2018年3月2日金曜日

701

「マリヤ・コンドラーチエヴナ」(フョードルの隣人)のところでは、「スメルジャコフ」の病気というショッキングな、面くらう知らせが待ち受けていました。

穴蔵への転落、そのあと癲癇の発作、医者の来診、「フョードル」の心遣いなどという経過を、彼はすっかりきかさせました。

さらに弟「イワン」が今朝もうモスクワへ向けて出発した話も、大いに関心を持ってききました。

『きっと俺より先にヴォローヴィヤを通ったはずだ』

「ドミートリイ」は思いましたが、「スメルジャコフ」の件はひどく彼を不安にしました。

『これからどうしよう、だれが見張ってくれるのだ、だれが俺に知らせてくれるんだ?』

彼は隣の母と娘に、ゆうべ何か気づいたことはなかったかを、むさぼるようにだずねはじめました。

相手は、彼の質問の意味が実によくわかっていましたので、だれも来なかったし、「イワンさま」が泊ってらしたから『まったく異状はなかった』と、彼の疑念を晴らしてくれました。

「スメルジャコフ」は「マリヤ・コンドラーチエヴナ」と親しいのですべてこの母娘にはこの親子をめぐる恋愛沙汰は興味津々ですね、それにカラマーゾフ家のごたごたもお喋りの「スメルジャコフ」から聞いて全部知っているでしょう。

「ミーチャ」は考えこみました。

今日も見張る必要があることは疑う余地もありませんが、その場所はどこにすべきか、ここか、それとも「サムソーノフ」の門口だろうか?

彼はその場の判断によってここでも向うでも見張らねばならぬと決心しましたが、さしあたり今は・・・・というのも、先ほど馬車の上で考えた新しい、今度こそ確実な計画が今や目の前に立ちはだかっていて、その実行を遅らせることはもはや不可能だったからなのです。

「ミーチャ」はそのために、一時間だけ犠牲にすることに決めました。

「ドミートリイ」の計画はピストルの十ルーブルだけではなかったのですね、(700)で「さっき馬車に乗っていた間に、新しい計画ともども、どこで急場しのぎの金を手に入れればよいかも、ちゃんと考えておきました。」と書かれていたように実際この十ルーブルは「急場しのぎの金」ですが、これは「新しい計画」とやらに必要だったのでしょうか。

『一時間ですべてを解決し、何もかも探りだすんだ。そうしたら、まず第一にサムソーノフの家へ行って、グルーシェニカがいるかどうか確かめよう。それからすぐにここへ引き返して、十一時までここに粘ってから、彼女を家へ送るためにサムソーノフのところへまた迎えに行くことにしよう』

こんなふうに彼は決めました。

彼は家へとんで帰ると、顔を洗い、髪をとかしつけ、服にブラシをかけて、身支度をととのえてから、「ホフラコワ夫人」の家に向いました。

悲しいことに、彼の《計画》とはここにあったのです。

この夫人に三千ルーブル借りることに決めたのです。

何より肝心なのは、彼の心に突然、なにかまったく唐突に、この夫人が自分の頼みを断わらぬだろうという、常軌を逸した確信が生まれたことでした。

そんな確信があったのなら、なぜ最初から、いわば自分と同じ社会であるここへ来ずに、どう話せばよいのか見当もつかぬ、別世界の人間である「サムソーノフ」のところへなぞ足を向けたのかと、ふしぎに思う人があるかもしれません。

しかし、ほかでもありませんが、「ホフラコワ夫人」とはこのひと月ほどすっかり疎遠になっていましたし、もともと浅い付き合いだったうえ、先方も虫酸の走るほど彼をきらっていることを、よく知っていたからです。

この夫人はそもそもの初めから彼を憎んでいましたが、それというのも、いっそ「カテリーナ」が彼を棄てて、《礼儀作法のあんなに立派な、騎士のように教養のあるイワン》と結婚してくれればいいがという気持をなぜかふいに夫人がいだいたというのに、彼が「カテリーナ」の婚約者であるという理由からにすぎませんでした。

「ミーチャ」の礼儀作法を、夫人はひどくきらっていました。

なにしろ「ミーチャ」は夫人を嘲笑し、一度なぞ『おっそろしく生きがよくて、くだけているけど、それと同じくらい教養のない女だ』と形容したことさえあったからです。

ところが今朝、馬車の上でこんな明るい考えが彼の心を照らしたのでした。

『そうだ、もしあの夫人が俺とカテリーナの結婚をひどく望まないとしたら、あれほどいやがっているなら(それがヒステリーに近いくらいなのを、彼は知っていた)、今この三千ルーブルを断る理由はないはずだ。なにしろ、その金で俺が、「カテリーナ」を棄てて、永久にここからずらかるためなんだからな。ああいうわがままな上流夫人てやつは、気まぐれで何かやる気になると、自分たちの流儀で成就させるためには何一つ惜しみやしないんだ。そのうえ、金持ときてるし』

「ミーチャ」はこう踏みました。


きわめて楽観的ですね。


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