最後の言葉を彼女はヒステリックに叫びましたが、ふたたびこらえきれなくなり、両手で顔を覆って、枕に突っ伏すと、またしても嗚咽に身をふるわせました。
「ラキーチン」が席を立ちました。
「そろそろ時間だぜ」
彼は言いました。
「もう遅いよ、修道院に入れてもらえなくなるぞ」
「グルーシェニカ」ははじかれたように起き上がりました。
「ほんとに帰ってしまうつもり、アリョーシャ!」
彼女は悲痛なおどろきにかられて叫びました。
「今になってあたしになんてことをしてくれるの。あたしの心によびかけ、悩み苦しめたあげく、今またあんな夜がくるなんて、また一人ぼっちにされるなんて!」
この時、「グルーシェニカ」は、男のところへは行かないという決心をしていたようですね、またはモークロエからの使いが来ないかもしれないと思っていたのでしょう。
「だって、こいつが君のとこに泊るわけにもゆくまい! ま、本人が望むんなら、かまわんけど! 俺は一人で帰るよ!」
「ラキーチン」が毒のある冗談を言いました。
「黙りなさいよ、意地わる!」
「グルーシェニカ」が激怒してどなりつけました。
「あんたなんか、この人がわざわざ言いに来てくれたような言葉を、一度だって口にしたことがないじゃないの」
「こいつが何を言ってくれたんだい?」
「ラキーチン」は苛立たしげにつぶやきました。
「知らない、わからないわ、この人が何を言ってくれたか、あたしには何もわからない。でも、心で感じたのよ、この人はあたしの心をひっくり返してしまったの・・・・この人はあたしを憐れんでくれた最初の人よ、たった一人の人、そうなのよ! なぜ今まで来てくれなかったの、あたしの天使」
ふいに彼女はわれを失ったかのように、彼の前にひざまずきました。
「あたし、これまでずっと、あなたのような人を待っていたのよ。だれかそういう人が来て、あたしを赦してくれるって、知っていたわ。あたしみたいな汚れた女でも、きっとだれかが愛してくれるって、信じていたのよ、淫らな目的だけじゃなしに!」
「僕が何をしてあげたというんです?」
感動の微笑をうかべながら、「アリョーシャ」は彼女のほうに身をかがめ、やさしく両手をとって答えました。
「僕はあなたに一本の葱をあげただけですよ、ごく小さな葱をね、それだけ、それだけですよ!」
葱とはここでは愛のことですが、愛は葱のように見回せばその辺にあるということなのかもしれません。
こう言い終ると、彼自身も泣きだしました。
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