2018年6月1日金曜日

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この好人物は余計なことまでずいぶんしゃべりましたが、しかし、「グルーシェニカ」の悲しみが、人間的な悲しみが、彼の善良な心にしみ通ったのであり、その目には涙さえうかんでいました。

「マカーロフ」は「グルーシェニカ」の悲しみに心を動かされたのですね。

「ミーチャ」は跳ね起きて、署長のところに駆けよりました。

「赦してください、みなさん、すみません、ああ、赦してください!」

彼は叫びました。

「あなたは天使のような、天使のような心の持主です、ミハイル・マカーロウィチ、彼女に代ってお礼を言います! 僕は冷静にします、しますとも。明るい気持になります。限りなくやさしいあなたのお心で、彼女に伝えてください。僕は元気で、明るい気持でいる。あなたのような守護天使が彼女についていてくださるのがわかったので、今にも笑い声をたてそうだって。今すぐ何もかも片づけて、自由になったらすぐ彼女のところへとんで行きます、すぐ会えるのだから、待たせておいてください! ねえ、みなさん」

「ドミートリイ」の気持ちの浮き沈みは激しいですね、周りのすべてが敵のようにみえる今の状態で二人に味方してくれる「マカーロフ」の存在がよほどうれしかったのでしょう。

彼はふいに検事と予審調査官をふりかえりました。

「今度は僕の心をすっかりひろげますよ、すべてを吐露します。こんなことはあっという間に片づけましょうよ、楽しく片づけて、しまいには大笑いしようじゃありませんか、ねえ? それにしても、みなさん、あの女性は僕の心の女王ですよ! ああ、これだけは言わせてください、あなた方だから僕はこのことを打ち明けるんです・・・・だって僕は今、高潔な人々と話してるってことが、わかっていますからね。彼女は光です。僕の神聖な宝なんです、それをわかっていただければな! 彼女の叫びをおききになったでしょう。『あなたといっしょなら、たとえ死刑でも受けるわ!』ところが、無一文で乞食同然のこの僕が、彼女に何を与えたでしょうか、どうしてあれほどの愛を僕に捧げてくれるんでしょう、僕みたいに不細工な、恥さらしな面をした、恥さらしな動物が、いっしょに懲役にまで行ってくれるというほどの愛に値するでしょうか? 彼女はさっき僕のために、あなた方の足もとにひざまずいてくれたんです、気位の高い、何の罪もない彼女が! どうして彼女を敬わずにいられますか、今みたいに大声で叫んで、とんで行かずにいられますか? ああ、みなさん、赦してください! でも今度こそ、今度こそ安心しました!」

「ドミートリイ」は自分自身に自分を納得させるために話をしているように聞こえます、周りの現実の社会が自分自身の中に存在しているというか、自分自身が消滅していて社会の中に溶け込んでいるというか、他の登場人物もそうかもしれませんが、心の中の会話が表面に出てきているようですね。

そして彼は椅子に崩れこみ、両手で顔を覆って、おいおいと泣きだしました。

しかし、それはもう幸福な涙でした。

彼はすぐわれに返りました。

老署長はたいそう満足していましたし、それに司法官たちもどうやら満足らしい様子でした。

彼らは、尋問が今や新しい段階に入ろうとしているのを感じたのでした。

「ドミートリイ」が今までの興奮した様子ではなく、素直な心になってすべてを正直に話すように思ったのでしょう。

署長を送りだすと、「ミーチャ」はすっかり快活になりました。

「さあ、みなさん、今や僕はあなた方のものです、完全にあなた方のものです。だから・・・・あんな瑣末な点にこだわりさえしなければ、すぐにも話はつくんですがね。また僕は些細なことを問題にしている。僕はあなた方のものです、みなさん、でも誓ってもいいですが、相互の信頼が必要ですよ。あなた方は僕を信じ、僕はあなた方を信ずる。でなけりゃ、いつになったって終りゃしませんからね。あなた方のためを思って、言ってるんですよ。本題に入りましょう。みなさん、本題に。大事なのは、あんなふうに僕の心の中をひっかきまわしたり、瑣末なことで苛立たせたりしないで、ずばり用件と事実だけで質問をなさることですね、そうすれば僕だって、すぐに満足なさるような返事をしますから。瑣末なことは、まっぴらですよ!」

「ドミートリイ」の気持ちはわかりますが、犯罪の立証は事実だけでは成立しないでしょう、犯罪行為にいたる合理的な動機が必要ですので、本当ならばそこには瑣末なことも含まれてくるはずです。

「ミーチャ」はこう叫びました。


尋問が再開されました。


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