「いい加減になさいませな、ドミートリイ・フョードロウィチ、もうたくさんですわ!」
「ホフラコワ夫人」がしつこくさえぎりました。
「問題はあなたが金鉱へいらっしゃるかどうか、すっかり決心がおつきになったかどうか、ですわ。数学のようにはっきり答えてくださいまし」
「行きます、奥さん、いずれあとで・・・・どこへでも行きますとも、奥さん・・・・でも、今は・・・・」
「じゃ、ちょっとお待ちになって!」
「ホフラコワ夫人」は叫んで、ふいに立ちあがると、引出しの無数についた豪華なデスクのところにとんで行き、ひどく気ぜわしげに何かを探しながら、引出しを次々に開けはじめました。
『三千ルーブルだ!』
「ミーチャ」は息もつまる思いで考えました。
『それも今すぐ、何の書類も、証書もなしに・・・・ああ、これこそ紳士的ってもんだ! 立派な女性だな、ただこれほどおしゃべりでさえなけりゃ!』
「ありましたわ!」
「ミーチャ」の方に戻ってきながら、「ホフラコワ夫人」が嬉しそうに叫びました。
「これを探してたんですの!」
それは紐にさげた小さな銀の聖像で、よく肌守りの十字架といっしょに身につける類いのものでした。
「これはキエフのものですわ、ドミートリイ・フョードロウィチ」
キエフはウクライナの首都です。
彼女は敬虔な口調でつづけました。
「ワルワーラ大殉教者の遺品です。わたくしの手でこれをあなたの頸にかけさせてくださいまし、それによって新しい生活と新しい偉業に向うあなたを祝福させていただきますわ」
そして彼女は本当に聖像を彼の頸にかけ、位置を直しにかかろうとしました。
「ミーチャ」はすっかりどぎまぎして身をかがめ、彼女に協力して、やっとネクタイとワイシャツのカラーをくぐらせて聖像を胸にかけました。
この時の「ドミートリイ」の心境は複雑でしょうね、夫人が自分に渡すための三千ルーブルを探していると思い内心大喜びしていたわけですからもはや頭の中は真っ白ですね。
「さあ、これで出発できますわね!」
厳粛な顔で席にまた坐りながら、「ホフラコワ夫人」が言いました。

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