2018年5月4日金曜日

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彼女は跳ね起きると、両手で彼の肩をつかみました。

「ミーチャ」は喜びのあまり口もきけずに彼女の目や、顔や、微笑を見つめていましたが、突然、しっかり彼女を抱きしめて、噛みつくようにキスをしはじめました。

「ドミートリイ」にとっては、最高の一瞬でしょう。

「じゃ、今まで苦しめてきたのを赦してくだるのね? だってあたし、意地わるしてあなたたちみんなを苦しめてきたんですもの。あのお爺さんだって、意地わるして、わざとのぼせあがらせてやったのよ・・・・おぼえている、いつぞやあたしの家で飲んだとき、あなたはグラスをたたき割ったでしょう? あたしあれを思いだして、今日もグラスをたたき割って、《卑劣なあたしの心》のために乾杯したのよ。ミーチャ、あたしのすてきな人、どうしてキスしてくれないの? 一遍キスしたきり離れて、顔を見たり話をきいたりしているなんて・・・・あたしの話なんかきくことないのに! キスして、もっと強くキスして、そうよ。愛するからには、どこまでも愛するわ! 今日からあなたの奴隷になるわね、一生ずっと奴隷に! あなたの奴隷なんて楽しいわ!・・・・キスして! あたしをぶって。いじめてちょうだい、あたしを好きなようにして・・・・ああ、本当にあたしなんか苦しめるほうがいいのよ・・・・あ、やめて! 待ってちょうだい、あとでね、そんなのいや・・・・」

かわいそうに「フョードル」は「あのお爺さん」になってしまっています、そして彼女はやけに情熱的ですね。

ふいに彼女は彼を突き放しました。

「あっちへ行って、ミーチャ。あたしも行ってお酒を飲むわ。酔払いたいの、今すぐ酔払って踊りだすわね、そうしたいの、酔いたいのよ!」

彼女は身をふり放してカーテンの奥からとびだしました。

「ミーチャ」は酔ったようにあとにつづきました。

『かまうもんか、こうなりゃ何が起ろうとかまやしない。この一瞬のためなら、全世界でもくれてやるさ』-こんな思いがちちと頭をかすめました。

「グルーシェニカ」は本当にシャンパンをさらに一杯、一息に飲み干し、とたんにすっかり酔いがまわりました。

彼女はうっとりした微笑をうかべて、前と同じ席の肘掛椅子に腰をおろしました。

頰が燃え、唇が熱くなり、かがやいていた目がとろんとなって、情熱的な眼差しが心をひきつけました。

「カルガーノフ」さえ何かに心を刺されたみたいに、そばへ寄ってきたほどでした。

「さっき坊やが眠っていたとき、キスしてあげたのに、気づかなかった?」

彼女は甘たるく言いました。


「今度こそあたし酔ってしまったわ、そうなのよ・・・・坊やは酔わなかった? あら、ミーチャはどうして飲まないの? どうして飲まないの、ミーチャ、あたしが飲んだのに、あなたは飲まないのね・・・・」


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