2018年6月3日日曜日

794

「それじゃ、大体、あなたのお話を昨日の朝から順序立ててはじめていただけないでしょうかね? たとえば、何の用で町を離れたかとか、何時に出かけて、何時に戻られたか、といったことを伺いたいんですが・・・・そういったあらゆる事実を・・・・」

「でしたら、最初からそう質問してくださりゃよかったんですのに」

「ドミートリイ」は回りくどいことが嫌いですね。

「ミーチャ」は大声で笑いました。

「よければ、昨日からじゃなく、おとといの朝から話をはじめる必要がありますね。そうすりゃ、どこへ、どんなふうに、なぜ行ったか、おわかりになるでしょうからね。僕はね、みなさん、おとといの朝、確実な担保で三千ルーブル借りるために、ここの商人サムソーノフを訪ねたんです、ふいに必要になったものですからね、みなさん、急に入用になって・・・・」

「お話の途中で失礼ですが」

検事がいんぎんにさえぎりました。

「なぜそんな急に入用になったんですか、それもそんな大金が、つまり三千ルーブルもの大金がです?」

検事が質問したい気持ちはわかりますが、早すぎますね、全部話をさせてから質問した方がいいと思います。

「えい、みなさん、そんな瑣末なことはいいでしょうに。いつ、どうして、なぜ必要になったのかだの、なぜ、これこれの金額じゃなく、いくらいくらでなけりゃいけなかったのかどのと、面倒くさい・・・・そんなふうにやってちゃ、三巻の本にだって書ききれずに、エピローグまで必要になりまさあ!」

「ドミートリイ」によれば、「どこへ、どんなふうに、なぜ行ったか・・・・」ということは質問されることの許容範囲内ですね、「なぜ行ったか」も許せるのです、そして自分で言うようにそれは三千ルーブル借りるためです、ここまではいいのですが、それが「なぜ必要になったのか」を質問されることは面倒くさいし長くなるので嫌なのです、つまりかなり主観的な判断でその境界線が決まるだと思うのですが、要するに自分で話すことが第一で、それに質問されるのは許せないのですね。

これらすべてを「ミーチャ」は、真実をすっかり話そうと望んでいる、善意にみちた人間らしい、人のよさそうな、しかしもどかしげな、くだけた口調で言ってのけました。

「みなさん」

突然ふと気がついたかのように、彼は言いました。

「僕のかっとなりやすい癖に対して、どうか文句をおっしゃらないでください、あらためておねがいします。僕が十分な敬意をいだいていることや、この事件の現状をよく理解していることを、もう一度信じてくださいませんか。酔ってるなどと思わないでください。もう酔いはさめました。それに酔っていたからといって、べつに支障はないはずです。僕はこういう人間なんですよ。
しらふに返って分別つけば、愚かになり、
酔いがまわって愚かになれば、分別がつく。
は、は! もっとも、みなさん、僕だって今のところまだ、つまり、ちゃんと話し合いがつくまでは、あなた方の前で駄洒落を言うのが失礼だってことくらい、わかっています。しかし自分の長所だって観察させてくださいよ。僕も現在の立場の違いはわかります。何と言ったって、はやり僕は犯人としてあなた方の前に坐っているんだ。とすれば、きわめて対等じゃないわけです。あなた方にしても僕を監視する任務を授かってるんですしね。まさかグリゴーリイの件で僕の頭を撫でるわけにもいかないし、実際のところ老人の頭を打ち割って罰せられずにすむわけはないんですからね。あなた方は僕を裁判にかけて、半年なり一年なり、刑務所に放りこむ。まあ権利剥奪はないにしても、どんな判決が出るか、わかりゃしない。まさか権利剥奪はないでしょうね、検事さん? というわけで、みなさん、この立場の違いはよくわかっています・・・・しかし、あなた方みたいに、どこへ行ってた、どうやって行った、いつ行った、何しに行った、なんて質問を浴びせられたら、神さまだってうろたえるに違いないってことも、認めてほしいもんですね。そんな調子でやられて僕がしどろもどろになると、あなた方はすぐさま些細なことにまでいちいち難癖をつけて、記録にとどめるんだ。そんなことをして、いったい何が出てきます? 何にも出てきやしませんよ! それから最後に、どうせばかな話をはじめたからには、しまいまで言わせてください。最後におねがいが一つあるんです。みなさん、あのお役所流儀の尋問はきれいさっぱりと忘れていただきたいですね。つまり最初はまず、何かごく些細な、取るに足らぬことからはじめて、何時に起きたかだの、何を食べたかだの、どうやって唾を吐いたかだのと質問して、《犯人の注意を鈍らせて》おいてから、そのうち突然『だれを殺したんだ、だれから奪ったんだ?』と度肝をぬく質問を浴びせるという手ですよ。は、は! これがあなた方のお役所流儀なんだ、これがあなた方の鉄則ですよね、あなた方の老獪さはここにあるんですよ! そりゃね、百姓どもならこういう老獪さでイチコロでしょうけど、僕には通用しませんよ。僕には実体がわかっているんです、これでも軍隊勤務をしたことがあるもんでね、は、は、は! 怒らないでください、みなさん、失礼を赦してくださるでしょう?」

ほとんどおどろくほどの善良さで相手を見つめながら、彼は叫びました。

「とにかくミーチカ・カラマーゾフが言ったんですから、赦していただけるはずです。だって、利口な男が言ったのなら赦せないことでも、このミーチカなら赦してもらえるんですからね! は、は!」


これは長いおしゃべりですね、知ったかぶりの余計なことをずいぶん言っていますし格好もつけています、なにもかも正直に話せば理解してもらえるはずだという気持ちはありながら、それでもやはり動揺しているということでしょうか。


0 件のコメント:

コメントを投稿