2018年9月26日水曜日

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「だって《前の人》のことは、兄も知ってたじゃありませんか?」

「そうなのよ。そもそもの馴れそめから、今日にいたるまでのことを全部知っているくせに、いきなり今日立ちあがって、どなりだすのよ。口にするのも恥ずかしいようなことを言い散らして。ばかな人! あたしが出てきたのと入れ違いに、ラキートカが来たわ。ひょっとすると、ラキートカがたきつけているのかもね? どう思って?」

なにか放心したように彼女は付け加えました。

「兄はあなたを愛してます。そうですとも。とても愛してますよ。今日はちょうど気分が苛立ってたんですよ」

「苛立つのもむりはないわね、明日が公判ですもの。あたしが面会に行ったのも、明日のことで一言話しておくためだったのよ。だって、アリョーシャ、明日どうなるかと考えるのさえ恐ろしくって! あの人が苛立ってたなんて、あなたは言うけど、あたしのほうこそ苛立っているわ。それなのにあの人ったら、あんなポーランド人のことなんぞ! なんてばかな人かしら! マクシームシカのことは、妬かないらしいけど」

わたしが思っていたとおり「マクシーモフ」のことが出てきました、ということはやはり彼女は「ドミートリイ」に全部話しているのですね、そうでなくとも誰かから「マクシーモフ」のことは伝わるでしょうが。

「うちの家内もひどく妬いたもんでした」

「マクシーモフ」が口をはさみました。

「へえ、あんたにね」

「グルーシェニカ」は思わず笑いました。

「だれのことで妬くの?」

「小間使の娘たちのことですよ」

前にもそうでしたが、「マクシーモフ」は場の空気を読むことが苦手のようで、ちょっとピントがはずれているようです。

「ねえ、黙っててよ、マクシームシカ、こっちは今冗談どころじゃないんだから。それどころか腹の中が煮えくり返るくらいだわ。ピロシキをじろじろ眺めてもだめよ、あんたにはあげないから。身体にわるいもの。バリザム(訳注 ラトヴィアの薬酒)もだめ。ほんとにこの人にも手がかかるし。まるでうちは養老院みたい、ほんとに」

まず「ラトヴィア」から調べてみると、「ラトビア共和国(ラトビアきょうわこく、ラトビア語: Latvijas Republika)、通称ラトビアは、冷戦時代に旧ソ連に属した北ヨーロッパの共和制国家(1990年に独立)。EU、NATO、OECDの加盟国。通貨はユーロ、人口は201.5万人、首都はリガである。」とのこと、しかしこの訳注では「バリザム」が「ラトヴィア」の薬酒となっていますが、「バリザム」は「ラトヴィア」以外のもあるようで、原文ではどうなっているか知りたいところです。

次に「バリザム」は、「バリザム(балъзам)というのはロシア語で薬草酒のこと。地方によって色々な薬草酒があるようですが、私はあまり多くの種類のロシア産バリザムを飲んだことはなくて、留学時から愛飲していたのはチェコ産のベヘロフカでした。ベヘロフカは、日本でもちょっとマニアックなソムリエの勉強会なら出たことがあるから、割と日本でも知名度あるのかも知れません。30種類以上のハーブが使われていて、その原材料を知る人は世界で2人しかいないんだそう。養命酒が14種類の生薬、イェーガーマイスターが56種類のハーブを使用しているとのことなのでその中間くらいですかね。風邪をひいたとき、熱い紅茶に入れて飲んだりしてました。熱が出ると今でも反射的にベヘロフカが欲しくなります。」と、これはある人のブログを勝手に引用しました。

彼女は笑いだしました。

「わたしはあなたのご親戚に値しない人間です。役立たずで」

「マクシーモフ」が涙声で口走りました。

「わたしなぞよりもっと必要な人間に、ご親切を施すほうがよろしゅうございますよ」

「あら人間はだれだって必要なのよ、マクシームシカ、それに、どっちの人がより必要かなんて、どうして見分けられるの。せめてあのポーランド人がすっかりいなくなってくれればね、アリョーシャ、あの男まで今日は一匹前に病気になったりするんだもの。今日はあの男のところにも寄ってみたのよ。そうだわ、いやがらせにあの男にもピロシキを届けてやろう。あたしが届けもしないのに、ミーチャったら、あたしが貢いでるなんて責めるんだもの。こうなったら、いやがらせに届けてやるわ、いやがらせに! ほら、フェーニャが手紙を持ってきたわ! ほらね、案の定、またポーランド人からよ。またお金の無心だわ!」


この発言でいろいろな疑問が解けましたね、やはりポーランド人は、まだ立ち去っておらず、近くにいるのですね、そしてお金の無心までしているのですね、「グルーシェニカ」は、口は悪いのですが、優しい性格なので放っておけないようです。


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