2016年9月20日火曜日

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「ゾシマ長老」が次に顔を向けたのは、巡礼らしくない都会風の身なりをした、よぼよぼの老婆でした。

彼女の目には何か悩みごとがあり、何事かを訴えにきたことはあきらかでした。

老婆はこの町に住む下士官の未亡人であると名乗りました。

そして、軍の主計局かどこかに勤務していた「ワーセニカ」という息子が、シベリヤのイルクーツクへ行ってしまい、二度そこから手紙をよこしただけで、もうこの一年というもの、ふっつりと音信を断ってしまった、あちこち問い合わせてもわからないという訴えでした。


そして、この間、「ステパニーダ・イリイーニシナ・ベドリャーギナ」という大きな商店のおかみさんが、『ねえ、プローホロヴナ、息子さんの名前を過去帳に書いて、教会に持っていって、法要をしておもらいよ。そうすりゃ、息子さんの魂だって悩みだして、手紙をよこすにちがいないから。これは確かよ、何遍も実験ずみなんだから』と言いましたが、わたしは半信半疑で、こんなことをしていいのかと「ゾシマ長老」に質問しました。


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