2016年9月22日木曜日

175

さて、次は誰でしょう?

「ゾシマ長老」は、「すでに群衆の中でまだ若いとはいえ、やつれきって見るからに結核らしい農婦」が燃えるような目で自分をみつめていることに気づいていました。

農婦は、無言で何かを乞い求めるように見つめていましたが、そばに近づくのを恐れているようでもありました。

「ゾシマ長老」は「どんな悩みかな、お前さんは?」と声をかけました。

農婦は「わたしの魂を赦してください、長老さま」と低い声でゆっくりと言い、ひざまずいて長老の足もとに跪拝しました。

「わたしは罪を犯しました、長老さま。自分の罪がこわいのでございます」

長老が下の段に腰をおろすと、女はひざまずいたまま、いざり寄りました。

「わたしが後家になって、足かけ三年になります」と、身ぶるいするかのように、半ばささやき声で話しだしました。

女は、夫は年寄りでひどくわたしを痛めつけ結婚生活はつらいものでしたが、そのうち夫が病気に床についたのです、そのときわたしは、もし快くなって起きだしたらどうしようと思って、「あの大それた考えが心に湧いたのでございます・・・」と。

「待ちなされ」と長老がいいました。

そして、耳をまっすぐ彼女の口に近づけました。

女は低いささやき声で話をつづけたのでほとんど何一つききとれませんでした。

女はじきに話を終えました。

ここで、女の低いささやき声をほとんどききとれなかったのは、誰でしょう。

この小説の語り手だとすれば、その語り手は「ゾシマ長老」のすぐ近くにいて、物語を見ていることになりますね。

それにしても、この農婦はたいへんなことをしてしまったようで、語り手はききとれなかったと書いていますので詳細は想像するしかありません、

しかし誰もがたぶん、病床の夫を直接的にか間接的にか殺して、そのことを秘密にしていたのではと思うと思うのですが、このあたりの描き方と長老がそれを気遣う様子はなかなかのものですね。

「三年目になるのだね?」と長老がたずねました。

女は、最初のうちは忘れるようにしていましたが、このごろ身体の具合が悪くなって、気が滅入ってならないと言いました。

長老は「遠くから来たのかね?」と聞きます。


女はここから五百キロも向こうですと答えました、そして、長老の質問に答え、この話は懺悔のときに二度話したことがあり、聖餐を受けたこともあるが、自分は死ぬのが恐ろしいと言いました。


0 件のコメント:

コメントを投稿