戸口に立ちどまるなり、「フェラポント神父」は両手をふりかざしました。
と、その右手の下から、度はずれな好奇心のために一人だけ我慢しきれずに、「フェラポント神父」について階段を駆け上がってきたオブドールスクの客僧の、物見高い鋭い目がのぞきました。
視線を取り入れた意表をつく表現で、主体があるべき位置を明確にしていますね。
彼を除くほかの者は、騒々しくドアが開け放たれたとたん、反対に突然の恐怖にかられて、ますます身を寄せ合ってあとずさりました。
両手を高々とあげると、「フェラポント神父」はだしぬけに叫びました。
「われ悪霊を退けん!」
そしてすぐさま、かわるがわる四方の壁に向い、庵室の壁と四隅に十字を切りはじめました。
「フェラポント神父」のこの動作を、ついてきた人々はすぐに理解しました。
なぜなら、神父はどこへ入るときもいつもこうやり、悪霊を追い払わぬうちは腰もおろさなければ口もきかぬことを、だれもが知っていたからです。
「悪霊退散、悪霊退散!」
十字を切るたびに神父はくりかえしました。
「われ悪霊を退けん!」
ふたたび神父は叫びました。
彼は粗末な法衣に縄で帯をしていました。
目の粗い麻の肌着の下から、白い胸毛のもっさり生えたむきだしの胸がのぞいていました。
足はまったくのはだしでした。
彼が両手を振りはじめるやいなや、法衣の下につけている苦行用の重い鉄鎖が打ちふるえ、鳴りひびきはじめました。
「パイーシイ神父」は朗読を中断して、一歩前にすすみいで、待ち受ける構えで相手の前に立ちはだかりました。
「何しに来られた、神父? 何のために式の秩序を乱されるのだ? 何のためにおとなしい信徒を騒がせるのだ?」
きびしく相手を見つめながら、ついに彼は口を開きました。
「何しに来たかだと? 何のためにか、ききたいのか? お前はどんな信仰をしておるのだ?」
「フェラポント神父」は神がかり行者ぶりをまるだしに叫びました。
「ここにいるお前の客人どもを退散させに来たのさ、汚らわしい悪魔をな。どれ、わしの来ぬうちにだいぶはびこりおったことだろう。白樺の箒でたたきだしてくれる」
「悪魔を退散させるのはいいが、ひょっとしたら、そういう自分こそ悪魔に仕えているのかもしれませんぞ」
「パイーシイ神父」は恐れる色もなくつづけました。
「それに、『自分は聖者だ』とおのれに言いうる人間が、はたしていますかな? まさか、そなたではあるまい、神父?」
「わしは汚れた身、聖者ではない。肘掛椅子にも坐らんし、偶像のように拝ませたりもせんからな!」
「フェラポント神父」がわめきだしました。
「この節の人間どもは聖なる信仰を台なしにしとる。亡くなった、お前らの聖者さまは」
柩を指さしながら、彼は群衆をふりかえりました。
「悪魔を退けようとして、悪魔除けの下剤なんぞを与えておったものだ。ところがここには悪魔どもが、部屋の四隅の蜘蛛の巣のようにはびこりよった。しかも今日は自分が悪臭を立てる始末ではないか。ここにわれらは神の偉大な教示を見るのだ」
本来ならば、厳粛であるべき時にたいへんな騒動になってきましたね。

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