2018年3月3日土曜日

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ところで肝心の《計画》となると、これは今までとまったく同じことで、つまりチェルマーシニャ村の所有権の提供でしたが、それでも今度はもう昨日「サムソーノフ」にちらつかせた、三千ルーブルの元手で二倍の六千か七千ルーブルのぼろ儲けができるという話でこの貴婦人を釣ったりせずに、ただ借金に対する良心的な保証にすぎませんでした。

この新しい考えを発展させてゆくうちに、「ドミートリイ」は有頂天になりましたが、これは彼が何かをはじめるときや、ふいに決心を固めた際にいつでも起ることでした。

新しい考えがうかぶたびに、彼はひたむきにそれに打ちこむのでした。

が、それにもかかわらず、「ホフラコワ夫人」の家の表階段を踏んだとたん、ふいに彼は背筋に恐怖の悪寒をおぼえました。

この瞬間になってやっと彼は、これがもう最後の望みであり、もしここで頼みの綱が切れたら、『三千ルーブルのためにだれかを殺して強奪するほかない』、それ以外にもはや世界じゅうに何一つ残されていないのだということを、とことんまで、もはや数学のように明晰に意識しました。

作者はここでは「数学」という言葉が気に入ってようです、この後の「ホフラコワ夫人」の会話の中にも彼女の口から二度出てきます。

また、作者は「だれかを殺して強奪」と強力な伏線をはっていますが、「だれか」とは「フョードル」以外に考えられないですね。

呼鈴を鳴らしたときは、七時半ごろでした。

最初のうちは、成り行きがほほえみかけてくれたかのようでした。

取次ぎを頼むやいなや、すぐに異例の早さで中に通されました。

『まるで俺を待っていたみたいだな』

「ミーチャ」は頭の中でちらと思いました。

さらに、客間に案内されるなり、ふいに女主人が走らんばかりに入ってきて、待っていたところだといきなり言ってのけました・・・・

「ほんとにお待ちしてましたのよ! あなたがいらしてくださるなんて、考えることもできませんでしたわ、そうじゃございませんこと。それでも、わたくしお待ちしてたんですの。わたくしの勘のよさにびっくりなさるでしょ、ドミートリイ・フョードロウィチ。わたくし、今日こそあなたがいらしてくださるにちがいないって、朝からずっと信じてましたのよ」

こんなことを言う人に限って、いろいろなことをあれやこれやと考えているものだと思います。

「それは本当におどろきました、奥さん」

しゃちごばって腰をおろしながら、「ミーチャ」は言いました。

「ですが・・・・実はわたしは非常に大切な用件で伺ったんです・・・・きわめて重大な要件で、と申しても、つまりわたしにとって、わたしにとって重大というだけにすぎませんが、奥さん、大急ぎで・・・・」

「とても大事な用件でいらしたことは存じていますとも、ドミートリイ・フョードロウィチ、これは何かの予感でもなければ、奇蹟を示そうなどという時代遅れの気持でもないんです(ゾシマ長老のことはおききになりましたでしょう?)。これは数学ですのよ。あなたはいらっしゃらずにはいられなかったんです。カテリーナさんにあんなことがあったあと、あなたがお見えにならぬはずはありませんもの、これは数学ですわ」


「現実生活のリアリズムですよ。奥さん、まさにそういうことです! ところでわたしの話をぜひ・・・・」


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