「ペルホーチン」は、この夜もきっと「マカーロフ」の家でだれか客に会うことを確実に知っていましたが、それがだれかはわかりませんでした。
ところが、ちょうどこのとき、彼の家では検事と、郡会医の「ワルヴィンスキー」がブリッジをやっているところでした。
この郡会医はついこの間ペテルブルグから赴任してきたばかりの青年で、ペテルブルグ医科大学を優等で卒業した一人でした。
また検事は、というより、つまり検事補なのにこの町の人たちすべてに検事とよばれている「イッポリート・キリーロウィチ」は、この町では一種特別な人間で、まだそれほどの年ではなく、せいぜい三十五、六でしたが、ひどく結核になりやすそうな体格で、そのくせたいそう太った不妊症の女と結婚しており、自尊心が強く、癇癪もちで、それでも堅実な知性をそなえた、気立てのいい人間でした。
どうやら、彼の性格の難点は、本当の値打ち以上に、いささか自分を高く評価することでした。
いつも落ちつかぬ様子に見えるのも、そのためでした。
そのうえ、彼には、たとえば心理分析とか、人間のある種の高尚な、芸術的とさえいえる野心がありました。
その意味で彼は自分が職務上いささか疎んじられ、敬遠されていると思いこみ、上層部では自分の値打ちがわからないのだ、自分には敵が多いのだと常に信じこんでいました。
憂鬱なときなど刑事弁護士に転向すると啖呵をきることさえありました。
カラマーゾフ家の父親殺しという思いがけぬ大事件は、さながら彼の全身をふるいたたせたかのようでした。
『これはロシア全土に鳴りひびくほどの大事件だぞ』と彼は思いました。
しかし、こんなことを言うのは、先走りのようです。
この部分は郡会医の「ワルヴィンスキー」と検事補「イッポリート・キリーロウィチ」の紹介ですね、特に検事補の紹介が念入りなのは、後で登場する機会が多いからでしょう、彼はすでに(769)で「ドミートリイ」の前に現れており、《いつもぴかぴかの長靴をはいている》『あいつは四百ルーブルもする高級時計を持っていて、いつも見せびらかしているんだ』と書かれていましたが、ここでは「自尊心が強く、癇癪もちで、それでも堅実な知性をそなえた、気立てのいい人間」と書かれていて簡単には理解しづらい性格のようです。
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