隣の部屋には、つい二カ月前にペテルブルグからこの町に着任したばかりの若い予審調査官、「ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ」が、令嬢たちの相手をしていました。
のちに町の人たちは、《凶行》当夜、これらすべての人がまるで誂えたみたいに、担当官の家に顔をそろえていたことを、語りぐさにし、ふしぎがりさえしたものでした。
ところが事実はずっと単純で、きわめて自然な成行きだったのです。
「イッポリート・キリーロウィチ」は、奥さんが前日から歯痛を起していましたので、呻き声からどこかへにげだす必要があったのだし、郡会医はもともと晩になるとカードをする以外に行くべき場所を知らぬ男でし
た。
歯痛の奥さんは、たいそう太った不妊症の女でしたね。
また、予審調査官の「ネリュードフ」は、もう三日も前から、この晩は「マカーロフ」の家を訪ねて、姉娘の「オリガ」を茶目気たっぷりに突然ぎょっとさせてやるため、「僕はあなたの秘密を知っていますよ、今日があなたの誕生日だってことくらいわかっているんです、それなのにあなたは町じゅうの人を舞踏会によぶのがいやなので、ことさらみんなに隠そうとしましたね」と何気なく言ってやるつもりでいました。
彼女は年齢がばれるのを恐れているらしいのですが、今やこっちは秘密を握った人間なのだから、明日はみんなにしゃべっちまおう、などと、彼女の年齢を話題に大いに仄めかしや、笑いを予定したのでした。
この愛すべき青年はこういう点では大のいたずら好きで、この町の婦人たちは彼にいたずら坊主と綽名をつけていましたが、それがまた彼にはとても気に入っていたようでした。
もっとも、彼はたいそう上流社会の、立派な家柄の出で、立派な教育を受け、立派な感情をそなえており、享楽派でこそあったものの、いたって無邪気な、常に折目正しい青年でした。
見たところ、小柄で、ひよわそうな、きゃしゃな身体つきをしていました。
細い白い指にはいつも、度はずれに大きい指輪がいくつか光っていました。
職務を遂行する段になると、まるで自分の意義と任務とを神聖なものと理解しているかのように、並みはずれてものものしい態度になりました。
特に平民出の殺人犯やその他の凶悪犯の尋問にあたって、相手の意表をつくのが得意で、これは事実そういう連中の心に、尊敬とは言わぬまでも、とにかくある種のおどろきをひき起すのでした。
ここは、予審調査官「ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ」の紹介ですね、先ほどの検事補の「イッポリート・キリーロウィチ」とこの予審調査官の「ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ」の二人について職務に対する態度のようなことまで紹介されているということは今後の展開を理解するために彼らの仕事の仕方も必要になってくるのでしょう、性格の違いをしっかりと把握しておいた方がよさそうです。
ここで彼らについて少しまとめてみます。
「イッポリート・キリーロウィチ」:検事補・三十五、六・太った不妊症で歯痛の女と結婚・ひどく結核になりやすそうな体格・高級時計をみせびらかす・町の人たちには検事補でなく検事とよばれている・自尊心が強く癇癪もちで堅実な知性をそなえた気立てのいい人間・職務上いささか疎んじられ敬遠されていると思いこみ上層部では自分の値打ちがわからなく自分には敵が多いのだと常に信じておりカラマーゾフ家の父親殺しという思いがけぬ大事件は彼の全身をふるいたたせ『これはロシア全土に鳴りひびくほどの大事件だぞ』と思う。
「ネリュードフ」:予審調査官・《法律学校出》で若い・独身者・小柄でひよわそうなきゃしゃな身体つき・細い白い指に度はずれに大きい指輪・町の婦人たちからいたずら坊主と綽名・上流社会の立派な家柄の出で立派な教育を受け立派な感情をそなえており享楽派でこそあったもののいたって無邪気な常に折目正しい青年・職務を遂行する段になるとまるで自分の意義と任務とを神聖なものと理解しているかのように並みはずれてものものしい態度。
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