「おじさんは赦してくれるかい?」
「もちろん赦すとも。さ、お行き」
「こいつはおどろいた。おじさんは賢い百姓らしいね」
「お前よりは賢いさ」
思いがけなく、今までどおりの重々しい口調で、百姓は答えました。
「まさか」
「コーリャ」はいささか呆然としました。
「本当だとも」
「そうかもしれないね」
「そうだとも」
「さよなら、お百姓さん」
「さよなら」
「百姓にもいろいろあるな」
しばしの沈黙のあとで、「コーリャ」が「スムーロフ」に感想を洩らしました。
「まさか、あんな賢い男にぶつかるとは知らなかったよ。僕はいつだって民衆の知恵を認めるつもりでいるんだ」
「コーリャ」がこの百姓を賢いと判断した理由は特に書かれていませんが会話からそう思ったのですね。
遠い寺院の時計が十一時半を打ちました。
少年たちは足を早め、「スネギリョフ」二等大尉の住居までの、残りのかなり長い道のりを、もうほとんど話もせず、急いで歩きとおしました。
家まであと二十歩ほどのところで「コーリャ」は立ちどまり、「スムーロフ」に先へ行って、「カラマーゾフ」をここへよびだしてくるよう命じました。
「前もって当りをつける必要があるからな」
彼は「スムーロフ」に断りました。
「よびだす必要があるかな」
「スムーロフ」が反対しかけました。
「そのまま入って行けば、君を見てみんなひどく喜ぶだろうよ。どうしてこんな寒空で知合いになったりするの?」
「どうしてこんな寒空にここへよびだすのかは、僕が知ってることさ」
「コーリャ」は暴君のようにぴしりと言いました(こういう《子供》に対しては、そうするのが大好きだったのだ)。
「スムーロフ」は命令をはたしに走って行きました。
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