2018年11月30日金曜日

974

「お前はそんなことまですべて、あのとき、あの場で考えぬいたのか?」

おどろきにわれを忘れて、「イワン」は叫びました。

彼はまた怯えたように「スメルジャコフ」を眺めました。

「とんでもない、あんな急いでいる中でそこまで考えられるもんですか? すべて、前もって考えぬいておいたんです」

「じゃ・・・・じゃ、つまり悪魔の助けがあったんだ!」

「イワン」は「悪魔」という言葉にとらわれているようですね。

「イワン」はまた叫びました。

「いや、お前はばかじゃない。俺が考えていたより、ずっと頭がいい・・・・」

彼は明らかに部屋の中を歩きまわるつもりで、席を立ちました。

恐ろしく気が滅入りました。

しかし、テーブルが道をふさぎ、テーブルと壁の間はやっとすりぬけるくらいの余裕しかなかったので、その席で向きを変えただけで、また腰をおろしました。

うまく歩きまわれなかったことが、おそらく突然に苛立たせたのだろうが、彼はほとんど先ほどと同じくらい狂おしく、ふいに叫びだしました。

何と言う情緒不安定でしょうか、感情がそのまま行動にあらわれています。

「おい、お前は不幸な、卑しむべき人間だな! 俺がいまだにまだお前を殺さずにきたのは、明日の法廷で答えさせるためにとっておくんだってことが、お前にはわからないのか。神さまが見ていらっしゃる」

「イワン」は片手を上にあげました。

「ことによると、俺にも罪があるかもしれないし、ことによると俺は本当に、親父が・・・・死んでくれることを、ひそかに望んでいたかもしれない。しかし、誓って言うが、俺にはお前が考えているほどの罪はないし、ことによると、全然お前をそそのかしたことにならぬかもしれないんだぞ! そう、そうだとも、俺はそそのかしたりしなかった! しかし、いずれにせよ、俺は明日、法廷で自分のことを証言する。決心したんだ! 何もかも話すんだ、何もかもな。しかし、お前を連れて出頭するからな! 法廷でお前が俺に関して何を言おうと、どんなことを証言しようと、俺は甘んじて受けるし、お前を恐れたりしない。こっちこそ、何もかも裏付けてやるよ! しかし、お前も法廷で自白しなけりゃいかんぞ! 必ずそうしなけりゃいけない。いっしょに行くんだ! そうするからな!」

「イワン」は荘重に力強くこう言い放ちました。

光かがやくその眼差しだけからも、きっとそうなることは明らかでした。

「あなたはご病気なんですよ。こうして拝見していても、まったく病人ですもの。目はすっかり黄色くなっているし」

「スメルジャコフ」が言いました。

しかし、まったく嘲笑のひびきはなく、むしろ同情するような口調でした。

「いっしょに行くんだ!」

「イワン」はくりかえしました。

「お前が行かなくたって、どうせ俺が一人で自白するからな」

「スメルジャコフ」は考えこむかのように、少し黙りました。

「そんなことには、なりゃしませんよ。あなただって、いらっしゃりはしませんとも」

その根拠は何でしょうか。

やがて彼は有無を言わさぬ口調で断定しました。

「俺の気持が、お前なんぞにわかるか!」


「イワン」はなじるように言いました。


0 件のコメント:

コメントを投稿