2016年7月30日土曜日

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先頭の馬車からかなり遅れて到着した辻馬車には「フョードル」と「イワン」が乗っていました。

この馬車は二頭の年とった「月毛」にひかせており、ひどく古びてがたぴし音がしましたが、収容力だけは大きな馬車でした。

「月毛」の馬とは、栗毛より明るくクリーム色から淡い黄白色の馬だそうです。

二人二組の馬車を使っているのですが、馬車の選び方ひとつにもそれぞれの特徴が表れているようでおもしろいです。

肝心の「ドミートリイ」ですが、「アリョーシャ」が前の晩に時間を連絡しておいたにもかかわらず、すでに遅刻していました。

四人の訪問者たちは、修道院の外塀のわきにある宿坊で馬車を乗りすて、歩いて修道院の門をくぐりました。

「フョードル」はこの修道院にも何度か足を運んでいるのですが、あとの三人はどうやら修道院に来るのははじめてらしく、「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」なんかは、おそらく三十年ばかり教会にさえ行ってないと思われます。

ですから、彼は「いくぶん無遠慮をよそおった感じのしないでもない、好奇の目であたりを眺めまわして」いました。

しかし、観察力の鋭い彼にとっても、教会や住居などのありきたりの建物以外なにもめずらしいものはみつかりませんでした。

ちょうど礼拝式が終り、教会から最後の会衆が、帽子をとって十字を切りながら出てくるところでした。

民衆の中には、遠くから来た上流社会の二、三人の貴婦人や、一人の非常に高齢な将軍の姿もありました。

この人たちはみな宿坊に泊まっていました。

そのとき、乞食たちがわが訪問者を取りまきましたが、誰も何も恵んではやりませんでした。

ただ「ピョートル・フォミーチ・カルガーノフ」だけは、財布から十カペイカ銀貨を取りだし「なぜかわからぬが妙にそわそわと照れて」、一人の女に握らせ「平等に分けるんだぞ」と早口につぶやきました。

あとの三人はだれも、彼の行為に気づいていませんでしたので、別に照れることもなかったのですが、彼はそれに思い当たるといっそう照れてしまいました。


微妙な若者の心理をさりげなく描いていますね。


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