「ミーチャ」に対する裁判長の最初の質問、つまり姓名、身分等に関する質問を、わたしはおぼえています。
「ミーチャ」がぶっきらぼうに、だが何か思いもかけぬ大声で答えたため、裁判長はびくりと首をふるわせ、ほとんどおどろきに近い表情で彼を見つめたほどでした。
次に審理に召喚された人々、すなわち証人や鑑定人のリストが朗読されました。
リストは長いものでした。
証人のうち四名が出廷していませんでした。
現在はすでにパリに行っていますが、予審の段階で証言をとっておいた「ミウーソフ」と、病気のために来られぬ「ホフラコワ」夫人と地主の「マクシーモフ」、それに急死した「スメルジャコフ」で、これに関しては警察の死亡証明書が提出されました。
「スメルジャコフ」に関する知らせは、廷内に強いざわめきとささやきをよび起しました。
もちろん、傍聴人の大部分はこの突然の自殺のエピソードを、まだ全然知らなかったのです。
しかし、とりわけ人々をおどろかせたのは、「ミーチャ」のだしぬけの言動でありました。
「スメルジャコフ」の死が報告されたとたん、彼はふいに自分の席から法廷じゅうにひびくほどの声で叫んだのでした。
「畜生は畜生らしい死に方をするもんだ!」
弁護人が彼のところにとんで行き、裁判長が、もしもう一度この種の言動をくりかえすなら、厳重な措置を講ずると彼に警告したのを、わたしはおぼえています。
「ミーチャ」はうなずきながら、しかしまるきり反省していないかのように、とぎれがちの小声で何度か弁護人にくりかえしました。
「もう言いません、言いませんよ! 口がすべったんです! もう言いません!」
そして、当然のことながら、この短いエピソードは陪審員や傍聴人の判断の中で、彼に不利な働きをしました。
性格がおのずから現われ、自己紹介をしたようなものでした。
出だしから最悪ですね。
裁判所書記による起訴状の朗読は、まさにこういう印象のもとで行われたのであります。
起訴状はなかり短いものでしたが、詳細をきわめていました。
述べられているのは、これこれの者がなぜ拘引され、いかなる理由で裁判に付されねばならなかったのか、等々のもっとも主要な理由だけでした。
が、それにもかかわらず、この起訴状はわたしに強烈な印象を与えました。
書記はよく透る声で、歯切れよく、はっきりと朗読しました。
あの悲劇全体が、宿命的な容赦ない光を浴びて、鮮明に、集中的にみなの前に再現されたかのようでありました。
忘れもしませんが、朗読が終るとすぐ、裁判長が胸にこたえるような大声で「ミーチャ」に質問しました。
「被告は自己を有罪と認めますか?」
「ミーチャ」はふいに席から立ちあがりました。
「深酒と放蕩の罪は認めます」
またしてもなにやらとっぴな、ほとんど気違いじみた声で彼は叫びました。
「怠惰と乱暴狼藉の罪も認めます。運命に足をすくわれた、まさにあの瞬間、わたしは永久に誠実な人間になろうと思っていました! しかし、わたしの敵であり、父親であるあの老人の死に関しては無実です! そして、父の金を強奪したという件に関しては、とんでもない、無実です、また罪のあるはずなどありません。ドミートリイ・カラマーゾフは卑劣漢ではあっても、泥棒ではありません!」
「運命に足をすくわれた」とは「グルーシェニカ」とのよりが戻った件でしょうか。
こう叫び終ると、彼は傍目にもわかるほど全身をふるわせながら、席に坐りました。
裁判長がふたたび彼に向って、質問にだけ答えるようにし、関係のない気違いじみた絶叫は慎むよう、短いが噛んで含めるような注意を与えました。
それから、審理にとりかかるよう命じました。
宣誓のために全証人が中に入れられました。
このときわたしは全部の証人を一度に見たのであります。
もっとも、被告の弟二人は宣誓をせずに証言することを許されました。
司祭と裁判長の訓告のあと、証人たちは連れ去られ、できるだけ離ればなれにすわらされました。
ついで証人が一人ずつ喚問されることになりました。
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