2017年8月11日金曜日

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「じゃ、まるで向うの人のほうがあたしたちより立派みたいね? あたしだったら、イギリスの青年が三人たばになってきたって、ロシアのスマートな殿方を見変えたりしないけど」

一八一二年のナポレオン一世のロシア侵攻には、イギリス兵はいないと思うのですが、「マリヤ」はどうしてフランス兵と言わなかったのでしょうか。

「マリヤ」がやさしく言いました。

おそらくその瞬間、悩ましげな目をしてみせたにちがいありません。

(351)で「スメルジャコフ」は「女性を、男性と同様、軽蔑しているらしく、女性に対してはきちんとした、ほとんど近寄りがたいほどの態度」だということでしたので、ここまで女性と近づきになれたのは不思議なことですね。

「そりゃ、その人の好みにもよりますけどね」

「でも、そういうあなた自身もまるで外国人みたい。すごく上品な外国人みたいよ。こんなこと言うの、とても恥ずかしいんだけど」

「知りたけりゃお教えしますけどね、ふしだらな点では向うのやつもロシア人も似たようなもんですよ。どいつもこいつも悪党ばかりでさ。ただ、向うの人はエナメルの革長靴か何かをはいてるのに、ロシアの極道者は乞食同然なためにいやなにおいをさせて、それをいっこう悪いとも思っていないということだけでね。ロシアの百姓なんか、昨日フョードル・パーヴロウィチがまさしくおっしゃったとおり、鞭でたたきのめしてやる必要があるんでさあ、もっともそいういうご当人も、息子さんたちも、みんな気違いですけどね」

この「ロシアの百姓なんか、昨日フョードル・パーヴロウィチがまさしくおっしゃったとおり、鞭でたたきのめしてやる必要があるんでさあ」という「スメルジャコフの発言が何をさしているのかがわかりませんでした。

モークロエ村で娘を鞭打ちした後、嫁にするという風習のことでしょうか。

しかしこの話なら(363)で「お前らはもう退っとれ」「向うへ行け、スメルジャコフ」と酔っ払った「フョードル」の「命令ですぐに召使たちが退散すると」となっていますので、その場にはスメルジャコフ」はいなかったはずです。

「あなたはイワン・フョードロウィチをとても尊敬してるって、こ自分で言ってらしたじゃないの」

「でもあの人はわたしのことを、いやなにおいをたてる下男だなんて言ったんですからね。あの人は、わたしが謀叛を起こしかねないと思ってるんでさあ。とんだ誤解ですよ。わたしはまとまった金さえ懐ろにしてりゃ、とうの昔のこんなところにいませんよ。ドミートリイ・フョードロウィチなんぞ、品行だって、頭の程度だって、素寒貧ぶりだって、どんな下男にも劣るほどだし、何一つできやしないのに、それでもみんなから敬われていますものね。そりゃわたしは一介の田舎コックでしかないけれど、運さえ向けばモスクワのペトロフカ通りでカフェ・レストランくらい開いてみせまさあ。だって、わたしの料理は別格ですからね、外国人を除けばモスクワだって、ただの一人もあんな特別な料理を出せる人間はいやしませんよ。ところが、ドミートリイ・フョードロウィチは文なしのおけら(三字の上に傍点)のくせに、あの人が決闘を申し込めば、いちばん立派な伯爵家の御曹司でも応ずるんですからね、いったいあの人のどこがわたしより偉いっていうんです? あの人がわたしなんぞとは比較にならぬくらい、ずっとばかだからですよ。何の役にも立たぬことに、すごい大金を湯水のように使ったりして」

正しさからいえば「スメルジャコフ」の発言はもっともです。

「決闘ってすてきだと思うわ」

だしぬけに「マリヤ」が言いました。

「どうして、またそんな?」

「とっても恐ろしいし、勇敢じゃないの。特にだれか女の人をめぐって、若い将校がピストルを手に射ち合うなんてカッコいいわ。まさに一幅の絵ですもの。ああ、もし若い娘にも見物させてくれるんだったら、あたし、ぜひ見たいもんだわ」

「自分がねらうときはいいけど、自分に銃口が向けられてごらんなさい、それこそなんとも愚劣な気持がするでしょうよ。あなたなんか、その場から逃げだしまさあね、マリヤ・コンドラーチエヴナ」

「じゃ、あなたも逃げだすかしら?」

しかし、「スメルジャコフ」は返事はしませんでした。

一瞬の沈黙ののちに、ふたたびギターの和音がひびき、裏声が最後の小節をうたいだしました。

いかなる努力をしようとも

この地を遠く去り行かん。

浮世の味を楽しみて、

都に住まん、このわれは!

嘆き悲しみなどすまい、

嘆き悲しみなどすまい、


嘆かん心さらになし!


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