2017年7月4日火曜日

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「自分で言ったことは、ちゃんと裏付けますわ。あたくしにはその人の意見が必要なのです、それだけではなく、その人の決定が必要なんですわ! その人のおっしゃるとおりにいたしますもの。むしろ、それほどあなたのお言葉を待ちこがれていますのよ、アレクセイ・フョードロウィチ・・・・それにしても、どうなさったの?」

「カテリーナ」の批判ばかりになりますが、「その人のおっしゃるとおりにいたしますもの」とは何ということでしょう、先ほどは無視した人間に対して、もはや彼女の言葉の真実味が感じられません。

「僕は全然考えてもみませんでした。こんなこと、とても想像できませんでした!」

ふいに「アリョーシャ」は悲しげに叫びました。

「何が、何がですの?」

「兄がモスクワへ行ってしまうというのに、あなたが嬉しいと叫ぶなんて。あなたはわざとあんなことを叫んだんです! そのあとすぐに、そのことを喜んでいるわけじゃなく、反対に、友人を失うのは残念だなどと、弁解をはじめましたね。たけど、あれもわざと演技なさったんでしょう・・・・まるで舞台で喜劇でも演ずるみたいに!」

すごく思い切ったことを「アリョーシャ」は言ってくれました。

それは的を得たというか、正論だと思いますが、ここまで言ってしまうとこの後でちょっとまずいのでないかと心配になります。

また、この発言を聞いた「イワン」と「ホフラコワ夫人」もびっくりしたことでしょう。

「舞台で? なぜ?・・・・それ、何のことですの?」

「カテリーナ」は深いおどろきに包まれ、耳もとまで真っ赤になって、眉をひそめながら叫びました。

「いくらあなたが親友を失うのが残念だと、兄に力説なさったところで、やはり兄が行ってしまうのが嬉しいと、面と向って言い張っていることになりますよ・・・・」

なにかもうすっかり息をあえがせながら、「アリョーシャ」は言ってのけました。

彼はテーブルの前に立ち、坐ろうとしませんでした。

「何をおっしゃてるのか、わかりませんわ」

「僕自身もわからないんですけど・・・・ふいに目がぱっと開いたような気がしたんです・・・・こんなことを言ってはいけないと、承知してはいるんですが、やっぱり何もかも言ってしまいます」

「アリョーシャ」は相変わらずとぎれがちのふるえ声でつづけました。

「目が開いたというのは、つまり、あなたがたぶん、兄のドミートリイを少しも愛していないということなんです・・・・そもそもの初めから・・・・それにドミートリイもおそらく、あなたを全然愛してやしない・・・・最初から・・・・ただ尊敬しているだけなんです・・・・どうして今こんなことを思いきって言えるのか、本当のところ、僕にもわかりませんけれど、でも、だれかが真実を言わなければならないんです・・・・だって、ここではだれも真実を言おうとしないんですもの・・・・」

さらに強力な爆弾発言です。

そして、思ったことを言わずに去って行こうとする「イワン」と、不満があってもそれを言い出せない「ホフラコワ夫人」も批判しています。

「どんな真実?」

「カテリーナ」が叫びました。

その声には何かヒステリックなひびきがこもりはじめていました。

「こういうことです」

屋根からとびおりるような気持で、「アリョーシャ」はやっと言いました。

「今すぐドミートリイをよんでください。僕が見つけてきます。そして兄がここへ来たら、あなたの手をとらせ、それからイワン兄さんの手をとらせて、二人の手を結び合わさせるのです。なぜって、あなたはイワンを愛していらっしゃればこそ、苦しめているのですし・・・・なぜ苦しめるのかといえば、あなたはドミートリイを病的な興奮で愛し・・・・偽りの気持で愛しているからなんです・・・・それというのも、あなたが自分にそう信じこませて・・・・」

「ドミートリイ」をこの場に連れてくるというのも、予想できない強烈な発言ですね。

「アリョーシャ」はふと口をつぐみ、沈黙しました。

ついに「アリョーシャ」は「カテリーナ」の「ドミートリイ」への愛が「病的な興奮」ののせいだとまで言い切りましたね。

この「病的な興奮」ということは、わたしには朧げにしかわかりませんが、これは当時は誰もが明確に理解できる概念であったのかもしれません。


「アリョーシャ」もここでは、普段の彼らしくない思いきった直接的な言葉で「カテリーナ」を批判していますが、この状態は「一時的な興奮」であって「病的な興奮」とは違うわけですね。


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