2017年3月1日水曜日

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「婚約者の身で通うってのか?そんなことができるかい、おまけにあんなフィアンセがいて、しかも世間の眼の前でさ?俺にだって名誉ってものがあらあね。もっとも、グルーシェニカのところへ通うようになったとたん、たちどころに俺は婚約者でも、誠実な人間でもなくなっちまったんだ。俺にもそれはわかっている。どうしてそんなに見つめるんだ?俺はね、そもそもの最初はあの女をぶん殴りに行ったんだよ。俺が嗅ぎつけて、今じゃ確実にわかっていることなんだが、親父の代理人をしている例の二等大尉がグルーシェニカに俺名義の手形を渡しているんだ。つまり、俺が軟化して、脛かじりをやめることを、彼女に要求させようって寸法だ。震えあがらそうって肚さ。そこでグルーシェニカをぶん殴りに出かけたわけだ。その前にも彼女をちらと見たことはあったんだがね。強烈な印象を与える女じゃないよ。例の年寄りの商人のことも知ってたさ、あの爺さんは今じゃ、そのうえご丁寧にも病気になって、すっかり衰弱して寝たきりだそうだが、それでもやはり彼女にべらぼうな大金を残すらしいよ。それから俺は、あの女が金を溜めるのが好きなことも、知っていた。あのペテン師の悪女め、どえらい利息で貸しつけて、血も涙もなく稼ぎまくるんだよ。ところが、俺はあの女をぶん殴りに行って、そのままあいつの家に尻を落ちつけちまったんだ。雷がとどろいたようなもんさ、ペストにかかったんだよ。感染して、いまだに感染しっぱなしなのさ。もはや何もかも終りで、金輪際ほかの道はないってこともわかっている。時が完全に一巡したんだよ。まあ、こういうわけだ。あのときはたまたま、素寒貧のこの俺の懐ろに、お誂えむきに三千ルーブルあってな。彼女といっしょにモークロエにくりだしたんだよ。ここから二十五キロほどだけどね。そこでシプシーの男女をよんだり、シャンパンをとったり、村の百姓や、はては女や娘たちにまで片端からシャンパンをふるまったりして、何千もの金を撒きちらしたもんだ。三日後には無一文だったが、かっこいいやね。ところで、かっこいい男が望みをとげたと思うだろ?とんでもない、遠くからさえ拝ませてくれないんだよ。お前に教えてやるが、曲線美なんだ。あおのグルーシェニカの悪女は、肉体がすばらしい曲線美で、それがかわいい足にもあらわれてるのさ、左足の小指にまであらわれているんだよ。拝んで、キスして、それでおしまいさ、本当だぜ!『お望みなら、結婚してあげるわ、あなたは素寒貧だけど。あたしを打ったりしない、あたしのやりたいことは何でもさせてくれる、と約束なさい。そしたら結婚してあげるかもしれないわ』こう言って、笑うんだよ。今でも笑うんだ!」

「フョードル」の持っている「ドミートリイ」名義の手形を「フョードル」の代理人の退役二等大尉「グルーシェニカ」に渡しました。

ということは、「フョードル」は手形の清算ができなくなり、「グルーシェニカ」が清算することになりますが、これは「ドミートリイ」にお金が渡るのではなくて「グルーシェニカ」に支払われることになるということでしょうか。

つまり、前に「ドミートリイ」が言っていましたが、あの大尉つまり「フョードル」代理人は、「グルーシェニカ」のところへ行って、「ドミートリイ」が財産の清算のことで「フョードル」にしつこくつきまとうなら、手形を彼女が引きとって、その手形をたねに「ドミートリイ」を刑務所へぶちこんでしまえるように訴訟を起こしてくれというこでした。

手形の仕組みがわかりませんので釈然としません。

「あのときはたまたま、素寒貧のこの俺の懐ろに、お誂えむきに三千ルーブルあってな」というのは、どういうお金でしょうか。


また「モークロエ」という町は本当にあるのでしょうか。



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