「それは妙ですな。それじゃ、まるきりだれにも?」
「まるきりだれにも。どこのだれにも話していません」
「しかし、なぜそんなに内緒にしておられたのです? そのことをそれほど秘密にせねばならなかった動機は、いったい何ですか? もっと正確に説明しましょう。あなたはついに秘密を打ち明けられた。あなたのお言葉によると、きわめて《恥ずべき》秘密だそうですが、しかし実際のところ、と言ってももちろん比較的というにすぎませんが、その行為は、つまり他人の三千ルーブルを流用した行為、それも疑いもなくごく一時的な流用にすぎませんが、少なくともわたしの目から見ればその行為は、きわめて軽率な行為でしかありませんよ、しかし、そのほか、あなたの性格も考慮に入れるなら、それほど恥ずべき行為とは言えないですね・・・・まあ、かりに、きわめてけしからぬ行為であるとしてですよ、それにはわたしも同意しますが、あくまでもけしからぬというだけで、やはり恥ずべき行為とは言えませんよ・・・・つまり、大体わたしが言いたいのは、あなたがばらまかれた例の三千ルーブルがカテリーナさんのお金であることは、あなたの供述を待つまでもなく、この一ヶ月というもの、すでに大方の人間が推察していたということです、わたし自身そうした風説を耳にしましたし・・・・たとえば、マカーロフ署長もやはり小耳にはさんでいます。ですから結局のところ、それはほとんどもう風説じゃなく、町じゅうの噂になっていたんですよ。そのうえ、もしわたしの思い違いでなければ、あなた自身それをだれかに打ち明けた形跡もある。つまり、その金がカテリーナさんのものだということをですね・・・・ですから、あなたが今まで、つまり今のこの瞬間まで、あなたの言葉によればべつに取りわけたその千五百ルーブルのことを、それほど極度の秘密になさって、その秘密に何か恐怖さえ結びつけておられたのが、わたしにはあまりにもふしぎでならないのです・・・・その程度の秘密を打ち明けるのが、あなたにとって、それほどの苦痛に値するなんて、信じられないんですよ・・・・なぜって、あなたは今、打ち明けるくらいなら、懲役に行くほうがましだとまで絶叫なさったのですからね・・・・」
それに「カテリーナ」が「ドミートリイ」の元婚約者という点も考慮して「けしからぬ行為」にすぎないという判断材料に加えてもいいのではないでしょうか、まったくの他人ではないのですから。
三千ルーブルの出所が「カテリーナ」だという風説があるのを検事たちが知っていたというのは意外でした、しかし、風説はそうでも検事たちはやはり「ドミートリイ」をうたがっていますね、そして検事は「けしからぬ行為」と「恥ずべき行為」を明確に分けています、しかし、検事にとっての、また一般大衆にとってもそうかもしれませんが彼らの言う「けしからぬ行為」は「ドミートリイ」にとっては全く正反対なことなのです、検事は「けしからぬ行為」を世間でよくあるような軽いことだとしてすまそうとしていますが、「ドミートリイ」にとってはそれこそが自己倫理に照らし合わせて生きるか死ぬかに匹敵する「恥ずべき行為」なのです、ではいったい検事の言う「けしからぬ行為」と「恥ずべき行為」はどう違うのでしょう、おそらく「けしからぬ行為」というのは「社会」を基準に想定しているのであり、「恥ずべき行為」は「個人」を基準にしているのだと思います、ではどっちが重要で重いのでしょうか、「ドミートリイ」にとっては「恥ずべき行為」が自分を律する唯一の基準であることは確かなのですが、これは「人間の本質を問う」という文学作品だからこそなしうることのできる究極の問題提起なのではないかと思います。
検事は口をつぐみました。
彼はむきになっていました。
ほとんど憎悪に近いほどの憤りを隠そうともせず、もはや文体の美しさなどには心も砕かず、つまり脈絡もなしに、支離滅裂といってよい口調で、胸につもっていたことを残らずぶちまけました。
「千五百ルーブルに恥辱があるのではなく三千ルーブルのうち千五百ルーブルを取りわけた点にあるんですよ・・・・」
「ミーチャ」が毅然として言いました。

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