「これでもう十分だ。一杯くらいじゃ、くたばりもすまい」
「今度はずっと素直になりましたね」と「アリョーシャ」は微笑しました。
「ふむ!コニャックを飲まんでも、お前は好きだよ。卑劣漢が相手なら、こっちも卑劣漢になるがね。イワンのやつ、チェルマーシニャへ行こうとせんのだ、なぜだと思う?グルーシェニカが来たら、俺が大金をやるんじゃないかと、スパイする必要があるからさ。どいつもこいつも卑劣漢ばかりだ。俺はイワンなんぞ、全然認めておらんよ。どこからあんなのが現れたかな?魂がまるきり俺たちとは違うんだ。俺が何か遺産でも残してやると思ってるのかな?しかし、俺は遺言も残さんからな、これは承知しといてもらいたいね。ミーチャのやつは、油虫みたいに踏みつぶしてやる。俺は夜中に真っ黒い油虫をスリッパで踏みつぶしてやるんだがね。踏んづけると、ぐしゃと音がするぜ。お前のミーチャもぐしゃりさ。お前の(3字の上に点)ミーチャなんて言ったけど、それはお前があいつを愛してるからだよ。お前はあいつを愛してるけど、お前が愛してるからといって俺はべつにこわくもなんともないよ。これでもしイワンがあいつを愛してるとしたら、イワンが愛してるってことで俺はわが身を心配するだろうな。ところが、イワンはだれのことも愛してやせん、イワンは俺たちとは人間が違うからな。イワンのような連中はな、お前、あれは俺たちとは違う人間なんだよ。あれは宙に舞い上がった埃みたいなもんさ・・・風が吹きゃ、埃も消えるんだ・・・昨日、お前に今日くるように言ったとき、ばかな考えが頭にうかびかけてさ。つまり、お前を介して、ミーチャの肚を探ろうと思ったんだよ。もし俺が今、千か二千の金をやったら、あの乞食同然の人でなしは、今後五年間、いや、三十五年間ならいっそう結構だが、すっかり姿を消すことに同意するだろうか、それもグルーシェニカを連れずにさ、もう彼女からはきっぱり手を引くんだよ、え?」
「フョードル」は「イワン」のことを徹底的に嫌いなのでしょうか。
「フョードル」と「イワン」については、前に「しかし、ひと月、ふた月と一緒に暮らし、「どちらもこれ以上はとても望めぬくらい仲よくやっている」とか「イワン」が「フョードル」に「傍目にもわかるほどの感化」を及ぼしたとか書かれていました。
しかし、内心では全く違っているのですね。
ここでは「イワンのような連中はな、お前、あれは俺たちとは違う人間なんだよ」と書かれています。
「イワンのような連中」とは、宙に舞い上がった埃で風が吹けば消えると。
これは、当時の唯物論的な思想のことでしょうか。
「僕・・・兄さんにきいてみます・・・」と「アリョーシャ」はつぶやきました。「三千ルーブルそっくりあれば、ことによると、兄さんだって・・・」
「嘘をつけ!今となっちゃ、きく必要はないよ、何もきかなくていい!考え直したんだ。昨日そんなばかな考えが、あさはかにも頭にうかんだだけさ。何一つやるもんか、びた一文もな。俺自身、金が必要なんだからな」老人は片手を振りました。「それでなくたって、あんなやつは油虫みたいに踏みつぶしてやる。あいつには何も言うなよ、もう帰ってくれ。例のいいなずけのカテリーナ・イワーノヴナだがね、あいつはいつも必死で俺から彼女を隠そうとしとるけど、彼女はあいつと結婚する気かね、しないのかね?お前、たしか、昨日あの人のところへ行ってきたんだろう?」
「あの人はどんなことがあっても、兄さんを見すてやしませんよ」
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