「飼料桶で行水まで使わせてあげたのに・・・よくもわたしにあんなことを!」と、「グリゴーリイ」がくりかえしました。
そうです、「グリゴーリイ」は母親「アデライーダ」に捨てられた三歳の「ドミートリイ」を一年間自分の小屋で面倒をみてくれた恩人なのです。
「畜生め、もし俺が引き離さなけりゃ、きっとあのまま殺しちまったぞ。イソップ爺なんぞ、手間はかからんよ」と、「イワン」が「アリョーシャ」にささやきました。
また、「イソップ爺」が出てきましたが何度聞いてもおもしろいです。
「冗談じゃありませんよ!」と、「アリョーシャ」が叫びました。
「どうして冗談じゃないんだ?」と憎さげに顔をゆがめ、やはり同じように小声で「イワン」はつづけました。
「毒蛇が別の毒蛇を食うだけさ、どっちもそれがオチだよ!」
「アリョーシャ」はぴくりとふるえました。
この場面のこの毒蛇の話で「アリョーシャ」のこの反応は何を意味しているのでしょうか。
「もちろん俺は、今もやったとおり、人殺しなんぞさせちゃおかんがね。アリョーシャ、お前ここにいてくれ、俺はちょっと庭を歩いてくる、頭が痛くなってきたよ」
「イワン」が頭が痛くなって庭に出たことには何か意味があるのでしょうか、このあと「アリョーシャ」が「フョードル」と二人になって話をするのですが、そのためにこういう設定にしたのでしょうか、そして、頭が痛くなったということ自体に何か意味があるのでしょうか。
「アリョーシャ」は父の寝室に行き、枕もとの衝立のかげに一時間近く座っていました。老人はふいに目を開け、どうやら思い起こしながら思案にふけっているらしく、しばらく無言のまま「アリョーシャ」を見つめていました。
突然、常ならぬ動揺がその顔にあらわれました。
「アリョーシャ」と、彼は用心深げにささやきました。
「イワンはどこだ?」
「庭です。頭が痛いんですって。僕たちを見張ってくれてますよ」
「鏡をとってくれ、ほら、そこにあるだろ。どってくれ!」
「アリョーシャ」は箪笥の上にのっていた小さな折畳み式の丸い鏡をとってやりました。
老人は鏡をのぞきました。
鼻がかなりひどく腫れ、左眉の上の額に大きく目立つ青紫の痣がありました。
ここで、「フョードル」が鏡をとってくれといって怪我の確認をするところは、なかなか思いつかない設定だと思います。
これは、「フョードル」がさきほどの成り行きのことだけを考えているのではなくて、頭のどこかではまるっきり別のそのようなことまで考えているという彼の思考のあり方を的確に表現してますし、もちろん万が一「グルーシェニカ」が来たときのためにということはあるでしょうが。
「イワンは何て言っとる?アリョーシャ、お前だけだよ、俺の息子は。俺はイワンがこわい。あっちより、イワンのほうがこわいんだ。こわくないのはお前一人だけだよ・・・」
「イワンだって、こわがらなくても大丈夫ですよ。イワンは腹を立ててはいるけど、お父さんを守ってくれますとも」
「フョードル」はここで、「ドミートリイ」より「イワン」のほうがこわいと言っています。
これは、「ドミートリイ」の心の動きはわかるのですが、「イワン」のことはまったくわからないのでしょう。
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