こうした熱っぽい、歓喜に燃える話のうちに、わたしたちの夕べはたてつづけに流れ過ぎていった。
わたしは社交界をもなおざりにし、よそへ客に行くこともずっと少なくなった。
それに、わたしに対する世間の熱も薄れはじめていた。
わたしはべつに非難のつもりで言っているのではない。
なぜなら、人々は相変わらずわたしを愛してくれ、快活に対応してくれたからだ。
だが、社交界では実際に流行が少なからぬ力をもつ女王であることは、やはり認めねばなるまい。
この一文は、「ゾシマ長老」に関する話題は過去のことになってゆき、社交界では、つまり巷では、新しい話題がもてはやされるようになったということですね。
つまり、どんなに興味深く、かつ本質的な内容の話であっても、時間というものは無情にもそれらを置き去りにして新しいものに飛びつくということです。
それは、まさに人間の本質的な部分は千年二千年たっても変わらず根底にありながらも、時代というものはそれとは全く関係なく、あるときは本質的な部分に接近したように見えることもあり、またあるときはそれから大きく離れて軽薄にみえることもあり、そんなこととは関わりなく、とにかく前に進むものだということでしょうか。
やがてついにわたしは、神秘的なこの客を感激の目で見るようになった。
というのも、彼の知性に対する喜びもさることながら、彼が心の内に何かの目論見を秘め、ことによるとたいへんな偉業を行う覚悟かもしれないのを、わたしは予感しはじめたからだ。
おそらく、わたしが彼の秘密に露骨な好奇心を示そうとせず、単刀直入にも、遠まわしにもたずねようとしなかった点も、彼の気に入ったのだろう。
だが、やがてわたしは、彼自身も何事かを打ち明けたいという気持に苦しみはじめたらしいのに気づいた。
少なくとも、わたしを訪問するようになってほぼひと月もすると、それが非常に目立つようになってきた。
「ご存知ですか」
あるとき、彼は言った。
「町じゅうでわたしたち二人のことにひどく興味をいだいて、わたしがあまり始終こちらへ伺うのをふしぎがっていますよ。でも、世間の人たちなどかまうもんですか。だって、もうじき何もかもはっきりする(十四字の上に傍点)んですから」
時にはふいに極度の興奮におそわれることもあり、そんなとき彼はほとんどいつも、ぷいと立って帰って行った。
また、時によると、永いこと射るような目でわたしを見つめていることもあった。
「今すぐ何か言うにちがいない」と思うのだが、彼はふいにこちらの言葉をさえぎって、何かきまりきった日常的なことを話しだすのだった。
頭痛を訴えることもひんぱんになった。
そんなある日、永いこと熱弁をふるったあとで、まったく思いがけなく、見るみるうちに青ざめ、顔がすっかりゆがんで、当の彼はひたとわたしを見つめた。
「どうしたんです」
わたしは言った。
「気分でもわるいんじゃありませんか?」
ちょうど彼は頭痛を訴えていたところだったのだ。
「わたしは・・・・ご存じないでしょうが・・・・わたしは・・・・人を殺したのです」
こう口走ると、微笑した。
顔が真っ青だった。
なぜ微笑したのだろう-何かを思いめぐらす前に、こんな考えが突然わたしの心を刺した。
わたし自身も蒼白になった。
「何ですって?」
わたしは叫んだ。
ここで一旦切ります。
わたしは「ゾシマ長老」の生い立ちや考え方について知りたいと思っていたのですが、だんだん離れてそれとは別の独立した話になってきているようです。
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