「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」はずっと不機嫌でしたので、『どれをとってみても、意地わるで低級なくせに、高慢な心の持主だな』と長老のことを思いました。
ちょうど、振子のついた安物の小さな柱時計が、あわただしい音で正午を告げ、これが、話を切り出すのに役立ちました。
ここで、「きっかりお約束の時間でございますね」と「フョードル」が叫びました。
そして続けて、息子の「ドミートリイ」が来ていないことを「神聖な長老さま!」に詫び、自分はいつも几帳面で、一分たりとも遅れたりはせず、「正確さこそ帝王の礼儀(訳注 ルイ十八世の座右の銘)をおぼえておりますので」、と言います。
このとき、「神聖な長老さま!」という言葉をきいて、「アリョーシャ」はぎくりとしました。
彼はもう父親がふざけることを予感したのでしょう。
ドイツのことわざで、「定刻は帝王の礼儀です」というのがあるそうですが、「正確さこそ帝王の礼儀」というルイ十八世の座右の銘の出展はどこにあるのかわかりませんでした。
この「フョードル」の言葉に「しかし、少なくともあなたは帝王じゃありませんからね」とこらえきれなくなった「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」がつぶやきました。
もう、「フョードル」の道化が、「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」と掛け合いながらはじまっていますね。
ここからしばらく、「フョードル」と「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」の漫才が続きますが、この二人、修道院の中にいること自体が何かの間違いのような気がしますし、もっともこの場所にふさわしくない人たちだと思います。
「フョードル」は、「ええ、そうですとも、わたしゃ帝王じゃありませんよ。・・・そんなことくらい、わたし自身だって知ってますよ、本当に!・・・いつもわたしはこの調子で、場違いなことを言ってしまうんです!長老さま!」となにやら感激調で叫びました。
そして、「今、長老さまのお目を汚しているのは、本当の道化でございます!」と自分で自分を道化と名乗り、こういうやり方が自分の自己紹介で、昔からの癖でそうしているのであって、ときおり場違いな嘘をわざとついて、みなさんを楽しませて、気に入られようとしていると、そして、「人間はやはり、気に入られなけりゃいけませんからね、そうでしょうが?」と。
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