2018年12月25日火曜日

999

第十二編 誤審

一 宿命の日

今書いた出来事の翌日、午前十時にこの町の地方裁判所の法廷が開かれ、「ドミートリイ・カラマーゾフ」の裁判がはじまりました。

前もってくれぐれも念を押しておきますが、わたしは、この法廷で起ったことをすべて、しかるべき完全さはおろか、しかるべき順序でさえ、お伝えできるとはとうてい思っていません。

すべてを記憶にとどめて、きちんと説明するとなったら、優にまる一冊の、それも大部の本が必要になると思います。

だから、わたしのお伝えするのが、個人的にショックを受けたことや、特に記憶に残ったことに限られていても、責めないでほしいのです。

わたしは二義的なことをいちばん重要な点と思いこんだり、逆にいちばん肝心なはっきりした点をすっかり見落としたりしたかもしれません・・・・もっとも、どうやら、言い訳などせぬほうがよさそうです。

自分にできるかぎり、やってみよう、そうすれば読者もおのずから、わたしが力の及ぶかぎりやったことを理解してくれるでしょう。

このあたりはずっと「わたし」がしゃべっていますね、「わたし」はこの裁判の傍聴席のどこかに坐っており、そこで起ったことや思ったことを記憶し、記述したと言うわけです、また「読書」と言う言葉も出現していますので、この小説の作者としての自分が「わたし」という語り手となり裁判を傍聴しているということですね。

まず第一に、法廷に入る前に、この日わたしを特におどろかせたことに触れておきます。

もっとも、おどろいたのはわたしだけでゃなく、あとでわかったことですが、だれもがそうでした。

ほかでもありません。

この事件があまりにも多くの人々の関心をひいたことや、だれもがいつ裁判がはじまるかともどかしさにじりじりしていたことや、世間ではもうまる二ヶ月もの間いろいろと語られ、予想され、叫ばれ、空想されていたことは、周知の事実でした。

また、この事件が全ロシア的な評判になったことも、だれもが知っていたのですが、しかし、この日の法廷で明らかになったように、この町だけではなく、あらゆるところで、この事件がすべての人の心を、こんなにも熱っぽく苛立たしいくらいに揺るがせたとは、やはり予想していなかったのです。

この日までに、県庁のある都市からはもちろん、ロシアの他のいくつかの都市からも、そしてついにはモスクワやペテルブルグからさえも、われわれの町へぞくぞくと客が乗りこんできました。

法律家たちもやってきましたし、何人かの有名人も、さらには貴婦人たちまでやってきました。

傍聴券はまたたく間に全部なくなってしまいました。

男性のうち特に地位の高い人や知名な人たちのために、裁判官の坐るテーブルのうしろに、まったく異例の傍聴席が設けられました。

そこにはさまざまな名士たちの坐る肘掛椅子がずらりと一列に並びましたが、こんなことはこれまで一度も許されたことがありませんでした。

とりわけ多いのはこの町や遠来の貴婦人たちで、全傍聴人の半分は下らなかったと思います。


事実を事実として描写しているというよりは、まだこれからも続くのですが、作者が思い切りこのクライマックスを盛り上げようとしているのがひしひしと伝わってきます。


0 件のコメント:

コメントを投稿