「こいつはフェドートフの裏庭にいて、あそこに住みつこうとしかけだんだけど、あの家じゃ食べ物をやらなかったし、こいつは野良犬なんだよ、村から逃げてきたんだ・・・・それを僕が探しだしたってわけさ・・・・あのね、爺さん、こいつはあのとき、君のパン片を呑みこまなかったんだよ、つまり、呑みこんでたら、もちろん、死んでたろうさ、それなら終りだ! 今ぴんぴんしてるとこを見ると、つまり、すばやく吐きだしたんだよ。ところが君は、吐きだすとこを見なかった。吐きだしはしたものの、やはり舌を刺したんだね、だからあのとききゃんきゃん鳴いたんだよ。逃げながら、きゃんきゃん鳴いたもんで、君はてっきり呑みこんだと思ったのさ。そりゃひどく悲鳴をあげるのが当然だよ、だって犬は口の中の皮膚がとても柔らかいからね・・・・人間より柔らかいんだ、ずっと柔らかいんだよ!」
喜びの顔をかがやかせ、燃えあがらせて、「コーリャ」は興奮しきった口調で叫びました。
これは、驚きの展開ですね、それにしてもそのことを「スムーロフ」や家族や「アリョーシャ」に嘘まで言ってこの瞬間までずっと隠しとおしていた「コーリャ」はなんて孤独で陰険な少年でしょう。
「イリューシャ」は口をきくこともできませんでした。
布のように青ざめ、口を開けたまま、大きな目をなにか不気味に見はって、「コーリャ」を見つめていました。
何の疑念もいだかなかった「コーリャ」も、病気の少年の容態にこんな瞬間がどれほど苦痛な、致命的な影響を与えうるかを知ってさえいたら、今やってみせたような愚かな真似は絶対にする気にならなかったにちがいありません。
そうです、この瞬間の苦痛だけでなく、本当ならすぐにでも事実を「イリューシャ」に知らせてあげるべきだったでしょう、「コーリャ」のしたことは、自分のヒロイン的欲望を第一に考えたあまりにも浅はかな行為だったといえます。
しかし、部屋の中でそれをわかっていたのは、おそらく、「アリョーシャ」だけだったでしょう。
二等大尉となると、まさにごく幼い子供に返った感がありました。
「ジューチカ! じゃ、これがあのジューチカかい?」
世にも幸せな声で彼は叫びたてました。
「イリューシャ、これがジューチカだってさ、お前のジューチカだよ! かあちゃん、これがジューチカなんだよ!」
彼は危うく泣きださんばかりでした。
「僕は見ぬけなかったな!」
「スムーロフ」が情けなさそうな声を出しました。
「これでこそ、クラソートキンだ。この人ならきっとジューチカを見つけるって、僕は言ってたけど、やっぱり見つけたね!」
「ほんとに見つけたね!」
さらにだれかが嬉しそうに応じました。
「えらいや、クラソートキンは!」
さらに別の声がひびきました。
「えらいぞ、えらいぞ!」
「アリョーシャ」以外のみんなはやけに単純そうに見えますね。
少年たちがみんなで叫び、拍手をしはじまました。
「まあ、待ってくれ、待ってくれよ」
「コーリャ」はみなの叫び声に打ち克とうと努めました。

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