2019年3月15日金曜日

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「もちろん、あの方はあのときあなたには隠したんですわ。まさしくこの脱走計画が原因でしたのよ。あの三日前にあの方が要点を全部あたくしに打ち明けてくださったんですけど、その間に喧嘩がはじまって、それ以来三日間ずっと喧嘩しつづけていたんです。喧嘩などしたのも、もし有罪になったらドミートリイ・フョードロウィチをあの売女といっしょに国外へ逃がそうと、あの方が言ったので、あたくしが突然かっとなったからですわ。なぜかは申しません。自分でも理由はわかりませんもの・・・・ええ、もちろん、その時はあたくし、あの売女のことでかっとなったんですわ、つまり、あの女までドミートリイといっしょに国外へ逃げるってことに対してです!」

「カテリーナ」はまだ「グルーシェニカ」のことを「売女」などと言っているのですね、彼女はあきらかに「ドミートリイ」に嫉妬しているのですが、それを自分で認めたくないのですべてを「グルーシェニカ」のせいにしています、これはまだ「ドミートリイ」に愛情があるということです、自分ではわかっているのにそうでないと言い聞かせているのでしょう。

突然「カテリーナ」は怒りに唇をふるわせて叫びました。

「あのときイワン・フョードロウィチは、あたくしがあの売女のことでかっとなったのを見たとたん、すぐに、あたくしがドミートリイをめぐってあの女に嫉妬している、してみると相変らずドミートリイを愛しつづけているのだ、と思ったんです。それで最初の喧嘩が起ったんですわ。あたくし、弁解する気にもなれませんでしたし、詫びることもできませんでしたの。だって、あれほどの人が、あの男へのあたくしの愛情が今までと変らないと疑ったりするなんて、つらかったんですもの・・・・しかも、そのずっと以前に、あたくしは自分ではっきり、ドミートリイなぞ愛していない、愛しているのはあなただけだって、あの方に言ったというのに! あたくしはただ、あの売女に対する憎しみから、あの方に腹を立てただけなんです! その三日後、あなたがいらしたあの晩、あの方は密封した封筒を持ってらして、もし自分の身に何か起ったら、すぐ開封するようにと、おっしゃいましたの。そう、ご病気を予感してらしたのね! あの方は、封筒の中に詳細な脱走計画が入っているから、もし自分が死ぬとか、重病になるとかした場合には、あたくし一人でミーチャを救出するようにと、打ち明けたんですの。そのときにお金を一万ルーブル近く、あたくしに預けたんです。あの方が現金に換えたのを検事がだれかから聞きこんで、論告の中で言及した、あのお金ですわ。あたくし突然、イワン・フョードロウィチが相変らずあたくしに嫉妬して、あたくしがミーチャを愛していると信じながら、それでも兄を救おうという考えを棄てずに、その救出の仕事をほかならぬこのあたくしに託そうとなさっていることに、ひどく心を打たれてんです! そう、これは犠牲ですもの! いいえ、これほどの自己犠牲はあなたには完全におわかりになりませんわ、アレクセイ・フョードロウィチ! あたくしは敬虔な気持であの方の足もとにひれ伏そうとしかけたんですけれど、でも、ミーチャを救えるのをあたくしが喜んでいるとしか受けとってくれないだろうと思うと(きっとそう思うにきまってますもの!)、あの方がそんな間違った考えをいだくかもしれぬという、そのことだけでひどく苛立って、また癇癪を起してしまったものですから、あの方のの足に接吻する代りに、またぞろあんな一幕を演じてしまったんですわ! ああ、あたくしって不幸な女! そういう性格なんです、とってもいやな、不幸な性格ですわ! ええ、見ていてごらんなさい、あたくしってこんなふうにしていて結局、もっと気楽につきあえるほかの女のためにあの方も、ドミートリイと同じように、あたくしを棄てるような羽目にしてしまうんです、でもそのときは・・・・そう、そうなったら、もう堪えられませんわ、あたくし自殺します! あの晩あなたがいらしたので、あなたに声をかけ、あの方にも戻るように言ったとき、あの方があなたといっしょに部屋に入ってきたとたん、ふとあたくしを眺め憎悪と軽蔑の眼差しに、あたくし思わずかっとなってしまって、おぼえてらっしゃるでしょう、あたくし突然あなたに向って、お兄さまのドミートリイが犯人だと言い張っているのはこの人よ、この人だけ(九字の上に傍点)なのよ、叫びましたわね! あたくし、もう一度あの方を傷つけてやるために、わざと中傷したんです。だってあの方は、兄が犯人だなんて、ただの一度もおっしゃったことはありませんでしたもの。反対に、あたくしのほうがそう言い張っていたんです! ああ、何もかも、何もかも、あたくしの気違いじみた怒りが原因なんです! 法廷でのあの呪わしい一幕を用意したのも、あたくしですわ! あの方は、自分が高潔な人間であり、たとえあたくしがお兄さまを愛していても、やはり復讐や嫉妬から兄を破滅させたりはしないということを、あたくしに証明しようとなさったんです。だから、出廷なさったんですわ・・・・何もかもあたくしが原因なんです、あたくし一人がわるいんです!」

この会話の中で「・・・・あれほどの人が、あの男へのあたくしの愛情が今までと変らないと疑ったりするなんて」と言っていますが、これはまだ未練があるということを自分で言っていることになります、つまり「変わらない」という表現のことです。

「イワン」も「ドミートリイ」の脱走計画をなぜ「カテリーナ」に託したりするのでしょう、これは不自然です。

この中で「カテリーナ」は法廷で「ドミートリイ」を陥れた発言について、その理由を述べています、まず「イワン」は彼女が「ドミートリイ」を愛していると誤解しており、彼女に彼を助けさせようとしたのですが、このことにどうして彼女は「ひどく心を打た」れたのでしょうか、その心情がまったくわかりませんが、それは「自己犠牲」だと彼女は言っています、なぜそうなるのか理屈がわかりません、そして彼女は「イワン」の足元にひれ伏したい気持ちになったのでが、そうすればさらに誤解されることがわかっているので、そのことで苛ついたので法廷であの発言をしたとのことですが、わかりません。


「カテリーナ」は結局、自分と「イワン」のことだけしか考えていないようですね。


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