「レモネードなんぞ要らんよ」
彼は言いました。
「俺のことはあとだ。どいうふうにやってのけたのか、坐って話してみろ。すっかり話すんだぞ・・・・」
「せめて外套でもおぬぎになったらいかがです。さもないと蒸れてしまいますよ」
「イワン」は今になってやっと思いいたったかのように、外套をぬぎすて、椅子に坐ったまま、ベンチに放り投げました。
「さあ話せ、話してくれ!」
彼は冷静に戻ったかのようでした。
今から「スメルジャコフ」がすべて(三字の上に傍点)を話すだろうと、確信しきって待ち受けていました。
ここで「すべて(三字の上に傍点)」が話されれば、物語が終わってしまいますね、まずそんなことはないと思いますが。
「どんなふうにやってのけたかってことをですか?」
「スメルジャコフ」が溜息をつきました。
「ごく自然な方法でやってのけたんですよ、あなたの例のあの言葉がきっかけで・・・・」
「俺の言葉はあとにしろ」
「イワン」はふたたびさえぎりましたが、もはや先ほどのようにどなったりせず、しっかりと言葉を発音し、まったく自分を抑えたかのようでした。
「ただ、お前がどんなふうにやってのけたのか、くわしく話すんだぞ。何もかも順序立てて。何一つ忘れるな。くわしくな、何より大事なのは細部の点なんだ。頼むよ」
「あなたがお発ちになって、わたしはそのあと穴蔵へ落ちたんです・・・・」
「発作でか、それとも仮病か?」
「もちろん、仮病ですとも。何もかも芝居ですよ。階段をいちばん下までおりて、静かに横になったんです。そして横になるなり、大声でわめきだしたんですよ。担ぎだされる間、もがきまわっていました」
やはり仮病だったんですね、これでこの点については、はっきりしました。
「ちょっと待て! それじゃずっと、そのあとも、病院でも、仮病をつづけていたのか?」
「とんでもない。翌朝、まだ病院に運ばれる前に、本当の発作が起ったんです。それも、もう数年来、なかったようなはげしい発作でした。二日間というもの、まったく、意識不明だったんです」
「よし、わかった。先をつづけろ」
「わたしは例の寝床に寝かされました、衝立のかげに寝かされることはちゃんとわかっていたんです。なぜって、わたしが病気になると、マルファはいつも寝る前に自分の部屋のあの衝立のかげに、わたしの寝床を作ってくれてましたからね。あの人はわたしが生れたときからいつもやさしくしてくださっていたんです。わたしは夜中に呻きました、ただ低い声でね。ドミートリイ・フョードロウィチの来るのをずっと待ち受けていたんです」
ということは、「スメルジャコフ」が寝かされていたのは、「マルファ」の部屋、つまりこれは夫婦の部屋ということでしょうか、その一隅を衝立で仕切って「スメルジャコフ」の寝床にしたということですね。
(953)に「グリゴーリイの妻マルファは、イワンの質問に対して、スメルジャコフが夜どおし衝立一つへだてた、《わたしどもの寝床から三歩と離れぬ》ところで寝ていたことや(訳注 前出の個所では隣の小部屋にスメルジャコフが寝かされたことになっていたが、このあと第七章のスメルジャコフの告白から考えても、同じ部屋の衝立の奥に寝かされていたと解釈するほうがよいだろう)、彼女自身ぐっすり眠ってはいたものの、隣で「スメルジャコフ」が呻くのをきいて、何度も目をさましたことを、はっきりと述べました。」とあり、普段「スメルジャコフ」は離れの、「グリゴーリイ」と「マルファ」の部屋に隣合った小部屋で寝起きしているのですね、またこれも(953)に書きましたが、「『小部屋』については、(575)で「病人は離れの、グリゴーリイとマルファの部屋に隣合った小部屋に寝かされました。」、(714)の「癲癇に倒れたスメルジャコフは、隣の小部屋で身動きもせずに寝ていました。」、(781)の「目ざめを促したのは、隣の小部屋に意識不明のまま寝ているスメルジャコフの、恐ろしい癲癇の悲鳴でした。」と「寝ぼけまなこで跳ね起きると、彼女はほとんど夢中でスメルジャコフの小部屋にとんで行きました。」、(782)の「灯をつけて見ると、スメルジャコフはいっこうに発作の鎮まる様子もなく、自分の小部屋でもがいており、目をひきつらせ、唇から泡が流れていました。」、つまり「スメルジャコフ」の寝かされた場所は前に訳注で言われていたとおり作者の間違いですね、ただ訳注には「このあと第七章のスメルジャコフの告白から考えても・・・・」と書かれていますが、このことは「七 二度目のスメルジャコフ訪問」ではなく「八 スメルジャコフとの三度目の、そして最後の対面」で書かれていますね、また、「わたしは夜中に呻きました、ただ低い声でね。」というのは、「ドミートリイ」の来やしないかと聞き耳を立てていたのですね。
0 件のコメント:
コメントを投稿