2018年5月5日土曜日

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「酔ってるんだ! それでなくたって酔ってるんだよ・・・・君に酔ってるのさ、今度は酒にも酔いたいな・・・・」

彼はまたグラスを干しました。

自分でもふしぎな気がしましたが、最後のたった一杯で酔払ってしまいました。

ふいに酔いがまわったのです。

緊張感がとれたのでしょうね。

それまではずっとしらふだったし、自分でもそのことはおぼえていました。

この瞬間から、周囲のすべてがまるで夢の中のように、ぐるぐるまわりだしました。

歩きまわったり、笑ったり、みんなと話したりしていても、それらすべてがもはや自分でわからずにやっているみたいでした。

ただ一つ、片時も揺るがぬ焼けつくような感情が、後日の彼の思い出によれば《まるで熱い炭火を心に置いたように》、たえず心の中に顔をあらわしていました。

強烈な罪意識ですね。

彼女のそばに行き、彼女の隣に坐り、彼女を眺め、彼女の声をききました・・・・彼女はおそろしく饒舌になり、だれでもかまわずそばへよびよせたり、だしぬけにコーラスの娘をだれか招いて、娘がやってくると、接吻して帰したり、時には片手で十字を切ってやったりしました。

あと一分もしたら、泣きだしかねぬ勢いでした。

彼女が《おじいちゃん》とよんでいる「マクシーモフ」も、大いに彼女をはしゃがせました。

老人はのべつ彼女の手や《かわいいお指の一本一本》に接吻しに駆け戻り、しまいにはみずから歌をうたいながら、ある古い歌に合わせて、さらに一曲踊ってみせました。

とりわけ熱を入れて踊ったのは、こんなリフレインの部分でした。

子豚が一匹ブー、ブー、ブー、
子牛が一匹モー、モー、モー、
子鴨が一羽クヮ、クヮ、クヮ、
鵞鳥が一羽ガー、ガー、ガー、
雌鶏は土間を駆けまわり、
コッコ、コッコと鳴いたとさ、
ホイ、ホイ、鳴いたとさ!

これは随分幼稚な歌ですね。

「あの人に何かあげて、ミーチャ」

「グルーシェニカ」が言いました。

「プレゼントしてあげて。だってあの人は貧しいんですもの。ああ、貧しい、虐げられた人たち! ねえ、ミーチャ、あたし修道院に入るわ。ううん、ほんとにそのうち入るつもりよ。今日ね、アリョーシャが一生わすれられない言葉をあたしに言ってくれたわ・・・・そうなの・・・・でも今日は踊らせてちょうだい。明日は修道院に入る身でも、今日は踊りましょうよ。あたし、うんとふざけたいの。ねえ、あなたたち、いったいどうしたの、神さまは赦してくださるわよ。あたしが神さまだったら、すべての人を赦してあげるんだけど。『愛すべき罪びとたちよ、今日以後みんなを赦してあげるわ』って。そしてあたしは赦しを乞いに行くの。『善良なみなさん、この愚かな女を赦してください』あたしは獣よ、そうなんだわ。でも、お祈りをしたい。あたしだって一本の葱を恵んだことがあるんだもの。あたしみたいな悪女だって、お祈りはしたいわ! ミーチャ、いいから踊らせておきなさいよ、邪魔しちゃだめ。この世の人ってみんな、いい人ばかりね。一人残らずみんな。この世はすばらしいわ。あたしたちは汚れた身でも、この世はすてきだわ。あたしたちだって汚れていても、いい人間なのよ。汚れてもいるし、いい人間でもあるってわけ・・・・いいえ、教えてちょうだい。あなたたちにききたいことがあるの。みんな、もっとそばに来て。じゃ質問するわ。みんなで教えてね。どうしてあたしって、こんなにいい人間なの? だって、あたしはいい人間でしょう、とてもいい人間だわ・・・・だからさ。なぜあたしはこんなにいい人間なの?」

いきなり修道院に入るという話が出てきましたね、彼女は酔ってしまっていろいろな思いがいっぺんに思い浮かんだのか支離滅裂ね。


ますます酔いを深めながら、「グルーシェニカ」は舌足らずにこう言うと、ついには、今すぐ自分も踊りたいと、いきない言いだしました。


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