2018年8月12日日曜日

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「だって、あの男を安心させてやる必要があるだろう?」

「どうやって?」

「あのね、スムーロフ、僕は最初の一言でわからないで何度もきかれるのがきらいなんだよ。時には説明できないことだってあるんだからね。あの百姓の考えだと、中学生というのは鞭でぶたれるもんだし、ぶたれるのが当然なのさ。鞭でぶたれないようなら、なんで中学生なものか、というわけだ。そこへ突然僕が、うちの学校じゃぶたれないなんて言ったら、あの男はがっかりするじゃないか。もっとも、君にはこんなことはわからないな。民衆と話をするには、こつ(二字の上に傍点)を知らなけりゃいけないんだよ」

「ただ、からかうのはやめてよ。頼むからさ。でないとまた、いつかの鵞鳥のときみたいな騒ぎになるよ」

「いつかの鵞鳥のときみたいな騒ぎ」とは何でしょうか。

「心配なのかい?」

「笑ったりしないでよ、コーリャ、僕ほんとに心配なんだ。お父さんにすごく叱られるもの。君と出歩くのは固く禁じられてるんだよ」

「心配するなよ、今日は何も起りゃしないから。こんにちは、ナターシャ」

庇の下にいる物売り女の一人に彼は声をかけました。

「あたしはナターシャじゃないよ、マリヤさ」

あたりかまわず声をかけるなんてとんでもない子供ですね。

まださほどの年でもない物売り女が、甲高い声で答えました。

「マリヤか、それはいいや。さよなら」

「なにさ、腕白小僧、そんなちびのくせに、一匹前の口きいて!」

「忙しいんでね、あんたと話してる暇はないんだ、話なら今度の日曜にしておくれ!」

まるで、言いがかりをつけたのが自分ではなく、女のほうだといわんばかりに、「コーリャ」は両手を振りました。

「日曜に何をお前に話すっていうんだい? 言いがかりをつけたのは、あたしじゃなくて、そっちなんだよ、腕白め」

「マリヤ」は叫びました。

「ひっぱたいてやるといいんだ、ほんとにさ、お前は札つきの不良なんだから、まったく!」

「マリヤ」と並んでそれぞれ屋台で商っていた他の物売り女たちの間に、笑い声があがりましたが、そのとき突然、町の商店のアーケードの下から、理由もわからずに憤慨した、一人の店員風の男がとびだしてきました。

この町の商人ではなく、よそ者で、裾の長い紺色の長上衣に、つばのついた帽子をかぶり、栗色のちぢれた髪に、青白い長いあばた顔をした、まだ若い男でした。


男はなにやら愚かしく興奮し、すぐさま拳で「コーリャ」を脅しにかかりました。



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