわたしを重んじない。 08:50わたしは、自分の栄光は求めていない。わたしの栄光を求め、裁きをなさる方が、ほかにおられる。 08:51はっきり言っておく。わたしの言葉を守るなら、その人は決して死ぬことがない。」 08:52ユダヤ人たちは言った。「あなたが悪霊に取りつかれていることが、今はっきりした。アブラハムは死んだし、預言者たちも死んだ。ところが、あなたは、『わたしの言葉を守るなら、その人は決して死を味わうことがない』と言う。 08:53わたしたちの父アブラハムよりも、あなたは偉大なのか。彼は死んだではないか。預言者たちも死んだ。いったい、あなたは自分を何者だと思っているのか。」 08:54イエスはお答えになった。「わたしが自分自身のために栄光を求めようとしているのであれば、わたしの栄光はむなしい。わたしに栄光を与えてくださるのはわたしの父であって、あなたたちはこの方について、『我々の神だ』と言っている。 08:55あなたたちはその方を知らないが、わたしは知っている。わたしがその方を知らないと言えば、あなたたちと同じくわたしも偽り者になる。しかし、わたしはその方を知っており、その言葉を守っている。 08:56あなたたちの父アブラハムは、わたしの日を見るのを楽しみにしていた。そして、それを見て、喜んだのである。」 08:57ユダヤ人たちが、「あなたは、まだ五十歳にもならないのに、アブラハムを見たのか」と言うと、 08:58イエスは言われた。「はっきり言っておく。アブラハムが生まれる前から、『わたしはある。』」 08:59すると、ユダヤ人たちは、石を取り上げ、イエスに投げつけようとした。しかし、イエスは身を隠して、神殿の境内から出て行かれた。 09:01さて、イエスは通りすがりに、生まれつき目の見えない人を見かけられた。 09:02弟子たちがイエスに尋ねた。「ラビ、この人が生まれつき目が見えないのは、だれが罪を犯したからですか。本人ですか。それとも、両親ですか。」 09:03イエスはお答えになった。「本人が罪を犯したからでも、両親が罪を犯したからでもない。神の業がこの人に現れるためである。 09:04わたしたちは、わたしをお遣わしになった方の業を、まだ日のあるうちに行わねばならない。だれも働くことのできない夜が来る。 09:05わたしは、世にいる間、世の光である。」 09:06こう言ってから、イエスは地面に唾をし、唾で土をこねてその人の目にお塗りになった。 09:07そして、「シロアム――『遣わされた者』という意味――の池に行って洗いなさい」と言われた。そこで、彼は行って洗い、目が見えるようになって、帰って来た。 09:08近所の人々や、彼が物乞いであったのを前に見ていた人々が、「これは、座って物乞いをしていた人ではないか」と言った。 09:09「その人だ」と言う者もいれば、「いや違う。似ているだけだ」と言う者もいた。本人は、「わたしがそうなのです」と言った。 09:10そこで人々が、「では、お前の目はどのようにして開いたのか」と言うと、 09:11彼は答えた。「イエスという方が、土をこねてわたしの目に塗り、『シロアムに行って洗いなさい』と言われました。そこで、行って洗ったら、見えるようになったのです。」 09:12人々が「その人はどこにいるのか」と言うと、彼は「知りません」と言った。 09:13人々は、前に盲人であった人をファリサイ派の人々のところへ連れて行った。 09:14イエスが土をこねてその目を開けられたのは、安息日のことであった。 09:15そこで、ファリサイ派の人々も、どうして見えるようになったのかと尋ねた。彼は言った。「あの方が、わたしの目にこねた土を塗りました。そして、わたしが洗うと、見えるようになったのです。」 09:16ファリサイ派の人々の中には、「その人は、安息日を守らないから、神のもとから来た者ではない」と言う者もいれば、「どうして罪のある人間が、こんなしるしを行うことができるだろうか」と言う者もいた。こうして、彼らの間で意見が分かれた。 09:17そこで、人々は盲人であった人に再び言った。「目を開けてくれたということだが、いったい、お前はあの人をどう思うのか。」彼は「あの方は預言者です」と言った。 09:18それでも、ユダヤ人たちはこの人について、盲人であったのに目が見えるようになったということを信じなかった。ついに、目が見えるようになった人の両親を呼び出して、 09:19尋ねた。「この者はあなたたちの息子で、生まれつき目が見えなかったと言うのか。それが、どうして今は目が見えるのか。」 09:20両親は答えて言った。「これがわたしどもの息子で、生まれつき目が見えなかったことは知っています。 09:21しかし、どうして今、目が見えるようになったかは、分かりません。だれが目を開けてくれたのかも、わたしどもは分かりません。本人にお聞きください。もう大人ですから、自分のことは自分で話すでしょう。」 09:22両親がこう言ったのは、ユダヤ人たちを恐れていたからである。ユダヤ人たちは既に、イエスをメシアであると公に言い表す者がいれば、会堂から追放すると決めていたのである。 09:23両親が、「もう大人ですから、本人にお聞きください」と言ったのは、そのためである。 09:24さて、ユダヤ人たちは、盲人であった人をもう一度呼び出して言った。「神の前で正直に答えなさい。わたしたちは、あの者が罪ある人間だと知っているのだ。」 09:25彼は答えた。「あの方が罪人かどうか、わたしには分かりません。ただ一つ知っているのは、目の見えなかったわたしが、今は見えるということです。」 09:26すると、彼らは言った。「あの者はお前にどんなことをしたのか。お前の目をどうやって開けたのか。」 09:27彼は答えた。「もうお話ししたのに、聞いてくださいませんでした。なぜまた、聞こうとなさるのですか。あなたがたもあの方の弟子になりたいのですか。」 09:28そこで、彼らはののしって言った。「お前はあの者の弟子だが、我々はモーセの弟子だ。 09:29我々は、神がモーセに語られたことは知っているが、あの者がどこから来たのかは知らない。」 09:30彼は答えて言った。「あの方がどこから来られたか、あなたがたがご存じないとは、実に不思議です。あの方は、わたしの目を開けてくださったのに。 09:31神は罪人の言うことはお聞きにならないと、わたしたちは承知しています。しかし、神をあがめ、その御心を行う人の言うことは、お聞きになります。 09:32生まれつき目が見えなかった者の目を開けた人がいるということなど、これまで一度も聞いたことがありません。 09:33あの方が神のもとから来られたのでなければ、何もおできにならなかったはずです。」 09:34彼らは、「お前は全く罪の中に生まれたのに、我々に教えようというのか」と言い返し、彼を外に追い出した。 09:35イエスは彼が外に追い出されたことをお聞きになった。そして彼に出会うと、「あなたは人の子を信じるか」と言われた。 09:36彼は答えて言った。「主よ、その方はどんな人ですか。その方を信じたいのですが。」 09:37イエスは言われた。「あなたは、もうその人を見ている。あなたと話しているのが、その人だ。」 09:38彼が、「主よ、信じます」と言って、ひざまずくと、 09:39イエスは言われた。「わたしがこの世に来たのは、裁くためである。こうして、見えない者は見えるようになり、見える者は見えないようになる。」 09:40イエスと一緒に居合わせたファリサイ派の人々は、これらのことを聞いて、「我々も見えないということか」と言った。 09:41イエスは言われた。「見えなかったのであれば、罪はなかったであろう。しかし、今、『見える』とあなたたちは言っている。だから、あなたたちの罪は残る。」 10:01「はっきり言っておく。羊の囲いに入るのに、門を通らないでほかの所を乗り越えて来る者は、盗人であり、強盗である。 10:02門から入る者が羊飼いである。 10:03門番は羊飼いには門を開き、羊はその声を聞き分ける。羊飼いは自分の羊の名を呼んで連れ出す。 10:04自分の羊をすべて連れ出すと、先頭に立って行く。羊はその声を知っているので、ついて行く。 10:05しかし、ほかの者には決してついて行かず、逃げ去る。ほかの者たちの声を知らないからである。」 10:06イエスは、このたとえをファリサイ派の人々に話されたが、彼らはその話が何のことか分からなかった。 10:07イエスはまた言われた。「はっきり言っておく。わたしは羊の門である。 10:08わたしより前に来た者は皆、盗人であり、強盗である。しかし、羊は彼らの言うことを聞かなかった。 10:09わたしは門である。わたしを通って入る者は救われる。その人は、門を出入りして牧草を見つける。 10:10盗人が来るのは、盗んだり、屠ったり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしが来たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである。 10:11わたしは良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる。 10:12羊飼いでなく、自分の羊を持たない雇い人は、狼が来るのを見ると、羊を置き去りにして逃げる。――狼は羊を奪い、また追い散らす。―― 10:13彼は雇い人で、羊のことを心にかけていないからである。 10:14わたしは良い羊飼いである。わたしは自分の羊を知っており、羊もわたしを知っている。 10:15それは、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同じである。わたしは羊のために命を捨てる。 10:16わたしには、この囲いに入っていないほかの羊もいる。その羊をも導かなければならない。その羊もわたしの声を聞き分ける。こうして、羊は一人の羊飼いに導かれ、一つの群れになる。 10:17わたしは命を、再び受けるために、捨てる。それゆえ、父はわたしを愛してくださる。 10:18だれもわたしから命を奪い取ることはできない。わたしは自分でそれを捨てる。わたしは命を捨てることもでき、それを再び受けることもできる。これは、わたしが父から受けた掟である。」 10:19この話をめぐって、ユダヤ人たちの間にまた対立が生じた。 10:20多くのユダヤ人は言った。「彼は悪霊に取りつかれて、気が変になっている。なぜ、あなたたちは彼の言うことに耳を貸すのか。」 10:21ほかの者たちは言った。「悪霊に取りつかれた者は、こういうことは言えない。悪霊に盲人の目が開けられようか。」 10:22そのころ、エルサレムで神殿奉献記念祭が行われた。冬であった。 10:23イエスは、神殿の境内でソロモンの回廊を歩いておられた。 10:24すると、ユダヤ人たちがイエスを取り囲んで言った。「いつまで、わたしたちに気をもませるのか。もしメシアなら、はっきりそう言いなさい。」 10:25イエスは答えられた。「わたしは言ったが、あなたたちは信じない。わたしが父の名によって行う業が、わたしについて証しをしている。 10:26しかし、あなたたちは信じない。わたしの羊ではないからである。 10:27わたしの羊はわたしの声を聞き分ける。わたしは彼らを知っており、彼らはわたしに従う。 10:28わたしは彼らに永遠の命を与える。彼らは決して滅びず、だれも彼らをわたしの手から奪うことはできない。 10:29わたしの父がわたしにくださったものは、すべてのものより偉大であり、だれも父の手から奪うことはできない。 10:30わたしと父とは一つである。」 10:31ユダヤ人たちは、イエスを石で打ち殺そうとして、また石を取り上げた。 10:32すると、イエスは言われた。「わたしは、父が与えてくださった多くの善い業をあなたたちに示した。その中のどの業のために、石で打ち殺そうとするのか。」 10:33ユダヤ人たちは答えた。「善い業のことで、石で打ち殺すのではない。神を冒涜したからだ。あなたは、人間なのに、自分を神としているからだ。」 10:34そこで、イエスは言われた。「あなたたちの律法に、『わたしは言う。あなたたちは神々である』と書いてあるではないか。 10:35神の言葉を受けた人たちが、『神々』と言われている。そして、聖書が廃れることはありえない。 10:36それなら、父から聖なる者とされて世に遣わされたわたしが、『わたしは神の子である』と言ったからとて、どうして『神を冒涜している』と言うのか。 10:37もし、わたしが父の業を行っていないのであれば、わたしを信じなくてもよい。 10:38しかし、行っているのであれば、わたしを信じなくても、その業を信じなさい。そうすれば、父がわたしの内におられ、わたしが父の内にいることを、あなたたちは知り、また悟るだろう。」 10:39そこで、ユダヤ人たちはまたイエスを捕らえようとしたが、イエスは彼らの手を逃れて、去って行かれた。 10:40イエスは、再びヨルダンの向こう側、ヨハネが最初に洗礼を授けていた所に行って、そこに滞在された。 10:41多くの人がイエスのもとに来て言った。「ヨハネは何のしるしも行わなかったが、彼がこの方について話したことは、すべて本当だった。」 10:42そこでは、多くの人がイエスを信じた。 11:01ある病人がいた。マリアとその姉妹マルタの村、ベタニアの出身で、ラザロといった。 11:02このマリアは主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった女である。その兄弟ラザロが病気であった。 11:03姉妹たちはイエスのもとに人をやって、「主よ、あなたの愛しておられる者が病気なのです」と言わせた。 11:04イエスは、それを聞いて言われた。「この病気は死で終わるものではない。神の栄光のためである。神の子がそれによって栄光を受けるのである。」 11:05イエスは、マルタとその姉妹とラザロを愛しておられた。 11:06ラザロが病気だと聞いてからも、なお二日間同じ所に滞在された。 11:07それから、弟子たちに言われた。「もう一度、ユダヤに行こう。」 11:08弟子たちは言った。「ラビ、ユダヤ人たちがついこの間もあなたを石で打ち殺そうとしたのに、またそこへ行かれるのですか。」 11:09イエスはお答えになった。「昼間は十二時間あるではないか。昼のうちに歩けば、つまずくことはない。この世の光を見ているからだ。 11:10しかし、夜歩けば、つまずく。その人の内に光がないからである。」 11:11こうお話しになり、また、その後で言われた。「わたしたちの友ラザロが眠っている。しかし、わたしは彼を起こしに行く。」 11:12弟子たちは、「主よ、眠っているのであれば、助かるでしょう」と言った。 11:13イエスはラザロの死について話されたのだが、弟子たちは、ただ眠りについて話されたものと思ったのである。 11:14そこでイエスは、はっきりと言われた。「ラザロは死んだのだ。 11:15わたしがその場に居合わせなかったのは、あなたがたにとってよかった。あなたがたが信じるようになるためである。さあ、彼のところへ行こう。」 11:16すると、ディディモと呼ばれるトマスが、仲間の弟子たちに、「わたしたちも行って、一緒に死のうではないか」と言った。 11:17さて、イエスが行って御覧になると、ラザロは墓に葬られて既に四日もたっていた。 11:18ベタニアはエルサレムに近く、十五スタディオンほどのところにあった。 11:19マルタとマリアのところには、多くのユダヤ人が、兄弟ラザロのことで慰めに来ていた。 11:20マルタは、イエスが来られたと聞いて、迎えに行ったが、マリアは家の中に座っていた。 11:21マルタはイエスに言った。「主よ、もしここにいてくださいましたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょうに。 11:22しかし、あなたが神にお願いになることは何でも神はかなえてくださると、わたしは今でも承知しています。」 11:23イエスが、「あなたの兄弟は復活する」と言われると、 11:24マルタは、「終わりの日の復活の時に復活することは存じております」と言った。 11:25イエスは言われた。「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる。 11:26生きていてわたしを信じる者はだれも、決して死ぬことはない。このことを信じるか。」 11:27マルタは言った。「はい、主よ、あなたが世に来られるはずの神の子、メシアであるとわたしは信じております。」 11:28マルタは、こう言ってから、家に帰って姉妹のマリアを呼び、「先生がいらして、あなたをお呼びです」と耳打ちした。 11:29マリアはこれを聞くと、すぐに立ち上がり、イエスのもとに行った。 11:30イエスはまだ村には入らず、マルタが出迎えた場所におられた。 11:31家の中でマリアと一緒にいて、慰めていたユダヤ人たちは、彼女が急に立ち上がって出て行くのを見て、墓に泣きに行くのだろうと思い、後を追った。 11:32マリアはイエスのおられる所に来て、イエスを見るなり足もとにひれ伏し、「主よ、もしここにいてくださいましたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょうに」と言った。 11:33イエスは、彼女が泣き、一緒に来たユダヤ人たちも泣いているのを見て、心に憤りを覚え、興奮して、 11:34言われた。「どこに葬ったのか。」彼らは、「主よ、来て、御覧ください」と言った。 11:35イエスは涙を流された。 11:36ユダヤ人たちは、「御覧なさい、どんなにラザロを愛しておられたことか」と言った。 11:37しかし、中には、「盲人の目を開けたこの人も、ラザロが死なないようにはできなかったのか」と言う者もいた。 11:38イエスは、再び心に憤りを覚えて、墓に来られた。墓は洞穴で、石でふさがれていた。 11:39イエスが、「その石を取りのけなさい」と言われると、死んだラザロの姉妹マルタが、「主よ、四日もたっていますから、もうにおいます」と言った。 11:40イエスは、「もし信じるなら、神の栄光が見られると、言っておいたではないか」と言われた。 11:41人々が石を取りのけると、イエスは天を仰いで言われた。「父よ、わたしの願いを聞き入れてくださって感謝します。 11:42わたしの願いをいつも聞いてくださることを、わたしは知っています。しかし、わたしがこう言うのは、周りにいる群衆のためです。あなたがわたしをお遣わしになったことを、彼らに信じさせるためです。」 11:43こう言ってから、「ラザロ、出て来なさい」と大声で叫ばれた。 11:44すると、死んでいた人が、手と足を布で巻かれたまま出て来た。顔は覆いで包まれていた。イエスは人々に、「ほどいてやって、行かせなさい」と言われた。 11:45マリアのところに来て、イエスのなさったことを目撃したユダヤ人の多くは、イエスを信じた。 11:46しかし、中には、ファリサイ派の人々のもとへ行き、イエスのなさったことを告げる者もいた。 11:47そこで、祭司長たちとファリサイ派の人々は最高法院を召集して言った。「この男は多くのしるしを行っているが、どうすればよいか。 11:48このままにしておけば、皆が彼を信じるようになる。そして、ローマ人が来て、我々の神殿も国民も滅ぼしてしまうだろう。」 11:49彼らの中の一人で、その年の大祭司であったカイアファが言った。「あなたがたは何も分かっていない。 11:50一人の人間が民の代わりに死に、国民全体が滅びないで済む方が、あなたがたに好都合だとは考えないのか。」 11:51これは、カイアファが自分の考えから話したのではない。その年の大祭司であったので預言して、イエスが国民のために死ぬ、と言ったのである。 11:52国民のためばかりでなく、散らされている神の子たちを一つに集めるためにも死ぬ、と言ったのである。 11:53この日から、彼らはイエスを殺そうとたくらんだ。 11:54それで、イエスはもはや公然とユダヤ人たちの間を歩くことはなく、そこを去り、荒れ野に近い地方のエフライムという町に行き、弟子たちとそこに滞在された。 11:55さて、ユダヤ人の過越祭が近づいた。多くの人が身を清めるために、過越祭の前に地方からエルサレムへ上った。 11:56彼らはイエスを捜し、神殿の境内で互いに言った。「どう思うか。あの人はこの祭りには来ないのだろうか。」 11:57祭司長たちとファリサイ派の人々は、イエスの居どころが分かれば届け出よと、命令を出していた。イエスを逮捕するためである。 12:01過越祭の六日前に、イエスはベタニアに行かれた。そこには、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロがいた。 12:02イエスのためにそこで夕食が用意され、マルタは給仕をしていた。ラザロは、イエスと共に食事の席に着いた人々の中にいた。 12:03そのとき、マリアが純粋で非常に高価なナルドの香油を一リトラ持って来て、イエスの足に塗り、自分の髪でその足をぬぐった。家は香油の香りでいっぱいになった。 12:04弟子の一人で、後にイエスを裏切るイスカリオテのユダが言った。 12:05「なぜ、この香油を三百デナリオンで売って、貧しい人々に施さなかったのか。」 12:06彼がこう言ったのは、貧しい人々のことを心にかけていたからではない。彼は盗人であって、金入れを預かっていながら、その中身をごまかしていたからである。 12:07イエスは言われた。「この人のするままにさせておきなさい。わたしの葬りの日のために、それを取って置いたのだから。 12:08貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。」 12:09イエスがそこにおられるのを知って、ユダヤ人の大群衆がやって来た。それはイエスだけが目当てではなく、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロを見るためでもあった。 12:10祭司長たちはラザロをも殺そうと謀った。 12:11多くのユダヤ人がラザロのことで離れて行って、イエスを信じるようになったからである。 12:12その翌日、祭りに来ていた大勢の群衆は、イエスがエルサレムに来られると聞き、 12:13なつめやしの枝を持って迎えに出た。そして、叫び続けた。「ホサナ。主の名によって来られる方に、祝福があるように、/イスラエルの王に。」 12:14イエスはろばの子を見つけて、お乗りになった。次のように書いてあるとおりである。 12:15「シオンの娘よ、恐れるな。見よ、お前の王がおいでになる、/ろばの子に乗って。」 12:16弟子たちは最初これらのことが分からなかったが、イエスが栄光を受けられたとき、それがイエスについて書かれたものであり、人々がそのとおりにイエスにしたということを思い出した。 12:17イエスがラザロを墓から呼び出して、死者の中からよみがえらせたとき一緒にいた群衆は、その証しをしていた。 12:18群衆がイエスを出迎えたのも、イエスがこのようなしるしをなさったと聞いていたからである。 12:19そこで、ファリサイ派の人々は互いに言った。「見よ、何をしても無駄だ。世をあげてあの男について行ったではないか。」 12:20さて、祭りのとき礼拝するためにエルサレムに上って来た人々の中に、何人かのギリシア人がいた。 12:21彼らは、ガリラヤのベトサイダ出身のフィリポのもとへ来て、「お願いです。イエスにお目にかかりたいのです」と頼んだ。 12:22フィリポは行ってアンデレに話し、アンデレとフィリポは行って、イエスに話した。 12:23イエスはこうお答えになった。「人の子が栄光を受ける時が来た。 12:24はっきり言っておく。一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。 12:25自分の命を愛する者は、それを失うが、この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る。 12:26わたしに仕えようとする者は、わたしに従え。そうすれば、わたしのいるところに、わたしに仕える者もいることになる。わたしに仕える者がいれば、父はその人を大切にしてくださる。」 12:27「今、わたしは心騒ぐ。何と言おうか。『父よ、わたしをこの時から救ってください』と言おうか。しかし、わたしはまさにこの時のために来たのだ。 12:28父よ、御名の栄光を現してください。」すると、天から声が聞こえた。「わたしは既に栄光を現した。再び栄光を現そう。」 12:29そばにいた群衆は、これを聞いて、「雷が鳴った」と言い、ほかの者たちは「天使がこの人に話しかけたのだ」と言った。 12:30イエスは答えて言われた。「この声が聞こえたのは、わたしのためではなく、あなたがたのためだ。 12:31今こそ、この世が裁かれる時。今、この世の支配者が追放される。 12:32わたしは地上から上げられるとき、すべての人を自分のもとへ引き寄せよう。」 12:33イエスは、御自分がどのような死を遂げるかを示そうとして、こう言われたのである。 12:34すると、群衆は言葉を返した。「わたしたちは律法によって、メシアは永遠にいつもおられると聞いていました。それなのに、人の子は上げられなければならない、とどうして言われるのですか。その『人の子』とはだれのことですか。」 12:35イエスは言われた。「光は、いましばらく、あなたがたの間にある。暗闇に追いつかれないように、光のあるうちに歩きなさい。暗闇の中を歩く者は、自分がどこへ行くのか分からない。 12:36光の子となるために、光のあるうちに、光を信じなさい。」イエスはこれらのことを話してから、立ち去って彼らから身を隠された。 12:37このように多くのしるしを彼らの目の前で行われたが、彼らはイエスを信じなかった。 12:38預言者イザヤの言葉が実現するためであった。彼はこう言っている。「主よ、だれがわたしたちの知らせを信じましたか。主の御腕は、だれに示されましたか。」 12:39彼らが信じることができなかった理由を、イザヤはまた次のように言っている。 12:40「神は彼らの目を見えなくし、/その心をかたくなにされた。こうして、彼らは目で見ることなく、/心で悟らず、立ち帰らない。わたしは彼らをいやさない。」 12:41イザヤは、イエスの栄光を見たので、このように言い、イエスについて語ったのである。 12:42とはいえ、議員の中にもイエスを信じる者は多かった。ただ、会堂から追放されるのを恐れ、ファリサイ派の人々をはばかって公に言い表さなかった。 12:43彼らは、神からの誉れよりも、人間からの誉れの方を好んだのである。 12:44イエスは叫んで、こう言われた。「わたしを信じる者は、わたしを信じるのではなくて、わたしを遣わされた方を信じるのである。 12:45わたしを見る者は、わたしを遣わされた方を見るのである。 12:46わたしを信じる者が、だれも暗闇の中にとどまることのないように、わたしは光として世に来た。 12:47わたしの言葉を聞いて、それを守らない者がいても、わたしはその者を裁かない。わたしは、世を裁くためではなく、世を救うために来たからである。 12:48わたしを拒み、わたしの言葉を受け入れない者に対しては、裁くものがある。わたしの語った言葉が、終わりの日にその者を裁く。 12:49なぜなら、わたしは自分勝手に語ったのではなく、わたしをお遣わしになった父が、わたしの言うべきこと、語るべきことをお命じになったからである。 12:50父の命令は永遠の命であることを、わたしは知っている。だから、わたしが語ることは、父がわたしに命じられたままに語っているのである。」 13:01さて、過越祭の前のことである。イエスは、この世から父のもとへ移る御自分の時が来たことを悟り、世にいる弟子たちを愛して、この上なく愛し抜かれた。 13:02夕食のときであった。既に悪魔は、イスカリオテのシモンの子ユダに、イエスを裏切る考えを抱かせていた。 13:03イエスは、父がすべてを御自分の手にゆだねられたこと、また、御自分が神のもとから来て、神のもとに帰ろうとしていることを悟り、 13:04食事の席から立ち上がって上着を脱ぎ、手ぬぐいを取って腰にまとわれた。 13:05それから、たらいに水をくんで弟子たちの足を洗い、腰にまとった手ぬぐいでふき始められた。 13:06シモン・ペトロのところに来ると、ペトロは、「主よ、あなたがわたしの足を洗ってくださるのですか」と言った。 13:07イエスは答えて、「わたしのしていることは、今あなたには分かるまいが、後で、分かるようになる」と言われた。 13:08ペトロが、「わたしの足など、決して洗わないでください」と言うと、イエスは、「もしわたしがあなたを洗わないなら、あなたはわたしと何のかかわりもないことになる」と答えられた。 13:09そこでシモン・ペトロが言った。「主よ、足だけでなく、手も頭も。」 13:10イエスは言われた。「既に体を洗った者は、全身清いのだから、足だけ洗えばよい。あなたがたは清いのだが、皆が清いわけではない。」 13:11イエスは、御自分を裏切ろうとしている者がだれであるかを知っておられた。それで、「皆が清いわけではない」と言われたのである。 13:12さて、イエスは、弟子たちの足を洗ってしまうと、上着を着て、再び席に着いて言われた。「わたしがあなたがたにしたことが分かるか。 13:13あなたがたは、わたしを『先生』とか『主』とか呼ぶ。そのように言うのは正しい。わたしはそうである。 13:14ところで、主であり、師であるわたしがあなたがたの足を洗ったのだから、あなたがたも互いに足を洗い合わなければならない。 13:15わたしがあなたがたにしたとおりに、あなたがたもするようにと、模範を示したのである。 13:16はっきり言っておく。僕は主人にまさらず、遣わされた者は遣わした者にまさりはしない。 13:17このことが分かり、そのとおりに実行するなら、幸いである。 13:18わたしは、あなたがた皆について、こう言っているのではない。わたしは、どのような人々を選び出したか分かっている。しかし、『わたしのパンを食べている者が、わたしに逆らった』という聖書の言葉は実現しなければならない。 13:19事の起こる前に、今、言っておく。事が起こったとき、『わたしはある』ということを、あなたがたが信じるようになるためである。 13:20はっきり言っておく。わたしの遣わす者を受け入れる人は、わたしを受け入れ、わたしを受け入れる人は、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。」 13:21イエスはこう話し終えると、心を騒がせ、断言された。「はっきり言っておく。あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている。」 13:22弟子たちは、だれについて言っておられるのか察しかねて、顔を見合わせた。 13:23イエスのすぐ隣には、弟子たちの一人で、イエスの愛しておられた者が食事の席に着いていた。 13:24シモン・ペトロはこの弟子に、だれについて言っておられるのかと尋ねるように合図した。 13:25その弟子が、イエスの胸もとに寄りかかったまま、「主よ、それはだれのことですか」と言うと、 13:26イエスは、「わたしがパン切れを浸して与えるのがその人だ」と答えられた。それから、パン切れを浸して取り、イスカリオテのシモンの子ユダにお与えになった。 13:27ユダがパン切れを受け取ると、サタンが彼の中に入った。そこでイエスは、「しようとしていることを、今すぐ、しなさい」と彼に言われた。 13:28座に着いていた者はだれも、なぜユダにこう言われたのか分からなかった。 13:29ある者は、ユダが金入れを預かっていたので、「祭りに必要な物を買いなさい」とか、貧しい人に何か施すようにと、イエスが言われたのだと思っていた。 13:30ユダはパン切れを受け取ると、すぐ出て行った。夜であった。 13:31さて、ユダが出て行くと、イエスは言われた。「今や、人の子は栄光を受けた。神も人の子によって栄光をお受けになった。 13:32神が人の子によって栄光をお受けになったのであれば、神も御自身によって人の子に栄光をお与えになる。しかも、すぐにお与えになる。 13:33子たちよ、いましばらく、わたしはあなたがたと共にいる。あなたがたはわたしを捜すだろう。『わたしが行く所にあなたたちは来ることができない』とユダヤ人たちに言ったように、今、あなたがたにも同じことを言っておく。 13:34あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。 13:35互いに愛し合うならば、それによってあなたがたがわたしの弟子であることを、皆が知るようになる。」 13:36シモン・ペトロがイエスに言った。「主よ、どこへ行かれるのですか。」イエスが答えられた。「わたしの行く所に、あなたは今ついて来ることはできないが、後でついて来ることになる。」 13:37ペトロは言った。「主よ、なぜ今ついて行けないのですか。あなたのためなら命を捨てます。」 13:38イエスは答えられた。「わたしのために命を捨てると言うのか。はっきり言っておく。鶏が鳴くまでに、あなたは三度わたしのことを知らないと言うだろう。」 14:01「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい。 14:02わたしの父の家には住む所がたくさんある。もしなければ、あなたがたのために場所を用意しに行くと言ったであろうか。 14:03行ってあなたがたのために場所を用意したら、戻って来て、あなたがたをわたしのもとに迎える。こうして、わたしのいる所に、あなたがたもいることになる。 14:04わたしがどこへ行くのか、その道をあなたがたは知っている。」 14:05トマスが言った。「主よ、どこへ行かれるのか、わたしたちには分かりません。どうして、その道を知ることができるでしょうか。」 14:06イエスは言われた。「わたしは道であり、真理であり、命である。わたしを通らなければ、だれも父のもとに行くことができない。 14:07あなたがたがわたしを知っているなら、わたしの父をも知ることになる。今から、あなたがたは父を知る。いや、既に父を見ている。」 14:08フィリポが「主よ、わたしたちに御父をお示しください。そうすれば満足できます」と言うと、 14:09イエスは言われた。「フィリポ、こんなに長い間一緒にいるのに、わたしが分かっていないのか。わたしを見た者は、父を見たのだ。なぜ、『わたしたちに御父をお示しください』と言うのか。 14:10わたしが父の内におり、父がわたしの内におられることを、信じないのか。わたしがあなたがたに言う言葉は、自分から話しているのではない。わたしの内におられる父が、その業を行っておられるのである。 14:11わたしが父の内におり、父がわたしの内におられると、わたしが言うのを信じなさい。もしそれを信じないなら、業そのものによって信じなさい。 14:12はっきり言っておく。わたしを信じる者は、わたしが行う業を行い、また、もっと大きな業を行うようになる。わたしが父のもとへ行くからである。 14:13わたしの名によって願うことは、何でもかなえてあげよう。こうして、父は子によって栄光をお受けになる。 14:14わたしの名によって何かを願うならば、わたしがかなえてあげよう。」 14:15「あなたがたは、わたしを愛しているならば、わたしの掟を守る。 14:16わたしは父にお願いしよう。父は別の弁護者を遣わして、永遠にあなたがたと一緒にいるようにしてくださる。 14:17この方は、真理の霊である。世は、この霊を見ようとも知ろうともしないので、受け入れることができない。しかし、あなたがたはこの霊を知っている。この霊があなたがたと共におり、これからも、あなたがたの内にいるからである。 14:18わたしは、あなたがたをみなしごにはしておかない。あなたがたのところに戻って来る。 14:19しばらくすると、世はもうわたしを見なくなるが、あなたがたはわたしを見る。わたしが生きているので、あなたがたも生きることになる。 14:20かの日には、わたしが父の内におり、あなたがたがわたしの内におり、わたしもあなたがたの内にいることが、あなたがたに分かる。 14:21わたしの掟を受け入れ、それを守る人は、わたしを愛する者である。わたしを愛する人は、わたしの父に愛される。わたしもその人を愛して、その人にわたし自身を現す。」 14:22イスカリオテでない方のユダが、「主よ、わたしたちには御自分を現そうとなさるのに、世にはそうなさらないのは、なぜでしょうか」と言った。 14:23イエスはこう答えて言われた。「わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る。わたしの父はその人を愛され、父とわたしとはその人のところに行き、一緒に住む。 14:24わたしを愛さない者は、わたしの言葉を守らない。あなたがたが聞いている言葉はわたしのものではなく、わたしをお遣わしになった父のものである。 14:25わたしは、あなたがたといたときに、これらのことを話した。 14:26しかし、弁護者、すなわち、父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊が、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる。 14:27わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える。わたしはこれを、世が与えるように与えるのではない。心を騒がせるな。おびえるな。 14:28『わたしは去って行くが、また、あなたがたのところへ戻って来る』と言ったのをあなたがたは聞いた。わたしを愛しているなら、わたしが父のもとに行くのを喜んでくれるはずだ。父はわたしよりも偉大な方だからである。 14:29事が起こったときに、あなたがたが信じるようにと、今、その事の起こる前に話しておく。 14:30もはや、あなたがたと多くを語るまい。世の支配者が来るからである。だが、彼はわたしをどうすることもできない。 14:31わたしが父を愛し、父がお命じになったとおりに行っていることを、世は知るべきである。さあ、立て。ここから出かけよう。」 15:01「わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である。 15:02わたしにつながっていながら、実を結ばない枝はみな、父が取り除かれる。しかし、実を結ぶものはみな、いよいよ豊かに実を結ぶように手入れをなさる。 15:03わたしの話した言葉によって、あなたがたは既に清くなっている。 15:04わたしにつながっていなさい。わたしもあなたがたにつながっている。ぶどうの枝が、木につながっていなければ、自分では実を結ぶことができないように、あなたがたも、わたしにつながっていなければ、実を結ぶことができない。 15:05わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。わたしを離れては、あなたがたは何もできないからである。 15:06わたしにつながっていない人がいれば、枝のように外に投げ捨てられて枯れる。そして、集められ、火に投げ入れられて焼かれてしまう。 15:07あなたがたがわたしにつながっており、わたしの言葉があなたがたの内にいつもあるならば、望むものを何でも願いなさい。そうすればかなえられる。 15:08あなたがたが豊かに実を結び、わたしの弟子となるなら、それによって、わたしの父は栄光をお受けになる。 15:09父がわたしを愛されたように、わたしもあなたがたを愛してきた。わたしの愛にとどまりなさい。 15:10わたしが父の掟を守り、その愛にとどまっているように、あなたがたも、わたしの掟を守るなら、わたしの愛にとどまっていることになる。 15:11これらのことを話したのは、わたしの喜びがあなたがたの内にあり、あなたがたの喜びが満たされるためである。 15:12わたしがあなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。これがわたしの掟である。 15:13友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない。 15:14わたしの命じることを行うならば、あなたがたはわたしの友である。 15:15もはや、わたしはあなたがたを僕とは呼ばない。僕は主人が何をしているか知らないからである。わたしはあなたがたを友と呼ぶ。父から聞いたことをすべてあなたがたに知らせたからである。 15:16あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ。あなたがたが出かけて行って実を結び、その実が残るようにと、また、わたしの名によって父に願うものは何でも与えられるようにと、わたしがあなたがたを任命したのである。 15:17互いに愛し合いなさい。これがわたしの命令である。」 15:18「世があなたがたを憎むなら、あなたがたを憎む前にわたしを憎んでいたことを覚えなさい。 15:19あなたがたが世に属していたなら、世はあなたがたを身内として愛したはずである。だが、あなたがたは世に属していない。わたしがあなたがたを世から選び出した。だから、世はあなたがたを憎むのである。 15:20『僕は主人にまさりはしない』と、わたしが言った言葉を思い出しなさい。人々がわたしを迫害したのであれば、あなたがたをも迫害するだろう。わたしの言葉を守ったのであれば、あなたがたの言葉をも守るだろう。 15:21しかし人々は、わたしの名のゆえに、これらのことをみな、あなたがたにするようになる。わたしをお遣わしになった方を知らないからである。 15:22わたしが来て彼らに話さなかったなら、彼らに罪はなかったであろう。だが、今は、彼らは自分の罪について弁解の余地がない。 15:23わたしを憎む者は、わたしの父をも憎んでいる。 15:24だれも行ったことのない業を、わたしが彼らの間で行わなかったなら、彼らに罪はなかったであろう。だが今は、その業を見たうえで、わたしとわたしの父を憎んでいる。 15:25しかし、それは、『人々は理由もなく、わたしを憎んだ』と、彼らの律法に書いてある言葉が実現するためである。 15:26わたしが父のもとからあなたがたに遣わそうとしている弁護者、すなわち、父のもとから出る真理の霊が来るとき、その方がわたしについて証しをなさるはずである。 15:27あなたがたも、初めからわたしと一緒にいたのだから、証しをするのである。 16:01これらのことを話したのは、あなたがたをつまずかせないためである。 16:02人々はあなたがたを会堂から追放するだろう。しかも、あなたがたを殺す者が皆、自分は神に奉仕していると考える時が来る。 16:03彼らがこういうことをするのは、父をもわたしをも知らないからである。 16:04しかし、これらのことを話したのは、その時が来たときに、わたしが語ったということをあなたがたに思い出させるためである。」「初めからこれらのことを言わなかったのは、わたしがあなたがたと一緒にいたからである。 16:05今わたしは、わたしをお遣わしになった方のもとに行こうとしているが、あなたがたはだれも、『どこへ行くのか』と尋ねない。 16:06むしろ、わたしがこれらのことを話したので、あなたがたの心は悲しみで満たされている。 16:07しかし、実を言うと、わたしが去って行くのは、あなたがたのためになる。わたしが去って行かなければ、弁護者はあなたがたのところに来ないからである。わたしが行けば、弁護者をあなたがたのところに送る。 16:08その方が来れば、罪について、義について、また、裁きについて、世の誤りを明らかにする。 16:09罪についてとは、彼らがわたしを信じないこと、 16:10義についてとは、わたしが父のもとに行き、あなたがたがもはやわたしを見なくなること、 16:11また、裁きについてとは、この世の支配者が断罪されることである。 16:12言っておきたいことは、まだたくさんあるが、今、あなたがたには理解できない。 16:13しかし、その方、すなわち、真理の霊が来ると、あなたがたを導いて真理をことごとく悟らせる。その方は、自分から語るのではなく、聞いたことを語り、また、これから起こることをあなたがたに告げるからである。 16:14その方はわたしに栄光を与える。わたしのものを受けて、あなたがたに告げるからである。 16:15父が持っておられるものはすべて、わたしのものである。だから、わたしは、『その方がわたしのものを受けて、あなたがたに告げる』と言ったのである。」 16:16「しばらくすると、あなたがたはもうわたしを見なくなるが、またしばらくすると、わたしを見るようになる。」 16:17そこで、弟子たちのある者は互いに言った。「『しばらくすると、あなたがたはわたしを見なくなるが、またしばらくすると、わたしを見るようになる』とか、『父のもとに行く』とか言っておられるのは、何のことだろう。」 16:18また、言った。「『しばらくすると』と言っておられるのは、何のことだろう。何を話しておられるのか分からない。」 16:19イエスは、彼らが尋ねたがっているのを知って言われた。「『しばらくすると、あなたがたはわたしを見なくなるが、またしばらくすると、わたしを見るようになる』と、わたしが言ったことについて、論じ合っているのか。 16:20はっきり言っておく。あなたがたは泣いて悲嘆に暮れるが、世は喜ぶ。あなたがたは悲しむが、その悲しみは喜びに変わる。 16:21女は子供を産むとき、苦しむものだ。自分の時が来たからである。しかし、子供が生まれると、一人の人間が世に生まれ出た喜びのために、もはやその苦痛を思い出さない。 16:22ところで、今はあなたがたも、悲しんでいる。しかし、わたしは再びあなたがたと会い、あなたがたは心から喜ぶことになる。その喜びをあなたがたから奪い去る者はいない。 16:23その日には、あなたがたはもはや、わたしに何も尋ねない。はっきり言っておく。あなたがたがわたしの名によって何かを父に願うならば、父はお与えになる。 16:24今までは、あなたがたはわたしの名によっては何も願わなかった。願いなさい。そうすれば与えられ、あなたがたは喜びで満たされる。」 16:25「わたしはこれらのことを、たとえを用いて話してきた。もはやたとえによらず、はっきり父について知らせる時が来る。 16:26その日には、あなたがたはわたしの名によって願うことになる。わたしがあなたがたのために父に願ってあげる、とは言わない。 16:27父御自身が、あなたがたを愛しておられるのである。あなたがたが、わたしを愛し、わたしが神のもとから出て来たことを信じたからである。 16:28わたしは父のもとから出て、世に来たが、今、世を去って、父のもとに行く。」 16:29弟子たちは言った。「今は、はっきりとお話しになり、少しもたとえを用いられません。 16:30あなたが何でもご存じで、だれもお尋ねする必要のないことが、今、分かりました。これによって、あなたが神のもとから来られたと、わたしたちは信じます。」 16:31イエスはお答えになった。「今ようやく、信じるようになったのか。 16:32だが、あなたがたが散らされて自分の家に帰ってしまい、わたしをひとりきりにする時が来る。いや、既に来ている。しかし、わたしはひとりではない。父が、共にいてくださるからだ。 16:33これらのことを話したのは、あなたがたがわたしによって平和を得るためである。あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」 17:01イエスはこれらのことを話してから、天を仰いで言われた。「父よ、時が来ました。あなたの子があなたの栄光を現すようになるために、子に栄光を与えてください。 17:02あなたは子にすべての人を支配する権能をお与えになりました。そのために、子はあなたからゆだねられた人すべてに、永遠の命を与えることができるのです。 17:03永遠の命とは、唯一のまことの神であられるあなたと、あなたのお遣わしになったイエス・キリストを知ることです。 17:04わたしは、行うようにとあなたが与えてくださった業を成し遂げて、地上であなたの栄光を現しました。 17:05父よ、今、御前でわたしに栄光を与えてください。世界が造られる前に、わたしがみもとで持っていたあの栄光を。 17:06世から選び出してわたしに与えてくださった人々に、わたしは御名を現しました。彼らはあなたのものでしたが、あなたはわたしに与えてくださいました。彼らは、御言葉を守りました。 17:07わたしに与えてくださったものはみな、あなたからのものであることを、今、彼らは知っています。 17:08なぜなら、わたしはあなたから受けた言葉を彼らに伝え、彼らはそれを受け入れて、わたしがみもとから出て来たことを本当に知り、あなたがわたしをお遣わしになったことを信じたからです。 17:09彼らのためにお願いします。世のためではなく、わたしに与えてくださった人々のためにお願いします。彼らはあなたのものだからです。 17:10わたしのものはすべてあなたのもの、あなたのものはわたしのものです。わたしは彼らによって栄光を受けました。 17:11わたしは、もはや世にはいません。彼らは世に残りますが、わたしはみもとに参ります。聖なる父よ、わたしに与えてくださった御名によって彼らを守ってください。わたしたちのように、彼らも一つとなるためです。 17:12わたしは彼らと一緒にいる間、あなたが与えてくださった御名によって彼らを守りました。わたしが保護したので、滅びの子のほかは、だれも滅びませんでした。聖書が実現するためです。 17:13しかし、今、わたしはみもとに参ります。世にいる間に、これらのことを語るのは、わたしの喜びが彼らの内に満ちあふれるようになるためです。 17:14わたしは彼らに御言葉を伝えましたが、世は彼らを憎みました。わたしが世に属していないように、彼らも世に属していないからです。 17:15わたしがお願いするのは、彼らを世から取り去ることではなく、悪い者から守ってくださることです。 17:16わたしが世に属していないように、彼らも世に属していないのです。 17:17真理によって、彼らを聖なる者としてください。あなたの御言葉は真理です。 17:18わたしを世にお遣わしになったように、わたしも彼らを世に遣わしました。 17:19彼らのために、わたしは自分自身をささげます。彼らも、真理によってささげられた者となるためです。 17:20また、彼らのためだけでなく、彼らの言葉によってわたしを信じる人々のためにも、お願いします。 17:21父よ、あなたがわたしの内におられ、わたしがあなたの内にいるように、すべての人を一つにしてください。彼らもわたしたちの内にいるようにしてください。そうすれば、世は、あなたがわたしをお遣わしになったことを、信じるようになります。 17:22あなたがくださった栄光を、わたしは彼らに与えました。わたしたちが一つであるように、彼らも一つになるためです。 17:23わたしが彼らの内におり、あなたがわたしの内におられるのは、彼らが完全に一つになるためです。こうして、あなたがわたしをお遣わしになったこと、また、わたしを愛しておられたように、彼らをも愛しておられたことを、世が知るようになります。 17:24父よ、わたしに与えてくださった人々を、わたしのいる所に、共におらせてください。それは、天地創造の前からわたしを愛して、与えてくださったわたしの栄光を、彼らに見せるためです。 17:25正しい父よ、世はあなたを知りませんが、わたしはあなたを知っており、この人々はあなたがわたしを遣わされたことを知っています。 17:26わたしは御名を彼らに知らせました。また、これからも知らせます。わたしに対するあなたの愛が彼らの内にあり、わたしも彼らの内にいるようになるためです。」 18:01こう話し終えると、イエスは弟子たちと一緒に、キドロンの谷の向こうへ出て行かれた。そこには園があり、イエスは弟子たちとその中に入られた。 18:02イエスを裏切ろうとしていたユダも、その場所を知っていた。イエスは、弟子たちと共に度々ここに集まっておられたからである。 18:03それでユダは、一隊の兵士と、祭司長たちやファリサイ派の人々の遣わした下役たちを引き連れて、そこにやって来た。松明やともし火や武器を手にしていた。 18:04イエスは御自分の身に起こることを何もかも知っておられ、進み出て、「だれを捜しているのか」と言われた。 18:05彼らが「ナザレのイエスだ」と答えると、イエスは「わたしである」と言われた。イエスを裏切ろうとしていたユダも彼らと一緒にいた。 18:06イエスが「わたしである」と言われたとき、彼らは後ずさりして、地に倒れた。 18:07そこで、イエスが「だれを捜しているのか」と重ねてお尋ねになると、彼らは「ナザレのイエスだ」と言った。 18:08すると、イエスは言われた。「『わたしである』と言ったではないか。わたしを捜しているのなら、この人々は去らせなさい。」 18:09それは、「あなたが与えてくださった人を、わたしは一人も失いませんでした」と言われたイエスの言葉が実現するためであった。 18:10シモン・ペトロは剣を持っていたので、それを抜いて大祭司の手下に打ってかかり、その右の耳を切り落とした。手下の名はマルコスであった。 18:11イエスはペトロに言われた。「剣をさやに納めなさい。父がお与えになった杯は、飲むべきではないか。」 18:12そこで一隊の兵士と千人隊長、およびユダヤ人の下役たちは、イエスを捕らえて縛り、 18:13まず、アンナスのところへ連れて行った。彼が、その年の大祭司カイアファのしゅうとだったからである。 18:14一人の人間が民の代わりに死ぬ方が好都合だと、ユダヤ人たちに助言したのは、このカイアファであった。 18:15シモン・ペトロともう一人の弟子は、イエスに従った。この弟子は大祭司の知り合いだったので、イエスと一緒に大祭司の屋敷の中庭に入ったが、 18:16ペトロは門の外に立っていた。大祭司の知り合いである、そのもう一人の弟子は、出て来て門番の女に話し、ペトロを中に入れた。 18:17門番の女中はペトロに言った。「あなたも、あの人の弟子の一人ではありませんか。」ペトロは、「違う」と言った。 18:18僕や下役たちは、寒かったので炭火をおこし、そこに立って火にあたっていた。ペトロも彼らと一緒に立って、火にあたっていた。 18:19大祭司はイエスに弟子のことや教えについて尋ねた。 18:20イエスは答えられた。「わたしは、世に向かって公然と話した。わたしはいつも、ユダヤ人が皆集まる会堂や神殿の境内で教えた。ひそかに話したことは何もない。 18:21なぜ、わたしを尋問するのか。わたしが何を話したかは、それを聞いた人々に尋ねるがよい。その人々がわたしの話したことを知っている。」 18:22イエスがこう言われると、そばにいた下役の一人が、「大祭司に向かって、そんな返事のしかたがあるか」と言って、イエスを平手で打った。 18:23イエスは答えられた。「何か悪いことをわたしが言ったのなら、その悪いところを証明しなさい。正しいことを言ったのなら、なぜわたしを打つのか。」 18:24アンナスは、イエスを縛ったまま、大祭司カイアファのもとに送った。 18:25シモン・ペトロは立って火にあたっていた。人々が、「お前もあの男の弟子の一人ではないのか」と言うと、ペトロは打ち消して、「違う」と言った。 18:26大祭司の僕の一人で、ペトロに片方の耳を切り落とされた人の身内の者が言った。「園であの男と一緒にいるのを、わたしに見られたではないか。」 18:27ペトロは、再び打ち消した。するとすぐ、鶏が鳴いた。 18:28人々は、イエスをカイアファのところから総督官邸に連れて行った。明け方であった。しかし、彼らは自分では官邸に入らなかった。汚れないで過越の食事をするためである。 18:29そこで、ピラトが彼らのところへ出て来て、「どういう罪でこの男を訴えるのか」と言った。 18:30彼らは答えて、「この男が悪いことをしていなかったら、あなたに引き渡しはしなかったでしょう」と言った。 18:31ピラトが、「あなたたちが引き取って、自分たちの律法に従って裁け」と言うと、ユダヤ人たちは、「わたしたちには、人を死刑にする権限がありません」と言った。 18:32それは、御自分がどのような死を遂げるかを示そうとして、イエスの言われた言葉が実現するためであった。 18:33そこで、ピラトはもう一度官邸に入り、イエスを呼び出して、「お前がユダヤ人の王なのか」と言った。 18:34イエスはお答えになった。「あなたは自分の考えで、そう言うのですか。それとも、ほかの者がわたしについて、あなたにそう言ったのですか。」 18:35ピラトは言い返した。「わたしはユダヤ人なのか。お前の同胞や祭司長たちが、お前をわたしに引き渡したのだ。いったい何をしたのか。」 18:36イエスはお答えになった。「わたしの国は、この世には属していない。もし、わたしの国がこの世に属していれば、わたしがユダヤ人に引き渡されないように、部下が戦ったことだろう。しかし、実際、わたしの国はこの世には属していない。」 18:37そこでピラトが、「それでは、やはり王なのか」と言うと、イエスはお答えになった。「わたしが王だとは、あなたが言っていることです。わたしは真理について証しをするために生まれ、そのためにこの世に来た。真理に属する人は皆、わたしの声を聞く。」 18:38ピラトは言った。「真理とは何か。」ピラトは、こう言ってからもう一度、ユダヤ人たちの前に出て来て言った。「わたしはあの男に何の罪も見いだせない。 18:39ところで、過越祭にはだれか一人をあなたたちに釈放するのが慣例になっている。あのユダヤ人の王を釈放してほしいか。」 18:40すると、彼らは、「その男ではない。バラバを」と大声で言い返した。バラバは強盗であった。 19:01そこで、ピラトはイエスを捕らえ、鞭で打たせた。 19:02兵士たちは茨で冠を編んでイエスの頭に載せ、紫の服をまとわせ、 19:03そばにやって来ては、「ユダヤ人の王、万歳」と言って、平手で打った。 19:04ピラトはまた出て来て、言った。「見よ、あの男をあなたたちのところへ引き出そう。そうすれば、わたしが彼に何の罪も見いだせないわけが分かるだろう。」 19:05イエスは茨の冠をかぶり、紫の服を着けて出て来られた。ピラトは、「見よ、この男だ」と言った。 19:06祭司長たちや下役たちは、イエスを見ると、「十字架につけろ。十字架につけろ」と叫んだ。ピラトは言った。「あなたたちが引き取って、十字架につけるがよい。わたしはこの男に罪を見いだせない。」 19:07ユダヤ人たちは答えた。「わたしたちには律法があります。律法によれば、この男は死罪に当たります。神の子と自称したからです。」 19:08ピラトは、この言葉を聞いてますます恐れ、 19:09再び総督官邸の中に入って、「お前はどこから来たのか」とイエスに言った。しかし、イエスは答えようとされなかった。 19:10そこで、ピラトは言った。「わたしに答えないのか。お前を釈放する権限も、十字架につける権限も、このわたしにあることを知らないのか。」 19:11イエスは答えられた。「神から与えられていなければ、わたしに対して何の権限もないはずだ。だから、わたしをあなたに引き渡した者の罪はもっと重い。」 19:12そこで、ピラトはイエスを釈放しようと努めた。しかし、ユダヤ人たちは叫んだ。「もし、この男を釈放するなら、あなたは皇帝の友ではない。王と自称する者は皆、皇帝に背いています。」 19:13ピラトは、これらの言葉を聞くと、イエスを外に連れ出し、ヘブライ語でガバタ、すなわち「敷石」という場所で、裁判の席に着かせた。 19:14それは過越祭の準備の日の、正午ごろであった。ピラトがユダヤ人たちに、「見よ、あなたたちの王だ」と言うと、 19:15彼らは叫んだ。「殺せ。殺せ。十字架につけろ。」ピラトが、「あなたたちの王をわたしが十字架につけるのか」と言うと、祭司長たちは、「わたしたちには、皇帝のほかに王はありません」と答えた。 19:16そこで、ピラトは、十字架につけるために、イエスを彼らに引き渡した。こうして、彼らはイエスを引き取った。 19:17イエスは、自ら十字架を背負い、いわゆる「されこうべの場所」、すなわちヘブライ語でゴルゴタという所へ向かわれた。 19:18そこで、彼らはイエスを十字架につけた。また、イエスと一緒にほかの二人をも、イエスを真ん中にして両側に、十字架につけた。 19:19ピラトは罪状書きを書いて、十字架の上に掛けた。それには、「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」と書いてあった。 19:20イエスが十字架につけられた場所は都に近かったので、多くのユダヤ人がその罪状書きを読んだ。それは、ヘブライ語、ラテン語、ギリシア語で書かれていた。 19:21ユダヤ人の祭司長たちがピラトに、「『ユダヤ人の王』と書かず、『この男は「ユダヤ人の王」と自称した』と書いてください」と言った。 19:22しかし、ピラトは、「わたしが書いたものは、書いたままにしておけ」と答えた。 19:23兵士たちは、イエスを十字架につけてから、その服を取り、四つに分け、各自に一つずつ渡るようにした。下着も取ってみたが、それには縫い目がなく、上から下まで一枚織りであった。 19:24そこで、「これは裂かないで、だれのものになるか、くじ引きで決めよう」と話し合った。それは、/「彼らはわたしの服を分け合い、/わたしの衣服のことでくじを引いた」という聖書の言葉が実現するためであった。兵士たちはこのとおりにしたのである。 19:25イエスの十字架のそばには、その母と母の姉妹、クロパの妻マリアとマグダラのマリアとが立っていた。 19:26イエスは、母とそのそばにいる愛する弟子とを見て、母に、「婦人よ、御覧なさい。あなたの子です」と言われた。 19:27それから弟子に言われた。「見なさい。あなたの母です。」そのときから、この弟子はイエスの母を自分の家に引き取った。 19:28この後、イエスは、すべてのことが今や成し遂げられたのを知り、「渇く」と言われた。こうして、聖書の言葉が実現した。 19:29そこには、酸いぶどう酒を満たした器が置いてあった。人々は、このぶどう酒をいっぱい含ませた海綿をヒソプに付け、イエスの口もとに差し出した。 19:30イエスは、このぶどう酒を受けると、「成し遂げられた」と言い、頭を垂れて息を引き取られた。 19:31その日は準備の日で、翌日は特別の安息日であったので、ユダヤ人たちは、安息日に遺体を十字架の上に残しておかないために、足を折って取り降ろすように、ピラトに願い出た。 19:32そこで、兵士たちが来て、イエスと一緒に十字架につけられた最初の男と、もう一人の男との足を折った。 19:33イエスのところに来てみると、既に死んでおられたので、その足は折らなかった。 19:34しかし、兵士の一人が槍でイエスのわき腹を刺した。すると、すぐ血と水とが流れ出た。 19:35それを目撃した者が証ししており、その証しは真実である。その者は、あなたがたにも信じさせるために、自分が真実を語っていることを知っている。 19:36これらのことが起こったのは、「その骨は一つも砕かれない」という聖書の言葉が実現するためであった。 19:37また、聖書の別の所に、「彼らは、自分たちの突き刺した者を見る」とも書いてある。 19:38その後、イエスの弟子でありながら、ユダヤ人たちを恐れて、そのことを隠していたアリマタヤ出身のヨセフが、イエスの遺体を取り降ろしたいと、ピラトに願い出た。ピラトが許したので、ヨセフは行って遺体を取り降ろした。 19:39そこへ、かつてある夜、イエスのもとに来たことのあるニコデモも、没薬と沈香を混ぜた物を百リトラばかり持って来た。 19:40彼らはイエスの遺体を受け取り、ユダヤ人の埋葬の習慣に従い、香料を添えて亜麻布で包んだ。 19:41イエスが十字架につけられた所には園があり、そこには、だれもまだ葬られたことのない新しい墓があった。 19:42その日はユダヤ人の準備の日であり、この墓が近かったので、そこにイエスを納めた。 20:01週の初めの日、朝早く、まだ暗いうちに、マグダラのマリアは墓に行った。そして、墓から石が取りのけてあるのを見た。 20:02そこで、シモン・ペトロのところへ、また、イエスが愛しておられたもう一人の弟子のところへ走って行って彼らに告げた。「主が墓から取り去られました。どこに置かれているのか、わたしたちには分かりません。」 20:03そこで、ペトロとそのもう一人の弟子は、外に出て墓へ行った。 20:04二人は一緒に走ったが、もう一人の弟子の方が、ペトロより速く走って、先に墓に着いた。 20:05身をかがめて中をのぞくと、亜麻布が置いてあった。しかし、彼は中には入らなかった。 20:06続いて、シモン・ペトロも着いた。彼は墓に入り、亜麻布が置いてあるのを見た。 20:07イエスの頭を包んでいた覆いは、亜麻布と同じ所には置いてなく、離れた所に丸めてあった。 20:08それから、先に墓に着いたもう一人の弟子も入って来て、見て、信じた。 20:09イエスは必ず死者の中から復活されることになっているという聖書の言葉を、二人はまだ理解していなかったのである。 20:10それから、この弟子たちは家に帰って行った。 20:11マリアは墓の外に立って泣いていた。泣きながら身をかがめて墓の中を見ると、 20:12イエスの遺体の置いてあった所に、白い衣を着た二人の天使が見えた。一人は頭の方に、もう一人は足の方に座っていた。 20:13天使たちが、「婦人よ、なぜ泣いているのか」と言うと、マリアは言った。「わたしの主が取り去られました。どこに置かれているのか、わたしには分かりません。」 20:14こう言いながら後ろを振り向くと、イエスの立っておられるのが見えた。しかし、それがイエスだとは分からなかった。 20:15イエスは言われた。「婦人よ、なぜ泣いているのか。だれを捜しているのか。」マリアは、園丁だと思って言った。「あなたがあの方を運び去ったのでしたら、どこに置いたのか教えてください。わたしが、あの方を引き取ります。」 20:16イエスが、「マリア」と言われると、彼女は振り向いて、ヘブライ語で、「ラボニ」と言った。「先生」という意味である。 20:17イエスは言われた。「わたしにすがりつくのはよしなさい。まだ父のもとへ上っていないのだから。わたしの兄弟たちのところへ行って、こう言いなさい。『わたしの父であり、あなたがたの父である方、また、わたしの神であり、あなたがたの神である方のところへわたしは上る』と。」 20:18マグダラのマリアは弟子たちのところへ行って、「わたしは主を見ました」と告げ、また、主から言われたことを伝えた。 20:19その日、すなわち週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた。そこへ、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。 20:20そう言って、手とわき腹とをお見せになった。弟子たちは、主を見て喜んだ。 20:21イエスは重ねて言われた。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。」 20:22そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。 20:23だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される。だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、赦されないまま残る。」 20:24十二人の一人でディディモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたとき、彼らと一緒にいなかった。 20:25そこで、ほかの弟子たちが、「わたしたちは主を見た」と言うと、トマスは言った。「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない。」 20:26さて八日の後、弟子たちはまた家の中におり、トマスも一緒にいた。戸にはみな鍵がかけてあったのに、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。 20:27それから、トマスに言われた。「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」 20:28トマスは答えて、「わたしの主、わたしの神よ」と言った。 20:29イエスはトマスに言われた。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである。」 20:30このほかにも、イエスは弟子たちの前で、多くのしるしをなさったが、それはこの書物に書かれていない。 20:31これらのことが書かれたのは、あなたがたが、イエスは神の子メシアであると信じるためであり、また、信じてイエスの名により命を受けるためである。 21:01その後、イエスはティベリアス湖畔で、また弟子たちに御自身を現された。その次第はこうである。 21:02シモン・ペトロ、ディディモと呼ばれるトマス、ガリラヤのカナ出身のナタナエル、ゼベダイの子たち、それに、ほかの二人の弟子が一緒にいた。 21:03シモン・ペトロが、「わたしは漁に行く」と言うと、彼らは、「わたしたちも一緒に行こう」と言った。彼らは出て行って、舟に乗り込んだ。しかし、その夜は何もとれなかった。 21:04既に夜が明けたころ、イエスが岸に立っておられた。だが、弟子たちは、それがイエスだとは分からなかった。 21:05イエスが、「子たちよ、何か食べる物があるか」と言われると、彼らは、「ありません」と答えた。 21:06イエスは言われた。「舟の右側に網を打ちなさい。そうすればとれるはずだ。」そこで、網を打ってみると、魚があまり多くて、もはや網を引き上げることができなかった。 21:07イエスの愛しておられたあの弟子がペトロに、「主だ」と言った。シモン・ペトロは「主だ」と聞くと、裸同然だったので、上着をまとって湖に飛び込んだ。 21:08ほかの弟子たちは魚のかかった網を引いて、舟で戻って来た。陸から二百ペキスばかりしか離れていなかったのである。 21:09さて、陸に上がってみると、炭火がおこしてあった。その上に魚がのせてあり、パンもあった。 21:10イエスが、「今とった魚を何匹か持って来なさい」と言われた。 21:11シモン・ペトロが舟に乗り込んで網を陸に引き上げると、百五十三匹もの大きな魚でいっぱいであった。それほど多くとれたのに、網は破れていなかった。 21:12イエスは、「さあ、来て、朝の食事をしなさい」と言われた。弟子たちはだれも、「あなたはどなたですか」と問いただそうとはしなかった。主であることを知っていたからである。 21:13イエスは来て、パンを取って弟子たちに与えられた。魚も同じようにされた。 21:14イエスが死者の中から復活した後、弟子たちに現れたのは、これでもう三度目である。 21:15食事が終わると、イエスはシモン・ペトロに、「ヨハネの子シモン、この人たち以上にわたしを愛しているか」と言われた。ペトロが、「はい、主よ、わたしがあなたを愛していることは、あなたがご存じです」と言うと、イエスは、「わたしの小羊を飼いなさい」と言われた。 21:16二度目にイエスは言われた。「ヨハネの子シモン、わたしを愛しているか。」ペトロが、「はい、主よ、わたしがあなたを愛していることは、あなたがご存じです」と言うと、イエスは、「わたしの羊の世話をしなさい」と言われた。 21:17三度目にイエスは言われた。「ヨハネの子シモン、わたしを愛しているか。」ペトロは、イエスが三度目も、「わたしを愛しているか」と言われたので、悲しくなった。そして言った。「主よ、あなたは何もかもご存じです。わたしがあなたを愛していることを、あなたはよく知っておられます。」イエスは言われた。「わたしの羊を飼いなさい。 21:18はっきり言っておく。あなたは、若いときは、自分で帯を締めて、行きたいところへ行っていた。しかし、年をとると、両手を伸ばして、他の人に帯を締められ、行きたくないところへ連れて行かれる。」 21:19ペトロがどのような死に方で、神の栄光を現すようになるかを示そうとして、イエスはこう言われたのである。このように話してから、ペトロに、「わたしに従いなさい」と言われた。 21:20ペトロが振り向くと、イエスの愛しておられた弟子がついて来るのが見えた。この弟子は、あの夕食のとき、イエスの胸もとに寄りかかったまま、「主よ、裏切るのはだれですか」と言った人である。 21:21ペトロは彼を見て、「主よ、この人はどうなるのでしょうか」と言った。 21:22イエスは言われた。「わたしの来るときまで彼が生きていることを、わたしが望んだとしても、あなたに何の関係があるか。あなたは、わたしに従いなさい。」 21:23それで、この弟子は死なないといううわさが兄弟たちの間に広まった。しかし、イエスは、彼は死なないと言われたのではない。ただ、「わたしの来るときまで彼が生きていることを、わたしが望んだとしても、あなたに何の関係があるか」と言われたのである。 21:24これらのことについて証しをし、それを書いたのは、この弟子である。わたしたちは、彼の証しが真実であることを知っている。 21:25イエスのなさったことは、このほかにも、まだたくさんある。わたしは思う。その一つ一つを書くならば、世界もその書かれた書物を収めきれないであろう。

以上。


また、『父たる者よ、なんじの子供らを悲しませるな』と「Vivos voco(生者に訴える)」とはどこからの引用でしょうか、わかりませんでした。


2019年3月5日火曜日

1069

十三 思想の姦通者

(訳注 一八七五年、保守的な社会評論家マルコフが『声』紙に『十九世紀のソフィスト』なる一文を発表し、その中で農奴解放後の公開裁判における弁護人を『思想の姦通者』とよんで反響と批判をまき起した。「思想の姦通者」とは、目的のためには白を黒と言いくるめようとし、詭弁を弄する無原則な弁護士を意味する言葉として大いにりゅうこうした。)

この「マルコフ」という人物はネットで調べてもわかりませんでした、「ソフィスト」は「ペルシア戦争(紀元前492年 - 紀元前449年)後からペロポネソス戦争(紀元前431年 - 紀元前404年)ごろまで、主にギリシアのアテナイを中心に活動した、金銭を受け取って徳を教えるとされた弁論家・教育家。ギリシア原語に近い読みはソピステースである。『sophistēs』という語は『sophizō』という動詞から作られた名詞で、『智が働くようにしてくれる人』『教えてくれる人』といった意味がある。代表的なソフィストにはプロタゴラス、ヒッピアス、ゴルギアス、プロディコス等がいる」とのこと、また「紀元前五世紀頃,アテネを中心として弁論術や政治・法律などの教養を教えた職業的教育家たち。プロタゴラス・ゴルギアス・ヒッピアス・プロディコスを代表者とする。論争修辞に走ったと評されるところから,現代では詭弁家という意味に転用されている」とも。

「陪審員のみなさん、わたしの依頼人を滅ぼすのは、単なる事実の総和ではありません」

彼は声を高めて言い放ちました。

「そう、わたしの依頼人を本当の意味で破滅させるのは、ただ一つに事実なのです。それは年老いた父親の死体であります! これがもし単純な殺人事件であれば、みなさん方も、数々の事実を全部ひっくるめてではなく、個々に一つずつ検討した場合の、それらの事実の下らなさや、証拠のなさ、荒唐無稽などを考えて、起訴を却下することでしょう。少なくとも、悲しいことに被告の自業自得とも言うべき先入観だけで、一人の人間の運命を破滅させることに疑いを持たれるはずであります! だが、今の場合、単純な殺人事件ではなく、父親殺しなのです! これが威圧感を、それも極度の威圧感を与えるため、ごく下らぬ証拠不十分な起訴事実まで、さほど下らぬ証拠不十分のものではないように思われてくるのです。まったく先入観をいだかぬ頭にさえ、そう思えるのです。そんな被告をどうして無罪にできよう? 父親を殺したのに、どうして罰も受けずにのがれられると言うのか-だれもが心の中でほとんど無意識に、本能的にこう感ずるのです。そう、父親の血を流すのは恐ろしいことであります-それは、われわれを生んでくれた人の血を、われわれを愛してくれた人の血を、われわれのためになら自分の生命も惜しまず、幼いころからわれわれの病気に心を痛め、一生われわれの幸福のために苦労し、われわれの喜びや成功だけを生き甲斐としてしてきた人の血を流すことなのです! ああ、そのような父親を殺すなど、考えてみることもできますまい! 陪審員のみなさん、父親とは、真の父親とは、そも何でありましょうか、それはなんという偉大な言葉でしょう、この名称にはなんという恐ろしく偉大な理念が含まれていることでしょうか! わたしはたった今、真の父親とはいかなるものであり、いかなるものであるべきかを、ある程度示しました。ところが、現在われわれすべてが心を奪われ、心を痛めている本事件においては、父親である故フョードル・カラマーゾフは、ただいまわれわれの心に映じた父親の概念には、まったく該当しないのであります。これは災難です。そう、事実、ある種の父親は災難のようなものであります。この災難をもっと近くで検討してみようではありませんか。陪審員のみなさん、さし迫った決定の重大さを考えれば、何一つ恐れる必要はありません。われわれは特に今や恐れるべきではないし、才能豊かな検事の好都合な表現を借りるなら、子供や臆病な女のように、いわばある種の思想をふりすてるべきではないのです。ところが、尊敬すべきわが論敵は(彼はわたしが最初の一言を口にする前から、すでに論敵だったのですが)、その熱弁の中で何度かこう叫ばれました。『いいえ、わたしは被告の弁護をだれに委ねるつもりもありません。被告の弁護を、ペテルブルグから来られた弁護人に譲るつもりはないのです。わたしは検事であり、弁護人でもあります!』こう検事は何度か叫ばれたのですが、それでいながら、この恐るべき被告が父の家にいた子供のころ、かわいがってくれた唯一の人間からわずか四百グラムのくるみをもらったことを、まる二十三年間も感謝しつづけているような人間であれば、反対に、人情深いヘルツェンシトゥーベ博士の表現を借りるなら、父の家で『長靴もはかず、ボタンの一つしかないズボンをはいて、裏庭を』はだしで走りまわっていたことを、思いださずにはいられないはずであるという点に、言及するのを忘れたのです。そう、陪審員のみなさん、何のためにわれわれはこの《災難》をさらに近々と見つめ、だれもがすでに承知していることを蒸し返す必要があるとお思いですか! 父のもとに帰ってきたとき、わたしの依頼人が遭遇したものは、いったい何だったでしょう? それになぜ、どういうわけでわたしの依頼人を、冷淡なエゴイストの怪物として描きださねばならないのでしょうか? 彼は抑制のきかぬ人間であり、野蛮で粗暴です。だから今われわれは彼を裁いているのです。だが、彼の運命はいったいだれの責任でしょう? 立派な資質と、高潔な感じやすい心をそなえながら、彼があのような愚劣な躾を受けたのは、だれの罪でしょうか? だれにせよ、彼に常識や分別を教えこんだ人がいるでしょうか、学問で知能を磨かれたでしょうか、幼年時代に多少なりと彼を愛してやった人があるでしょうか? わたしの依頼人は神の庇護によって、つまり野獣と同様に育ったのであります。・・・・」

ここで切ります。


「フェチュコーウィチ」が「フョードル」のことを「ある種の父親は災難のようなものであります」と言い、現代にもつながる児童虐待を批判する展開は感動的でさえあります、そしてその劣悪な環境が「ドミートリイ」の性格形成に与えた影響を云々することは、この時代では新しいことだったのはないでしょうか、これは聴衆の感情に同情心を訴えると思いますが、「フェチュコーウィチ」は彼が殺人を犯していないという立場なので、そのことと殺人は別物ですね。


2019年3月4日月曜日

1068

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・しかし、陪審員のみなさん、あなた方の確信をでしょうか、みなさんの確信まで買収できるのでしょうか? 思いだしてください、あなた方には無限の権力が、縛りあげ断罪する権限が与えられているのです。だが、権力が強ければ強いほど、その適用は恐ろしいものです! わたしは今申しあげたことをいささかも譲りはしませんが、しかし、かまいません。なんなら一瞬だけ、わたしの不幸な依頼者が父親の血で手を汚したという検事論告に同意してもいい。これは仮定にすぎませんし、くりかえして申しますが、わたしは被告の無実を一瞬たりとも疑ってはおりません。しかし、いいでしょう、被告が父親殺しに関して有罪であると仮定します。だが、たとえわたしがそのような仮定を認めたにせよ、とにかくわたしの言葉をきいてほしいのです。わたしはまだみなさんに申しあげたいことが、胸につかえているからです・・・・みなさんの心と理性に大きな葛藤の生ずるのを予感しているからです・・・・みなさんの心と理性などいいうわたしの言葉を、どうか許してください、陪審員のみなさん。だが、わたしは最後まで誠実に正直にしたいのです。われわれはみな、誠実になろうではありませんか!」

この個所で弁護人の言葉は、かなり強い拍手によってさえぎられました。

たしかにまた、彼は最後の数話をいかにも誠実なひびきのこもった口調で語ったため、だれもが、ことによると本当に何か言いたいことがあるのかもしれない、彼が今から言うことがいちばん重要なのだ、と感じたのです。

しかし、裁判長は、拍手をきくと、もしもう一度《こうした出来事》がくりかえされたら《退廷を命ずる》と大声で警告しました。

すべてが鳴りをひそめ、「フェチュコーウィチ」は今まで話してきたのとはまったく違う、何か新しい、しみじみした声で語りはじめました。


裁判長はどうして警告したのでしょうか、拍手が大きすぎたのでしょうか、しかし《こうした出来事》がくりかえされたら《退廷を命ずる》というのは、悪いのは聴衆ではなく「フェチュコーウィチ」の方であり、拍手を起こさせたのかいけないというのでしょう、つまり、陪審員や聴衆に対して直接語りかけるような発言はしてはいけないということでしょうか。


2019年3月3日日曜日

1067

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・凶器は何か-庭で最初に拾いあげた石か何かでしょう。しかし、動機は、目的は? 三千ルーブルです、それだけあれば一旗あげられるからです。そう、わたしは自説に矛盾しているわけではありません。ことによると金は本当に存在したかもしれないのです。そして、おそらく、スメルジャコフだけがどこを探せばよいか、主人がどこに隠したかを知っていたのでしょう。『でも、金の包み紙は、床に破りすててあった封筒は?』先ほど検事がこの封筒に関して、床の上に封筒を置きすてていったりするのは常習犯ではなく、まさしくカラマーゾフのような犯人のすることであり、これだけでもうスメルジャコフの仕業ではない、彼なら自分に不利なこんな証拠を決して置いていったりしないだろうと、非常にデリケートな判断を述べられたとき、陪審員のみなさん、わたしはふいに、何かきわめて馴染み深いことをきくような感じを受けたのです。そして、どうでしょう、まさしくそれと同じ考えを、つまりカラマーゾフなら封筒をそんなふうに扱うにちがいないというその推測を、ちょうど二日前、ほかならぬスメルジャコフからきいていたのです。そればかりではなく、わたしがおどろいたのは、彼がわざととぼけて無邪気なふりをし、先まわりして、わたしが自分でその判断をひきだせるように、その考えを押しつけ、わたしに吹きこもうとしているかに思われたことです。彼は予審でもこの考えを匂わせなかったでしょうか? 才能豊かな検事にこの考えを押しつけなかったでしょうか? だが、グリゴーリイの老妻は、と言う人もいるでしょう。とにかく彼女は、病人が隣で夜どおし呻いていたのをきいたというのですから。なるほど、きいたにちがいない、しかしその判断はきわめておぼつかぬものです、わたしの知っているさる婦人が、夜どおし庭でスピッツが吠えていたので、眠れなかったと、ひどく愚痴をこぼしたことがあります。ところで、あとでわかったのですが、かわいそうな犬が吠えたのは、一晩を通じてたった二、三回だったのです。そして、これはごく当然のことです。眠っている人が、ふいに呻き声をきいて、起されたことを腹立たしく思いながら目をさまし、すぐにまた寝入る。最後にもう一度、やはり二時間ほどして呻き声がきこえる。一晩に都合三回ほど目をさましたことになります。翌朝この人は起きると、だれかが夜どおし呻いていたので、眠れなかったと、こぼすことでしょう。しかし、その人にしてみれば必ずそう思えるはずです。二時間ずつ眠っていた間、その人はぐっすり眠っていて記憶がなく、目をさました瞬間だけをおぼえているのですから、夜どおし起されていたような気がするのです。だが、それならなぜ、スメルジャコフは遺書で告白しなかったのか、『一方に対しては責任を感ずるほどの良心がありながら、もう一方に対してはそれがないのでしょうか』と検事は叫ぶのです。しかし、失礼ですが、良心とはすでに後悔のことであり、この自殺者には後悔などあるはずがなく、あったのは絶望だけでした。絶望と後悔とは、まったく異なる二つのものです。その絶望は憎悪にみちた深刻なものであるかもしれませんし、自殺者は自分の生命を絶とうとしながら、その瞬間、一生の間うらやんできた人々への憎しみを倍加させたかもしれないのです。陪審員のみなさん、裁判の誤りに気をつけてください! わたしが今みなさんに述べ、描いてみせたすべてのことは、いったいどこが真実らしくないでしょうか? わたしの話の中に誤りを見つけてください、ありえない点を、不合理な個所を見つけてください! だが、わたしの仮定にたとえ可能性の影なりと、真実らしさの影なりと存するならば、判決を思いとどまってほしいのです。しかも、はたして影だけでしょうか? すべての神聖なものにかけて誓いますが、わたしは殺人に関して今みなさんに申しあげた自分の解釈を、完全に信じているのです。そして何よりも、何よりもわたしを困惑させ、憤らせるものは、容疑内容として山のように被告に押しつけられた数多くの事実のうち、多少なりとも正確で反駁しえぬものがただの一つとしてないのに、もっぱらそれらの事実の総和によってのみ、不幸な被告が破滅しようとしているという思いにほかなりません。そう、その総和は恐るべきものです。あの血、指から流れ落ちる血、血まみれのシャツ、『親殺し!』という叫びのひびきわたる暗い夜、悲鳴をあげ、頭を打ち割られて倒れる老人、そしてさらにおびただしい量の証言や、説明や、しぐさや、叫びなど」-そう、これは強い影響を与え、人々の確信を買収するのです。・・・・」

ここで切ります。

後から発言する「フェチュコーウィチ」の方がすべてにわたって有利ですね。


「フェチュコーウィチ」は「・・・・だが、それならなぜ、スメルジャコフは遺書で告白しなかったのか、『一方に対しては責任を感ずるほどの良心がありながら、もう一方に対してはそれがないのでしょうか』と検事は叫ぶのです。・・・・」と言っています、これは(1044)で「イッポリート」が「・・・・そして彼は癇癪の持病と、突発した惨劇とのため、病的な抑鬱症の発作にかられて、昨夜、首をくくりました。首をくくって、『だれにも罪を着せぬため、自己の意志によってすすんで生命を絶つ』という独特の言葉で書かれた遺書を残したのです。この遺書に、殺したのは自分であり、カラマーゾフではないと、書き加えるくらい何ほどのことがあるでしょう。ところが彼はそれを書き加えなかった。つまり、一方に対しては責任を感ずるほどの良心がありながら、もう一方に対してはそれがないのでありましょうか?・・・・」と話した部分です、続いて「フェチュコーウィチ」は「・・・・良心とはすでに後悔のことであり、この自殺者には後悔などあるはずがなく、あったのは絶望だけでした。絶望と後悔とは、まったく異なる二つのものです。その絶望は憎悪にみちた深刻なものであるかもしれませんし・・・・」と言っていますが、よくわかりません。


2019年3月2日土曜日

1066

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・わたしはいくつかの情報を集めたのですが、彼は自分の出生を憎み、それを恥じて、《スメルジャーシチャヤの子供》であることを、歯ぎしりしながら思い起していました。幼いころの恩人だった召使のグリゴーリイ夫妻に対して、彼は敬意を払っていませんでした。ロシアを呪い、ばかにしていたのです。彼はフランスに行き、フランス人に帰化することを夢見ていました。以前からたびたび、その資金が足りぬことをこぼしていたのです。わたしには、彼が自分以外のだれをも愛さず、ふしぎなほど高く自分を評価していたように思われます。彼は立派な服や、こざっぱりしたシャツや、ぴかぴかの靴の中に文明を見ていたのです。当人も自分をフョードルの私生児と見なしていたため(これを裏付けるいくつかの事実もあります)、主人の嫡出子たちと比べて自分の境遇を憎悪していたかもしれません。あの人たちには何もかも揃っているのに、自分は何一つない、あの人たちにはあらゆる権利と遺産があるのに、自分はただのコックでしかない、というわけです。彼はわたしに、自分がフョードルといっしょに金を封筒に入れたと語っていました。その金の用途は-それは彼が一旗あげられるだけの金額でしたから、彼にしてみればもちろんいまいましいものでした。おまけに彼は明るい虹色の百ルーブル札ばかりの三千ルーブルを見たのです(わたしはこの点をわざとたずねてみたのです)。そう、嫉妬深い、うぬぼれの強い人間に大金を一度に見せたりしてはいけません、彼は生れてはじめてそれだけの大金をまとまって見たのでした。虹色の札束の印象は、当初こそ何の結果もともなわなかったものの、彼の脳裏に病的に映じたかもしれないのです。才能豊かな検事は、スメルジャコフに殺人容疑をかける可能性について、賛否両様(プロとコントラ)の仮定を、並みはずれた鋭さでわれわれに描いてみせ、なぜ彼が癲癇の仮病を使う必要があったかと、特に質問なさいました。たしかにそうです、しかし彼はまったく仮病ではなかったかもしれません、ごく自然に発作が起き、ごく自然におさまって、病人が意識を取り戻したのかもしれないのです。たとえ全快とは言わぬまでも、癲癇にままあるように、そのうちわれに返って意識を取り戻したのかもしれない。スメルジャコフが殺人を行う機会がどこにあるかと、検事はたずねます。しかし、その機会を示すのはいとも容易なことであります。彼が意識を取り戻し、深い眠りからさめたのは(なぜなら、彼は眠っていたにすぎないからです。癲癇の発作のあとは常に深い眠りが訪れるものです)、まさにグリゴーリイ老人が、塀にまたがって逃げようとする被告の足にしがみつき、近所じゅうにひびくほどの声で『親殺し!』と叫んだ、その瞬間だったかもしれません。闇と静寂の中にひびいたこのただならぬ叫びが、そのころまでにはさほど深いものではなくなっていたはずのスメルジャコフの眠りをさましたかもしれない。当然のことながら、彼はその一時間ほど前から目をさましかけていたかもしれないのです。寝床から起きだすと、彼はほとんど無意識に、何の下心もなく、叫び声のした方へ何事が起ったのかを見に行きます。頭は病気のせいでぼんやりし、判断力もまだまどろんでいるのですが、庭に出て、灯りのともっている窓のところへ行き、彼の姿を見てもちろん喜んだ主人から恐ろしい知らせをきかされるのです。判断力が一挙に頭の中で燃えあがります。怯えている主人から、彼は一部始終をくわしくききだす。そして、しだいに、混乱した病気の頭の中に一つの考えが-恐ろしいけれど誘惑的な、くつがえしえぬほど論理的な考えが生れてくるのです。つまり、主人を殺して、三千ルーブルを奪い、あとですべてを若旦那にかぶせてしまおうという考えです。今なら若旦那以外の、だれの仕業とも考えられない、若旦那以外のだれに嫌疑がかかるというのだ、証拠は揃っているし、若旦那はここに来ていたではないか? 金に対する、獲物に対する恐ろしい渇望が、完全犯罪という思惑と一体になって、彼の心をとらえたかもしれない。そう、こういう突然の抑えがたい衝動は、きわめて多くの場合、何らかのきっかけで起るものですし、何よりも、つい一分前まで殺してやろうなどと思ってもいなかった殺人者には、唐突に起るものであります! こうしてスメルジャコフは主人の部屋に入り、計画を実行したかもしれないのです。・・・・」

ここで切ります。

「フェチュコーウィチ」の「スメルジャコフ」の行動についての見方はただしいように思います、しかし「スメルジャコフ」が「自分をフョードルの私生児と見なしていた」ことや、(これを裏付けるいくつかの事実)があること、また、「フランス人に帰化」したいと思い、「その資金が足りぬことをこぼしていた」ことなど、はじめて知りました。


ここで「フェチュコーウィチ」は先ほど否定していた「イッポリート」の裏返しのような「スメルジャコフ犯人論」を創作しています。


2019年3月1日金曜日

1065

「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・くりかえして申しますが、ここに検事側のいっさいの論理があるのです。彼でないなら、いったいだれが殺したのだ、彼の代りに挙げるべき人間がいないではないか、と言うのです。陪審員のみなさん、はたしてそうでしょうか? 本当に、たしかに、挙げるべき人物は全然いないのでしょうか? われわれは、検事が当夜あの家にいた人間、居合わせた人間を一人残らず指折り数えたのを、ききました。わかったのは五人であります。そのうち三人が完全にシロであることは、わたしも同意します。それは、当の被害者と、グリゴーリイ老人と、その妻です。となると、残るのは被告とスメルジャコフということになり、そこで検事は、被告がスメルジャコフの名を挙げたのは、ほかに示すべき人物がいないからであり、もしだれか六人目の人物なり、六人目の幻なりと存在していたら、被告はスメルジャコフに罪を着せることを恥じて、ただちにみずからそれを放棄し、その六人目をさし示したにちがいないと、感激調で絶叫したのであります。しかし、陪審員のみなさん、なぜわたしが正反対の結論を出してはいけないのでしょうか? 残るのが被告とスメルジャコフの二人だとしたら、なぜ、わたしの依頼人を有罪にしようとするのは、ほかに罪を着せるべき人間がいないからにすぎないではないかと、このわたしが言ってはいけないのでしょう? ほかに人がいないのは、みなさんが前もってまったくの先入観でスメルジャコフをいさいの嫌疑から除いたためにすぎないのです。そう、なるほど、スメルジャコフの名を挙げているのは、当の被告と、二人の弟と、スヴェトロワ、それだけです。だが、証人の中にほかにも何人かいるではありませんか。それはある疑問が、ある疑いが、漠然とでこそあれ、一定程度、社会にかもしだされていることであります。何かすっきりせぬ噂が耳に入り、何らかの期待の存することが感じられるのです。そして最後に、いくつかの事実のある種の対立が、曖昧であることは認めるとは言え、きわめて特徴的な形で存するのです。第一に、事件当日のあの癲癇の発作、なぜか検事があれほど必死に弁護し、かばわざるをえなかったあの発作があります。さらに、公判前夜のスメルジャコフの突然の自殺。次に、これまで兄の有罪を信じながら、だしぬけに金を持ってきて、またしても犯人としてスメルジャコフの名を挙げた、被告のすぐ下の弟の、これに劣らぬほど唐突な証言があります! おお、わたしも裁判官や検事側とともに、イワン・カラマーゾフが譫妄症の病人であり、その証言がたしかに、死者に罪をかぶせて兄を救おうという、それも熱にうかされて考えついた、絶望的な試みかもしれないと、十分確信しております。が、それでもやはりスメルジャコフの名前がまたもや出たし、またしても何か謎めいたひびきがするように思われるのです。何かがまだ言いつくされておらず、すっかり片づいていないかのようなのです。陪審員のみなさん。ことによると、これから語りくつされるのかもしれません。しかし、さしあたりその件はひとまずおいて、いずれまたあらためて取りあげることにします。当法廷は先ほど審理の継続を決定しましたが、さしあたり今、それを待つ間にわたしは、たとえば、検事があれほど鋭く、きわめて才能豊かに描きだした故スメルジャコフの性格分析について、二、三の指摘を行なってもかまいますまい。しかし、検事の才能に驚嘆しながらも、わたしはやはりあの性格分析の本質に全面的に同意することはできないのです。わたしはスメルジャコフを訪ね、彼に会って話をしましたが、わたしの受けた印象はまったく異なるからであります。彼は病弱な人間だった、これは本当です。しかし、性格や心は、検事の結論したほど弱い人間では決してありません。特にわたしは彼の内に小心さを-検事があれほど特徴的に描きだした小心さを、見いだせませんでした。素朴さなど彼にはまったくなく、むしろ反対にわたしは、憎しみの下に隠された恐ろしい猜疑心と、きわめて多くのことを見ぬくことのできる知力とを見いだしたのです。そう、検事はあまりにも素朴に彼を知能薄弱者と見なしたのです。彼はまったく明確な印象をわたしに与えました。わたしはこの人物がとことんまで悪意にみち、度はずれに野心的な、復讐欲の強い、嫉妬心に燃える男だという確信をいだいて、帰ってきたのです。・・・・」

ここで切ります。

「フェチュコーウィチ」も検事と同じく「当夜あの家にいた人間、居合わせた人間」が犯人だということには同意しているようですが、それ以外にも「六人目」の可能性があることは考えないのでしょうか、今の推理小説なら、犯人は必ずと言っていいほど読者が考えもしないような人物になるのですが、たとえば、「フョードル」に商売上の恨みを持っている人物とか、「イワン」が誰にも見られずに帰ってきたとか、さすがに聖人のような人物である「アリョーシャ」が犯人だとは考えにくいのですが、どこかで「アリョーシャ犯人説」というのも書かれているのを見たことがあります、つまり「アリョーシャ」については修道院に帰ってからのことが何も書かれていないのがあやしいということですが、それに疑がえば、「グリゴーリイ」もその可能性が全くないとは言い切れません。

「フェチュコーウィチ」はまた「イッポリート」が「感激調で絶叫した」と小馬鹿にしていますね、そしてはっきりと「わたしはやはりあの性格分析の本質に全面的に同意することはできない」と言っています、そして「ことによると、これから語りくつされるのかもしれません」と言っているのは、これから真実が「ドミートリイ」の口から発せられるかもしれないということでしょうか。

そして「フェチュコーウィチ」は「イッポリート」が「スメルジャコフ」を良心的な人物だと判断していることに反論して、自分が会って話した印象では全く反対の評価を下しています、つまり「スメルジャコフ」は、①病弱ではあるが性格や心の弱い人間ではない、②小心ではない、③素朴ではない、④憎しみの下に恐ろしい猜疑心が隠されている、⑤多くのことを見ぬくことのできる知力がある、⑥知能薄弱者ではない、⑦とことんまで悪意にみちている、⑧度はずれに野心的である、⑨復讐欲が強い、⑩嫉妬心に燃える男である、とのことです。