四 ジューチカ
「コーリャ」はもったいぶった表情で塀によりかかり、「アリョーシャ」の出てくるのを待ちはじめました。
そう、「アリョーシャ」とはもうずっと以前に知合いになりたいと思っていました。
少年たちから噂はいやというほどきかされていましたが、今までは彼の話がでると、いつもうわべでは軽蔑するような無関心な態度を示し、みなの伝える話をききながら、「アリョーシャ」を《批判》さえしたものでした。
しかし、内心ではとても知合いになりたいと思っていました。
彼のきいた「アリョーシャ」に関するどの話にも、何か心をひかれ、共感するものがありました。
こういうわけで、今のこの瞬間は重大でした。
まず第一に、恥をかくようなことをせず、自立性を示す必要がありました。
『でないと、僕を十三だと思って、あの連中と同じような子供と見なすだろうからな。あの人にとって、あんな子供たちが何だというんだろう? 仲よくなったら、きいてみよう。それにしても、僕がこんなに背が低いってのは、不愉快だな。トゥジコフは僕より年下だけど、背は頭半分だけ高いもの。でも、僕の顔は利口そうだ。そりゃ美少年じゃないさ、いけすかない顔だってことは承知してるけど、でも利口そうな顔だ。それから、あまり自分の考えを述べないようにしなけりゃな。でないと、すぐに抱擁し合ったりして、なめてかかるからな・・・・ちぇ、なめてかかられたら、いやらしいな!」
「コーリャ」は精いっぱい一人立ちの人間らしい様子をしようと努めながら、こんなふうに胸を騒がせていました。
何よりも、彼を苦しめていたのは、低い背丈でした。
《いけすかない》顔も、背丈ほど苦になりませんでした。
彼の家には、片隅の壁に去年から身長を測った線が鉛筆で記され、それ以来ふた月ごとに胸をどきつかせながら、どれだけ伸びたかをまた計りに行くのでした。
しかし、悲しいことに、背丈の伸びはおそろしく少なく、そのことが時にはそれこそ彼を絶望に追いこむのでした。
顔について言うなら、ちっとも《いけすかない》顔でなぞなく、むしろ反対に、かなりかわいらしい、色白の、やや青ざめた、そばかすのある顔でした。
小さいが、生きいきした灰色の目はものおじせず、感情に燃えあがることがしばしばありました。
頰骨はやや広く、小さな唇はさほど厚くはないが、とても赤いのでした。
鼻は小さく、まるきりしゃくれていました。
『まったくの獅子鼻じゃないか、まるきり獅子鼻だ!』
鏡で眺めては、「コーリャ」はひそかにつぶやき、いつも腹を立てて鏡のそばを離れるのでした。
『それに、利口そうな顔かどうか怪しいもんだぞ?』
ときおりはそれまで疑って、思うこともありました。
とはいえ、顔や身長の心配が彼の心をすっかり占めていた、などと考えてはいけない。
むしろ反対に、鏡の前にいる瞬間がどんなに苦しいものであろうと、彼はすぐにそんな瞬間を忘れ、永いこと思いだしもせずに、彼が自分の行為を規定した言葉を借りるなら、『思想と現実生活に自己のすべてを打ちこむ』のでした。
作者は、「コーリャ」の特徴を念入りに描いていますね、これは今後の展開に重要な人物であると思わせます。
「アリョーシャ」は間もなく姿をあらわし、「コーリャ」の方に急ぎ足でやってきました。
まだ五、六歩離れているうちに、「コーリャ」は、「アリョーシャ」が何かまったく嬉しそうな顔をしていることを、見きわめていました。
『ほんとうに僕と会うのがそんなに嬉しいのかな?』
「コーリャ」はおどろいて思いました。
ここでついでに記しておきますが、「アリョーシャ」はわれわれと別れたとき以来、すっかり変わりました。
僧服をぬぎすて、今ではみごとな仕立てのフロックと、ソフトを身につけ、髪は短く刈りこんでいました。
これらすべてが彼の男ぶりを大いにあげ、まったくの美青年に見えました。
かわいげな顔は常に明るい表情をたたえていましたが、その明るさは何か静かな落ちついたものでした。
「コーリャ」のおどろいたことに、「アリョーシャ」は部屋にいたときの服装のまま、外套も着ないで出てきたのでした。
急いできたことは明らかでした。
彼はいきなり「コーリャ」に片手をさしのべました。
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