2018年8月18日土曜日

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「やっと来てくれましたね、みんなで君を待っていたんですよ」

「今すぐおわかりになるでしょうが、いろいろ理由があったものですから。とにかく、お目にかかれて嬉しく思います。以前から機会を待っていましたし、お噂はいろいろと」

いくらか息をはずませながら、「コーリャ」はつぶやきました。

「こんなことがなくても、僕たちは知合いになってよかったはずですね。僕自身も君の噂はいろいろときいていましたし。でも、ここへ、こちらへ来るのはずいぶん遅かったじゃありませんか」

「どうなんですか、様子は?」

「コーリャ」は「遅かった」理由を説明しませんね、話をはぐらかすのもうまいのでしょうか。

「イリューシャがとてもわるいんです。あの子はきっと死ぬでしょうよ」

「そんな! 医学なんて卑劣なもんですね、そうじゃありませんか、カラマーゾフさん!」

「コーリャ」はむきになって叫びました。

「イリューシャは始終、ほんとうに何度も君のことを思いだしていましたよ。だってね、夢にまでうわごとで言うくらいですもの。どうやら、前には君はあの子にとって、とても大事な人だったようですね・・・・例の・・・・ナイフの事件までは。それと、もう一つ原因があるんですよ・・・・それはそうと、これは君の犬ですか?」

「コーリャ」は医学を軽蔑しているので、「アリョーシャ」にそれをぶつけたのでしょうか、今度は「アリョーシャ」がそれには答えません、先ほどは「アリョーシャ」の質問に対して「コーリャ」が答えませんでしたが、こういうことは現実ではよくあることですが、小説の中ではあまりないのではないでしょうか、しかしそれを書くことで何か表現しているのかもしれませんが、「ペレズヴォン」はずっと「コーリャ」に付いてきていたのですが、道中で全くその様子が触れられていないのは少し不自然ですね。

「ええ。ペレズヴォンです」

「ジューチカじゃないんですか?」

「アリョーシャ」は残念そうに「コーリャ」の目をのぞきこみました。

「あの犬はもう、あのまま行方がわからないんですね?」

「あなた方がみんな、ジューチカだといいのにと思っていることは、僕も知ってます。話は全部ききましたから」

「コーリャ」は謎めいた薄笑いをうかべました。

この「謎めいた薄笑い」は後になってその理由がわかります。

「あのね、カラマーゾフさん、僕はあなたに事情をすべて説明します。何よりも、そのために来たんですから。家に入る前に、あらかじめあなたに一連の出来事をすっかり説明しておこうと思って、そのためにあなたをよびだしたんですよ」

彼は張りきって話しだしました。

「実はね、カラマーゾフさん、イリューシャはこの春予備クラスに入ったんです。でも、ご存じのとおり、ここの予備クラスなんて、みんな子供ばかりですからね。みんなはすぐにイリューシャをいじめだしたんですよ。僕は二級上だから、もちろん、少し離れて遠くから見ていました。見ると、ちっぽけな弱々しい子なのに、降参せずに、取っ組み合いの喧嘩までしてるじゃありませんか。気位の高い子で、目をきらきらさせているんです。僕はこういう子が好きなんですよ。ところが、みんなはいっそうひどくいじめるんです。何よりも、そのころあの子はひどい外套を着てたし、ズボンがたくしあがって、長靴は穴だらけときている。それをからかうんです。ばかにしてね。ええ、そんなのは僕はきらいだから、すぐに味方をして、こっぴどい仕返しをしてやったんです。みんな、やっつけてやりましたよ。で、みんなは僕を崇拝しているんです、これはご存じでしょう、カラマーゾフさん?」


感情まるだしに「コーリャ」は自慢しました。


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