2018年8月17日金曜日

869

四 ジューチカ

「コーリャ」はもったいぶった表情で塀によりかかり、「アリョーシャ」の出てくるのを待ちはじめました。

そう、「アリョーシャ」とはもうずっと以前に知合いになりたいと思っていました。

少年たちから噂はいやというほどきかされていましたが、今までは彼の話がでると、いつもうわべでは軽蔑するような無関心な態度を示し、みなの伝える話をききながら、「アリョーシャ」を《批判》さえしたものでした。

しかし、内心ではとても知合いになりたいと思っていました。

彼のきいた「アリョーシャ」に関するどの話にも、何か心をひかれ、共感するものがありました。

こういうわけで、今のこの瞬間は重大でした。

まず第一に、恥をかくようなことをせず、自立性を示す必要がありました。

『でないと、僕を十三だと思って、あの連中と同じような子供と見なすだろうからな。あの人にとって、あんな子供たちが何だというんだろう? 仲よくなったら、きいてみよう。それにしても、僕がこんなに背が低いってのは、不愉快だな。トゥジコフは僕より年下だけど、背は頭半分だけ高いもの。でも、僕の顔は利口そうだ。そりゃ美少年じゃないさ、いけすかない顔だってことは承知してるけど、でも利口そうな顔だ。それから、あまり自分の考えを述べないようにしなけりゃな。でないと、すぐに抱擁し合ったりして、なめてかかるからな・・・・ちぇ、なめてかかられたら、いやらしいな!」

「コーリャ」は精いっぱい一人立ちの人間らしい様子をしようと努めながら、こんなふうに胸を騒がせていました。

何よりも、彼を苦しめていたのは、低い背丈でした。

《いけすかない》顔も、背丈ほど苦になりませんでした。

彼の家には、片隅の壁に去年から身長を測った線が鉛筆で記され、それ以来ふた月ごとに胸をどきつかせながら、どれだけ伸びたかをまた計りに行くのでした。

しかし、悲しいことに、背丈の伸びはおそろしく少なく、そのことが時にはそれこそ彼を絶望に追いこむのでした。

顔について言うなら、ちっとも《いけすかない》顔でなぞなく、むしろ反対に、かなりかわいらしい、色白の、やや青ざめた、そばかすのある顔でした。

小さいが、生きいきした灰色の目はものおじせず、感情に燃えあがることがしばしばありました。

頰骨はやや広く、小さな唇はさほど厚くはないが、とても赤いのでした。

鼻は小さく、まるきりしゃくれていました。

『まったくの獅子鼻じゃないか、まるきり獅子鼻だ!』

鏡で眺めては、「コーリャ」はひそかにつぶやき、いつも腹を立てて鏡のそばを離れるのでした。

『それに、利口そうな顔かどうか怪しいもんだぞ?』

ときおりはそれまで疑って、思うこともありました。

とはいえ、顔や身長の心配が彼の心をすっかり占めていた、などと考えてはいけない。

むしろ反対に、鏡の前にいる瞬間がどんなに苦しいものであろうと、彼はすぐにそんな瞬間を忘れ、永いこと思いだしもせずに、彼が自分の行為を規定した言葉を借りるなら、『思想と現実生活に自己のすべてを打ちこむ』のでした。

作者は、「コーリャ」の特徴を念入りに描いていますね、これは今後の展開に重要な人物であると思わせます。

「アリョーシャ」は間もなく姿をあらわし、「コーリャ」の方に急ぎ足でやってきました。

まだ五、六歩離れているうちに、「コーリャ」は、「アリョーシャ」が何かまったく嬉しそうな顔をしていることを、見きわめていました。

『ほんとうに僕と会うのがそんなに嬉しいのかな?』

「コーリャ」はおどろいて思いました。

ここでついでに記しておきますが、「アリョーシャ」はわれわれと別れたとき以来、すっかり変わりました。

僧服をぬぎすて、今ではみごとな仕立てのフロックと、ソフトを身につけ、髪は短く刈りこんでいました。

これらすべてが彼の男ぶりを大いにあげ、まったくの美青年に見えました。

かわいげな顔は常に明るい表情をたたえていましたが、その明るさは何か静かな落ちついたものでした。

「コーリャ」のおどろいたことに、「アリョーシャ」は部屋にいたときの服装のまま、外套も着ないで出てきたのでした。

急いできたことは明らかでした。


彼はいきなり「コーリャ」に片手をさしのべました。


0 件のコメント:

コメントを投稿