2018年4月21日土曜日

751

「わたしの女神!」

ソファの男が叫びました。

「あなたのおっしゃることは、法律です。ご機嫌がわるいのを見て、わたしまで悲しいのです。わたしはかまいませんよ、あなた」

「ドミートリイ」をかえりみて、彼はこう結びました。

「はじめよう、諸君!」

「ミーチャ」はポケットから札束をつかみだし、その中から百ルーブル札を二枚テーブルの上に置きながら、すかさず言いました。

「僕はね、あなたにうんと負けたいんですよ。さ、カードを取って、賭けてください」

「ドミートリイ」は大金を持って捨て鉢の状態ですから、勝負はどうでもよくむしろ負けた方がいいのでしょう。

「カードはここの主人から借りるいいですね」

小柄なポーランド人が押しつけがましく、真顔で言いました。

まだこのパイプを吸うポーランド人の名前が出てきませんね、一緒に来ている「ヴルブレフスキー」よりは、重要な人物であるはずなのですが。

また、翻訳文の関係でポーランドの訛りが何だか中国語みたいですね。

「それが最良の方法だね」

「ヴルブレフスキー」が相槌を打ちました。

「主人から? いいでしょう、わかりました。主人のでもかまいませんよ、それは立派なもんだ! おい、カードだ!」

「ミーチャ」は主人に命じました。

主人がまだ封を切らぬカードを持ってきて、「ミーチャ」に、もう娘たちは集まっているし、シンバルを持ったユダヤ人たちもおそらく間もなくくるはずだが、食料品を積んだ馬車がまだ間に合わない、と告げました。

「ミーチャ」はテーブルの前からとび離れ、すぐ指図をしに隣の部屋に走りました。

しかし、娘は全部で三人来ているだけだったし、それに「マリヤ」もまだでした。

おまけに彼自身も、どう指図すればよいのか、何しに走りでてきたのか、わからぬ始末でした。

そこで、箱から土産物や、ドロップや、ヌガーを出して娘たちに分け与えるようにと、それだけ言いつけました。

「それから、アンドレイにウォトカをやってくれ。ウォトカをアンドレイにな!」

彼は手早く命令しました。

「アンドレイにわるいことをしたよ!」

このとき、あとを追って走りでてきた「マクシーモフ」が、ふいに彼の肩に手をかけました。

「わたしに五ルーブル貸してくださいませんか」

彼は「ミーチャ」にささやきました。

「わたしもバンクで運だめしをしたいもんで、ひ、ひ!」

「それはいい、上出来だ! 十ルーブル持っていきなさい、ほら!」

彼はまたポケットから札を全部引っ張りだして、十ルーブル札を探しだしました。

「負けたら、またいらっしゃい、またね・・・・」

「わかりました」

「マクシーモフ」は嬉しそうにささやいて広間に駆けこんで行きました。

「ミーチャ」もすぐに戻り、待たせたことを詫びました。

ポーランド人たちはすでに席につき、カードの封を切っていました。

今までずっと愛想よく、やさしいと言ってもよいような顔つきでした。

ソファの男は新しくパイプに火をつけ、カードを切る用意をしていました。

その顔には一種の荘厳さすらあらわれていました。

「席についてください、みなさん!」

「ヴルブレフスキー」が宣しました。

「いや、僕はもうやりませんよ」

「カルガーノフ」が答えました。

「さっき、五十ルーブルも負けたんですよ」

「あなた運わるかったです、今度は運よくなるかもしれません」

ソファの男が彼の方を向いて言いました。

「いくらのバンクです? 制限つきですか?」

「ミーチャ」はかっかしていました。

「いくらでもそうぞ。百でもいいです、二百でもかまいません、いくらでも賭けてください」

「百万だ!」

「ミーチャ」は哄笑しました。


「哄笑(こうしょう)」とは、どっと笑うことですね。


0 件のコメント:

コメントを投稿