老人も時によると話の一つや二つできることがわかりましたので、しまいには彼女にとって必要な存在にさえなりました。
どうもこの素行の悪そうな「マクシーモフ」を同居させている意味がわかりませんね、(761)で例のモークロエのドタバタ騒ぎの時に「マクシーモフ」は「ちょいとお話が!」と「ドミートリイ」に言って「実は、ほらあの娘、マリューシカでございますがね、ひ、ひ、できればなんとか、仲よくなりたいもんだと思いまして、ご親切に甘えて・・・・」と金の無心をしていましたね。
こまめに寄ってくれる「アリョーシャ」のほかには、といっても毎日ではなく、しかもいつもほんのしばらく寄るだけでしたが、「グルーシェニカ」は、ほとんどだれとも会おうとしませんでした。
パトロンだった老商人は、この当時すでに重い病で寝ており、《臨終も近い》と町では噂していましたし、事実「ミーチャ」の裁判のわずか一週間後にこの世を去りました。
死の三週間前、間近な最期を感じとって、彼はついに二人の息子とその妻子を二階の自室によび、今後はもう自分のそばを離れぬよう命じました。
そのときから「グルーシェニカ」のことは家にまったく入れぬよう召使たちにきびしく申し渡し、もし来たら、「末永く楽しく暮して、旦那さまのことはさっぱり忘れるように、とのお言葉でございました」と伝えるよう、命じました。
この「サムソーノフ」の言ったことは、つまり「グルーシェニカ」を家に入れるなということは、どういうことでしょうか、彼は物事がわかるなかなかの好人物の印象がありましたので、彼の意図というか、真意がわかりかねます。
それでも「グルーシェニカ」は、ほとんど毎日のように使いを出して、容態をきかせていました。
「やっと来てくださったのね!」
カードを放りだし、嬉しそうに「アリョーシャ」と挨拶を交わしながら、彼女は叫びました。
「このマクシームシカったら、もうお見えにならないだろうなんて、そりゃ脅かすんですもの。ああ、ぜひお会いしたかったの! お掛けになって。何になさる、コーヒー?」
「そうですね」
テーブルの前に座りながら、「アリョーシャ」は言いました。
「お腹がぺこぺこなんです」
「あらあら。フェーニャ、フェーニャ、コーヒーをね!」
「グルーシェニカ」が叫びました。
「もうさっきからコーヒーが煮立って、あなたを待ってますわ。ピロシキもちょうだい、熱いのをね。ねえ、ちょっと、アリョーシャ。今日はこのピロシキのことで雷を落されたのよ。刑務所にピロシキを差入れに行ったら、どうでしょう、あの人はそれを突き返して、結局食べないんですもの。ピロシキを一つそれこそ床にたたきつけて、踏みつぶしたりして。だからあたし、『看守さんに預けていくわ。晩までに食べなければ、執念深い憎しみがあんたを養ってるってことね』って言って、そのまま帰ってきちゃったわ。また、喧嘩しちゃった、本当の話。いつ行っても、必ず喧嘩になってしまうの」
「グルーシェニカ」は興奮して、これらすべてをひと息にまくしたてました。
「マクシーモフ」はとたんにおどおどして、薄笑いをうかべ、目を伏せました。
「今度は喧嘩の原因は何ですか?」
「アリョーシャ」はきいてみました。
「それが全然思いもかけないことなの! 考えてもみてちょうだい、あの人《前の男》に嫉妬してね。『なぜあんなやつを食わせてやってるんだ。お前、あの男に貢ぎはじめたろう?』なんて言うのよ。いつも妬いているの、のべつ妬いてばかりだわ! 寝てるときも、食べてるときも、妬いてるんだもの。先週なんぞサムソーノフのことまで妬く始末だったわ」
《前の男》は立ち去ったはずですが、まだ「グルーシェニカ」の周りにいて、彼女はお金を渡しているのでしょうか、それともそれは「ドミートリイ」の幻想でしょうか、嫉妬の苦しみはたいへんなものでしょうが、彼は「マクシーモフ」が同居していることは知っているのでしょうか、「グルーシェニカ」は隠し事などしない性格ですので、全部話していると思うのですが。
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