2018年3月4日日曜日

703

「まさしくリアリズムですわね、ドミートリイ・フョードロウィチ。わたくし今やリアリズムの味方ですのよ。奇蹟の件ではほとほと思い知らされましたもの。おききになったでしょう、ゾシマ長老がなくなったことを?」

「ホフラコワ夫人」は変わり身が早いですね、キリスト教の奇蹟などもう信じておらず今やリアリズムの信奉者になっています、(701)で「ドミートリイ」が『おっそろしく生きがよくて、くだけているけど、それと同じくらい教養のない女だ』と形容したと書かれているとおりで芯がなく、何を考えているのかわからないタイプの女性ですね。

「いいえ、奥さん、今はじめて伺いました」

「ミーチャ」は少しびっくりしました。

頭の中に「アリョーシャ」の面影がちらとうかびました。

「今朝、夜明け前にですわ。ところが、考えてもごらんなさいませな・・・・」

「奥さん」

「ミーチャ」がさえぎりました。

「今のわたしに考えられるのは、自分が絶望的な状態におちこんでいて、もし奥さんに助けていただけなければ、何もかもぽしゃって(五字の上に傍点)しまう、真っ先にわたしがぽしゃってしまうということだけなんです。陳腐な表現で申しわけありませんが、わたしは熱にうかされているのです、熱病にかかっているんです・・・・」

「存じてますわ、あなたが熱病にかかっていることは存じています。何もかも知っておりますのよ。あなたがほかの精神状態になれるはずはございませんもの、あなたがどんなことをおっしゃろうと、わたくしには伺う前からわかりますの。わたくし、ずっと以前からあなたの運命を気にかけていましたもの。ずっとあなたの運命を見守って、研究していましたのよ・・・・本当のことを言って、わたくし経験豊かな魂の医者なんですの、ドミートリイ・フョードロウィチ」

「奥さん、あなたが経験豊かな医者だとすれば、わたしは経験豊かな患者です」

このへんの噛み合わない会話はユーモアがあっておもしろいですね。

「ミーチャ」は精いっぱいのお世辞を言いました。

「それに、もしそれほどわたしの運命を見守っていてくださったのなら、今や破滅に瀕しているその運命をきっと救ってくださるという予感がします。でも、そのためには、わたしが向う見ずに参上するにあたって持参した計画をとにかく説明させてくださいませんか・・・・それから、わたしが奥さんに期待していることも・・・・実はわたしが伺ったのは、奥さん・・・・」

「説明なさるには及びませんわ、そんなのは二義的なことですもの。それに、お力添えということでしたら、わたくしが力になってさしあげるのは、あなたがはじめてではございませんしね、ドミートリイ・フョードロウィチ。たぶんあなたも、わたくしの従妹ベリメーソワのことはおききになったと思いますけど、あれの主人が破滅しかけて、それこそあなたの個性的な表現を借りるなら、ぽしゃりかけたとき、わたしくがどうしたとお思いになります、わたくし養馬の事業をすすめたんですの。それが今では大当たりでしてね。養馬の事業がどんなものか、おわかりになりまして、ドミートリイ・フョードロウィチ?」


ふたりとも自分本位で相手のことなど全く考えていませんね、「ドミートリイ」はこういう切羽詰まった状態で平常心ではないので仕方ないとは思うのですが、「ホフラコワ夫人」は(701)に書かれていたように彼がかつて夫人を嘲笑したことがあったというだけあってあまりにも自己中心主義で身勝手です、しかしこういう女性は巷にはよくいるように思います。


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