2017年6月17日土曜日

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「さ、これでいい」と彼は言いました。「見てごらん、こんなにひどく噛んでさ。これで気がすんだかい、え?それじゃ今度は、僕が君に何をしたのか、言ってごらん」

少年はびっくりして見つめました。

「僕は君を全然知らないし、はじめて会ったんだけど」と、相変らずもの静かに「アリョーシャ」はつづけました。「でも、僕が君に何もしていないはずはないよね。君だって理由もなしに僕にこんなひどいことをするはずがないもの。だったら、僕が何をしたの、君にどんなわるいことをしたのか、教えてくれないか?」

返事の代りに少年は突然、大声で泣きだすと、いきなり「アリョーシャ」のそばから逃げだしました。

「アリョーシャ」はそのあとについて静かにミハイロフ通りに向かいましたが、遠くを少年が、足もゆるめず、ふりかえりもせず、そしておそらくやはり声を限りに泣き叫びながら走ってゆく姿が、それからも永いこと見えていました。

「アリョーシャ」は、暇ができしだい、必ずあの少年を探しだして、異常なショックを与えたこの謎を解明しよう決心しました。

今はその暇がありませんでした。


ここで、はじめて「アリョーシャ」は少年たちと接触し、「謎」を残しつつ物語は進行します。


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