またときによると、それが自分でもふしぎに思われました。
なぜなら、自分の手で紙に『自己を処刑し、罰する』とペンでしたため、その紙片はすでに用意されてポケットに入っていたし、ピストルも装填して、明日の朝《金髪のポイボス》の最初の熱い光をどのように迎えるか決心もついていたのですが、それにもかかわらず、心にわだかまって苦しめる過去のすべてを清算することが、やはりできなかったからです。
彼は苦しいほどどれを痛感し、その思いが絶望となって心に突き刺さるのでした。
死んでも死にきれぬということでしょうが、その心情はわかるようにも思います。
途中で、いっそふいに「アンドレイ」に馬をとめさせて、馬車からおり、装填したピストルを取りだして、夜明けを待たずにすべてに決着をつけてしまおうか、と思った一瞬もありました。
しかし、その一瞬は火花のように流れすぎました。
それに、トロイカが《空間をむさぼり食いながら》ひた走っており、目的地に近づくにつれて、またしても彼女ひとりをめぐる思いがますます強く胸をしめつけ、他のいっさいの恐ろしい幻影を心から追い払っていきました。
ああ、たとえちらとでも、たとえ遠くからでも、彼女を一目眺めたくてなりませんでした!
『今、彼女は男(一字の上に傍点)といっしょにいる。今その男と、かつての恋人とどんなふうにしているか、見とどけよう。俺に必要なのはそれだけだ』
自己の運命にとって宿命的とも言えるこの女性に対して、これほどの愛が、これほど新しい、いまだかつて経験したことのない感情が、胸の奥から湧き起ったことは、これまでに一度としてありませんでした。
それは自分自身でさえ思いがけぬ感情であり、彼女の前で消えてしまいたいほどの、祈りに近いやさしい感情でした。
「そうだ、消えてしまうのだ!」
この消えてしまいたいという感情は、かなり感情的で感覚的だと思いますが、これは自分の姿形を消して、視線だけ残しておきたいということでしょうか、「祈りに近いやさしい感情」と書かれていますから、自分は消えて現実に起こるすべてを許し、ただ神のように彼女を見ていたいという直接的な願望だけを満たしたいということでしょうか。
突然、何かヒステリックな歓喜の発作にかられて、彼は口走りました。
もうほとんど一時間近く走っていました。
「ミーチャ」は黙りこんでいましたし、「アンドレイ」も話し好きな百姓ではありましたが、口をきくのを恐るかのように、やはり一言も発せず、もっぱら栗毛の、痩せてはいるが駿足の三頭立ての《駄馬》を、がむしゃらに駆りたてていました。

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