2018年10月2日火曜日

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「それが何かあなたに関することだと、思うんですか? だったら、あなたの前で秘密のことなんか言わないはずだけどな」

「わからないわ。ことによると、あたしに言いたいのに、言いかねているのかしれないでしょ。予防線を張ってるのね。秘密があるなんて言いながら、どんな秘密か言ってくれないなんて」

「あなた自身はどう思うんです?」

「どう思うって? あたしにもいよいよ終りが来たんだ、そう思うわね。あの三人であたしの終りを用意してくれたのよ、だってカーチカが一枚かんでるんですもの。何もかもカーチカよ、事の起りはあの女なんだわ。『あれはこういう立派な女で』なんて、つまり、あたしがそういう女じゃないってことじゃないの。あの人、あらかじめ釘をさしたのよ、前もって予防線を張ってるんだわ。あの人、あたしを棄てる気になったのね、これが秘密なのよ! ミーチャと、カーチカと、イワン・フョードロウィチと、三人がかりで考えだしたんだわ。ねえ、アリョーシャ、前からあなたにききたいと思ってたことがあるの。一週間ほど前に、あの人がだしぬけに、イワンはカーチカに惚れてるんだ、だって始終あそこに入りびたりだからな、なんて打ち明けたんだけど、あの人の言ったことは本当かしら? 正直に言ってちょうだい、ひと思いにとどめを刺してよ」

これは三角関係からくる妄想のように思えますが、考えれば考えるほど悪いことを考えてしまう、本人にとっては言葉にできないほど辛い思いでしょう、それが「あたしの終り」という表現なのでしょう。

「僕は嘘は言いませんよ。イワンはカテリーナ・イワーノヴナに恋してなんかいません、僕はそう思うな」

「ええ、そのときはあたしもそう思ったわ! この人嘘をついてる、恥知らずなって! おまけに、あとであたしに責任をなすりつけるために、今ごろになって焼餅をやくなんて! あの人ばかよ、尻尾を隠すこともできないの、とっても正直なんだもの・・・・ただ、今にきっと思い知らせてやるわ! 『お前は、俺が殺したと信じているんだな』なんて、このあたしに向ってそんなことを言うのよ、このあたしに。このあたしをそんな言葉で非難するなんて! 勝手にするといいわ! でも、待ってるがいい、あのカーチカなんぞ法廷であたしのために、苦しい立場になるんだから! あたし法廷で言うことがあるんだもの・・・・何もかも話してやるわ!」

そして彼女はまた悲痛に泣きはじめました。

「これだけは、きっぱり言うことができますよ。グルーシェニカ」

席を立ちながら、「アリョーシャ」が言いました。

「第一に、兄はあなたを愛してます、世界じゅうのだれよりもあなたを愛してますとも、あなただけを。これは信じてください。僕は知っているんです。ちゃんとわかっているんです。第二に言っておきたいのは、僕は兄から秘密をあれこれ探りだすつもりはありませんけど、もし今日兄が自分から話してくれたら、僕はあなたに伝える約束をしたと率直に言うつもりです。そのうえで今日あなたのところに来て、話しますよ。ただ・・・・僕の感じでは・・・・この場合、カテリーナ・イワーノヴナは何の関係もなさそうだな、その秘密とやらは何かほかのことですよ。きっとそうです。およそカテリーナ・イワーノヴナに関することらしくないもの、そんな気がしますね。じゃ、今はとりあえずこれで!」

「アリョーシャ」は彼女の手を握りました。

「グルーシェニカ」は相変らず泣いていました。

慰めの言葉を彼女がほとんど信じていないことは、彼にもわかりましたが、せめて悲しみをぶちまけ、心に思うことをさらけだしただけでも、彼女は気がはれたのです。

こんな状態のまま彼女を置き去りにするのは気の毒でしたが、彼は先を急ぐ身でした。

まだたくさんの用事をかかえていたのです。


読者としては、この「秘密」とやらがますます興味深く盛り上がるところですが、興味を惹きつけたまま、物語は次に少し違うシーンを描くことになります。


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