2018年12月22日土曜日

996

「さっきリーザのことで俺に何て言ったんだい?」

ふたたび「イワン」が話しだしました。

(彼はひどく饒舌になっていた)

「リーザは好きだよ。俺はあの子のことで、何かいやらしいことをお前に言ったな。あれは嘘さ、あの子は気に入ってるよ・・・・俺は明日、カーチャが心配だよ、何より心配なんだ。今後のことがな。彼女は明日、俺を棄てて、踏みつけにするだろうよ。俺が嫉妬からミーチャを破滅させると、彼女は思っているのさ! そう、彼女はそう思っている! とんでもない話さ! 明日は十字架で、絞首台じゃないんだ。いや、俺は首を吊ったりしないぞ。知ってるかい、俺は決して自殺できない人間なんだよ、アリョーシャ! 卑劣なためと思うか? 俺は臆病者じゃない。生きていたいという渇望のためさ! なぜ俺は、スメルジャコフが首を吊ったことを知っていたんだろう? そうか、あいつ(三字の上に傍点)が俺に言ったんだ・・・・」

(944)で「イワン」は「リーザ」からの手紙を引き裂き、「まだ十六にもならないんだろうが、もう媚びを売ってやがる!」とか「きまってるじゃないか、淫らな女がやるのと同じさ」とかひどいことを喋っていましたね、しかし、なぜ突然また「リーザ」のことを話し出したのでしょう、たぶん気にはなっていたのでしょう、それにしても「あれは嘘さ」のひとことで、以前の内容があっさりとひっくり返ってしまいました。

「じゃ兄さんは、だれかがここに坐っていたと、確信しているんですね?」

「アリョーシャ」がたずねました。

「その隅のソファにな。お前ならあいつを追い払えたろうにさ。いや、お前が追い払ったんだ。お前が現れたとたんに、あいつは姿を消したもの。俺はお前の顔が好きだよ、アリョーシャ。俺がお前を顔を好きだってことを、知っていたか? でも、あいつ(三字の上に傍点)は俺なんだ、アリョーシャ、俺自身なんだよ。俺の卑しい、卑劣な、軽蔑すべきもののすべてなのさ! そう、俺は《ロマンチスト》だ。これはあいつが指摘したんだ・・・・もっとも、中傷だけどな。あいつはひどくばかだよ、でもそれがあいつの強味なのさ。ずるいやつだ、動物的に狡猾だ、どうすれば俺を怒らせることができるか、知ってやがったぜ。俺があいつの存在を信じているといって、のべつからかっては、その手で自分の話をきかせてしまうんだ。俺を子供みたいに騙しやがった。しかし、俺に関していろいろと本当のことを言ったよ、俺なら決してあそこまで自分に言えないだろうがね。なあ、アリョーシャ、実はね」

(991)で「悪魔」は「すでにベリンスキーによってあれほど笑い物にされた、あのロマンチックなムードが、やはり君にはあるんだよ」と言っていました。

おそろしく真剣に、秘密めかしく「イワン」は付け加えました。

「あいつが本当に俺じゃなく、あいつ(三字の上に傍点)であってくれたらと、俺は切に願いたい気持だよ!」

「兄さんをひどく苦しめたんですね」

同情をこめて兄を見つめながら、「アリョーシャ」が言いました。

「俺をからかいやがったんだ! しかも、みごとにな。『良心! 良心とは何だい? そんなものは自分で作りだしてるのさ。じゃ、なぜ苦しむのか? 習慣さ。世界じゅうの人間の七千年来の習慣でだよ。だから習慣を忘れて、神になろうじゃないか』あいつがそう言ったんだ、あいつがそう言ったんだよ!」

「じゃ、兄さんが言ったんじゃないんですね、兄さんじゃないんですね?」

澄んだ目で兄を見つめながら、こらえきれずに「アリョーシャ」が叫びました。

「それなら、そんなやつにはかまわずに、放っといて、忘れてしまうことですよ! 兄さんが今呪っているものすべてをそいつが持ち去って、二度と来させなければいいんです!」

「アリョーシャ」は信頼できる人物でその発言もおそらく正解だろうと思いますが、自分の中の「悪魔」に対しては放っておいて忘れることが解決策なのでしょうか、つまり相手にしないで無視せよということですね。

「そうだな、しかしあいつは陰険だからな。俺をあざ笑いやがったんだ。厚かましいやつなんだよ、アリョーシャ」

怒りにふるえながら、「イワン」は言い放ちました。


「でも、あいつは俺を中傷しやがった。いろいろと中傷したぜ。俺に面と向って、俺のことをぬけぬけと中傷しやがって。『ああ、君は善の偉業をなしとげに行こうとしている。父親を殺したのは自分だ、下男をそそのかして父親を殺させたんだ、と申し立てるつもりだね・・・・』なんて」


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