五 魂の苦難の遍歴-第三の苦難
「ミーチャ」は、とげとげしい口調でこそありましたが、明らかに自分の話す内容のうちどんな細かな点も忘れたり、言い落したりせぬよう、これまで以上に努めながら話しはじめました。
塀を乗りこえて父の家に忍びこんだことや、窓のところまで行ったこと、そして最後に窓の下で起ったすべてを、彼は話しました。
父のところに「グルーシェニカ」が来ているかどうかを、ひどく突きとめたくてならなかったあの瞬間、庭で彼の心を波立たせた感情について、まるで一語一語を区切るように、はっきりと正確に伝えました。
しかし、ふしぎなことに、検事も予審調査官も今回はなにやらおそろしく神妙に話をきき、無愛想な顔つきをして、質問をはさむのもずっと少なくなりました。
彼らの顔を見ても、「ミーチャ」には何一つ結論することができませんでした。
『気をわるくして、怒りやがったな』
ここから「ドミートリイ」に密着している表面的な描写が続く中で、さらに彼の心情の中にまで入り込んで描いています。
彼は思いました。
『ふん、畜生め!』
ついに、「グルーシェニカ」が来たという合図(二字の上に傍点)を父にして、窓を開けさせようと決心したことを話したときも、検事と予審調査官は、この場合《合図》という言葉がどんな意味を持っているのか、まるきりわからぬかのように、全然その言葉に注意を払わなかったので、「ミーチャ」でさえ妙な気がしたほどでした。
やがてついに、窓から首を突きだした父の姿を見て、憎悪に煮えくり返り、ポケットから杵をつかみだしたあの瞬間までくると、彼はまるでいやがらせのように突然口をつぐみました。
「彼はまるでいやがらせのように突然口をつぐみました」と言うんですが、「ドミートリイ」の表面的、内面的描写に、さらに作者の客観的な描写が複雑に加わっていますので、読み応えのある部分です。
坐ったまま、壁を眺めていましたが、相手が自分を食い入るように見つめていることはわかっていました。
「それで」
予審調査官が言いました。
「凶器を取りだして・・・・それからどうなったんです?」
「それから? それから、殺しましたよ・・・・親父の脳天にぶちこんで、頭蓋骨をたたき割ってやったんです・・・・あなた方の考えだと、こうなるんでしょう、そうでしょうが!」
ふいに彼は目をぎらぎらさせました。
消えかけていた怒りが、突然、異常な力で心の中に燃えあがりました。
「われわれの考えではね」
「ネリュードフ」がくりかえして言いました。
「で、あなたのお話だと?」
最初のうちは慇懃な態度だった尋問者側もだんだんと尊大な態度に変わってきたようですね。
「ミーチャ」は目を伏せ、永いこと黙っていました。

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