2018年3月1日木曜日

700

こうして、彼の心の内にはふたたび嫉妬がたぎり返っていました。

いずれにしても、急がねばなりませんでした。

何よりもまず、一時の間に合せに、たとえわずかでも金を作る必要がありました。

昨日の九ルーブルは往復でほとんど使いはたしてしまったし、文なしではどうにも動きがとれぬことはわかりきっていました。

だが、さっき馬車に乗っていた間に、新しい計画ともども、どこで急場しのぎの金を手に入れればよいかも、ちゃんと考えておきました。

彼は実包つきのすばらしい決闘用ピストルを一対持っており、今まで質に入れずにきたのも、自分の持物の中でいちばん大事にしていたからでした。

「実包」とは「実包または装弾とは弾丸・火薬・薬莢・雷管などから構成されていて、薬室等に装填すればすぐに発射可能な状態になっている火工品のことをいいます。散弾銃には散弾実包・スラッグ実包・その他ゴム弾の実包等、ライフル銃にはライフル実包、空気銃には空気銃弾がそれぞれ用いられます。一方、空包とは実包から弾丸を取り除いたもののことを言います。」とのこと。

「一対」と言いますから二丁持っていたのですね。

もうだいぶ以前のことになるが、彼は飲屋《都》で一人の若い官吏といくらか知合いになり、何かの折にやはりその飲屋で、この独身のきわめて裕福な官吏が武器のたいへんなマニヤで、ピストルや連発拳銃や短剣を買い集めては、自分の家の壁にずらりと飾り、知人に見せて自慢していることや、連発拳銃の機構とか、装填法、射撃法などの解説は名人芸だということを、小耳にはさんでいました。

永いこと考えたりせず、「ミーチャ」はすぐにその官吏のところに行き、ピストルを担保に十ルーブルの借金を申し入れました。

「永いこと考えたりせず」という前置きが生きているというかおもしろいですね。

十ルーブル、一万円です。

官吏は大喜びで、ひと思いに手放してしまうよう口説きおとしにかかりましたが、「ミーチャ」が承知しなかったため、絶対に利息なぞ受けとらないからと念を押したうえで、十ルーブル貸してくれました。

親しい友人となって別れたあと、「ミーチャ」は一刻も早く「スメルジャコフ」をよびだすため、父の家の裏手にある例のあずまやをめざして急ぎました。

しかし、こうしてふたたび、これから話すある事件につい三時間か四時間前まで、「ミーチャ」は一カペイカの持ち合せもなく、最愛の品を十ルーブルの担保におくほどでしたのに、三時間後には突然、何千ルーブルもの金を所有していることがわかった、という事実ができあがったのでした・・・・だが、わたしは先走りをしているようです。

語り手のわたしは「ある事件」の犯人は「ドミートリイ」があやしいと、いや彼しかいないとまで言っているようですがはたして素直にそう思っていいのでしょうか。


このままでは「ドミートリイ」は疑われても仕方ありませんから、彼はその大金の出所を明らかにするほかないでしょう。


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