「値打ちがないですって!値打ちがないだなんて!」と「カテリーナ」がまた熱をこめて叫びました。「あのね、アレクセイ・フョードロウィチ、この方はファンタスチックな人で、わがままでこそあるけれど、そりゃプライドの高い心を持ってらっしゃいますのよ!高潔で、寛大で。アレクセイ・フョードロウィチ、そういうことをご存じですの?ただ不幸せだっただけ。ことによるとそんな値打ちのない、でなければ軽薄な男の人に、あまりにも早くあらゆる犠牲を捧げるつもりになってしまわれたのね。やはり将校だったそうですけれど、ある男の人を好きになって、すべてを捧げてしまったんですって。それはもうずっと昔、五年ほど前のことなんですけれど、男の人はこの方を忘れて、結婚なすったのね。それが今、奥さんに先立たれて、手紙をよこして、近くここへいらっしゃるんだそうですの。それでね、この方はその人だけを、いまだにその男の人だけを愛してらっしゃるし、これまでもずっと愛しつづけてらしたんですって!その人が来れば、グルーシェニカはまた幸せになれますわ。でも、この五年間というもの、ずっと不幸せだったんですものね。ですけど、だれがこの方を非難できるでしょう、だれがこの方の好意を受けたと自慢できるでしょう!ただ一人、あの足のわるい、お年寄りの商人だけですわ、でもあの人はむしろこの方の父親であり、友達であり、保護者だったんですものね。あのお年寄りはちょうど、この方があれほど愛していた人に棄てられて、絶望と苦悩に沈んでいるときにめぐり合ったんですの・・・だって、そのときこの方は河に身を投げようと思ってらしたんですもの、それをあの老人が救ったんですわ、援けたんですの!」
ここでまた、驚くべき展開になってきています。
「グルーシェニカ」が「ドミートリイ」か「フョードル」を選ぶかということではなくなり、五年前、つまり彼女が十七歳の時の恋人が浮上してきました。
この恋人は「グルーシェニカ」を棄てて別の女性と結婚し、その相手が死んだのでまた「グルーシェニカ」に会いにくるというとんでもないことをする男ですね。
「グルーシェニカ」が手紙を受け取ったのはいつなんでしょうか。
きのう、きょうのことかもしれません。
それで、興奮してじっとしていられなく「カテリーナ」のところへやってきたのかもしれません。
この会話の中でも「カテリーナ」の上から目線の発言がみられます。
それは、「グルーシェニカ」のことを「わがままでこそあるけれど」とか「ただ不幸せだっただけ」とか言っているところ、また、彼女がいまだに恋しており、今後付き合うことになるかもしれない将軍のことを「値打ちのない、でなければ軽薄な男の人」とか言っているところです。
「カテリーナ」の言う「あの足のわるい、お年寄りの商人」とは「サムソーノフ」のことです。
「カテリーナ」も「グルーシェニカ」の心情を思ってか「サムソーノフ」のことは「父親であり、友達であり、保護者」と言っていますが、実際には彼女は「サムソーノフ」の妾です。
この「サムソーノフ」という名前は修道院の食堂に向かう途中の「ラキーチン」と「アリョーシャ」の会話の中に出て来ました。
以下は、そのときの会話の一部ですが、ここではまだ、五年前の恋人のことはわかりませんでしたからこのような発言になっているのですが、内容はこの物語のあらすじの重要な説明になっています。
《「ドミートリイ」と「フョードル」の間にたった「グルーシェニカ」は「どっちにも色よい返事をせずに、今のところまだのらりくらりと二人を適当にあしらいながら、どっちが得かを観察している状態だよ。」、なぜかというと親父さんからはごっそりお金を搾り取れるだろうが、その代り結婚してくれそうもないし、おそらく最後にはがめつくなって財布を閉ざしてしまうだろうし、そうなれば、「ミーチャ」もすてがたく、お金はないが、結婚はできるだろうから、金持で貴族で大佐の娘で無類の美人であるいいなずけの「カテリーナ・イワーノヴナ」を棄てて、老いぼれ商人で身持のわるい土百姓の町長「サムソーノフ」風情の妾だった「グルーシェニカ」と結婚することになる、「こうしたいっさいのいきさつから、ほんとうに犯罪がおこりかけないんだ。また、それを待っているのが君の兄貴のイワンさ。そうなりゃ濡手で粟だもの。恋こがれているカテリーナ・イワーノヴナもいただける》
「カテリーナ」にとっては、ここにあらたに「グルーシェニカ」の五年前の恋人があらわれたことによって、どっちつかずで事件でも起きなければどうにもならないような三角関係が解消されるかもしれないという見込みが出てきました。
それが、彼女に「平和と喜び」をもたらしたのです。

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