2017年6月29日木曜日

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「アリョーシャ」の姿を見ると、「カテリーナ」は、帰ろうとしてすでに席を立っていた「イワン」に早口で、嬉しそうに言いました。

「ちょっとお待ちになって!もうちょっといらしてくださいな。あたくし、心底から信頼しているこの方のご意見を伺いたいんですの。奥さま、あなたもあちらへいらっしゃらないで」

「ホフラコワ夫人」は「あたくし、あなたとごいっしょに入って、もし追いだされなければ、終りまで待っていますから」と言っていましたのでよかったですね。

「ホフラコワ夫人」をかえりみて、彼女は付け加えました。

彼女は「アリョーシャ」を隣に坐らせ、「ホフラコワ夫人」はその向い側に、「イワン」と並んで座りました。

「ここにいらっしゃるのはみなさん、あたくしの親しいお友達ですわ。あたくしがこの世で恵まれた親しい、やさしいお友達ばかりですわ」

「カテリーナ」はなんというか、公明正大ですね、基本的に隠し事などきらいな性格でしょう、もし隠し事などがあったとしても自分の中ではちゃんと整合性をとっているのだと思います。

彼女は熱っぽく話しだしましたが、その声には嘘いつわりない苦痛の涙がふるえていましたので、「アリョーシャ」の心はいっぺんにまた彼女のほうに向いてしまいました。

アレクセイ・フョードロウィチ、あなたは昨日あの・・・恐ろしい場面を目撃なさって、あたくしがどんなだったかをごらんになりましたわね。イワン・フョードロウィチ、あなたはごらんになりませんでしたけれど、この方はごらんになったんです。この方が昨日あたくしのことをどうお思いになったかは存じませんわ。あたくしにわかっているのは、あれとまったく同じことが今日、今この場でくりかえされるとしても、あたくしはやはり昨日と同じ感情を、あれと同じような感情、同じ言葉、同じ行動を示すにちがいない、ということだけですわ。あなたはあたくしの行動をおぼえてらっしゃるでしょう、アレクセイ・フョードロウィチ、あなたご自身、あたくしのそんな行動を止めてくださったんですもの・・・(こう言いながら、彼女は顔を赤らめ、きらりと目を光らせました)。はっきり申しあげておきますけれど、アレクセイ・フョードロウィチ、あたくしはどんなことにも忍従できない性分ですのよ。あのね、アレクセイ・フョードロウィチ、今になるとあたくし、彼(一字上に傍点)を愛しているかどうか、それさえわかりませんわ。彼が哀れ(二字上に傍点)になってきたんです、これは愛情にとって不利な証拠ですわね。もしあたくしが彼を愛しているなら、いまだに愛しつづけているなら、おそらく、今だって彼を憐れんだりせず、むしろ反対に憎んでいるでしょうし・・・」

この発言はふたつの意味で大変おどろきました。

ひとつは、昨日の自分の行動を正当化していること、もうひとつは「ドミートリイ」を愛しているかどうかわからないし、むしろ憎んでいると言ったことです。

昨日「カテリーナ」は「グルーシェニカ」に向かって「恥知らず、出て行け!」だの「出て行くがいい、淫売!」とひどいことを言ったり、叫び声をあげて、とびかかろうとしかけたのですが、そのことを反省もせずに、今でもその状態になれば、同じことを繰り返すというのは何という傲慢でしょう。

「カテリーナ」は、声がふるえはじめ、睫毛に涙が光りました。

「アリョーシャ」は内心ぎくりとしました。『このお嬢さんは正直で、誠実な人なんだ』と彼は思いました。『それに・・・この人はもうドミートリイを愛していない!』


「カテリーナ」は気位が高いが正直で誠実なのですね。


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