「昨日ごらんになったように、あの方のご気性からすれば、それくらい朝飯前ですよ。もしグルーシェニカを通して、家に泊らせたりしたら、貴様なんぞ真っ先に生かしておかないからな、なんておっしゃいましてね。わたしはとてもあの方がこわいんです。これ以上恐ろしい思いをせぬためには、警察にでも届けるほかないくらいでして。どんなことになるか、わかったもんじゃありませんからね」
「この間もこの人に『臼の中で粉々にしてやるぞ』なんて、おっしゃってましたわ」
「マリヤ」が口を添えました。
「臼なんて言ったとすれば、たぶん、言葉のはずみでしかないでしょうね」
「アリョーシャ」が指摘しました。
「今すぐ会えれば、そのことも兄さんに言ってやれるんだけどな」
「一つだけ教えてさしあげられることがありますよ」
ふいに「スメルジャコフ」が決心したかのように言いました。
「わたしは日ごろからのお隣同志のよしみでこちらへはよく伺うんです。それに、伺っていけないこともございませんでしょうに? まあ、話は別ですが、今朝、夜の明けるか明けないうちに、イワンさまがわたしをオジョールナヤ通りの、あの方のお住居へ使いに出されたんです。手紙はございませんで、いっしょに昼食をしたいから、必ず広場の飲屋にドミートリイさまに来ていただくようにという、お伝言てでした。わたしが行ってみたところ、お住居にもドミートリイさまはいらっしゃいませんでしたね。もう八時ごろでしたが、『今しがたまでいらしたけど、お出かけになった』という家主の言葉でございました。まるで双方で、なにか口裏を合わせたような具合でしたっけ。ですから、ことによると今ごろ、あの方はイワンさんと飲屋に坐ってらっしゃるかもしれませんですよ。と申しますのも、イワンさまは昼食には家へお帰りになりませんでしたし、旦那さまは一時間ほど前にお一人でお食事をなさって、今はお昼寝をなさってらっしゃいますからね。ただ、くれぐれもお願いします、わたしのことや、わたしがお知らせしたなんてことは、何もおっしゃらないでくださいまし。なぜって、あの方はこれといった理由がなくても殺しかねないんですから」
「スメルジャコフ」は自分のことを知られたくないので口止めをしたわけですが、しかし彼は「イワン」を尊敬していたはずですが、簡単に裏切るようなことをするわけですね。
「ドミートリイ」はここでも、自分の住む部屋の大家と仲がいいようですね。
「イワン兄さんが今ドミートリイ兄さんを飲屋によびだしたって?」
「アリョーシャ」は早口にきき返しました。
「はい、たしかに」
「それは広場にある《都》という飲屋だね?」
《都》は「ドミートリイ」が「スネギリョフ」を広場に引っ張り出したときの店です。
「はい、あの店です」

0 件のコメント:
コメントを投稿