2017年10月18日水曜日

566

七 『賢い人とはちょっと話してもおもしろい』

それに、口のきき方までそうでした。

これは、木戸口で「スメルジャコフ」と話しているうちにだんだん様子がおかしくなってしまった「イワン」のことです。

家に入るなり、広間で「フョードル」に出会うと、彼はだしぬけに両手をふりまわしながら「僕は二階の自分の部屋へ行くんです。お父さんのところじゃありませんよ、さよなら」と叫び、父を見ぬようにさえ務めながら、わきを通りすぎました。

「イワン」は(278)で書いたように、いきなり力まかせに「マクシーモフ」の胸を突いて二メートルもすっとばしたりと前から兆候はあったのですが、このあたりでいよいよ本当に自分の抑制がきかなくなり、精神に異常をきたしたとも考えられます。

老人がこの瞬間あまりにも憎らしかったということは大いにありうるとしても、これほど無礼な敵意の現わし方は「フョードル」にとっても意外でした。

実際また老人は一刻も早く何かを彼に知らせたかったらしく、そのためにわざわざ広間まで迎えに出たのでした。

「フョードル」が一刻も早く「イワン」に知らせたかったことは何か気になります。

これほどご親切な言葉に接したので、老人は無言のまま立ちどまり、中二階への階段をのぼってゆく息子を、姿が見えなくなるまで、嘲るような顔つきで見送っていました。

「どうしたんだ、あいつは?」

「イワン」のあとから入ってきた「スメルジャコフ」に、彼は急いでたずねました。

「何かにお腹立ちのようですが、さっぱりわかりません」

相手は曖昧な口調でつぶやきました。

「ふん、畜生! 勝手に腹を立てるがいいや! お前もサモワールを出したら、さっさと引っ込め、早くするんだ。何か新しい知らせはないか?」

このあと、まさしく「スメルジャコフ」がたった今「イワン」にこぼしたような、根掘り葉掘りの質問がはじまりました。

つまり、どの質問もすべて待ちこがれている女に関することばかりですから、ここではその質問は省略することにしよう。

物語の語り手も「フョードル」には愛想をつかせているようですね、あまりに馬鹿らしくて省略されています。

三十分後には、屋敷はすっかり閉ざされ、のぼせあがった老人がただ一人、今にも約束の五つのノックがきこえはせぬかと期待に胸をふるわせながら、部屋から部屋へと歩きまわり、ときおり暗い窓から外をのぞいてみるものの、夜のほかには何一つ見えませんでした。

つまり、トントン(小)=『アグラフェーナさまがお見えです』・トントントン(早)=『ぜひお目にかかりたい』ですね。


すでに彼は恋に夢中の若者になりきっていて、年齢など関係なくなっているのでしょうね。


0 件のコメント:

コメントを投稿