これは事実、「ゾシマ長老」の生前に一度あったことでした。
これというのは「悪魔よけの下剤」を与えたことですね。
修道僧の一人が悪魔の夢を見はじめ、しまいには起きているときにも悪魔の姿を見るようになりました。
修道僧がこの上ない恐怖にかられて長老にこのことを打ち明けると、長老は連続の祈禱と、精進の強化をすすめました。
それも効目がありませんでしたので、長老は、精進と祈禱はそのままやめずにある薬を飲むことをすすめました。
それで「ある薬」で悪魔は見えなくなったのでしょうか、そのことは書かれていません。
このことをめぐって、当時多くの者が惑いをいだき、首をかしげながら、仲間うちに噂し合ったものであり、いちばん手きびしかったのが「フェラポント神父」でした。
一部の誹謗者たちが、こういう特別の場合に長老のとった《常ならぬ》処置を、すかさず神父に大急ぎで伝えたからです。
「出て行きなさい、神父!」
「パイーシイ神父」が高飛車に言いました。
「裁くのは人間ではなく、神だ。ことによると、われわれがここに見る《教示》は、おぬしにも、わたしにも、何びとにも理解しえぬようなものかもしれぬ。出て行きなさい、神父、信徒を騒がすものではない!」
彼は執拗にくりかえしました。
「スヒマ僧たる層位にふさわしい精進を守らなかったから、こうした教示が現われたのだ。それはわかりきっている。隠すのは罪深いことだ!」
わめいているうちに分別をなくして激しきった狂信者は、ひるもうとしませんでした。
書き手もここでは「フェラポント神父」のことを「狂信者」と書いています。
「菓子に目がくらんで、地主の奥さんにこっそり届けさせたり、お茶を楽しんだり、腹の虫に貢いで、腹は甘いもので、頭は思いあがった考えで充たしよって・・・・だから、死に恥をさらしたのだ・・・・」
「その言葉は不謹慎ですぞ、神父!」
「パイーシイ神父」も声を高くした。
「そなたの精進と苦行には驚嘆するが、その言葉は不謹慎にすぎよう。まるで、心の定まらぬ思慮浅い俗界の若者が言うにもひとしいではないか。出て行きなさい、神父、わたしの命令ですぞ」
「パイーシイ神父」はしめくくりに叫びました。
「出て行くとも!」
「フェラポント神父」はややたじろいだものの、敵意を棄てずに言い放ちました。
「おぬしたちは学者よ! 知恵がありすぎて、わしの下らなさを見下しているのだ。わしは無学ながらここに来たが、ここにいるうちに知っていたことも忘れてしまったわ。ほかならぬ神がおぬしらの賢さからちっぽけなわしを守ってくださったのだぞ・・・・」
「フェラポント神父」は自分のことを「下らない」と卑下していますね、かなり歪んだコンプレックスと傲慢さが同居しているように見えます。

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