2019年3月19日火曜日

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「夕方にならなけりゃ来ないさ。カーチャが奔走していることを昨日話したとたんに、彼女は黙りこんじまって、唇をへの字に結んでたからな。『勝手にやらせとけばいい!』とつぶやいただけだった。事の重大さをさとったのさ。俺もそれ以上探りを入れるような真似はできなかったし。彼女だって今じゃ、あの人の愛してるのが俺じゃなく、イワンだってことを理解してるだろうに?」

「そうかしら?」

「アリョーシャ」はつい口走りました。

「たぶん、そうじゃないな。ただ、今朝は来ないよ」

「ドミートリイ」もわかっているのですね、何がどうわかっているのでしょう、「カテリーナ」がまだ自分を愛していることをか、そして彼女は「イワン」を本当に愛しているのではないことなのをか。

「ミーチャ」が急いでまた言いました。

「彼女に用事を一つ頼んだんだ・・・・なあ、イワンはだれよりも偉くなるぜ。生きていなけりゃいけないのは、あいつだよ、俺たちじゃない。あいつはきっと快くなるとも」

「ところがね、カーチャはイワン兄さんの容態が心配でならないくせに、全快することはほとんど疑ってもいないんですよ」

「アリョーシャ」が言いました。

「それはつまり、死ぬと思いこんでるってことさ。恐ろしいから、全快すると信じているまでの話だよ」

このあたりの二人の会話は機知に富んでいますね。

「兄さんは頑丈な体格ですからね。僕だって、全快してくれることを心から期待しているんですよ」

「アリョーシャ」は不安そうに言いました。

「うん、全快するだろう。でも、彼女は死ぬと信じてるのさ。悲しみの多い人だな・・・・」

沈黙が訪れました。

「カテリーナ」は「イワン」が死ぬと信じることによって、もし死んだとしたらその時の自分の悲しみを少なくしようとしているのでしょうか、仮にそうだとするとこれは自分のためにそう思うことであり、純粋に「イワン」の全快を信じているということではないですね、それがこの「沈黙」の意味ですね。

「ミーチャ」は何か非常に重大なことに悩んでいました。

「アリョーシャ、俺はおそろしくグルーシェニカを愛してるんだ」

突然、涙にみちたふるえ声で彼が言いました。

「あの人は向う(二字の上に傍点)へは行かせてもらえないんですよ」

すかさず「アリョーシャ」が食いさがりました。

「それからもう一つ、お前に言っておきたかったんだ」

ふいに一種のひびきを帯びはじめた声で、「ミーチャ」が言いました。

「もし途中でなり、向う(二字の上に傍点)へ行ってからなり、殴られるようなことがあったら、俺は泣き寝入りしないぜ。そいつを殺して、銃殺にされるさ。だって、それが二十年間もつづくんだからな! ここでももう、貴様(二字の上に傍点)よばわりしはじめてるんだ。看守が俺を貴様(二字の上に傍点)よばわりするんだよ。俺はゆうべも夜どおし横になって、反省していた。俺はまだ心構えができていないよ! 聞き流していられないんだ! 《讃歌》をうたおうとしてみたが、看守の貴様よばわりは堪えられない! グルーシェニカのためなら、どんなことでも我慢したいところだけど、やっぱり、殴られるのだけは別だよ・・・・でも、彼女は向う(二字の上に傍点)へは行かせてもらえないんだな」

この「殴られる」や「貴様」という言い方の部分は、たいへん重要で貴重な内容だと思います、このようなことは現在になっても全く進歩していないわけであって、ことの重大さすら見過ごされていることです、たぶん後何十年か何百年か時代が進めば解決するのではないかと思います。

「アリョーシャ」は静かに微笑しました。

「兄さん、一遍だけ言わせてください」

彼は言いました。

「その点についての僕の考えはこうです。僕が嘘をつかないことは、兄さんだって知っているでしょう。きいてください。兄さんはまだ心構えができていないし、それにそんな十字架は兄さんにはふさわしくないんです。そればかりじゃなく、心構えのできていない兄さんに、そんな大殉教者のような十字架は必要ないんですよ。もし兄さんがお父さんを殺したのだったら、兄さんが自分の十字架を拒否することを僕は残念に思ったでしょう。でも、兄さんは無実なんだから、そんな十字架はあまりにも重すぎますよ。兄さんがたとえどこへ逃げようと、一生涯その別の人間のことを常におぼえてさえいれば、それで十分なんです。兄さんが大きな十字架の苦しみを引き受けなかったことは、心の内にいっそう大きな義務を感ずるのに役立って、その絶え間ない感覚が今後一生の間、ことによると向う(二字の上に傍点)へ行く以上に、自分の復活の助けになるかもしれませんよ。なぜなら、向う(二字の上に傍点)へ行けば兄さんは堪えきれずに、泣き言を言うだろうし、ひょっとすると最後には本当に『これでおあいこだ』なんて言いだすかもしれませんからね。この点だけは弁護士の言ったとおりです。だれもがつらい重荷を背負えるわけじゃなく、人によっては堪えきれぬものです・・・・もし僕の考えがききたいなら、こんなところですね。仮に兄さんの脱走について、将校とか兵卒とか、ほかの人が責任に問われるとしたら、僕は脱走を《許可しない》でしょうけれど」

「アリョーシャ」は苦笑しました。

ここで「脱走」についての「アリョーシャ」の考えが述べられています、簡単に言えば、人に迷惑かけなければOKということですね。


「アリョーシャ」は「この点だけは弁護士の言ったとおりです」なんて言っていますが、(1073)で「フェチュコーウィチ」が言った「これで、おあいこだ、これから何一つ借りはないし、だれにも永久に負い目はない」と「そのときには彼も『これでおあいこだ』などと言わず、『俺はすべての人に対して罪があるし、だれよりも値打ちのない人間なんだ』と言うでしょう」という部分です、そこだけは正しく、それ以外は評価しないというわけですね。


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