「お前はそんなことまですべて、あのとき、あの場で考えぬいたのか?」
おどろきにわれを忘れて、「イワン」は叫びました。
彼はまた怯えたように「スメルジャコフ」を眺めました。
「とんでもない、あんな急いでいる中でそこまで考えられるもんですか? すべて、前もって考えぬいておいたんです」
「じゃ・・・・じゃ、つまり悪魔の助けがあったんだ!」
「イワン」は「悪魔」という言葉にとらわれているようですね。
「イワン」はまた叫びました。
「いや、お前はばかじゃない。俺が考えていたより、ずっと頭がいい・・・・」
彼は明らかに部屋の中を歩きまわるつもりで、席を立ちました。
恐ろしく気が滅入りました。
しかし、テーブルが道をふさぎ、テーブルと壁の間はやっとすりぬけるくらいの余裕しかなかったので、その席で向きを変えただけで、また腰をおろしました。
うまく歩きまわれなかったことが、おそらく突然に苛立たせたのだろうが、彼はほとんど先ほどと同じくらい狂おしく、ふいに叫びだしました。
何と言う情緒不安定でしょうか、感情がそのまま行動にあらわれています。
「おい、お前は不幸な、卑しむべき人間だな! 俺がいまだにまだお前を殺さずにきたのは、明日の法廷で答えさせるためにとっておくんだってことが、お前にはわからないのか。神さまが見ていらっしゃる」
「イワン」は片手を上にあげました。
「ことによると、俺にも罪があるかもしれないし、ことによると俺は本当に、親父が・・・・死んでくれることを、ひそかに望んでいたかもしれない。しかし、誓って言うが、俺にはお前が考えているほどの罪はないし、ことによると、全然お前をそそのかしたことにならぬかもしれないんだぞ! そう、そうだとも、俺はそそのかしたりしなかった! しかし、いずれにせよ、俺は明日、法廷で自分のことを証言する。決心したんだ! 何もかも話すんだ、何もかもな。しかし、お前を連れて出頭するからな! 法廷でお前が俺に関して何を言おうと、どんなことを証言しようと、俺は甘んじて受けるし、お前を恐れたりしない。こっちこそ、何もかも裏付けてやるよ! しかし、お前も法廷で自白しなけりゃいかんぞ! 必ずそうしなけりゃいけない。いっしょに行くんだ! そうするからな!」
「イワン」は荘重に力強くこう言い放ちました。
光かがやくその眼差しだけからも、きっとそうなることは明らかでした。
「あなたはご病気なんですよ。こうして拝見していても、まったく病人ですもの。目はすっかり黄色くなっているし」
「スメルジャコフ」が言いました。
しかし、まったく嘲笑のひびきはなく、むしろ同情するような口調でした。
「いっしょに行くんだ!」
「イワン」はくりかえしました。
「お前が行かなくたって、どうせ俺が一人で自白するからな」
「スメルジャコフ」は考えこむかのように、少し黙りました。
「そんなことには、なりゃしませんよ。あなただって、いらっしゃりはしませんとも」
その根拠は何でしょうか。
やがて彼は有無を言わさぬ口調で断定しました。
「俺の気持が、お前なんぞにわかるか!」
「イワン」はなじるように言いました。
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