2018年12月8日土曜日

982

「ばか野郎!」

「イワン」はたたきつけるように言いました。

「その代り、君はたいそう利口さ。また罵るのかい? 僕はべつに同情からじゃなく、ただきいてみたまでさ。まあ、答えなくてもいいよ。このところ、またリューマチがぶり返してね」

「ばか野郎」

「イワン」はまたくりかえしました。

「君は一つことばかり言ってるけど、僕は去年ひどいリューマチにかかってね、いまだに思いだすほどだよ」

「悪魔がリューマチにか?」

「イワン」はここではじめて「ジェントルマン」のことを「悪魔」と言いましたね、いわゆる「悪魔」らしい「悪魔」ではないのですが、やはり「悪魔」なのですかね、以前に何度か読んだのですが、わからなくなりました、この「ジェントルマン」は「イワン」の分身だったと思いますが、それでも「悪魔」というんでしょうか、自分の中の「悪魔」の存在です、そういえば、(981)で「・・・・世間ではふつう僕が堕落した天使だってことを、自明の理として受けとっているんだよ。」と言っていましたが、そこで「悪魔」と気づかなければならなかったですね、「悪魔」と言えば、前に(928)で「リーザ」は悪魔の夢を見ると言っていました、「・・・・あたし、時々、悪魔の夢を見るの。なんでも夜中らしいんだけど、あたしは蝋燭をもってお部屋にいるのね。そうすると突然、いたるところに悪魔が出てくるのよ。どこの隅にも、テーブルの下にも。ドアを開けると、ドアの外にもひしめき合っていて、それが部屋に入ってきてあたしを捕まえようと思っているんだわ。そして、すぐそばまでやってきて、今にも捕まえそうになるの。あたしがいきなり十字を切ると、悪魔たちはみんなこわがって、あとずさるんだけど、すっかり退散せずに、戸口や隅々に立って、待ち構えているのよ。ところがあたしは突然、大声で神さまの悪口を言いたくてたまらなくなって、悪口を言いはじめると、悪魔たちはふいにまたどっとつめかけて、大喜びしながら、またあたしを捕まえそうになるんだわ。そこで突然また十字を切ってやると、悪魔たちはみんな退却していくの。すごくおもしろくて、息がつまりそうになるわ」と、「イワン」の「ジェントルマン」的な「悪魔」とはだいぶん違うのですが。

「なぜいけないんだい、僕はときおり人間の姿になるんだからね。人間の姿になる以上、その結果も甘んじて受けるさ。僕は悪魔だからね。et nihil humanum a me alienum puto (人間のものは何一つ無縁じゃないんだよ)」

「なに、何だって? Satan sum et niiho humanum だと・・・・悪魔にしちゃ、気がきいてるぜ!」

「やっと気に入ってもらえて嬉しいよ」

「しかし、その出所は僕じゃないな」

突然ぎょっとしたように、「イワン」が言葉を切りました。

「そんなこと、一度として俺の頭にうかんんだためしはないぞ、変じゃないか・・・・」

「これは新味があるだろう、そうじゃないか? 今度は僕も正直に振舞って、説明するよ。まあ、ききたまえ。夢の中で、それも特に悪夢の中で、まあ、胃の不調か何かが原因なんだけれど、人間はときおり実に芸術的な夢を見るものなんだ。実に複雑なリアルな現実だとか、さまざまの出来事だとか、あるいは、人間の高尚な姿にはじまってシャツのボタンにいたるまでの、それこそレフ・トルストイでも書けないような、思いもかけぬ細部をともなって、こみいった筋で結ばれたさまざまな出来事の完全な一世界だとかをね。しかも、そういう夢を見るのは、往々にして作家でなどなく、官吏だとか、雑文書きだとか、坊さんだとかいう、ごくありふれた人たちなんだからね・・・・この点は、一つの課題とさえ言えるよ。さる大臣が僕に打ち明けたんだが、いちばんすばらしいアイデアがうかぶのは、眠っているときだそうだ。現に今だってそうじゃないか。僕は君の幻覚でこそあるけれど、ちょうど悪夢の中のように、君がこれまで頭にうかべたことがないような、独創的なことを話しているだろう。だから、こうなるともう僕は君の考えを蒸し返しているわけじゃない。にもかかわらず、僕は君の悪夢でしかないし、それ以上の何物でもないんだからね」


「嘘をつけ。お前の目的は、ほかでもない、お前が一個の独立した存在で、俺の夢ではないってことを、俺に信じこませることじゃないか。だから今だってわざと、自分が夢だってことを強調しているんだ」


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